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第三章25  〈転生〉

 

 静寂に包まれた守護者の間。

 誰もが激しい光に目が眩み、少しの間まともに物を見る事が出来なかった。


 そして徐々に視力は回復しだした。


「スッゲー光だったな。思わず変身しちまったぞ」


 何故か光の中で変身を完了しているタロ。


「そんなことより、ドラゴンは……紅蓮の王はどうなった!?」


 皇帝が時空魔法により転生を果たしたはずの、紅蓮の王の身を案じる。


「転生は……転生は成ったのではないのか!?」



 目の前にいたはずの紅蓮の王。

 フルサイズのタロの数倍はある巨大な身体が、目の前から一瞬にして消え去ってしまったのだ。

 焦るのも無理はない事だろう。



「皇帝陛下! アレを……」


 カナがいち早く何かに気づき、皇帝の視線を指差して誘導する。



「お、おお……おお……」


 この守護者の間にいる、全員の視線が一つの物に集中していた。

 皆の視線の先には人間の幼児程度の大きさの、一つの"卵"があったのだ。


 そう、時空魔法『現世転生(オールタイムロウ)』は成功し、紅蓮の王を卵の状態に転生させていたのだ。


 全ての魔力を消費して疲労困憊の俺だったが、時空魔法を成功させた確信からか、確かな手応えを感じ達成感に満たされていた。



「ユウタ、これは成功したの?」


 リリルが尋ねる。


「もちろん成功だよ。俺には分かる」


「あの紅蓮の王が今じゃ卵か……もう一度戦ってみたかったけど……オイラの不戦勝だな」



『バカ!僕は負けてなんかないんだからな!』


「ん? 何だ!? 今のはだれが言った?」


『ココだよ〜!』


 全員がキョロキョロと周囲を見渡す中、俺は一人だけ声の発信源である卵を見ていた。



「もうすぐ生まれるのか?」


 俺の言葉に全員がハッとした顔をして、声の出どころが卵だと気づく。


『うん、もう少し……あとちょっとだよね。てか殻固えー! 紅蓮の王とまで呼ばれた僕が、自分の卵の殻に手こずってるの笑えるよね〜』


「……」

「……」

「……」

「……」


「おい、全員ドン引きしてるぞ。話し方変わり過ぎじゃない?」


 俺を除く全員が、紅蓮の王の話し方のあまりの変わりぶりにドン引きして言葉を失っていた。



『うんしょ、うんしょ。せい!』


 ビキ……ビキビキビキ!


 紅蓮の王の卵にヒビが勢いよく入る。


『僕、誕生!』


 そう叫びながら、卵の殻を割り中から紅蓮の王が飛び出してきた。


『ふい〜、やっと出られた。みんな言いたい事は色々あるだろうけど、最初に感謝の言葉だけ伝えさせて……サンキュ!』


「軽いな」


「軽すぎるぞ」


「ユウタよ! この幼竜が紅蓮の王なのか!?」


「はい。転生した姿です」


 皇帝ユーリィ・ドランゴニア三世は、目の前の幼竜を見ても信じられないようだ。


『僕が元・紅蓮の王だぞ。いや〜絶対助からないと思ったよね』


「魔族ネリフィラに打ち込まれたアンデッド化の秘術の威力をどうしても抑える事が出来ませんでした。なので発想を変えて助けるのではなく、記憶を持ったまま一度死んで転生してもらいました」


 ウィルスと言っても通じないので、ここは秘術としておいた。



『いや〜、スゴイ魔法があったもんだよね〜。長いこと生きてるけど初めて見たよ……って一回死んだんだっけか!?』


「にわかには信じられん……話し方も以前の紅蓮の王と随分と違うようだしな……」


 皇帝の言葉に幼竜は嘆息する。


『あのねえ、僕生まれたてなんだよ? 生まれたてで「我は紅蓮の王、生きとし生ける者よ……ひれ伏すが良い」なんて言うと思うわけ? 紅蓮の王だって幼い頃は無邪気な子供だったんだよ?』


「な、なるほど……」


 記憶を持ったまま転生しているのだから、以前の話し方のままでも何ら不思議はないと思うが黙っておく。


『とは言っても、さすがにこの姿じゃダンジョンマスターとしてはキツイものがあるな〜。今ならその辺の狼にも負けてしまいそうだよ』


「誰の事言ってるんだ? ああん?」


『仕方ない……代理守護者を立てて、その上で【不可視(インビジブル)】を使って、このダンジョン自体を隠すとするよ』


 それが一番現実的だろう。

 今の幼竜は記憶はあっても、紅蓮の王としての力は失ってしまっているのだから。

 また魔族が襲撃してこないとも限らないし、早々に隠してしまった方がいい。


『でも安心して。この地の守護は続けるから。そうと決まれば出てった、出てった! たまには僕の方からユーリィに会いに行くから……その時はまた、ユーリィの子供の頃のように、僕の事をグレンって呼んでくれるかい?』


「もちろん……もちろんだとも……我が友よ」


『……ありがとう。そしてダンジョンマスター・ユウタ。この借りはいずれ必ず返すから』


「……おう、でっかくなって帰ってこい」


『フェンリル、この者をしっかりと守るんだぞ』


「わかってるぞ」


『じゃあ、みんな……バイバイ』



 幼竜がそう言った次の瞬間には、ダンジョン内にいた俺の仲間と、皇帝の一団全ての人員がダンジョンがあったはずの場所に立っていた。


「勝手にダンジョンを隠しおって……次会いに来たら一発殴ってやらねば気が済まん」


「ははは。なら長生きしないといけませんね。いつ会いに来るかわかりませんから」


「ふ……違いない。よし、とりあえず帰るぞ。全員城に帰還だ!!」



 こうしてダンジョンは誰の目にも発見する事は出来なくなり、紅蓮の王が成長するまで存在が隠される事となった。




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