第二章 閑話
サトゥルがエンドレスサマーに匿われている時の話です
ユウタを乗せたタロが、モヤの村に向かって消えて行った。
さて、どうしたものかしら?
……このサトゥルとか言う人間を匿う事自体は別に構わないんだけど、何を話して待てばいいの?
今まではアイテムの査定を待ってる間とかもタロの上かユウタの肩に留まってるだけだったしね。
初対面みたいなものだわ。
だって、エンドレスサマー以外じゃユウタ以外の人間と話せないし、人間の言葉を話せるタロですら、人前では喋るなっていわれてるのに。
あーん、ユウタ〜早く帰って来て〜。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユウタと犬コロが行ったか。
さて……ユウタ不在のエンドレスサマーを、代理とは言え守護している俺様だ……この真っ青な顔をしている人間のフォローもしてやらないとな。
だがユウタも無責任な野郎だぜ。
幾ら顔見知りのリリルがいるって言ったって、人間が一人も居ない空間に放り込んでいくんだからよ。
そりゃあ顔も青ざめるってもんだ。
だが安心しな兄ちゃん……この俺様が守護している限り、誰が来ても兄ちゃんには指一本触れさせやしないぜ?
この水陸両用の俺様に死角はない!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日もユウタ様はタロ様に乗って走っていかれました。
いつもと違う事があるとすれば、このサトゥル様をエンドレスサマーで匿ってくれと仰っていかれた事です。
当ダンジョンのマスターコアの私としては、マスターであるユウタ様の命令は絶対です。
何があってもサトゥル様の命を最優先に行動します。
おや?
サトゥル様は緊張しておられるのでしょうか?
顔色がどうも優れません。
エンドレスサマーのキリリと冷えた湧き水を飲んでもらってはどうでしょうか……幾分心が落ち着くかもしれません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユウタさーん!
お気持ちはすっごくありがたいです!
すっごくありがたいんですが、私は今、不安で不安で仕方ありません!
日陰に座らせていただいてますが、とにかく暑いのもしんどいです。
それに説明は受けて、言葉が通じるとは分かっていても、モンスターはモンスターでしょ!?
本当に襲って来ない保証なんて、どこにもないじゃないですか!?
気のせいかもですが、さっきから全員が私の事をチラチラ見ている気がするのですが……私食べられたりしませんよね!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヨシ!
勇気を出して声を掛けてみよう。
多分私が一番警戒されていないはず。
こんな小さく可憐な私を邪険にしたりはしないはず。
大丈夫、自信を持つのよリリル。
ユウタの客人に、いつまでもこんな怯えた目をさせていてはダメ。
ほら、さっきからチラチラと見てくるけど、決して目は合わそうとしないじゃない。
話し始めたら意外と何とかなるものよ。
さあ、リリル……勇気を振り絞って! いくわよ!
「あの……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
水の精霊ウンディーネ様、一の家臣の俺が、たかが一人の人間を前に何二の足踏んでるんだ。
こんなんじゃウンディーネ様に顔向けできねーぞ。
俺をエンドレスサマーに送り出す時に、ウンディーネ様が言ってたじゃねーか。
『ジラルディーノ。貴方の愛くるしい瞳と、警戒心を抱かせないその愛嬌で、皆様と仲良くするんですよ。貴方なら大丈夫……この私が保証します』てな。
大丈夫だ、漢ジラルディーノ。
怖気付くことは何もない。
なーに、相手も人間とは言え男だ。
この俺様の黒く輝く武器に興味が湧かないはずがない。
男だったら誰だって一度は、カッコイイ武器に憧れたりするもんよ。
さっきから何度かチラチラ見ている気がするしな。
話しに困ったらコイツを見せつけてやればいい。
ヨシ……!
「あの……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しかし困りました。
いくらエンドレスサマーの湧き水がキリリと冷えて美味しいと言っても、急にこの場を離れるのはどうなのでしょうか?
一言断ってから、席を離れれば良いのかも知れませんが、今はその一言を発することすら憚られる雰囲気。
それに先程から、サトゥル様の私を見る目に恐怖の感情がこもっているように感じます。
そんな状況で私がイキナリ動いたら、どうなるか予測がまるで出来ません。
ですがそのサトゥル様に落ち着いてもらう為には、湧き水が必要……ああ、これがジレンマ。
初めての感情に私自信驚きを隠せませんが、これで私はまた一つ成長した事になります。
そう……今なら一言断ってから席を立つ事も可能でしょう。
『あの……』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
せっかく……せっかくユウタさんが私の身を案じ、このダンジョンに匿ってくれたのに、その間、一言も喋らないでは失礼ですよね。
ユウタさんの言葉を信じれば、攻撃される事は無いとの事ですし……。
そして、もしかしなくても私の人生で、モンスターの中に人間は私一人というシチュエーションは、二度と体験する事は出来ないでしょう。
プロの鑑定士として見聞を広げる為にも、ここはコミュニケーションを取るべきではないのでしょうか?
ええい……ままよ!
「あの……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『「「「あの……」」」』
全員が全く同じタイミングで会話を切り出そうとした。
そのあまりのタイミングの重なりっぷりに、全員が目を合わせあ互いの面をくらった顔に、笑いが自然と込み上げてきた。
「キャハハハハ」
「ワッハッハッハ」
『ウフフフフ』
「あ〜はっはっは……ひぃ……ひぃ……おっかしいですね〜」
全員の緊張が一気に解れた瞬間だった。
ここからサトゥルと皆んなが打ち解けるのに、さして時間は必要としなかった。
マスコが自慢の湧き水を汲んで来たかと思えば、リリルはカチ割りレモンゴを自慢するかの様に持って来て、それを食べ終わるとジロの武器自慢が始まり、それから逃げるようにサトゥルが海に飛び込む。
「海で泳ぐのって、こんなに気持ちいいんですね〜。湖や川でしか泳いだ事なかったんで……でもしょっぱいわ〜」
「バカやろサトゥル! このしょっぱさがいいんじゃねーか」
「私は水に浸からないけど、空中から水魔法で遊んであげるわ」
『みなさん、とても楽しそうですね。これがユウタ様が思い描くダンジョンリゾート……これからまだまだ盛り上げてみせます』
「魚も、沢山泳いでいていいですね。わたしもこんな所でノンビリ店やれたらな……煩わしい事に巻き込まれないで済むのかな」
「おいおいサトゥル! 何があったか詳しくは知らね〜けどよ! ユウタの野郎が任せとけって言って出たったんだ。もう問題は解決したようなもんよ」
「あらジロ。ユウタの事そんなに信頼してるの?」
「アイツは曲がりなりにもウンディーネ様から縁を繋がれるほどの男だぞ? 人間同士の問題なんて一捻りだろ」
「まあ、最終的に力比べになれば100パー勝ちね」
「え? ユウタさんてそんなに怖い人なんですか?」
「怖くはねーよ」
「ただ強さの次元が無茶苦茶なだけ」
『それでこそのダンジョンマスターですよ』
「そうだったんだ……私、知らずに失礼していないでしょうか?」
「アイツはそんな事気にしねーだろ」
「そうそう……遊んで待ってればいいのよ」
『心配せずともすぐに帰ってきます』
「そうですか……分かりました。私の覚悟も決まりました。せっかくリゾートに来ているんだから楽しみます!」
「オッシャその意気だぜ!」
そうしてユウタとタロが帰るまで、遊んで親睦を深めた面々であった。




