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第三章4  〈接触〉

 

「ここが領都がグライシング……」


 俺たちはおよそ半日かけて、夕方には領都まで来ていた。


 途中モヤに寄ってバルおじとサトゥルさんに領都に行く事と理由を伝えておいた。

 サトゥルさんに馬車だと一週間は掛かると言われた道を、タロの脚だと半日で来れてしまう。

 しかも乗っている俺達を気遣って全速力ではない。

 後で美味い物でも食べさせてやろう。


「すごーい」

「あんまりキョロキョロするなよ。田舎者だってバレるぞ」

「そういうタロが一番キョロキョロしてるけどな」


 俺たちの目の前には、まるで中世ヨーロッパのような街並みが広がっていて、夕焼けに照らされ余計に美しい街並みに見える。


 石畳が敷かれ整備された道。

 アルモンティアにあるほとんどの建物が三階建て止まりなのに対して、領都グライシングの建物は五、六階建ての建物が多い。

 領土を持たない下級貴族も多く住んでいるらしく、立派な建物が並んでいる。

 大通りには商店が立ち並び、屋台なども多く出店している。

 人通りの多さもこの街の治安の良さを物語っている。

 たまに見かける巡回している騎士も治安の維持に貢献しているのだろう。



「親分、まずは宿を取りますか? それとも伯爵家を見にいかれますか?」


 この領都出身で土地勘のあるギルの言葉だ。


「うーん……先ずは拠点の確保だな。伯爵の家は場所の確認だけでいいかな」


 ギルに連れられて宿屋を目指す。


 すれ違う人達の笑顔や働いている人達の活気を見ていると、レイモンド伯爵の統治が上手くいっているのがよく見て取れる。


 果たして、そんなレイモンド伯爵があんな書状を寄越すものだろうか?

 この領都から想像出来るレイモンド伯爵と、セバスの野郎が持って来た書状から連想するレイモンド伯爵のイメージが、まるで重ならない。



 ギルに連れられて、宿屋に入り部屋をとる。

 テイマーの冒険者も割といるらしくタロも部屋に連れていけるようだ。

 どうやら俺たちの部屋は三階のようだ。


「親分、アレを見て下さい、伯爵邸です。」


 ギルが窓際で指差す方を見ると、外に見える景色の中に一際大きい屋敷が見えた。

 元日本人の俺の感覚からすると、あれは屋敷ではない、()だ。


「すっごい大きなお屋敷ね〜」

「オイラはそんな事より腹が減ったぞ?」

「アレがレイモンド伯爵邸か……」


「さすが国王の懐刀の右腕の屋敷ね」

「オイラのお腹と背中がくっついちゃうぞ?」

「はえ〜、やっぱりお金ってのはある所にはあるんだなぁ」


 まあ俺の場合は金持ちになって、あんなバカでかい屋敷に住みたいわけじゃないけどな。

 エンドレスサマーを軌道に乗せて、ただひたすらノンビリゆっくりしたいだけなんだよね。



 ──コンコン。


 ドアをノックする音だ。


 咄嗟に俺とギルが身構える。

 リリルはサッと身を隠せる場所に移動する。


「どちら様ですか?」


「あ、宿の者です。犬連れの若い男の客に渡してくれと手紙を預かったのですが……」


 ……犬連れ……本当に俺の事だろうか?

 まあ、わざわざこの宿の人間に託すくらいだから、俺で間違いないんだろうけども。


 受け取った手紙を見ると封蝋に印が押してない。


 手紙を見てみると、今夜話がしたいと書いてあり、待ち合わせの店が指定してある。

 そこで食事していれば、送り主の方からコンタクトしてくれるそうだ。


「罠……ですかね?」

「罠かなぁ?」


 エンドレスサマーの外にいるので、言葉が通じないギルとリリルが同時に聞いてくる。


「あからさま過ぎじゃね?」


 俺が罠にはめる側なら、こんなやり方はしないと思う。


「オイ、タロはどう思……」


 ……。


 腹減ったコールをしていたタロを無視していたからか、タロがベッドの上で仰向けにヘソ天井で寝ている。


「本当にコイツは……」


 最近では、狼かどうかすら怪しく思える時がある。



 300kmも走って来たタロが、余りにもかわいそうになったので、少し早いが起こして夕食を食べにいく事にした。

 もちろん食事する店は、手紙に指定してあった店だ。



「しかし不思議ね」


 指定された店に向かう途中にリリルが口を開いた。


「ん? 何がだ? お腹が空くのは不思議じゃないぞ?」


「アンタの事じゃないわよ!」


「手紙だろ?」


「そう。あの手紙の送り主は、何故あの宿屋にユウタが居ることを知っていたの!? 私達数時間前に領都に着いたばかりなのよ!?」


「あ、ソッチね。なる……ソレはオイラも不思議に思っていたぞ」

「嘘ね」


 リリルが言うことは俺も気になっていた。

 エンドレスサマーのメンバー以外はバルオジとサトゥルさんしか、俺達が領都グライシングに来てる事を知らないハズなのに。


「監視がついてるのかな……」


 俺の言葉に反応したのはタロだ。


「ないないないない。尾行してる奴がいたら、オイラが一発で気付いてるよ」


「……信じていいのね?」


 リリルがジト目でタロを見るが、タロは自身満々な様子だ。



「親分、ここが手紙に指定されていた店です」


 先導していたギルがある店の前で止まった。

 その店はかなりの繁盛店で、多くの人で賑わう洋風の大衆居酒屋のような、食事も酒もどちらでもイケる店のようだ。

 店内をチラッと見てみると、商人のような雰囲気の人や、明らかに冒険者といった風貌の人、それに領都に住む一般人ぽい人も数多く見える。


 なるほど、この店なら、どんなタイプの人間が居てもさほど珍しくない。


 俺は念のため、ギルとタロのペアと、俺とリリルのペアで別々のテーブルで食事をする事にした。


 手紙の送り主が、俺の事を知っていれば俺とリリルのテーブルに接触するだろうし、俺を知らなければタロを連れたギルに接触するはず。

 それを見極めるために、敢えて別々のテーブルで食事をする。


 もちろん、タロとギルには好きなように注文してくれと言ってある。

 タロは人間の言葉が話せるから、小声で話せばコミニュケーションも問題ないだろう。

 ただ誰かが接触してきたら、【思念通信(テレパス)】で知らせてくれる様頼んである。



 席に着いて各自好きな物を注文して食べ始める。

 繁盛店なだけあって、食事はかなりうまい。

 一緒に食事をするリリルも満足な様子だ。


 横目でタロとギルのテーブルをチラッと見てみると、タロが凄まじい量の料理をガツガツと食べている。

 一緒にいるギルは完全にドン引きしている。


 そんな事よりタロよ……普通に椅子に座って人間のように食事するのはやめてくれ。

 周りの人達が、なんだこの生物は!? ってなってるよ。

 悪目立ちしちゃってるよ。


 そんなこんなで食事を始めて3、40分経った頃だろうか?

 何も無いからそろそろ帰るかと考え始めた頃だ。



 俺とリリルのテーブルの隣のテーブルに二人組が座った。


「お待たせしました」


 タロは別のテーブルにいるのに俺に接触してくるということは、手紙の送り主は、どうやら俺と分かって接触して来ているようだ。


 隣のテーブルに座った二人は、フードを目深に被り顔がよく見えない。


「それで……僕に話とは何でしょうか?」


「もちろん君に送られた書状についてだ」


「……その事を知っているって事は、レイモンド伯爵側の人間って事ですよね?」


「否定はしない」


「あなたから見てもおかしな書状だったという事ですか?」


「いや、書状の具体的な内容までは分からない。無茶苦茶な要求が書いてあると言う事だけだな、知っていたのは」


「知っていた……やはりあなたですかティルトンさん」


「……どうしてそう思う?」


「武人の気配がダダ漏れですよ」


「……敵わないな。ただ非公式な接触故、ここでは身バレする訳にはいかん。非礼なのは承知だが、フードを被ったままなのを許してくれ」


「構いませんよ。それよりも話を」


「セバスについてだ。あの執事が伯爵に仕えるようになった頃から、どうも伯爵の様子がおかしいのだ」


 ……やはりセバス……。


「噂では理想的な領主様ですもんね」


「そうなのだ。レイモンド様はとてもお優しい方で、君に送ったような無茶苦茶な書状を書くような人ではなかった。何かあったとしか思えぬ」


 やっぱり。

 どうりで書状と噂のイメージが重ならないわけだ。


「危険なのは分かっている。その上で無理を承知で頼む。レイモンド様に何があったのか調べてはくれないか?」


 俺としても書状の内容を受け入れるわけにはいかないから、反撃の糸口をここから探っていくとしますか!


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