第二章22 〈天狼雷帝〉
キタキタキタキタ、アクアナイト……きたぁぁぁ!
かっけぇぇ、……かっけぇぇよぉ!
なんとも厨二心をくすぐる見た目してやがる。
鈍色の甲冑に大盾と刃が水で出来ている槍を持って水面に立っている。
『フレイムゴーレムか……珍しい奴がおるな。だが我の敵ではない』
轟々と音を立てて近づくフレイムゴーレムを、アクアナイトが槍で一突きして串刺しにする。
尚も暴れるフレイムゴーレムだったが、突き刺された槍から大量の水が放出され身体の内部から消火されて消え去った。
『汝に水の加護のあらん事を……』
そう言い残し、アクアナイトは霧となって消えていった。
カッコ良すぎるぜアクアナイト!
強すぎるぞアクアナイト!
ジグマと距離が離れてしまったので全力で戻ると、ジグマはタロとキメラが交戦している場所に戻って行っている。
「まさかフレイムゴーレムがやられてしまうとはねぇ……かくなる上はキメラの暗示を解いてアレをするしかないねぇ」
ジグマは呪文を唱え妖しく光る魔力を三体のキメラに放った。
「タロ! 魔族がキメラに何かしたぞ! 気を付けろ!」
「ユウタ! そんな事より変身の許可をくれ〜!!」
……しまった。
タロは通常時、グレイプニールの首輪で能力の大部分を封印された状態にある。
全解放は俺の許可なく出来ない。
許可を出す前に分かれて行動しちゃったから、タロはずっとハンデを抱えてキメラと戦っていたのだ。
「タロすま〜ん! 全力でやっちゃって!」
待ちに待った俺の許可をもらい、タロはニヤリと笑う。
「やっとまともに戦えるぞ! へ〜んしん!」
キメラの攻撃を躱しながらジャンプをしたタロの顔から変装用の布切れが宙を舞い、まるんとした何かからみるみるうちに天狼族最上位種フェンリルへと変わっていく。
『ここからは一切の遊びは無いと思え』
「まさかあのワンちゃんがフェンリルとは驚きだねぇ……だが、こちらのキメラもここからだけどねぇ」
ジグマが言う通り、キメラの様子が一変していた。
さっきまではジグマの暗示で自我が抑え込まれていた状態だったらしいが、先ほど放った呪文でどうやらその暗示を解いたみたいだ。
暗示を解く事はジグマにとってもリスクのある事のはずだ。
自我を抑え込み無理矢理テイムしていたのだから。
その抑え込まれた自我が解き放たれたのなら、キメラ達はジグマの言う事を聞く必要がないのだ。
つまり、キメラ達の気分次第で戦闘は終了する可能性さえある。
だが、戦闘は終わらなかった。
『久しいの……ティルフィングや』
『やはりお主だったか……ラーガよ』
タロとラーガと呼ばれたキメラは、何やら知り合いのようだ。
『やっと数百年前の借りを返せるわ』
『フハハハハ……魔族如きに精神支配されるとは、お主も落ちぶれたものよ。またおめおめと逃げ帰る姿が目に浮かぶわ』
『数百年前に、まだ若造だったワシに勝ったのがそんなに自慢かよティルフィングよ? いつまでもあの頃のままだと思うてくれるな』
『笑わせる……数百年前は我とてまだまだ若造であったわ』
『今のうちに散々ほざいておけ』
タロとラーガの舌戦が繰り広げられる。
どうやら、タロは大昔にラーガと戦って勝っているようだ。
『ドーサ、モーハよ行くぞ。……三位一体』
ラーガの使った魔法で、ラーガ、ドーサ、モーハの三体のキメラが合わさって、一体の巨大なキメラとなった。
「くくく……みたか! これこそ奥の手! 三体のキメラをその魂ごと一体に合成する禁術よ! フェンリルだろうが何だろが最早勝ちの目は無いねぇ」
禁術を使った事で勝利を確信したかのように、ジグマが饒舌になる。
だがタロはそんなジグマと、禁術により一体の巨大なキメラとなったラーガ達を見て大きく溜め息をついた。
『はぁ……我は一切の遊びはないと言ったであろう?』
「だから何だと言うんだろうねぇ? 禁術によりラーガの魔力が跳ね上がったのが、わからないのかねぇ?」
そのジグマの答えに、タロはまた大きく溜め息を吐いた。
『なぜ禁術を使ったくらいで我に勝てると思っているのか? このラーガとて数百年前、キメラの群れごと我に叩きのめされたというのに』
「な……群れごと? そんな嘘が通じるはず無いんだねぇ……いくらフェンリルとてキメラの群れに一体で勝てるはずが無いんだねぇ」
『ならばラーガに聞いてみるがよい……と言っても禁術で意識がグチャグチャになっているようだがな』
『が……グ……ゴァ……』
タロが言うように、禁術で一体になってからキメラは一言も言葉を話していない。
意識が混濁しているかのように呻き声をあげるばがりだ。
『昔のよしみだ……我が楽にしてやろうぞ』
そう言ってタロは雷属性の魔法を使うと、その電撃を自らの身体に流した。
『天狼雷帝』
「わ……まぶし!」
タロが自らの身体に雷属性の魔法を纏わせ、銀色の美しい毛並みが白銀の美しく輝く毛並みへと変貌する。
バチッ、バチッと帯電しているのが離れている俺からでも見てとれる。
『我が雷の牙で、せめて楽に逝くがよいラーガよ』
そう言ってタロの姿が一瞬ブレて消える。
一筋の白銀の線が視界に見えた次の瞬間、タロの倍ほどもあるラーガの体から、キメラの首が電気を纏いながら宙を舞い、胴体はその場に崩れ落ちた。
「おわ!」
首も胴体も切断面は電撃で焼かれ、一滴の血も流れていない。
まさに一瞬で切断されたのだ。
『古き宿敵よ……個を失って生きるより、せめて安らかに眠れ』
一瞬で葬ったのは、タロのせめてもの優しさなんだろう。
最後にラーガを見る目が、ひどく寂しそうに見えた。
「バ……バカな……我が禁術で合成して強大になったキメラが一撃で……」
『強大だと!? 馬鹿を言うでない…オマエがした事は個を奪い尊厳を踏みにじり、ただ図体をデカくしたに過ぎんわ……ユウタ!!』
俺はその声がする寸前に駆け出していた。
神様にもらったチートな身体能力を全開にして走り出していた。
タロのようにラーガと面識があったわけではないけど、命を弄ぶジグマが許せなかった。
一瞬でジグマとの距離を詰めてエクスカリバルを振り下ろす!
ジグマは杖で防ごうとするがガギン!! と甲高い音と共に杖を両断してジグマをも袈裟斬りにする。
「ぐあぁぁぁ……だが死ぬわけにはいかないねぇ」
俺の一撃は杖で防がれた分だけ浅かった。
もう一撃と思い胴体を横薙ぎにしようとした瞬間、ジグマの身体が魔法陣の中に消えてき、エクスカリバルは空を切る。
「な!?」
『逃げられた、転移の魔法だ。奴め……切り札を隠しておったか……チッ』
俺はエクスカリバルを鞘にしまいながら、タロの下に向かう。
タロの身体が白銀から銀色に戻り帯電していた電気が霧散する。
「タロ、埋葬してあげよう」
そう言って俺は土魔法で大きな穴を掘り、ラーガの身体と頭部を埋葬した。
埋葬を終わらせて、タロがデフォルメサイズになる。
「ユウタ、ありがとうな」
「別に大した事じゃないさ。なんかキメラも利用されていたみたいだったしな」
「……うん……府に落ちない所もあるし、あの魔族を逃がしたのは痛かった。あの手の奴は懲りずにまた悪さするからな」
「……だな。とにかく一旦グロック達のところに戻るか」
「うん。次は逃がさないぞ」
俺とタロはラーガを埋葬した場所に手を合わせてから、グロック達ナイトウルフのところに戻ることにした。
「バイバイ、ラーガ」
タロが小さな声で呟いたのを、俺は聞こえないフリをして歩いた。
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