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第一章6  〈アルモンティア〉

 モヤから戻ってすぐに、買ってきたレモンゴで試作中だ。

レモンゴの実を絞り、果汁を湧き水に混ぜて魔法で凍らせ細かく砕いて食べてみる。


「おお! コレ相当美味いぞ」

「美味し〜!」

「うまいうまい! サッパリとした酸味の中にしつこくない甘さが涼を誘うね」


 タロのコメントは的確だがコイツはグルメなのか?

 まあリリルとタロにも好評ようでなによりだ。

 常夏設定のエンドレスサマー内だと美味さ倍増だね。


「これいくらで売るの?」

『ダンジョンリゾート開店直後の重要な資金源です。値段設定は肝心だと思われます』


 ……何故かサブコアからマスターコアが話しかけてきた。

 しかもダンジョンリゾートの経営に乗り気だよ。

 もう面倒だから副社長に任命してやろうか。


「サブコアから急に声するとビックリするから……具現化とか出来ないの?」

『不可能です。ですが、魂のない人形のような物が有れば操作は可能です』


 マジで? ならゴーレムとか作ればいいんじゃないの?

 俺は土魔法で土人形を作り出して、マスターコアにそれを操ってもらう事にした。


『ユウタ様ありがとうございます。これでエンドレスサマー内でならお力添え出来ます』

「なかなかやるじゃない。見てくれはヒドイけど」

「スゴイよユウタ〜」

「そのうち腕のいい職人に可愛い人形を作ってもらおう。んで看板娘になってもらうぞ。とりあえず名前はマスコな」

「なんか良く食べそうな名前ね」

「何でマスコなんだ?」


 タロには何故マスコなのか理解出来ないみたいだ。

 マスターコアだから略してマスコなんだよ!

 マスコも気に入ってくれるといいけど……。


『土の身体に名前まで……本当にありがとうございます』


 気に入ってくれて何よりだ。



 話はだいぶ脱線していたが、カチ割りレモンゴの値段は一杯500チッポにしようと思っているんだけど……。

 何も考えていないタロも含め、値段には全員が賛成してくれた。



 それからマスコに守護者の事について聞いてみる。

 ずっと気になってたんだよね。


『原則としてダンジョンマスターが守護者になります。ですが例外もあります……守護者がダンジョン内に不在の時です。その場合は代理の者が死亡するとマスターの権利が勝者に移動してしまいますので、ユウタ様も十分お気を付け下さい』


 なるほど。出来れば戦闘とか一切起きない平和なダンジョンにしたいけどな。



 後は、バルガスさんとパントさんに頼んだ物が出来上がるまでは運転資金の調達と、モンスターの配置が主な仕事になる。

 モンスターは、食べられる弱い魚系モンスターを多数召喚して海に放つ。

 モンスターとは名ばかりのただの魚だ。

 あとは浜辺に蟹と貝も召喚して配置する。

 大量に召喚したが、モンスターと呼ばないような雑魚ばかりなので魔力も大して消費しないで済んだ。


 いつかは釣りとかもやれるようにしたいし、浜焼きバーベキューなんかも名物にしていきたいな。

 夢ばかりが膨らんでゆく。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ここがアルモンティアか……モヤとは違ってデカイな」


 俺とリリルとタロで運転資金調達の為、ダンジョンから30km程離れたアルモンティアの町まで足を伸ばしてみた。

 出来るだけモヤにお金を落として村を活気づけたいところだけど、サトゥルの店だと現金が足りない可能性があるからね。

 運転資金確保のために今日は安く売るつもりはないんだよね。



「ユウタ! こっちこっち!」


 リリルとタロが換金所を見つけてくれたらしい。

 2人の所に行くと何故か行列に並んでいる。


「えっと……君達は何をしているのかな?」

「見てわかんないの? 並んでんのよ」


 何で並んでるのかを聞いてるんだよ俺は。


「ユウタ〜、オイラ達はどうしてもこのヤキメンってのを食べてみたいんだ」


 タロ達が食べたがっているのは、屋台で売っているヤキソバの様な食べ物だった。

 ソースのような香りがとても香ばしい。

 しかしヤキソバに似た食べ物がこの世界にあるとは思いもよらなかった。


「はいはい……帰りに買ってやるから先に換金所行かせてくれよ」

「ええーー!? 今食べたいんだけど!」

「知らねーよ先行くぞ」

「お金くれたら自分達で買って食べてるから……」

「俺がいなきゃ言葉が通じないだろうが。用事済ませてからにしようぜ」

「オイラは人間の言葉話せるぞ!」

「うるさいお座り!!」


 ダダをこねる2人を無視して換金所を探しに行く。

 冒険者ギルドと商人ギルドに挟まれるように、換金所はありすぐに見つかったが、モヤの換金所とのあまりの違いに驚いた。


 まずデカイ。

 サトゥルの店15倍くらいデカい。

 そして装飾がエグい。

 趣味が悪いと言っても言い過ぎじゃない。

 こんな豪華絢爛な店構えしてちゃ、当店はぼったくってますって言ってるようなもんだろうに。



「御免ください」


 無駄に装飾品でゴテゴテした扉を開けて中を覗いてみる。

 すると、すぐ店員が気付いてくれて中へ通された。

 儲けてそうなだけあって、サービスはしっかりしてるのかな?


「すぐに店主が参りますので、こちらでお待ち下さい」


 いかにも美人秘書なお姉さんに言われて、高そうな椅子に腰を掛ける。

 タロは足元に座り、リリルはそのタロの上に座っている。

 しばらく待っていると、カウンター越しにいかにもお金持ちって感じのお爺さんが来た。

 だがその雰囲気はあまり良いものではなく、ファンタジー版越後屋と言ったところか。


「どうもお待たせしました。当換金所の店主セルジオです」

「そっちの越後かい」

「何か言いましたか?」


 しまった思わず声に出てしまった。

 だが、さっきからセルジオと名乗る店主の視線が気になる。

 丁寧な言葉遣いとは裏腹に、何か汚い物を見るかのような目で俺達を見ている気がする。


「それで今日はどのうような品を?」


 今日換金するのは宝石で装飾された金杯二脚と、これまた宝石で装飾された小さい道具箱だ。

 あらかじめ【真贋・解析(なんでもかんていだん)】で鑑定した結果は、金杯が一脚200万チッポ。

 道具箱が320万チッポ合計720万チッポの価値があるらしい。

 手数料など引かれて600万チッポになればいいのかな。


「これはなかなかの逸品ですな。特に道具箱が素晴らしい」


 カウンターに並べたアイテムを見て、セルジオが真剣な顔になっな。

 これだけの規模の店の店主なだけあって、確かな眼を持っているようだ。

 鑑定スキルを持っているのかな。

 よく考えてみたら、この世界の換金所も大変だ。

 換金に来た客が、俺みたく鑑定スキルを持っている事だってあるのだから。

 下手な値段を付けよう者なら、一発で信用を失ってしまう。



「お待たせしました。素晴らしい品で、つい見惚れてしまいましたよ」

「運良く良い宝箱引けたみたいです」

「やはりダンジョンは夢がありますな。そうそう、ギルドの登録証をお願いします」


 持っていない事を伝えると、露骨に嫌な顔をされた。


「はぁ〜……本当は登録していない人とは取引したくないんだよ。登録くらいチャチャっと済ませて来ては? 両隣がギルドなんだから」


 あまりの変貌振りにカチンとくるが、初めから嫌な感じは見え隠れしていたから驚きはしない。

 それに今はまだギルドなんかに登録して、しがらみを作りたくないんだよな。

 あくまでもマイペースにリゾート経営ライフを送りたいから。



「なら全部で320万チッポだ」

「は?」

「聞こえなかったか?全部で()()()()チッポって言ったの!」


 一瞬で値下げしやがった。


「俺一応鑑定スキル持ちなんですけど……」

「はん! ギルドに登録もしてないような奴の言う事誰が信じるのかね?」

「……面倒だから登録してなかったけど、腹立ったから登録してくるわ」


 そう言ってアイテムを回収して換金所を出た。


「何アイツ感じ悪い」

「オイラが噛んでやろうか?」

「こらタロ!お座り! お前が噛んだら死んじゃうからね。とにかく登録してからが勝負だ」


 冒険者ギルドと商人ギルドどちらに登録するか悩むところだが、商売する以上いずれは商人ギルドに登録しないといけない時が来るだろう。

 今回は冒険者ギルドに登録しよう、記念にもなるし。



 ギルドに入る前に【操作盤(コンソール)】を使ってスキル構成の隠蔽を図る。

真贋・解析(なんでもかんていだん)】をオフにして【鑑定】だけをオンにする。

 それから【四次元的なアレ(アイテムポケット)】以外全てオフにして最後に【剣術】だけをオンにして偽装完了だ。

 これならアイテムボックス持ちの駆け出しの冒険者っぽいだろう。



 ギルトに入り受付で、ファンタジー恒例の水晶に手を当ててから冒険者登録をする。

 水晶に手を当てる事で所持スキルがわかるらしい……偽装しといて良かった。

 手数料を支払い登録証をもらう。

 見てみると『ルーキークラス』と書かれている。

 所持スキルの欄には、剣術・鑑定・()()()()()()()()とだけ書かれている。

 それから受付の人から、ランクアップやランクダウンの条件の説明をされそうになったが、ルーキークラスから上げようとは思わないので丁寧に辞退した。

 ヨシ……これであのセルジオをギャフンと言わせる準備が出来た。


操作盤(コンソール)】で元の状態に戻す事も忘れないようにしてから、換金所に戻って行く。



「登録してきたで! これが登録証や。所持スキルに鑑定があるやろ?」


【交渉術】のせいか、何故かエセ関西弁になりながらセルジオに登録証を見せた。

 セルジオはまさか本当に鑑定スキルを持っているとは思わなかったのか、明らかに動揺している。

 恐らく交渉術の一つとして鑑定スキル持ちだと言う人が多いのだろう……俺の事もその手の客と思って大きく出ていたに違いない。


「で? 査定ナンボやったっけ!?」

「……600万チッポです」

「ほ〜ん……登録証持ってきただけで倍増するんやね」

「いや……それは、その……」

「で? ワイ鑑定スキルある言うたよな? ワイの鑑定とだいぶ開きがあるようやが」

「それは……手数料とかありまして……」


 セルジオの顔色が悪い。


「手数料? それだけで120万も取るん!? そらこんな店が建つわけやわな」

「……勘弁して下さい。700万チッポお支払いします」

「いや……もうええ。脅迫しとるんちゃうし、この店では取引せん! 信用ないわ! モヤのサトゥルさんに600万くらいで換金してもらうわ」

「そんな……!」

「最初から誠実に査定してくれてたら、多少安くても取引したのに……残念です」


 そう言って俺たちはセルジオの店を出た。




「あ〜スッキリした! アイツの顔ったらなかったわね」

「オイラももう少しで噛むところだったよ」

「お座り!!」

「結局町に来たのは無駄足だったわね〜」

「そんな事ないさ。サトゥルがいかに誠実な仕事してるかが確認出来たし、町も一度見てみたかったからね」

「ねぇユウタ〜、そんな事より約束のアレ食べに行こうよ〜」

「仕方ない……行くか」

「「やったーー!」」




 そうして行列に並んでやっと順番が来た。


「らっしゃい!」


 元気なお姉さんにヤキメンを2つ頼む。

 もちろんタロの分はネギ系の野菜は抜きにしてもらって、リリルは俺の分を少し分けてあげるから2つでいい。


「うっま」

「美味しい〜!」

「この舌にまとわりつく肉の旨味が何とも言えないね〜」


 タロはやっぱりグルメなのかもしれない。

 それはさておき、このヤキメンうますぎる。

 いずれあのお姉さんと交渉してダンジョンにも出店してもらえないかなあ?

 もしくは暖簾分けしてもらうか……。

 やはり海辺でヤキソバ的な物を売らないわけには行かないと思うんだよね。



 それからアルモンティアの帰りに回り道をしてモヤに寄り、サトゥルと680万チッポで取引を成立させた。

 サトゥルとはバルガスさんやパントさんと同じ日に換金する約束をして、その日までに現金を用意しておいてもらう事にして、ダンジョンへと帰った。


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