第三章15 〈ユーリィ・ドランゴニア三世〉
父さん、母さん、おげんきですか?
僕は今、帝国ドランゴニアの皇帝に謁見する為、厳重な護衛のもと、馬車で帝都を目指しています。
「本当にどうなっちゃうんだ?」
何故こんな事になっているのかというと、理由は数時間前に遡る。
数時間前。
「よしタロ、そろそろ降ろしてくれ」
タロは徐々にスピードを落として止まると、俺たちが降りやすいように腹這いになっくれる。
そして俺たちが全員降りたのを確認してから、デフォルメサイズになる。
『変……身……!!』
「とーーーう!」
何も言わずに変身できるのに、なんで毎回声に出してサイズを変えるのか。
そしてタロの変身の掛け声が、俺には初代マスクライダーの変身の声に聴こえてならない。
本当にタロの知識はどこから来ているのか……タロは異世界転生者だったりしてな。
「お? あそこの門から入国するのか、カナ?」
「そうだよ。タロの言う通りあそこで門兵に、こっちの推薦状を見せれば大丈夫なはず」
俺はレイモンド伯爵から国境で門兵に渡す用と、ドランゴニアのお偉い様に渡す用と二通の推薦状預かっていた。
「じゃ、行こうか」
俺たちは、ビシエイド王国と帝国ドランゴニアの国境を隔てる防壁にある小さな門に歩いて行く。
小さな門と言っても防壁と比べてであって、普通に門として見れば、かなり大きな門だ。
これなら荷車や馬車にたくさん荷物を積んでいても通れないことはないだろう。
国境を警備する門兵はビシエイド王国と、ドランゴニアの衛兵が協力して通行人の管理をしている。
なのでビシエイド王国側にもドランゴニアの衛兵が門兵として立っている。
「止まれ! 入国許可証もしくは推薦状は持っているか?」
槍で門を通れなくする門兵に、レイモンド伯爵からの推薦状を手渡す。
まず両国の兵で推薦状の封蝋に押された印を確認してから封を解き推薦状を広げる。
最初にビシエイド王国の門兵が内容を確認して、次にドランゴニアの門兵が内容を確認する。
すると、ビシエイドの門兵は何の反応も示さなかったが、ドランゴニアの門兵が眉を一瞬ピクッとさせてから、確認をするから待ってほしいと言われた。
それから10分ほど待つと、入国の許可が下り門の中間にある門兵の駐屯所ぽい場所で待つように言われた。
なぜこんな所で待たされているのかも聞いたら、迎えの馬車が手配されたので、それに乗って欲しいと頼まれる。
それから30分くらい経ったころ、ようやく迎えの馬車がたどり着いた。
「ユウタ様とそのお連れ様、皇帝陛下がお呼び出すので、こちらの馬車にお乗り下さい。帝都までは我々白竜騎士団が責任を持ってお連れしますので」
「え!? え〜と、何がどうなって皇帝に呼ばれているのでしょうか!?」
「それは皇帝陛下にお聞き下さい。我々は帝都までお連れするよう仰せつかっただけですので」
「入国を止めるって言ったら?」
「ここはすでに帝国の領土内。一度入国したのなら皇帝陛下の命は絶対です」
俺は仲間達と顔を見合わせて、仕方ないかとため息をついた。
そして馬車に乗り込み、現在に至る。
「しかし、なんで皇帝から呼び出しくらってんのかな〜?」
俺は人生で初めて乗る馬車の、思いの外悪い乗り心地に辟易していた。
リリルとタロなんかは窓から景色を見て楽しんでいて、乗り心地の悪さは気になっていないようだ。
「心当たりはないのか?」
そう尋ねたのはカナだ。
「あるわけないじゃん。レイモンド伯爵領から一歩も出た事なかったのに」
「なら、セバスとの一件かエンドレスサマーに関わる事でしょうね」
セバスとの一件か……となると魔族絡みになるなぁ……ゲリョルドとか言う上位魔族の差し金か?
エンドレスサマーに関わる事と言われても、心当たりはない。
それどころか、何故レイモンド伯爵からの推薦状を門兵に見せただけで皇帝から呼び出されたかだが……推薦状に何を書いたんだ伯爵様は?
「まあ帝国の皇帝ともなれば世界中に草を放ってると思うよ?」
草……スパイの事か。
その草がエンドレスサマーの事を皇帝に伝えたと言うのか?……レイモンド伯爵領に人間がマスターのダンジョンがあると。
それに興味も持った皇帝からの呼び出し……あり得なくはないか。
「景色が変わってきたぞ」
「もうすぐ帝都に着くのね」
うう……少し緊張してきたぜ。
「竜帝ユーリ・ドランゴニア三世……竜の化身と言われた男か……」
「え!? 何その新情報? 竜帝!? 竜の化身!? それすごく大事な情報じゃないの? え? なんでこのタイミングまで言わなかったの!? 何時間馬車乗ってたのさ!」
俺が慌てふためいていると、馬車の動きが止まった。
『到着致しました。ご降車願います』
馬車の外から声が聞こえるのと同時に、ドアか開く。
馬車から降りると、そこは皇帝が住まうであろう巨城の停車場だった。
「でっか〜い」
「ここからだと全体が見えないな」
「凄いな……私もここに来るのは初めてね」
「ここで飯にするのか?」
思い思いの感想を口にしながら、その圧倒的な大きさの城を見上げていた。
ただ俺の印象としては、豪華絢爛な城というよりは、堅牢な砦という印象だった。
案内された部屋で一時間ほど休憩をしてから、謁見の間に呼ばれる。
そして謁見の間で俺達は皇帝を待つ。
少しの間そこで待っていると、近衛兵と共に皇帝が入ってきた。
皇帝は玉座に座って口を開く。
「皇帝ユーリィ・ドランゴニア三世である! 旅の者よ、急な呼び出しによく応えてくれた」
皇帝が話しているのだが、本当にこの男が皇帝なのだろうか?
後ろに控える近衛兵の中に、とんでもないプレッシャーを放っている人が混じってるのだが……。
「名乗るがよい」
「その前にいいですか?」
「申してみよ」
「本当に貴方が皇帝陛下なのですか?」
俺の言葉に謁見の間がざわつき、近衛兵達が今にも俺に斬りかかりそうなくらい殺気を放つ。
「貴様! 皇帝陛下を疑うとは失礼であろう! 衛兵! 何をしている! 早くこやつらを捕らえよ!!」
皇帝の近くで控えていた大臣っぽい感じの男性が衛兵に俺の捕縛を命じる。
「ちょ、ちょ……ユウタ!」
だが俺の仲間はリリル以外、タロもカナも平然としている。
「もう良い!! そこまでだ!!」
そう叫んだのは、凄まじいプレッシャーを放っていた近衛兵だ。
皇帝として、それまで話していた中年の男がそのまま退き、空いた玉座に叫んだ近衛兵が座って兜を取った。
「さすがというよりないな。試すような事をして悪かった」
玉座に座った壮年の男は大きく息を吸い込んだ。
「我がユーリィ・ドランゴニア三世である!!」
その叫びは謁見の間に大きく大きく響き渡った。