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第三章21  〈ネリフィラ②〉

 

 怒り狂ったネリフィラが、硬く鋭い爪を伸ばし、それを俺の身体に突き刺そうと何度も何度も攻撃してくる。


「よっ……ほっ……!」


 俺はそれを足捌きや剣戟で躱し、弾き、撃ち落とす。



「おのれぇぇぇ!」


 ネリフィラが怒れば怒っていくほど、攻撃は単調になり躱しやすくなっていく。


 一際強い攻撃を剣で弾いた瞬間だった。

 弾かれたネリフィラの両腕は上へと万歳した形になり、上半身は大きくのけ反った。


「ここだ!」


 俺はネリフィラのガラ空きの上半身へと目掛け、神剣エクスカリバルを袈裟斬りに振り下ろす。


 ザシュ! と肉を切る音とその手応えが片膝をつくネリフィラから俺に伝わってきた。


「グオォォォォ!」


 ポタポタと流れる血を気にも留めず、ネリフィラは立ち上がる。



「よもや人間のお前に、上位魔族である私が、これほどの手傷を負わされようとは……」


 ネリフィラはアンデッド達を殲滅しつつあるタロをチラリと見てから視線を戻す。


「フ……なるほど。フェンリルを連れた人間……お前がダンジョンマスター・ユウタか! ジグマの奴が話しておった人間が、まさかお前だとはな!」


「ジグマ……」


 ジグマの知り合いかよ。

 魔族同士知り合いでも、何ら不思議ではないけど、俺の情報を共有するのは勘弁してほしい。



「確かセバスとかいう小物も倒されたと聞いたな」


「……アレは俺がやったんじゃねーよ。勝手に燃えて死んだんだよ」


「ふむ……契約魔法か……ゲリョルドの奴も相変わらず誰も信用してはおらぬか」


「そのゲリョルドってのは何者なんだ?」


「我と同じ上位魔族の者よ。それ以上の情報は同胞を売る事になるでな……自分で会って確かめるがいい。わたしに殺されずに生き残れたら……な!!」


 そう言い終えるのを待たず、ネリフィラが突進してきた。

 さっきの一撃がかなり効いているのか、その突進はスピードも迫力もなく無闇に俺の間合いに入ってくるだけのものだった。


 俺はネリフィラの突進を体を入れ替えて躱し、隙だらけの背中目掛けて斬りつける。


「ぐはぁぁぁぁ」


「いける!」


 俺は一切躊躇わずに背中側から、エクスカリバルをネリフィラの心臓目掛けて突き刺した。


 それはネリフィラの心臓を貫き、胸を貫通して刃が身体から飛び出すほど深く刺さっていた。


「ゴフッ……」


 ネリフィラが大量の血を吐き両膝をつく。


「──!?」


 俺は異変に気付く。

 突き刺したエクスカリバルを抜こうとしても、筋肉の締め付けで抜けないのだ。

 俺が剣を抜けないのを確認してから、ネリフィラはフラフラと立ち上がり、こちらに向き直す。


「フ、ハハハ……これでお前は武器が無くなった。残念だったな。あと一歩で私に勝てたと言うのに」


「別に剣が無いなら無いで、魔法を使えば良いだけだよ」


 そう言いながら放った火魔法だったが、ネリフィラの咄嗟の火魔法に相殺されてしまう。


「うわ、アチチ」


 ぶつかり合う炎と炎が周りの酸素を急速にくいつくしていく。


 こりゃ火魔法はダメだな。

 万が一にでも、酸欠で窒息したり、高温で肺が焼かれたりしたら大問題だ。


 このダンジョン内で一番地形効果の恩恵を受けそうなのは土魔法なんだけど、あまり派手にやると地形が変わってしまう恐れがある。

 そうなると、ダンジョンにどんな影響があるか分からないので、強力な土魔法は使えない。


 どうする……?


「この好機にトドメを刺しに来ないのは、手詰まりと言う事かな? 所詮人間……武器が無いと何も出来んか……」


「どうだろう……な!」


 俺は土魔法ではなく、雷魔法を唱えた。

 威力よりもスピード重視で考えたからだ。


 放たれた雷魔法は、ネリフィラに迎撃する隙を与えず、エクスカリバルに吸い寄せられていく。

 そう、エクスカリバルを避雷針代わりに使ったのだ。


「う、うがぁぁぁぁぁあ!!」


 心臓に突き刺さっているエクスカリバルに電撃を流し込んだのだ、直接身体の内部に流される電気エネルギーのダメージは凄まじいものがあるだろう。


 その場にうつ伏せに倒れ込むネリフィラ。

 俺は注意深く近付き、エクスカリバルを抜いた。



「ふぅ……終わったか!?」


 念のためにトドメを刺そうとした瞬間だった。


 ネリフィラは手だけを動かして、自分の爪を頭部に突き刺したのだ。


「フ……フハハ。どうせこのまま朽ち果てるのなら、最期は私の愛するアンデッドに自らなって、永遠の時を生きてやろう……」


 俺は慌ててトドメを刺すため、横たわるネリフィラに剣を突き刺した。


 だが、遅かった……。


 見る見るうちにネリフィラの身体の構造が変わっていく。

 見ているだけで分かるほどのスピードで、身体の色が変わり、肉が腐り、皮がただれていっていた。


「おいおい」


 ネリフィラは最期の足掻きとして自分をアンデッド化したのだった。



『ユウタ!』


 ネリフィラが呼び出したアンデッドの群れを全滅させたタロが合流する。


『コイツは……アンデッド化しているのか!?』


「みたいだな。どうせ死ぬならってな……」


『愚かな奴よ……』


「だけど、どうする? アイツの爪を一撃でも貰えば俺達も仲良くアンデッドの仲間入りだぞ?」


『フン……考える事を放棄したアンデッドなどに遅れを取りはせん』


「……お前、メチャクチャ強力な火魔法ぶち込もうって考えてるだろ?」


『よく分かったな』


「やるんなら通風口だけは、キッチリと確保してくれよ。じゃないと全滅コースだからな」


『分かっておるわ』


「あんまりモタモタもしてられないからな。ドラゴンも心配だからよ」


『一撃で決めてくれるわ』


 そう言いながらタロが魔力を練り出した。


 高密度に練られる魔力でタロの顔の辺りが歪んで見える。



「……少し離れておこうっと……」



炎狼咆哮(ブレイズ)


 タロの口から火炎放射器のように火が吹き出している。

 その炎は赤から徐々に青へと色を変えていく。


 生物の理から外れてアンデッドとなってしまったネリフィラは、いかに強くなろうとも、アンデッドの弱点は炎という理からは外れておらず、瞬く間にタロの炎狼咆哮(ブレイズ)に焼かれていった。


 そして最後はチリも残らずに消滅してしまったのである。



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