第一章4 〈ダンジョンマスター〉
「マスターコアの所にはどうやって行くんだ?」
「こっちだよ〜」
グレイプニールの効果でサイズダウンした際、性格まで可愛らしくなってしまったフェンリルのタロに連れられてダンジョン最奥に向かう。
タロが気絶している間に探索した時には何も無かったが……。
「ここから転送されるんだよ〜」
すると何も無かった場所に魔法陣のような物が出現した。
「なんで? さっきまで無かったのに」
「オイラが死ぬかグレイプニールを着けるかが勝利条件だったみたいだね」
なるほど……だから気絶してる時は何も無かったのか。
仮に殺してしまっていたら、宝箱の中身は変わってたのかな?
「じゃあマスターコアの元へ行くよ〜」
タロの声と共に魔法陣が反応して、次の瞬間には景色が一変していた。
おそらく人類初の転移経験者である。
「ここがマスターコアがある場所か〜」
タロの上で羽を休めくつろぐリリルとタロもキョロキョロと興味津々のようだ。
「あれか……」
部屋の中央に青白く薄く光る球体の様な物が浮かんでいる。
俺はそれに歩み寄り、そっと触れてみた。
『ダンジョン攻略おめでとうございます。マスターの登録をしますか?』
頭の中に音声が直接響いている。
リリルとタロの様子を見る限りでは、2人には聞こえていないようだ。
俺は登録の前に質問出来るか尋ねてみた。
『マスター登録される前ですと、質問の内容によっては返答出来ない可能性もございますが構いませんか?』
了承してタロを仲間にする際に話した構想が可能かどうか聞いてみた。
『可能だと思われます。過去に行ったマスターは誰一人おりませんが』
俺はガッツポーズをして、マスター登録を行う旨をコアに伝えた。
それと音声を2人にも聞こえる様にオープンにしてもらう。
『では改めて当ダンジョンのマスターに登録なさいますか?』
もちろんイエスだ。
『登録完了。当ダンジョンのマスターにユウタ・タケハラが登録されました。これにてユウタ・タケハラは当ダンジョンの所有者兼管理者になります。マスターの権利について説明します』
ダンジョンマスターの権利は
・マスターが死亡もしくはマスターコアにて委譲の手続きをしない限り永続
・死亡した際は登録してある者に権利が委譲される
・委譲先が登録されていない場合はマスター不在のダンジョンになる
・マスターコアにて魔力を消費してダンジョンを改造できる(場合により特別な素材が必要)
・マスターコアにて魔力を消費してモンスターを召喚できる
・ダンジョンスキルを一つ選択して使用する事が出来る 選択後は変更出来ない
【不可視】外敵の侵入を防ぐためダンジョンを不可視化できる
【転移】ダンジョンが転移可能になる
【支配者】自分の持つスキルをダンジョン全体に適用可能になる(ジョブスキルは不可)
他にも細々と色々あるが、簡単に説明するとこんな感じだ。
「頭がこんがらがってきたわ」
「オイラも途中から分からんかった」
説明の次は質問タイムだ。
「何でも聞いていいの?」
『どうぞ』
「俺スキルとかよく分からんから調べれる?」
『可能です。右手をコアに触れて下さい』
促されるまま右手を置く。
『スキャンを開始します………………………え?』
「なに?」
『異常なスキル構成をしています。通常の人間族では考えられません』
「……ははは。スキルの説明も頼める?」
『了解しました』
スキャンにより判明したスキルが、
・【剣を奏でる者】剣士職の最上位ジョブスキル 剣を自在に操れる
・【上位魔導師】魔法職の上位ジョブスキル 複数属性の魔法を操る事が出来る
・【完全なる座標】マップスキルの最上位版 宝箱の罠を除く全ての情報が視認化
・【異文化交流】仲間、敵意のないモンスターと意思疎通が可能になる
・【完全なる懐柔】ダンジョンで守護者を除く一体を仲間にすることができる
・【身体強化】身体能力を強化できる
・【打撃の極意】天才的バッティングが可能になる
・【罠感知】罠を感知できる
・【四次元的なアレ】アイテムを四次元空間に収納出来る(人によりサイズの大小あり)収納されたアイテムは時間の干渉を受けない
・【真贋・解析】アイテムの真贋から性能、希少価値まで全て調べる事が出来る
・【各種属性魔法】各種属性魔法(火水雷風土光闇)が使えるようになる
・【詠唱簡略化】簡略化した詠唱で魔法を発動出来る
・【自動照準】ターゲットを自動で設定できる
・【スキル創造】スキルを統合して上位スキルやオリジナルスキルを生成する事ができる
・【黒幕】スキルの自動使用、緊急起動などサポートをする ????
これらが現在分かっている俺のスキルらしい。
なるほど……だから【完全なる懐柔】がリリル以外に使えなかったのか。
それから【黒幕】てのが例の文字と音声なんだろうけど、不穏な名前のスキルだし、効果に????あるのが気になるな。
これを聞いていたリリルとタロが目を丸くしている。
「え?基本五属性に光闇全部使えるの?超人?」
「珍しいのか?」
「珍しいどころか初めて聞いたぞ。3属性使えれば天才と呼ばれるレベルだぞ。ちなみにオイラは火・雷・風・土の四属性使える超天才だぞ」
「さすがフェンリルね……私は水と風よ。二属性使えるだけで優秀なんだから」
うんうんとタロが同意している。
しかし全属性か……神様がチートに関しては頑張ってくれたらしいな。
「話を要約すると、俺は強いって事か?」
『経験や後天的な要素を踏まえず、スキル構成だけで判断すると、人間族最強に近いのではないでしょうか?』
「え!?」
『そもそもフェンリルを単独で討伐出来る人間が何人もいないでしょう』
「そうだぞ。オイラってば強いんだからな」
今は全く威厳は無いけどな。
『マスターがダンジョン内でのみ使用出来るダンジョンスキルは選択なさいますか? 決定後は変更出来ませんので、後からでも構いませんが……』
「いや、もう決まってるよ」
「「そうなの!?」」
リリルとタロがハモッた。
ダンジョンスキルの候補を聞いた時にピンと来たのがあるんだよね。
【支配者】だ。
ダンジョンを隠せる【不可視】や、いざと言う時に逃げられる【転移】は魅力的だけど、俺が目指しているダンジョンに不可視や転移は逆効果なんだよね。
それよりも俺のスキル【異文化交流】が肝心要。
これをダンジョン全体に適用出来るってのがドンピシャ過ぎるんだよ。
「【支配者】で頼む」
「確かにユウタの目指す物を考えると他二つは無いわね」
『では【支配者】で決定します。このままダンジョンクリエイトを開始しますか?』
そうしたいのは山々なんだけど、とりあえず腹が減って死にそうなんだよね。
ダンジョンクリエイトは時間が掛かりそうだし、食料の調達をしたい。
マスターコアに近くに町か村がないか聞いてみたところ、大きめの街が30km、小さな村が5kmほど離れた所にあるらしい。
村には小さいながらアイテム換金所もあるみたいだし、近場の村に食料の調達に行く事にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うっはーー!はええーー!!」
『振り落とされるでないぞ』
オリジナルサイズに戻ったタロの背に乗り平原を駆ける。
まるで風と一体になったように感じる。
村までの片道5kmなんてあっという間に着いてしまう。
村から少し離れた所でタロを小型化して歩く事にした。
流石にフェンリルを見られるのはまずい気がするからね。
二足歩行禁止も厳命しておく。
村の入り口に着くと、何やら看板に書いてあるが字が読めない。
そう、この世界の文字が全く読めない事に、今更ながら気付いたんだ。
言葉も同じだろう……モンスターと会話が出来るから安心してしまっていた。
これでは換金所を探す事すら出来ない。
〈スキル【言語理解】をAUTOに設定します〉
うーん……何でもアリだな。
俺って願うだけで何でも出来るんじゃね?と思ってしまう。
それはさておき、言葉の心配はなくなった。
改めて看板を見てみると、『モヤの村へようこそ』とほのぼのした字で書いてあった。
「モヤの村ね……まずは換金所で現金を手に入れなきゃ」
看板を頼りにアイテム換金所に向かう。
換金に出す王冠はダンジョンの宝箱からゲットした財宝の一部だ。
あらかじめ【真贋・解析】で価値を調べたら、およそ280万チッポの価値らしい。
ちなみにチッポはこの国の通貨で1チッポが日本円で1円と思えばいいらしい。
小さい村だけに数分もしないうちに換金所は見つかり、順番待ちなどもないようだ。
「換金お願いしまーす」
「いらっしゃいませ店主のサトゥルです。よろしくお願いします。今日はどういったお品を?」
そう言われて、【四次元的なアレ】から換金に出す王冠を取り出した。
「おお!アイテムボックス持ちですか。それにピクシーと狼の子供を連れておられるのを見るにテイマーですか?」
「そんなところです。この王冠をお願いしたいんですが……」
アイテムボックスから取り出した王冠をテーブルの上に置くと、店主サトゥルの眼鏡の奥の目つきがハッキリと変わった。
「これは素晴らしい品ですね、ダンジョン産ですか?」
「ええ」
「ギルドの登録証はお持ちですか? 冒険者、商人どちらでも構いません」
「え?持ってないと換金出来ませんか? なにせ初めてなもんで……」
「いえ。登録証を持ってる者だと身元がハッキリするので盗品等を持ち込まないですからね。登録証をお持ちでないと査定が少し下がりますが構いませんか?」
大丈夫だと返事をして、サトゥルの査定を待つ。
程なくして査定結果が出た。
「登録証がないとの事でしたので、減額して手数料含めて250万チッポになります。素晴らしいお品なので是非ともお取引きさせて頂きたいのですが、申し訳ない事にこの店にそれだけの現金がないのです。なにぶん小さな村の換金所なので……分割か数日待ってもらう形になってしまうのですが……。」
減額査定して250万なら悪くない……悪くないどころか、身元の不確かな俺の持ち込みに対して足元を見ず誠実な査定をしてくれた証拠だ。
それに現金が足りない事を隠さずに話してくれるのもプラスだ。
足りないならあるだけの金額を査定結果にする輩もいるだろうに……。
なかなかこのサトゥルという店主は信用出来そうだ。
「いくらならすぐに換金できますか?」
「220万が限界です」
「じゃあそれで」
「え?」
「220万チッポで良いです。取り敢えず手元に現金が欲しいので」
「いや、そう言った訳には……分割でお支払いします」
「いやいや、またちょくちょく換金に来ると思うんで……その時も誠実に査定してもらえれば、それで」
「も、もちろん真面目に査定させて戴きます。誠実さしか取り柄がないもので……仲間からは商売が下手だとよく言われます。ですがそれとコレとは……」
この後押し問答が繰り広げられたが、サトゥルが折れ220万チッポで取り引きが成立した。
挨拶もそこそこに換金所を出ると、すぐさまリリルが話しかけてきた。
「だいぶ損したみたいだけどいいの?」
「とりあえず現金欲しかったし、高く買って貰おうと思ってたわけじゃないしね。これであの店主は俺に悪い査定は今後しないと思うぞ」
「ユウタもなかなかの策士ね」
『ユウタはこがねもちになった』
こうして現金を手に入れた俺達は、食料を購入してダンジョンに戻った。
さあ、ダンジョンクリエイト開始だ。
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