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第三章26  〈約束〉

 

 俺たちは皇帝と共に帝都にある城に戻ってきていた。



「まずはゆっくりと疲れを癒してくれ」


 皇帝にそう言われて、俺たちは城にある大浴場にダンジョン攻略の汚れを落としに来ていた。

 もちろん男女別だ。



「デッ……ケェーー!」


「まさか城の内部に温泉引いてるとはな」



 俺とタロは掛け湯をしてから湯船に浸かる。


「はあ〜〜、気持ちいい〜」


「疲れがぶっ飛ぶぞ。この温泉がエンドレスサマーにもあったらいいのにな〜」


 背泳ぎのような格好で、湯船にプカプカと浮かぶタロの言葉に俺はハッとする。



「そうだよ! すっかり忘れてたけど、俺達温泉引きに来たんじゃん!」


「そういえばそうだったな〜」


「この温泉の湯量なら何とかならないかな……後で皇帝に相談してみよう」


「そうだな。オイラ達には貸しがあるからな」


「嫌な言い方するなよ」



 俺とタロは温泉でダンジョンの疲れと汚れを流してから上がって、カナとリリルが長湯から上がるの待った。






「ユウタよ、此度の働き誠に大義であった。紅蓮の王をながらえさせてくれた事、本当に感謝しておる。で……だ、礼の話に入る前に、我と個人的に同盟を結ぶ気はないか?」


 俺は皇帝の突然の申し出に驚く。


「個人的な同盟……ですか?」


「うむ。そう言うのも我は紅蓮の王の加護を受け、人間の中では異質なほどに強いと自負しておる。その我から見ても其方は異質だ」


 皇帝は淡々と話していく。


「いかにフェンリルが強かろうと、人の身でありながら、あれほどのアンデッドの軍勢をたった二人で切り抜け、あまつさえ紅蓮の王が倒せなかった魔族を討ち滅ぼし、紅蓮の王さえ知らなかった時空魔法でその身をながらえさせた……言うなれば化け物だよ其方は」


「……はは、化け物ですか」


「悪い意味で言っておるわけではない。人間の理の外におると言っておるだけよ。その若さでその異常な強さ……何が理由かは敢えて問わん。ただ、我は敵に回したくないのだよ」



 俺はその言葉に少しだけ考える。



「わかりました。同盟なんて仰々しいものじゃなく、個人的な約束という形でなら、喜んでお受けします」


「……ほう? 約束とな?」


「ええ。私の故郷では同盟とはいずれ破られるものという考えがありました。最初だけ、形だけ……都合が悪くなれば一方的に破り捨てる。同盟とはそんなものだったのです。ですから"約束"です」


「約束とて破られるものでは?」


 皇帝は顎髭を触りながら尋ねる。



「……そうかもしれませんね。ですが皇帝ほどのお人が個人間の約束を違えるとは思えません」


「……なるほどな……あいわかった。其方と我の約束という形で友好を築こう。何か困った事があればいつでも力になろう」


「俺も約束します」


 こうして俺と皇帝ユーリィ・ドランゴニア三世の間に互いの力になると言う約束が結ばれた。




「して、今回の礼についてだが……」


「はい。温泉の湯を融通していただきたいのですが……」


「湯を?」


 俺は、俺がダンジョンマスターを務めるエンドレスサマーでお風呂を作っていて、どうしても天然温泉を作りたいという話をする。



「で、この小さい転移石でゲートを作り、エンドレスサマーに温泉を引きたいんです」


「がっはっは! 面白い事を考えるものよ!」


 考えたのはタロですけどね。

 でも日本にも温泉が湧いてない地域のスーパー銭湯なんかで、温泉からお湯を運んでるとこもあったし、おかしな話じゃないはずだ。



「よかろう。我がドランゴニア帝国は至る所で温泉が湧いておる。好きな場所から湯を引くがよい」


「あ、ありがとうございます!」


「ふむ……しかし困ったな。我はてっきり転移石目当てで、ドランゴニアに入国したものと思っておった。我からの依頼はダンジョン最深部への道の発見であったにも関わらず、紅蓮の王の命を救ってくれた其方に感謝の品として転移石を用意しておったのだが……」


「え? 転移石ですか?」


 皇帝の脇に控えていた大臣が、俺が持っている転移石とは比べ物にならない大きさの転移石を台に乗せて運んで来た。


「デカッ!」


 バスケットボールサイズの転移石が二つ台に乗っている。


「皇帝、安心してくれていいぞ。転移石はオイラ達が責任を持って引き取るから無駄にはならないぞ」


「バカ、タロ! なんて厚かましこと言うんだよ!」



「ガッハッハッハッ!! そうかそうか……引き取ってくれるか。なら無駄にならずに済むな!」


「そうだぞ」


「……申し訳ありません」


「構わん構わん。どの道渡そうと思っておった物だしな」


「なんか本当に申し訳ありません」


「うむ、此度のこと改めて礼を言う。これからお前達はいつでも入国出来るよう手配しておく故、いつでも遊びに来い」


「ありがとうございます」


「では我はこれで下がらせてもらう。これでも忙しい身ゆえな」


「はい。転移石ありがたく頂戴致します」


「うむ。では好きなだけ逗留してから帰国するがよい」


「はい。温泉を吟味してから帰ります」


「ハッハッ、そうか。では、また会おうダンジョンマスター・ユウタよ」



 そう言って皇帝ユーリィ・ドランゴニア三世は謁見の間から去っていった。



 この後、俺達は転移石を大臣からもらい、一週間ほど温泉巡りをして、エンドレスサマーに引く温泉を決めて、とある温泉の源泉に転移石を設置させてもらってから、エンドレスサマーに帰ったのであった。





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