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第三章12  〈露天!〉

 

 カナがエンドレスサマーにやって来てから、一週間経っていた。

 外はさらに秋の気配を濃くし始めていた。


 そんなある日俺は砂浜の一角に穴を掘りまくっている。


「ユウタ何してるの?」


 尋ねたのはリリルだ。


「へっへっー。出来てのお楽しみだぜ」


 そう言い穴を掘り続ける。


 何故いきなり穴を掘り始めているのかと言うと、領都に行っていた時に、ある物を発見して購入したからだ。

 そのある物とは、防水シートだ。


 防水シートと言っても、日本に売っているようなビニール製のブルーシートとかではなくて、とても大きな布に魔法で防水処理が施してあるらしい。


 領都から、さあ帰るかって時にこれを見つけて即購入した。

 なかなか高かったが、見た瞬間にある事を閃いて、買わないという選択肢はなかった。

 幸い俺には【四次元的なアレ(アイテムポケット)】もあるから持ち運びには困らないしね。



 砂浜を大体2メートル四方の大きさで深さ1メートル程度に穴を掘った。


「ふう……中々ハードな仕事だったぜ」


 常夏のエンドレスサマーでの作業は、かなりの重労働だ。

 吹き出る汗を拭い、水分を補給する。


「魔法で掘れば良いのに」


「なっ!?」


 言われてみればそうだ。


『言ってくだされば穴くらい、マスターコアをちょちょいと操作して簡単に作れましたのに……』


「……へ!?」


 まさに青天の霹靂である。


「バ……バッキャロー! こういうのは額に汗して自分でやるから価値があるんだよ!」


「ふーん……ユウタが良いならいいけどね」


『何かお手伝い出来ることがあれば、いつでもお申し付けください』


 二人は去って行ったが、俺はまだまだ作業を続ける。

四次元的なアレ(アイテムポケット)】から領都で購入した防水シートを取り出して広げる。


 かなりの大きさを買って来たから、大きさ的には充分いけそうだ。


 この防水シートを購入する時も、ファンタジー世界が爆発していた。

 防水シートが売っていた商店には、小さな風呂敷サイズの防水シートしか売ってなかったのだが、もっと大きなサイズは無いかと尋ねたら、魔道具で好きなサイズに接合出来ると言われたのだ。


 俺は頭にイメージしたサイズを伝えるため、ココからココくらいまでと商店の中を歩きサイズを伝えると、店員はハイハイと言った感じでアイロンの様な魔道具で次々に防水シートを接合していったのだ。

 便利な世界だ。



 そうして購入した防水シートを、さっきまで掘っていた穴に広げて被せる。

 穴の四隅にしっかりと押しつけてと。


「ヨシ!」


 こうして出来上がった場所に、水魔法でガンガン水を注いで行く。

 海水でも別に構わないのだが、初めは真水の方がいいだろう。


「水漏れもしてなさそうだな……」


 適当な深さになるよう水を張ったら、後は灼熱の太陽とアチアチに熱せられた砂浜にお任せだ。



 数時間後見にくると、水は温かくはなっているが思い描いていたような温度にはなっていない。


「ふむ……」


 魔法で水温を操作するようなものはないだろうし、どうしたものか。


 仕方なく穴の底に木の板を敷いて、魔法でアチアチに焼いた石を何個も沈める。

 しばらくすると水がお湯と呼べるいい温度に達した。


 ついにエンドレスサマー初の露天風呂が完成した。

 日本人のおれとしては、風呂事情だけはなんとか改善したかっただけに、苦労も報われる瞬間だ。



「一番風呂いただきだぜ」


 女子も多いエンドレスサマーなので、一応水着を着て湯に浸かる。


「ふぅ……いい湯だ……」


 最高である。

 透き通る海を眺めながら、湯に浸かる。

 俺の人生でこれを超える幸せな瞬間があっただろうか?

 そう思えるほど至福の瞬間であった。


「お? ユウタ何やってんだ?」


 警ら隊長ジロの登場だ。


「見てわかんね〜のか? 風呂に入ってんだよ」


「風呂? ああ、火山の近くとかにあるやつか。ウンディーネ様が好きで良く一緒に行ったっけな」


 さすが水の精霊、気が合いそうだ。


 この世界には風呂という風呂がない。


 いや、あるところにはあるのかもしれないが、基本は桶などにお湯を張り、体を拭いたり湯浴みするか、水浴びするか程度の物で、ちゃんとした風呂は見たことがない。

 でもジロが言うには温泉はありそうだから、湯に浸かるという文化があるところにはあるのだろう。



 ジロがチョコチョコと歩いて来て体にお湯をかけてから湯に浸かってきた。


 掛け湯をしてから浸かるとは、分かっている奴だ。


「気持ちいいじゃねえか」


「だろ? 頑張って作った甲斐があるってもんだ」


「これ夜に星見ながらでも良さそうだな」


 ヌートリアのくせに本当に分かっている奴だ。


「ゆくゆくは本格的なヤツをバルおじに作ってもらおう……目隠しの板とか設置してもらってさ」


「そうだな。いつでも湯に浸かれるようになればいいな」



「オーイ! 何やってんの〜?」


 声のする方を見ると、やって来たのはレナとカナだ。

 バーベキューのあの日以来、よく一緒にいる所を見かける。

 カナに仲の良い友達が出来たのは嬉しい事だが、二人は何を話しているのだろう?

 この前の雰囲気から察すると、女子バナというやつだろうか?


「風呂ですよ風呂。露天風呂」


「お風呂……とても気持ち良さそう。私も入っていいか?」

「ちょちょ、カナっち大胆すぎ!」


 何故かレナが慌てふためく。


「別に水着着てくれたらいいよ? 狭いから俺たち上がるし。なぁジロ?」


 ジロを見るといつもの態勢で浮かんでいる。


「わかった。着替えてくる」

「え? マジ? マジなの!? カナっち待って、私も〜!」


 そう言って二人はマルチナさんの店の方に歩いて行った。

 それにしても、カナっちか……この前まで暗殺だの言ってたのに……笑える。


 それはそうと、マルチナさんの店に行ったって事は、帰りは絶対マルチナさんも付いて来るだろうな。

 先に上がっておくか。


 俺はお湯から上がり少し水温が下がったお湯を温めるため、再度焼いた石を沈める。


 ジロは浮かんだまま寝てるけど、まぁマルチナさんが来たら飛び起きるだろう。



 少し待っていると、水着に着替えたカナとレナに案の定マルチナさんがついて来ていて、アイラさんまで一緒に来ていた。

 その騒ぎを聞きつけタロやナイトウルフまで集まり、エンドレスサマーのメンバーほとんどが集まって来ていた。


「コレを一生懸命作ってたのね」


 リリルは感心している。


「すごーい! 本当にお風呂ある〜。ユウタくん頑張ったね〜」

「お姉さんのわがままボディを見せつけちゃうぞ」


 マルチナさんは一番細くて貧乳である。


「私達から入っていい?」

「掛け湯するのがマナーだよ、レナ」


 ほう? カナは温泉経験があるとみえる。


「しかし、この人数になってくると狭すぎだな」


「広くすればいいだろ? ユウタはバカなのか?」


「あのなぁタロ。これは水が砂に吸収されないように、防水シートってのを敷いてあるの! それがこれ以上の大きさは無理なの! タロには分からんかもだけどね」


 タロには何がなんだかと言った様子だ。

 まあ狼には分からなくても仕方ない。


「……魔法で固めればイイだけじゃないの?」


「ふぁ?」


「土魔法と火魔法使えば余裕だぞ」


 タロが言うには、土魔法で穴を掘り、さらに土魔法で石を出して壁を作る。

 それを火魔法で少し焼き付ければ大丈夫らしい。

 俺の穴掘りからの努力とは一体……。


 だがみんなで入れる風呂が作れるならそれでいいか!


 そこからはタロに馬車馬の如く魔法を使わせ、ちょっとした浴場のような規模の風呂を作った。

 実際はマスコに頼めば穴自体は簡単に掘れるのだが敢えてタロにやらせる。

 というか掘った穴に石で壁を作るのもマスターコアで簡単に出来るだろう。

 だが敢えてタロにやらせる。


 もちろん男湯女湯を分けて、それぞれにお湯を張る。


 ここにエンドレスサマーの本格露天風呂が爆誕した。

 お湯が温泉じゃないのは残念だけど、贅沢は言えない。


 海が夕焼けに染まり出した最高の時間に、みんなで仲良く風呂に浸かった最高の時間だった。



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