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第二章18  〈同胞召喚〉

 

「オラぁ、キリキリ働け! キリキリと!!」


 現場責任者ジロの声がエンドレスサマーに響く。


「トミー!! 誰が休んで良いって言ったぁぁ!」


「少し……少し休ませてくれよジロの兄貴」

「トミー、もう少しで休憩だからよ……歯ぁ食いしばれや」


 そのギルの言葉にジロがニヤリと笑う。



エンドレスサマーに着いて、二人のお目付役としてジロをつけたのだが、これがなかなかウマが合ったというか、根っからの親分気質と子分気質と言うか、俺様なジロにギルとトミーの二人がバッチリハマったというわけだ。


 で、兄貴と慕われるジロが二人がサボらないように監督をしている。


「トミー! 水分だけはしっかり摂れよ」


「あ、あざすジロの兄貴!」


「ギル。お前はもう少し休み休みやれ。この暑さじゃ保たねえぞ」


「兄貴、心配には及びません。敵だった俺達を、行くあてもなく野垂れ死に寸前だった俺達の、傷を治して拾ってくれたユウタ親分の為に俺は出来る事は全部やりてーんだ」


 だが、親分と呼ぶのだけは勘弁してもらいたい。



 そんなギルとトミーがエンドレスサマーに来て、早くも二ヶ月が経とうとしていた。


 その間エンドレスサマーも次々と景色を変えていっていた。


 アイラさんとマルチナさんが引っ越してきて、『海の家カモメ』と、更衣室兼水着販売店『マリンブルー』が完成してオープンしていた。


 もちろんアイラさん達の住居も完成している。


 今はと言うと、バルおじに来てもらい、宿泊施設『ロッジ・メルビン』の建設に向けて基礎を作っているところだ。

 そのバルおじの手足となって働いているのが、ギルとトミーというわけだ。



 そして、この『ロッジ・メルビン』の亭主にバンチの就任が決定していた。

 レナの強い推薦があったのだ。

 料理良し気配り良しと、彼の高レベルなお母さん力なら、上手に対応してくれると思う。


 バンチが就任するイコール、バンチはジョルジュのパーティーを抜ける事になる。

 ジョルジュは新メンバーを募集せずパーティーを解散して、レナと共にジョルジュを手伝うと申し出たのだ。

 俺もバンチもすぐさま賛成したが、ジョルジュはアイラさんの近くに居たかっただけかもしれない。

 まあ動機はどうあれ、エンドレスサマーが賑わう事はいい事だ。



 ロッジが完成するまで、ジュルジュ達は宣伝班を続けてくれる事になり、最近ではその噂を聞いて初めて訪れる冒険者も増えたが、半信半疑で来ていた冒険者も人間が多くいることもあって割とすぐに警戒を解いて海で遊んで行くことも増えた。


 サトゥルさんやパントさんも宣伝に貢献してくれていて、最寄りのモヤの村からの客も少なくはない。


 帰り際に「冒険者以外にも宣伝しとくよ」「また来るね」こう言ってもらえるのが何よりも嬉しい。

 少しずつ……少しずつではあるけど、リゾートとしてエンドレスサマーが回り始めていた。





「ユウターー!!」


 上半身水着で下は短パンとサンダルの完全リゾート仕様のアイラさんだ。

 ジョルジュが見たら鼻血を出して倒れてしまいかねない格好だ。


「仕入れお願い出来る?」


 アイラさんから必要な物をメモしたら紙を貰う。


「だけどアレだね、やっぱり早いとこ商人雇うか何かしないと不便だね」


 確かに俺が仕入れに走れる時はいいが、エンドレスサマーに居ないこともある俺が仕入れ担当では、不自由な時が生じてしまうだろう。


「う〜ん……モヤでサトゥルさんに相談してみます」


 波打ち際でヤドカリをつついて遊んでいたタロとリリルを呼び、モヤを目指す。



 モヤでは仕入れを手早く済ませ、サトゥルさんの店に向かう。


「こんにちは〜」


 店に入るとサトゥルさんが笑顔で出迎えてくれ、リリルがサトゥルさんの頭の上に乗りに行く。

 エンドレスサマーでサトゥルさんを匿って以来、サトゥルさんは俺の仲間達ととても仲良くしてくれている。


 サトゥルさんと言えば、エンドレスサマーにギルとトミーを置く事にも嫌な顔一つせず同意してくれた。

 本当に出来た人だ。

 ゆくゆくはサトゥルさんにも、ぜひエンドレスサマーに居を構えて欲しいものである。


「換金ですか?」


 笑顔で訊ねるサトゥルさんに、申し訳ないといった顔で返す。


「すみません。換金じゃなくて、仕入れを定期的に担当してくれる商人を紹介してもらえないかな……と、思いまして……」


「定期的に……ですか……」


 腕を組み、右手で顎を触りながら考えている様子だ。


「申し訳ありません。心当たりがないです」


「そう……ですか」


「ユウタさんが望む商人とは、発注した品を青果店などで購入して運搬してくれる者を指して言っていますよね?」


 俺が同意するとサトゥルさんは続ける。


「普通お店を持つ者ならば、自分で商品を仕入れるか

、自分で作った物を売るかの二択です。店と店の間に入って手間賃だけを取る商人は聞いた事が有りません。ノーリスクで儲けが得られる新しい商売かもしれませんが、物価の上昇を招くでしょうし、何より商人ギルドが許可しないでしょう」


 どうやらサトゥルさんの話では、この世界には中間業者が居ないみたいだ。

 それはそれで確かに物価の上昇は抑えらているのだろう。


「チャンスがあるとすれば、商人ギルドに新しい商売として認めさせ運営を商人ギルドにさせることですが……それはそれで現実的だとは思えません」


 じゃあ暫くは不便だけど、俺が仕入れに走り回るしかないか……アイラさんにもそういう約束で来てもらったわけだし。


 俺とサトゥルの会話を聞いていたタロが、徐に口を開いた。


「みんなが好き好きに仕入れに行けばいいんじゃないのか?」


「あのなぁタロ。みんながみんな自分の身を守れるわけじゃないの。いちいち護衛を雇ってられないだろ? それに歩いてたら時間がかかって仕方ないじゃん」


 そんな俺にタロは、不思議そうな顔を崩さない。


「だから、アシがあればいいんだぞ。しかも戦えるアシがな」


「そんな都合のいいアシないから困ってんの!」


「ユウタは相変わらずバカだな。オイラを誰だと思ってんだ?」


「……まるんとして二足歩行する謎の狼タロ」


「噛むぞ! オイラは天狼族最上位種フェンリルだぞ! 狼族なら大抵が言う事を聞くんだぞ!」


「……という事は?」


「オイラの仲間に馬代わりをさせれば問題ナッシン! 走れて戦える最強のアシだぞ」


 お、おお……普段は忘れがちだけど、たしかにエンドレスサマーのダンジョンでも、タロが守護者だったから狼系のモンスターは多く出て来てたな。


「確かにそれが叶うなら願ってもないけど……どうすればいいんだ?」


「なぁに、オイラが来いと言えば一発だぞ」


「違うアプローチで問題が解決しそうですね」


「相談に来ておいて、勝手に解決しちゃってすみません……」


「いえいえ」


 サトゥルさんに別れを告げて、エンドレスサマーに急いで戻る。

 みんなに相談して、了承を得られたら早速タロに仲間を呼んでもらうとしよう。




 話し合いの結果、皆が仕入れなどで自由に往来出来た方が良いと決まりタロに数頭の仲間を呼んで貰う事になった。


「犬ころの仲間が増えるのか……考えただけで蕁麻疹が出そうだぜ」

「そんな事言ったらダメなんだぞ! ジロちゃんには私がいるんだぞ!」

「ええい! ベタベタ触るんじゃねえ、マルチナ!」

「兄貴! 兄貴には俺とギルの兄貴がついてますぜ!」

「そうだぜジロの兄貴」


 ジロを兄貴と慕うギルとトミーに、ジロは大きくため息を漏らす。


「むさ苦しいったらないぜ」


 そんな悪態をつきながらも、まんざらでもなさそうだ。



『ダンジョンのモンスター召喚が使えれば簡単に解決するのですが……生憎、モンスター召喚で喚び出したモンスターはダンジョンを出られないので……』


 マスコが言うには、ダンジョンマスターの権限で行う、モンスター召喚で召喚したモンスターは、あくまでもマスターとダンジョン自体が持つ魔力で喚び出しているので、ダンジョンの外に出てしまうと強制帰還が働いてしまうらしい。



「ここはタロに任せてみましょ」


 リリルは楽しそうだ。

 あの顔は絶対何かあると確信している顔だ。

 まあ、でもリリルの言う通りだ。

 タロに任せてみるしかないからね。



「オッシ! じゃあそろそろ始めるぞ!」


 タロの前に召喚の魔法陣が浮かぶ。

 魔力の粒子が淡い光を放ち、重力に逆らい空へと向かう。


「オイラのお仲間出ておいで〜!」


 魔法陣が強い光を放ったが、その魔法陣から何かが召喚される事はなかった。



「…………アレ?」



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