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第三章28  〈旅立ちの朝〉


それはジロからの突然の提案だった。


「ユウタがしばらくいてくれるならよ……少しの間、俺が外出ていいか?」



確かにジロは、エンドレスサマーに召喚されてから一歩も外に出ていなかった。

たまには外に出たいと思っても、なんら不思議ではない。



「……そうか、閉じ込めてたみたいになっちゃってたな。外に出るのは構わないけど、何かやりたい事やアテがあるのか?」


ジロはテーブルの向かいの席に、ピョンと飛び乗ってから答えた。


「いや、特になにがあるってわけでもないんだけどな。俺はビシエイド王国に来たのは初めてなわけだし、色々見てみたくってな」


「そうか……エンドレスサマーに召喚される前はどこにいたんだ?」


「具体的な場所は言えねーけどよ、まあ自然溢れるいい場所だったぜ?」


ジロよ、その言い方だとウンディーネ様が精霊界とか特別な場所じゃなく、この世界のどこかにいるって言ってるようなもんだぞ。



「分かったよ。じゃあ好きなタイミングで声掛けてくれ。温泉は入っていけよな!」


「もちろん湯には浸かってから行くぜ。じゃ、また後でな」


そう言ってジロは椅子から飛び降りると、自分の巣の方に去っていった。



「良かったの?」


「うーん……ジロはウンディーネ様に言われてココに来たからね。たまには息抜きしたくなるんじゃないかな?」


「……そうかもね」


「エンドレスサマーはさ、リゾートである以上、羽を伸ばしたり息抜きする場所であって欲しいんだよ。ここで息が詰まってたら本末転倒だからね」


「なら私も息が詰まりそうになったら、暇貰っちゃおっと」


「アイラさんは好きな時に外出られるじゃんか」


「ダメ〜」


そんな他愛もないやり取りをしながらヤキメンをたいらげた俺は、湯を溜めている温泉の様子を見に戻った。




「隊長、お湯の様子はどうか!?」


「はっ! じきに溜まりそうであります!」


「よし。ではアイラさんとマルチナさんを呼んで来てくれ」


「イエッサー!」


タロに【思念通信(テレパス)】を使えない二人を呼びに行ってもらう。





「全員揃ったか?」


俺は皆の顔を見る。


タロ、リリル、マスコ、ジロ、カナ、バルおじ、アイラさん、マルチナさん、ジョルジュ、バンチ、レナ、ギル、トミー、グレック率いるナイトウルフ達、エンドレスサマーの全ての仲間が集まっている。



「ついに我々のエンドレスサマーにも、温泉が完成しました。皆んなで大切に使いましょう」


俺の合図で水着に着替えた面々が露天風呂に浸かっていく。



「ふいぃぃぃ……この瞬間のために生きてる〜」


そう思えるほど、エンドレスサマー自慢の海を望む露天風呂は気持ち良かった。

女湯の様子は分からないが、楽しそうな声が聞こえてくるから問題ないだろう。



「これで湯上りにキンキンに冷えたミルクでもあるといいんだがな……」


タロの言葉に俺も無性にコーヒー牛乳が飲みたくなる。


「まだまだ足りない物だらけだな……」


「だから楽しいんだぞ」


「……だな。少しの間、エンドレスサマーの足りない物を補っていく事に集中しようっと……先ずはモヤの村との行き来を楽にするために転移ゲートの設置だな」


「その話なんだがユウタよ、本当にモヤでいいのか!? アルモンティアの方が遠いし必要なんじゃないのか?」


バルおじが話に加わってくる。



「アルモンティアも考えたんですけどね。一番は俺が居なくてもバルおじがノータイムで来られる方が重要かなと思いまして……」


「そりゃ俺はありがたいけどよ。ゲートが出来たら直接エンドレスサマーに作りに来られるしな」


今はモヤで作ったものを俺が【四次元的なアレ(アイテムポケット)】に収納して運んでいる。

それだとせっかく完成した物も、俺がいないとエンドレスサマーに運べない。

それにアイラさんをはじめ、基本的な買い出しは皆モヤでしているので、モヤとゲートで繋がる事はエンドレスサマーの住人にもとてもメリットがある。



「ゲートさえ出来たら、モヤに交代で常駐させているナイトウルフ達も引き上げさせられますし、いいんですよ」


こうしてモヤに転移ゲートを設置することに決まった。





数日後、モヤとエンドレスサマーを繋ぐ転移ゲートの設置も無事に終わった翌日の早朝、一人の男が静かにエンドレスサマーを旅立とうとしていた。


「……じゃ、行ってくるぜ」


その男は一人エンドレスサマーに別れを告げ、静かに出口へ歩き出す。



「なーにが行ってくるぜ、だ。俺に挨拶もせず行くつもりか、ジロ?」


ジロは突然俺に声をかけられ、少しだけ肩をビクッとさせたが振り返りはしない。


「……男は黙って旅立つもんだろうが?」


「はいはい、カッコつけたいのはわかったよ。それよりもお前金持ってんのか?」


ジロは何も言わない。



「ったく、そんな事だろうと思ったよ。オマエは人間の言葉話せるんだから、いざという時のために少しは持っておけ」


そう言って俺はジロに金を持たせる、



「…すまねぇ


「いいんだよ。それよりも必ず帰って来いよ。お前が帰って来てくれないと、今度は俺が出られなくなっちまうからな」


「わかってる。……じゃあな」


そう言ってジロはまた歩き出す。

小さな体に数々の武器を装備し、さらに旅の荷物で何が何だか分からない生き物になっている。



「ネズミのくせにカッコつけてるんじゃないぞ!」


「チッ……なんだワンコロか」


ジロの旅立ちに気付いたタロだ。



「そんな大荷物で旅が出来ると思ってんのか?」


「やかましいわ」


「少しオイラが持ってやるから、貸してみな」


「!?」


どうやらタロはジロの旅についていくようだ。



「タロも行くのか?」


「勝手に決めてごめんだぞ。だけどネズミ一匹じゃ危なっかしくてな」


「何言ってやがるワンコロ。ぶっ飛ばすぞ!」


出発前にこの調子で大丈夫なんだろうか?



「旅慣れてるオイラがついていってやるんだ、感謝してもいいんだぞ」


「チッ。勝手に決めてんじゃねーよ」


ジロも悪態をついてはいるが、タロがついて行く事自体は反対じゃないようだ。



「いいだろ、ユウタ」


「もちろんだよ。タロがいなくなると戦力的には大幅ダウンだけど、別に誰かと戦ってるわけじゃないしな。ジロ一人よりかは安心だし……ジロはいいのか?」


ジロは俺の問いに肯定も否定もせず背中を見せている。



「ジロがダメじゃないなら問題ない。ただあまり喧嘩ばっかするなよ」


「もちろんだぞ」


「……分かってるよ」


「ならいいさ。よし! じゃあ……行って来い!!」


俺がそう言って二人の背中を押すと、荷物を分担してからタロとジロが歩き出した。



その背中は徐々に小さくなりいつしか見えなくなった。


「子供を送り出す親の気持ちって、こんなんなのかな?」



俺はフフと笑いながら、朝風呂にでも入ろうと露天風呂へと向かった。


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