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第二章24  〈もう大丈夫だからよ〉

 

 キメラと魔族ジグマとの戦いの後、俺とタロは新たに仲間になったナイトウルフ達とエンドレスサマーに帰っていた。


 ナイトウルフ達が仲間になってからというもの、個人が自由に買い出しなどに出かけられるようになったため、エンドレスサマーの発展は目覚ましく加速していた。


海の家カモメ、水着販売店フランソワに続きロッジ・メルビンも完成してジョルジュ、レナ、バンチの三人も引っ越して来て、エンドレスサマーもずいぶん

賑やかになりつつあった。




 〜『海の家カモメ』〜


「アイラさ〜ん、ヤキメンくださーい」


 アイラの店、海の家カモメの店内のテーブル席に座りヤキメンを頼む。


 すぐさまアイラさんがヤキメンとお冷を運んできてくれた。


「アンタ帰って来てから、本当にぼーっとしてんね」


 アイラが呆れた様に言う。

 俺は口に入ったヤキメンを慌てて飲み込んでから答える。


「なんか疲れちゃって……帰ったらノンビリ過ごすと心に誓っていたのです」


「いたのですじゃないよ。グロック達、狼チームは走り回ってんのに」



 グロック率いるナイトウルフ達は、エンドレスサマーの住人以外にも、訪れたお客を町や村まで送って行ってくれていた。

 このサービスが話題を呼び、エンドレスサマーのお客の数は一気に増えていた。


 ただそれに伴い、あちこちで黒い大型の狼が多数出没しているという目撃情報が、冒険者ギルドに多く寄せられようになってしまった。


 サトゥルさんに相談した結果、冒険者ギルドにナイトウルフ達を登録する事で、俺に使役されている狼という事にした。

 今では一目でそれと分かるように、ナイトウルフ達は登録証をぶら下げた首輪を付けている。


 それで問題が解決したように思えたけど、次の問題が発生する。


 冒険者ギルドに登録した事を、商人ギルドが文句を付けてきたのだ。

 狼による送迎が新しく商売ではないか? と言いがかりをつけて来た。

 俺はお金を貰わず無料で送迎しているのだから、商売じゃないと言ったけど、聞く耳は持ってもらえなかった。


 どうしようもなくなり、俺は商人ギルドにも俺自身とナイトウルフ達を登録するはめなった。


 俺の肩書きは冒険者としては、ベテランクラスのテイマーとして、商人ギルドでは一つ星商人として登録されている。

 冒険者ギルドの方は、ナイトウルフを12頭も従えているからベテランクラスにランクアップ。

 商人ギルドの方は一番下の格の商人だ。

 ナイトウルフにいたっては、首輪にぶら下げた登録証が二枚になってしまい、少々邪魔そうだ。


 だが、この登録証をぶら下げている限り間違って冒険者に襲われたりなんて事はないだろう。




「グロック達も楽しそうにしてるし、ナイトウルフ用に山も作ったし問題ないですよ」


 ナイトウルフ達が仲間になった事で、俺はマスコと一緒にエンドレスサマーを拡張して、拡張した部分に小高い山林を作った。


 本来、山を住処とするナイトウルフ達が、少しでも過ごしやすい様にするのと、大型の狼が何頭もうろついていたら海に遊びに来たお客が、落ち着かないだろうから両方面への配慮だ。


 この山が偶然にもアウトドア好きなお客の目につき、山間部でもテントを張りたいと言われ、山の一部分をキャンプサイトに改造した。

 こちらはこちらでキャンパー達に中々に好評だ。



「あ〜あ〜、でも残念だったなぁ……魔法の使えない人間は【思念通信(テレパス)】使えないなんて」


 アイラが言うように、マルチナさんやバルおじも【思念通信(テレパス)】が使えなかった。

パートナー契約(グッドフレンズ)】自体は適用出来たから、扱うには魔力不足と言ったところだろう。


 それを証明する様に、ジョルジュ、バンチ、レナの冒険者チームと魔法が使えるギル、トミーとは【思念通信(テレパス)】が可能だ。



 その時、突如マスコから【思念通信(テレパス)】が入った!!


(ユウタ様! 沖で女の子が溺れています!!)


 俺はガタッと立ち上がり、海へ走る。

 状況が分からないアイラさんからしたら、何が何だかと言った感じだろう。


「後でお金払います!」


 そう言いながらジロに思念を飛ばす。


(ジロ! 沖で女の子が溺れているらしい!)

(任せろ!)


 海へと全力で走っていると、視界の端でジロが海に飛び込むのが見えた。

 凄いスピードで泳ぎ、女の子の救出に向かう。


 こんな時に限ってタロはギル達とバルおじを送りに行っていて不在だし、冒険者チームもロッジに必要な者の相談にパントさんの所へ行ってしまっている。



「誰か、誰かお嬢様を……お嬢様を助けて下さい!」


 服が濡れるのも厭わず、海にザブザブと分け入るように叫ぶメイド風の女性がいた。

 マスコに似た格好だがマスコではない。

 すでに腰まで水に浸かっている。


「俺達が助けますから! このままじゃ貴方が溺れてしまいますよ!」


 いつの間にか波打ち際に、騒ぎを聞きつけた人達で人だかりが出来ていた。

 その中にいたマルチナさんとアイラさんにメイド風の女性を任せて、俺は沖に目をやる。


 沖ではジロが既に女の子の所まで辿り着いていて、何とか救助しようと何度も試みてはいるが、女の子はパニックを起こしていて上手く救助が出来ないようだ。


 ジロは救助を一旦諦め、溺れて沈んでしまわないように、海に潜り下から支える事に切り替えたようだ。



 俺はそれを確認して、すぐさま海面に魔法陣をイメージする。

 その魔法陣に魔力を流すと海面に魔法陣が浮かび上がった。


 水色に淡く光る魔力の粒子が、重力に反発して空へと昇りだす。


 心の中で、溺れる女の子を助ける事だけを思い描き召喚魔法を行使する。


「頼む! 水の眷属!」


 腰まで水に浸かった俺から魔力が放出されて、海面の魔法陣が輝きを増す!

 パシュン! と音を立てて魔法陣が消え去り、代わりに水底に巨大な影が現れた。


 ザバーーーーン!! と、風呂から水が溢れる時のように海が割れ、溺れる女の子とジロの足下から巨大亀が浮上して来た。


「ふう……成功して良かった……」


 巨大な亀が浮上した事により、その甲羅に乗る女の子とジロは海面より上にいる。

 もう溺れる心配はない。


 ジロにしがみついて泣く女の子の下に、メイド風の女性が亀の甲羅をよじ登り駆け寄って行った。



「お、お嬢様ご無事ですか!? 私が目を離してしまったばっかりに、まことに申し訳ありません!」


「え゛ーーーん……こわがったよ〜〜。助けてくれて、ありがどーー」


「もう大丈夫……もう大丈夫だぜ嬢ちゃん。ユウタが助けてくれたからよ。ほら、もう足も着いてるだろ? もう大丈夫だからよ」


 必死で泣き喚く女の子を慰めるジロに、俺は親指を立てて労う。


 グズグスしていると召喚した亀が消えていなくなってしまうから、急いで全員を岸に上がらせる。


 女の子は泣き続けているが、少し水を飲んだくらいで大した事は無さそうだ。


 後でマスコに聞いた話だと、召喚に応じて来てくれた亀は、アイランドタートルという種類の亀らしい。

 とても寿命が長く、古い個体だと数千年は生きていて、小さめな島くらいの大きさに育つそうだ。


 今回来てくれたアイランドタートルは若く小さな個体だが、それでも全長20メートルくらいはあったんじゃないかな。


 そのアイランドタートルが消える前に、助けてくれた礼を伝えておくのも忘れない。




「この度は大変ご迷惑をお掛けしました」


 メイド風の女性が申し訳無さそうに謝罪をする。


「いえいえ、大事なくて良かったです」


「お嬢様もこのダンジョンリゾートの噂を聞き、海で遊ぶ事を大変楽しみにしておられました。普段はなかなか外で遊ぶなんて出来ない身分の方なので……お忍びで遊びに来た海で、溺れてしまうなんて……」


「俺たちとしても、楽しんで貰えて嬉しいです。

 溺れさせてしまったのは、コチラの安全への配慮が足りなかったのかもしれません」


「いえ、私がついていながら目を離してしまったので……全て私の責任です。今回のお礼は改めてさせていただきますので」


 余りに礼儀を尽くされ、俺の方が恐縮してしまう。


「でも、そのお嬢様も溺れたのを忘れたみたいにジロと遊んでますよ」


「命を救われた事で心を開いておいでです。あんな子供らしいお顔をお見せになるのは、いつぶりでしょう……」


 どうやら、あの子は立場がある子みたいだな。

 普段は気を張って、子供っぽく笑ったりも出来ないんだろう。

 そういう立場なら、外で気軽に遊ぶなんてもってのほかだろうしね。


「楽しんでさえ貰えるなら、僕達はいつでも大歓迎ですよ。ぜひまた遊びに来てください」


「……お嬢様に必ず伝えておきます。それでは迎えの者がそろそろ参りますので」


 そう言ってメイド風の女性は頭を深く下げてから名乗る事も無く、お嬢様を連れて帰って行った。

 気軽に名乗る事も出来ない身分の人達か……。



 さて……魔法使ったらなんか腹減っちまったな。

 またアイラさんとこで何か食わせてもらうとするか。

 その後はのんびりと昼寝でもしてから、安全面についてマスコと相談でもするか……。



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