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第三章16  〈皇帝からの条件〉

 

「我がユーリィ・ドランゴニア三世である!!」


 その言葉に、謁見の間にいた誰もが静まりかえった。

 低く腹に響き、かつ良く通る声は誰の耳にもよく届いていた。

 がなり叫んだワケではない……声を腹の底から張ったワケでもない……ただその場にいる者全員、その語りかけるような囁きかけるような声に圧倒されていた。



 この人が竜帝ドランゴニア三世……。

 さすが謎の迫力があるな。


「まずは其方らを試すような真似をして済まなかったな」


「いえ」


「ふむ……今日呼んだのは他でもないダンジョンマスターのお前だからだ」


 やっぱりエンドレスサマー関連か。

 それに俺がダンジョンマスターって知ってるのか。


「どうして知っているとでも言いたげな顔だな。どの国でも他国にスパイを放っておるわ。だがな? 敵か味方かも分からぬ相手に、心情の変化を顔に出しているようではまだまだだぞ?」


「……確かにそうかもしれませんね。まだ皇帝陛下が私の敵か味方の判断はついていません。ご用件を伺っても?」


「其方らが転移石目当てで、入国したのは分かっておる。コチラの条件さえ飲んでくれれば、発見した転移石は好きにするがよい」


 ……気前が良すぎるな。


「条件とは、とあるダンジョンの最下層へ繋がる道を発見してもらいたい」


「発見?」


「うむ。そのダンジョンは我が国と友好関係にあるドラゴンがダンジョンマスターをしておるのだがな。半年ほど前から最下層への道が突如無くなってしまったのだ」


「……それで、その道を私に見つけて欲しいと?」


「そうだ。頼めるか?」


「引き受ける前に一つお聞かせください」


「申してみよ」


「なぜ急に最下層への道が失われたか、何か心当たりはありますか?」


「……うむ。おそらく魔族が関わっておる。魔族に攻略されドラゴンが倒されたか、魔族が何かしらの魔法で道を塞いで隠してしまったのか……だがダンジョン自体はドラゴンがマスターの頃から変わっておらぬ。だからドラゴンがヤラレたわけではない筈だ」


 魔族!!

 また魔族か。

 関わりたくないけど、この依頼を断ったら転移石が手に入らないからな……選択肢なんてハナからなかったようなもんだ。


「分かりました。引き受けさせていただきます」


「では後ほど大臣からダンジョンの地図を貰うが良い。途中までは役に立つであろう」


完全な(パーフェクト)る座標(ロケーション)】があるからいらないけど、一応貰うフリだけはしておくか。


「それとな……最下層への道を発見したら、一度引き返すように」


「はぁ、構いませんけど……」


「最下層へは我も一緒に突入するでな」


「!? 皇帝自らがですか?」


「うむ。アソコのドラゴンは我にとって大切な存在なのだよ」


「分かりました」


「頼むぞ、ダンジョンマスター・ユウタよ。人の身でありながら初挑戦でマスターとなったその腕、期待しておるぞ」


 はは……全部筒抜けなのね。


 そう言って、皇帝ドランゴニア三世は、近衛兵を伴って謁見の間から居なくなった。


 するとすぐに大臣がダンジョンの地図とダンジョンまでの地図を渡してくれた。

 一日ゆっくり休んで、出発は明日する事を大臣に伝えて、俺達は城を後にした。



「フーッ、肩凝ったわ〜。私なんて何話してるのか全然分からないのに、気圧されてビクビク震えてたわ」


 リリルの言葉を、カナにも分かるように通訳をする。


「確かに人間とは思えぬ、凄まじいプレッシャーだったな」


「ん? そうか?」


「タロは鈍いのか大物なだけなのか……俺も威圧感は感じたもんな〜」


「鈍いって何だ! オイラだって多少は威圧感感じたぞ」


 アレを多少って言えるタロが羨ましいよ。


「そんな事よりご飯食べましょ。私お腹空いちゃった」


「ご・は・ん! ご・は・ん!」


「確かに小腹はすいたが、宿の手配を先にした方が良いのではないか?」


「なんか宿は大臣が手配してくれるってさ、後で連絡しますって言われたわ」


「そうか、なら安心して食事に行けるな」


フッとカナが笑顔になる。


「うん。飯食ったら買い出しに行こう。何よりまず俺の服を買いに行こう」


 マントを羽織っているので、幾らか寒さは凌げているが、夏服ではドランゴニアは寒すぎる。


「この国の名物は、な〜にかなっ?」


 タロの言葉に答えたのはカナだ。


「寒い北国だからな。煮込み料理に名物が多いぞ?」


「……ほう? 煮込み料理とな? オイラは煮込み料理には少々うるさいぞ?」


 オマエは誰だ。

 グレートエルクの肉を生で平気で食ってたのに何言ってやがる。

 いや、フェンリルなんだから生肉食べる事は別にいいんだけど。


「タロはグルメなんだな」


 タロが意外にグルメなのを知らなかったカナが驚きとも尊敬ともとれる反応をする。


「そうなんだぞ。オイラをその辺の犬と同列に語ったらダメなんだぞ」


「何で比較対象が犬なのよ」


「はっ!?」


 犬と比較する事がおかしい事に、言われて初めて気がついたのかよ……やっぱり馬鹿な奴だぜ。



 それから俺達は食堂と言うよりは洋食屋と言った方が正しい佇まいの店に入った。


「これが帝都の名物……」


 俺は呆然としていた。

 目の前のメニューに載っている食べ物に心当たりがありすぎたからだ。


「どうしたユウタ? 決まったのか? 店員さん呼ぶぞ?」


 カナが代表してタロとリリルの分も注文する。

 リリルはメニューを指差してカナに伝えたようだ。


 俺はメニューにある、オデーンと呼ばれる懐かしい響きの物を頼んだ。


「お? ユウタはオデーンにしたのか? オイラは悩んで悩んでポットフにしたぞ。ウインナー入ってるから! でもオデーンも食べてみたいから一口くれな!」


 それはお約束をしろということか?



 しばらくして頼んだ料理が続々と運ばれてきた。


「ウマイウマイ。ポットフのスープにウインナーの旨味が溶け出していてウマイぞ。そのスープがジャガイモに染み込んでさらにウマイぞ」


 そうか……オデーンも懐かしい味がしてとても美味いよ。


「ユウタ、オデーン一口くれよ。え〜と玉子がいいぞ」


 きた!


「うまいけど崩れやすいから一口でいけよ」


 俺は熱熱オデーンの玉子をフォークに刺し、タロの口に優しく運んでやる。


「ブフォッ!! 熱っ! 水、水、水!」


「ギャーハッハッ。久しぶりに見たわ伝統芸!! ひ〜腹痛え」


 その光景を唖然と見ていたリリルとカナだったが、時が経ち笑いが込み上げてきたようだ。


 しかしこの世界の食い物はどうなってんだ?

 地球の料理が度々登場するな。

 たとえ異世界でも料理なんて似通るだけなのか?

 俺は何とも複雑な気分になりながらオデーンを完食した。



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