第三章11 〈BBQ!〉
初レビューがつきました!
こんな私の小説にレビューがつく日が来るとは……。
ここでは名前は伏せさせてもらいますが、レビューを書いてくれた読者の方、本当にありがとうございました。
「見えてきた!」
リリルがそう言うように、俺の目にもエンドレスサマーがハッキリと見えて来た。
セバスが持ってきた書状に始まり、領都に旅立ってから数日しか経ってないのに、随分と久しぶりに我が家に帰ってきた気がする。
早く自分のベッドでのんびりと昼寝でもしたいもんだ。
『ん? ユウタ、客だぞ』
「客?」
おかしいな。
レイモンド伯爵が礼の品を送るって言ってたけど、こんな早いわけないし、ティルトンやネスタなわけないし……誰だ?
「え? うそ……!?」
エンドレスサマーの入り口前にナイトウルフのダネルと共に待つカナの姿があった。
手には大きめのバッグを一つ持っている。
「え? もう来たの?」
「ダメだったか?」
「いや、ダメじゃないけど。いくら何でも早すぎない?」
荷物を整理してから来るって話だったのに、まさか俺達より先に来ているとは。
「荷物の整理と言っても、必要な物をカバンに詰めて後は火をつけて燃やして来ただけだから」
「へ!?」
この娘今なんて言った?
火をつけて来たとか言わなかった!?
『過去を清算して来たのか?』
「その通りよ。ん? このフェンリルは….あの丸っこい犬?」
え……わかるんですか?
「根っこの気配が同じだもの……確かにあの丸っこい犬の正体がフェンリルなら、あの強さも納得出来るわ」
『ある時は狼の頂点フェンリル……』
「そしてある時はタロ頭巾……そしてある時は……」
「まるんとした犬タロ」
タロの口上にチャチャを入れる。
「犬じゃないぞ、狼だぞ!」
「すまんすまん。一人で二役演じられるのが少し羨ましくて、つい」
「フフ……仲が良いのだな」
初めてちゃんと笑った顔を見た。
「とりあえず中に行こう。みんなに紹介するよ」
「だな。中ならみんなと話せるし」
「?」
不思議そうな顔をするカナを尻目に俺たちはエンドレスサマーに入る。
「ただいま〜」
あっつ。
この肌寒くなり始めた外の気温とのギャップよ。
照り付ける太陽に、灼けた白い砂浜に透き通る海!
家に帰ってきた〜って感じ。
カナが目を見開いたまま固まった。
「ユウタの闇魔法喰らった時みたいになってるぞ」
「す、凄い所に住んでるんだな。しかもこれがダンジョン……」
「凄いでしょ!?」
驚きまくるカナに追い打ちをかけるように、リリルが話しかけてカナを驚かす。
「どうなってるんだ!?」
カナにエンドレスサマーの事を説明する。
「なるほど……いや、理屈は分かったが理解が追いつかない……なるほど、私は家に囚われて狭い視野で生きてきたのだな」
「ここが特殊なだけだと思うわよ?」
『ユウタ様お帰りなさい』
「ただいまマスコ。新しい仲間紹介したいからみんな集めて」
『かしこまりました』
そうして集まったエンドレスサマーのメンバーにカナを紹介する。
一人一人が自己紹介をしていき、みんなで新しい仲間を迎え入れる。
「カナ・ブラックリーバです。できる事の方が少ないふつつか者だが、よろしく頼む」
「ふぁ!?」
そう言って頭を下げたカナに女達が色めき立つ。
「え? ユウタ!そーゆー事なの!?」
「ユウタ君も隅に置けないね〜」
「ちょっとユウタったら、ノーマルに人間の女の子もイケるんじゃない!? お姉さんは安心したぞ」
「チッ……なんでこんな芋野郎にこんなイイ女が……」
そんな心配しているのはマルチナさんだけだ。
そしてジョルジュが何故か機嫌を悪くしている。
カナの妙な挨拶で、いろいろ変な誤解を生んでしまったようだ。
さて、自己紹介も終わり新しい仲間が増えたという事で、みんなでバーベキューでもしますか!
ステアー達と狩りに行った時のグレートエルクが新鮮なまま【四次元的なアレ】に丸っと入ったままになっているので、みんなで食べる事にした。
狩りに参加していたステアーとピニャは俺がいない間、お預けをくらっていた形になる。
アイラさんに炭や網なんかを用意してもらってる間に、グレートエルクを捌かなきゃいけない。
もちろん俺はそんな事出来ないので、ロッジ・メルビンのお母さん事バンチにでも頼むか。
そう思いバンチに頼もうとしたら、カナが自分に任せて欲しいと言って来た。
なのでバンチにはタレを作ってもらう事にした。
「私の技ならこれくらいの獲物を捌くのはワケない」
そう言って短刀を抜き、見事な手際でグレートエルクを部位ごとに切り分けた。
「レバーはステアーとピニャにプレゼントしまーす。他の内臓はナイトウルフで分けて食べて。あ、もちろん肉も食べてな」
俺がそう伝えると、グロック率いるナイトウルフ軍団が遠吠えをする。
喜んでくれてるのかな?
捌かれた肉を、バンチがいい感じの大きさに切り分け順次焼いていく。
滴る油が炭で燃えて、何とも香ばしい香りを漂わせている。
焼けた肉、生肉関係なく群がるタロ率いるナイトウルフ達を押し退けながら、焼いたグレートエルクの肉は、ほっぺたがとろけて落ちるかと思うくらいに美味しく、第一回エンドレスサマーBBQ大会は大いに盛り上がりメンバーの親睦を深めるのに役立った。
「あ、そうそう。カナって魔法使える?」
「魔法か? 攻撃魔法は使えないが、支援魔法なら使えるよ」
「あ、じゃあ俺と【パートナー契約】を……これやれば【思念通信】使えるようになって便利だから」
「何の事かよくわからないけど、ユウタが良いならそうして」
──!!
なんか打ち解けたら急に可愛らしくなってきたな。
いや、むしろこっちがカナの本当の顔なのかもな。
〈恋人候補を適応します〉
!? ……今なんて?
なんかいつもと違う事言ったぞ?
なんでカナだけ他のみんなと違うんだよ……。
あとでじっくり【操作盤】を見てみよう。
(聞こえる?)
カナがビクッと肩を震わせる。
だがすぐに理解してくれたようだ。
(聞こえるわよ)
どうやら【完全なる懐柔】や【パートナー契約】のように問題なく【思念通信】は使えるようだ。
【思念通信】のルールを説明しつつ会話を続ける。
(いきなりこんな大人数でどうかと思ったけど、楽しんでくれてるようでよかった)
(ありがとう……こんなに楽しいの生まれて初めてかもしれない。ユウタに会えて良かった)
……くはぁ!?
なんなんだこの女子力の高さは。
他の女子メンバーとは何かが決定的に違う。
本当に暗殺しか知らない女の子なんだろうか?
(早急にバルおじにカナの部屋作ってもらう様に頼んどくから)
部屋が出来るまでは、バンチの経営するロッジ・メルビンに泊まってもらう。
カナはキャンプサイトでテント泊でもいいと言ったのだが、せっかく来てくれた新しい仲間にそんな事はさせられない。
(うん。何から何までありがとう)
(そのうちカナにも仕事割り振るから。何がしたいか考えといて)
(暗殺以外に何が出来るんだろう……)
ゆっくりやりたい事を見つけてくれたらいい。
もちろんエンドレスサマーを守る為には戦ってもらうんだけど、暗殺なんてもうしなくていいんだ。
【思念通信】を使いカナと会話しているとマルチナさんとレナが乱入して来た。
「もう〜! さっきから二人で見つめ合って何してるの〜!? お姉さんドキドキして見てたぞ」
「や、やっぱり二人はそういう関係なのか!? で、出来れば私にも良い男性紹介してくれると、ありがたいんだが……」
「もう二人とも何言ってんだよ! そんなんじゃないから向こう行ってくれよ」
「照れてるところが、怪しいゾ! ごゆっくり〜」
「カナちゃん! 私は本当に誰か紹か……」
「レナちゃん、分かった分かった。邪魔になるから向こう行きましょうね〜」
はぁ……。
「うるさくてごめんな」
「ううん……モンスターも人も、いい人ばっかりだ。みんなユウタに惹かれて集まったんだよね」
「別に俺に惹かれたわけではないと思うけど」
「それでもこの場所を作り出したのはユウタでしょ? 君の優しさが溢れてるんだよ」
だ、だめだ。
カナとは二人きりで話すのは危なすぎる。
「オイオイ、タロ! オマエさっきから食べ過ぎだろ! それにジロは野菜クズばっか食べすぎ! ちゃんと焼いたの食べなさい!」
ドキドキした気持ちを誤魔化すように俺はBBQの輪に戻っていった。
こうして伯爵の書状に始まった事件は幕を閉じた。
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