第三章17 〈カミングアウト〉
「よーし、これで買い忘れなしと。準備も万全だな」
ダンジョンに潜るための、食料や日用品、俺の冬服に、タロがダンジョンに行くならどうしても欲しいと譲らなかったサファリハットを購入して、目的のダンジョンへと向かう。
ダンジョンは帝都からタロの脚で、およそ三時間ほどの場所にある大きな山の麓にあるとの情報だ。
大臣から貰った地図を頼りに進む。
俺たちがダンジョンに突入したら、大臣の手配で常に外に連絡班や医療班が待機してくれるらしい。
至れり尽くせりだが、それだけ皇帝が本気という表れだろう。
「ここか……」
「大きい洞窟ね〜……」
「リリル、本当に待ってなくて良かったのか?」
「しつこいわね〜。行くって何度も言ってるでしょ!? 一人で留守番するくらいなら、最初からエンドレスサマーで待ってるわよ!」
「そうか……そうだよな」
「そうよ」
リリルは頑として譲らない。
タロもカナもお手上げといった表情だ。
「じゃあ行くぞ」
「ゴーゴーだぞ。オイラにしっかりとついてくるんだぞ」
サファリハットの顎紐を調整しながらタロが言う。
しかしよくこの世界にもサファリハットがあったもんだと俺は思った。
しかし、タロはなぜあんなにもサファリハットを欲しがったのか……また変な知識じゃないだろうな。
「ユウタ、ぼんやりしてると危険だぞ? 大丈夫か?」
「おう、すまんすまん」
「オラぁ、そこの人間二人! イチャついてないでちゃんとついて来い!!」
タロがニヤニヤしながら冷やかしてきた。
「な!? べ、別にイチャついていたワケじゃないぞ!? ユウタがボンヤリしてたから注意を促してだな……」
カナさん……アナタの普段の言動とのギャップはなんなのでしょうか?
そんなにキョドると余計変に思われるよ?
「大丈夫大丈夫。タロの言ってる事なんて適当に聞き流しとけばいいんだから。早く追いつかないと、またなんか言われるよ?」
「そ、そうか」
俺とカナは足早にタロを追いかける。
しかしこの洞窟は広いな、タロのオリジナルサイズでも十分戦闘が出来る広さだ。
そりゃドラゴンがダンジョンマスターやってるくらいなんだから、ドラゴンが通れる規模なのは理解出来るけど……広過ぎない?
高速道路なんかにあるトンネルよりも随分と大きく見える。
もしかしでドラゴン並みに大きい魔物ばっかり出てきたりしないだろうな。
「テレレレッレレーレッレ テレレレッレレ」
オイ、タロ。
お前はそのメロディをどこで覚えたんだよ……。
その冒険番組でよく聞くメロディをたまたま口ずさんだなんて言わせないぞ。
「タロ、その曲どこで覚えた?」
「今のってタロが適当に口ずさんでただけじゃないの!?」
「私も知らないメロディだったな」
リリルとカナは知らないようだ。
「ん? 今のか? なんか子供の頃に聞いたような、教えてもらったような……あ、思い出した。子供の頃一緒に旅してた人間に教えて貰ったんだぞ」
「!!」
突然のカミングアウトだ。
「だからアンタ人間の言葉話せるのね」
「高位のドラゴンなんかの魔物は人間の言葉を話すと聞くから、フェンリルのタロが話しているのも、私は違和感なく受け入れてたわ」
まさかタロにそんな過去があったとは……。
しかし一緒に旅していた人間か……もしかしたら日本から転生か転移してきた人なのかもな。
それだったなら、タロの今までの偏った知識もうなずける。
「懐かしいなぁ。人間だからとうの昔に死んじゃってるだろうけど、今思えばその人はユウタに少し似てたかもな」
先頭を歩くタロが、索敵をしながら昔を思い出して語る。
死んでるだろうってことは、ずっと一緒に居たわけではないんだな。
「へえ? どんな所が?」
「その人もさ、本当に人間かと思うくらい強かったんだよ」
「ユウタ、無茶苦茶だもんね」
神様にチート能力貰ってるからな。
要望通りではなかったけど。
「まあ、ユウタみたいに何でも出来るって感じじゃなかったと思うけど、とにかく強かった。そもそもが子供のオイラが捕まってるところを助けてくれた恩人だしな」
「え!?」
「ほう……幼体とはいえフェンリルを……捕らえた者も、更にその者を倒した人間もただ者ではあるまい」
「アンタって、そんな過去があったのね」
「何に捕まったのかは覚えてないけどな。とにかく気付いたら助けられてたんだよ。で、オイラはその人間に興味が出て一緒に旅してたのさ」
「で、その時に色々教え込まれたと。冒険するならサファリハットは必需品だってか?」
「よく分かったな」
間違いない。
間違いなく日本から来た人間だな。
そうか….俺以外にもこの世界に来てたのか……もしかしたらヤキメンやオコノヤキ、それにまだ見ぬ『らうめん』も転移なり転生なりしてきた日本人が、故郷の味を思って再現したのが始まりの食べ物なのかも知れないな。
それに、過去だけじゃなくて、今現在、俺と同時期に来てる地球人もいるかもしれない。
もし居るのなら会ってみたいな……。
突然のタロのカミングアウトに日本を思い出し、少しだけ淋しくなった。
そして第一階層は何事もなく、俺達は第二階層へと進んだ。




