第二章17 〈二人組2〉
「タロ!」
『わかっておる』
俺がタロに命じると、タロも分かっていたとばかりに方向を変えた。
一息の間に、倒れている二人組の傍まで移動する。
『ユウタ、コヤツらは愚かにも我に挑んできた二人組ではないか? 名は確か……』
「Gとトミーだね」
『うむ……そんな名だったな。それにしても何故こんな所で倒れておるのだ? この辺りは大した魔物も居らぬいうのに』
まあ、何となく察しはつくけど、一応本人達に聞いてみた方がいいだろうね。
ええと……回復魔法は……俺使った事ないな。
タロが使えるかな?
「タ……」
〈現在、水属性、風属性、土属性、光属性の回復魔法が使用可能です〉
例の声が使用可能な回復魔法を教えてくれる。
これもしかしたら質問にも答えてくれるんじゃないの?
その中で一番回復の程度が弱い魔法は?
〈風魔法リシェラです〉
風魔法リシェラね。
ていうか、会話が成立したよ。
使い方はいつも通り、いつの間にか理解している。
ジョブスキル【上位魔導師】のおかげだろうか。
『治してやるのか?』
「……知らない顔でもないしね」
『お人好しが過ぎるぞ』
俺は倒れた二人に右手を伸ばし、回復魔法を使う。
「風魔法リシェラ」
右手の先に柔らかく風が集まり、淡い緑の光とともに2人の傷を癒していく。
『ほう……リシェラか……絶妙だ。この魔法ならば癒しすぎる事もあるまい』
見る見るうちに、2人の傷が回復していく。
完全に折れてしまっている骨がヒビ程度まで回復し、内蔵の損傷も生命活動に支障がない程度に治る。
その他、擦り傷や切り傷など、小さい傷は完全に治っていった。
「う……く……」
「い……いてぇ」
リシェラで最低限の回復をした二人が目を覚ました。
「おーい……大丈夫かぁ!?」
「……ここ……は?」
「俺……生きて……!?」
やがて意識がハッキリして来たのだろう、覗き込む顔が俺とタロだと理解すると、二人は絶叫してまた気絶してしまった。
それもそのはず、目を覚ましてフェンリルが自分の顔を覗き込んでいたら、大抵の人間が気絶してしまうだろう。
俺はタロにデフォルメサイズになるよう促す。
そして改めて2人を起こすべく、水魔法で少量の水を作り出し、顔にぶっ掛けてやった。
「ぶはぁっ!」
「つめた!」
「よ! 大丈夫か!? 手酷くやられてたみたいだったけど」
「まあお前ら弱いからな。仕方ないぞ」
ようやっと俺たちに気付いたGとトミーが敵意を剥き出しにして戦闘態勢に移ろうとするが、風魔法リシェラではそこまでの傷と体力が回復しておらず、そのまま座り込んでしまった。
「チッ……好きにしろ」
「お前らの……お前らのせいで兄貴はなあ……!!」
「やめねえかトミー! もう終わった事だ」
立ち上がることも出来ず、掴んだ土を投げつけようとしたトミーをGが静止する。
「何があったんだ?」
「オイラが相談に乗ってやろうか」
俺とタロの言葉にGとトミーの2人は苦虫を噛み潰したような顔をして、少し押し黙ってからポツリと漏らした。
「オヤッサンだ……」
「オヤッサンて言うと、セルジオか?」
「俺と兄貴は、オヤッサンからの任務をこなせなかっただけじゃなく、アルファベット部隊が全滅した責任を押し付けられたんだ。全部、オマエらのせいなんだよ!」
……なるほど。
サトゥルさんに対する嫌がらせを全う出来ず、しかも俺にセルジオが黒幕だと吐いてしまったから。
自慢のアルファベット部隊も、乗り込んできた俺とタロに潰されてしまったんじゃ、誰かに責任を押し付けたくなるのも無理はないか。
そして責任を全て押し付けられて、ボコボコにされて追い出されたってところか。
「兄貴はなぁ……Gを剥奪されちまったんだぞ!」
「やめろトミー」
トミーが目に涙を浮かべながら必死に抗議している。
「……」
「……それ、何か大変な事なのか?」
ダメだよタロ〜。
それは言っちゃダメだよ〜。
いや、俺もそう思ったよ?
Gの称号剥奪されたから何?
セルジオの所追い出されたから何?
そう思ったけどさ、2人が真剣に話してるのに、「だからどうした?」これは言っちゃダメだよ〜。
「大変に決まってるだろ! もうオヤッサンの所には帰れないんだぞ!」
「……だから?」
「住む場所も、何もかも、無くなっちまったんだぞ!」
「その辺にしとけトミー」
「でも兄貴……」
トミーはGに睨まれて、やっと静かになった。
「一つ聞いていいか?」
「……何だ?」
「Gを剥奪されたんなら、今オマエは何なんだ?」
タロ〜。
俺も気になってたけどさぁ……空気読んで行こうよ〜。
まあ、その空気の読めなさがタロの良いところでもあるんだけどさ。
「俺は今も昔もギルだ」
「そうかギルか。Gよりカッコイイぞ」
ギルだからGなのか、たまたまGだったのか、どうでもいい事なのに気になってしまう。
でも確かにGよりかギルの方がカッコイイし、よっぽど似合った名前だと思う。
「これからどうするの?」
「……ケッ。アテなんかないからな……野垂れ死ぬまで歩くか、トミーと2人で野盗でもやるかな」
「兄貴〜……」
「オマエらに野盗は無理だぞ。弱いからな」
「タロ……お座り!」
俺の言葉に反応して、タロがサッとお座りをする。
「2人さえ良ければだけど、俺達の所に来ない?」
「……お前たちの所? 何かの組織か?」
「バカヤロー! 何で俺達が追い出された原因のオマエらの所に行かなきゃイケナイんだよ!」
「少し黙ってろ」
「──!? す、すいやせん」
「組織ってのとは少し違うけど、そのうち人手が足りなくなりそうでね」
現時点では何もないが、この先アイラさんの店や酒場なんか出来てきて、エンドレスサマーに滞在する客が増えて来たら、トラブルなんかも起きてくるだろうし、人手が足りなくなる事もあるだろう。
人間の何でも屋みたいな人がいた方が都合が良いはず。
それをこの2人にやってもらおうと思うんだけど……。
俺はギルとトミーの2人にエンドレスサマーの事を説明して、その上で改めて勧誘をする。
「どうかな?」
「……敵だった俺たちを信用出来るのか?」
「別に俺達って敵だったわけじゃないでしょ? 立場が違っただけで……勿論サトゥルさんにした事は許さないけど、それだってセルジオに命令されてたわけだしね」
「……もしかしたら、お前らを潰す為に潜入しようとしてるのかもしれねーぞ?」
「そうだそうだ!」
「オマエらでは無理だぞ。弱いからな」
「強い弱いは抜きにして、セルジオがエンドレスサマーのことを知ってるとは思えないよ。残念ながらそこまで有名では無いはず……」
「これから有名になってく予定なんだぞ!」
ギルは少しの間目を閉じ考えてから、少しだけ元気を取り戻したような声で
「まずは見てからだ」
そう答えた。
「兄貴、本当にこんな奴らの所で厄介になるんですかい?」
トミーが俺とタロに聞こえないように、ヒソヒソと内緒話をするように、ギルの耳元で話す。
「適当に信用させてから、そのまま乗っ取っちまえばいいんだよ」
「さ、さすがギルの兄貴だ! そんなとこまで考えてたなんて」
「バカやろう……お前が考え無し過ぎるだけだ」
二人はニヤニヤしながらヒソヒソと内緒話を続けているけど、全部聴こえているからね?
神様にもらったチート能力で耳も良くなってるから。
俺に聞こえてるってことは、狼のタロにも聞こえてるだろうしね。
「オマエら丸聞こえだぞ。内緒話なら数キロは離れてした方がいいぞ」
「残念ですけど、俺にも聞こえてました」
「この化け物共が!」
「それにオマエらが裏切っても何の問題もないぞ。弱いからな」
「チクショウ!」
「じゃあ一度見てもらいますか。タロ!」
「へ〜んしん! とう!」
『乗れ……』
「フェ、フェンリル……ゴクリ」
「ひ、ひぃぃぃ」
あれ?
タロがフェンリルって分かって話してたんじゃないのか?
普通に会話してたし。
「バカヤロー! 怖いもんは怖いんだよ!」
ああ、そういう……。
そうしてもう一度、風魔法リシェラで回復させる。
恐る恐るといった感じでタロに乗り込んだ二人を、エンドレスサマーに連れて行く。
ジロ……お前に部下のお土産だ!