第二章10 〈タロ頭巾〉
モヤに戻った俺とタロは、早速二人組を見張る事にした。
あの二人組が、セルジオにどういう依頼を受けているかは分からないが、二人しかいないんだから24時間ずっと店を見張っているなんて事はないはずだ。
恐らく夜になって暗くなったら宿屋なりなんなりに帰るはず。
そこが俺たちの狙いどころだ。
「な〜ユウタ〜」
「あん?」
「夜仕掛けるならさ〜」
「なんだよ」
「顔を隠す頭巾的な物がいるんじゃないの?」
「……いるな」
「だよね〜良かった〜」
俺はタロに見張りを頼み、急いでバルおじの作業場に向かった。
「バルおじー!」
サトゥルさんの事を心配していたバルおじに事情を全て話し、反撃のために顔を隠す頭巾が欲しいから、布が売っている店を教えてもらう。
「サトゥルの事頼んだぞ」
必ず助けると約束してから、教えられた店に入る。
そこで出来るだけ濃い紺色の布を購入した。
買った布をショルダーバッグに押し込み急いでタロの下に戻る。
「動きは?」
「今のところないぞ。頭巾は買えたか?」
「頭巾はないけど布買ってきた」
「よし。あんパンとミルクは?」
「は?」
「ユウタは気が利かないな。張り込みって言ったらあんパンとミルクでしょ?」
オマエはその知識をどこで仕入れたんだ。
「買ってきてねーよ」
「マジかよ〜」
「マジだよ!」
「張り込む覚悟が足りないぞ!」
「別に張り込みが目的じゃねーよ」
「使えないなぁユウタは」
──ゴンッ!
「痛っ!」
調子に乗りまくるタロにゲンコツを一発喰らわせておいた。
途中バルおじが様子を見に来てくれて、パンとミルクを差し入れてくれるという奇跡が起きた。
「さすがバルおじ。ユウタとは違うな」
──ゴツン!!
もう一発ゲンコツを喰らわせておく。
日が沈み辺りが暗くなった頃、例の二人がついに動き出した。
宿屋かなんかに泊まっているのかと思っていたけど、2人はそのまま村を出て焚き火を始めた。
まさか野宿だとは……。
だが野宿なのは、こっちには好都合だ。
タロの顔を、忍者のように布を巻いて隠す。
そして俺も布を巻いて誰だが分からないようにしておく。
今日は満月だから、月明かりだけでも十分明るい。
月明かりの下で、顔を隠して気配を断っていると、自分が本当に忍者になった気がしてくるから不思議だ。
是非とも、満月をバックにシルエットだけ浮かび上がった状態で、登場して格好をつけたい。
それには……あの岩場から登場するのが良い塩梅かな。
俺たちは音を立てないように岩場に登る。
ここなら奴らから見たら、満月を背にした格好いい忍者の登場シーンの様に、シルエットだけ浮かび上がれるはずだ。
「タロ。念のために言っておくけど、アイツらが誰に依頼されたか吐かせなきゃいけないんだからな。分かってるよな? やり過ぎるなよ?」
「ノープロノープロ」
く……ノープロブレムだと?
コイツのまるんとした横顔を見る限りでは、絶対分かってない。
絶対適当に返事してやがる。
本当に頼むぞ?
問題が大きくなったらサトゥルさんに迷惑が掛かるんだからな。
「そろそろ動くか?」
「まだだぞ」
「……何待ち?」
「ユウタは本当にバカだな。風待ちに決まってるぞ」
風?
「風が吹いてないと、頭巾の結び目がバタバタなびかないでしょ?」
「……確かに」
だが少し待ってみても風は吹かない。
「ユウタ……風を頼む」
「頼むってどうやってよ」
「ユウタは風魔法使えるでしょ」
「それ俺がやったら、俺はシルエットバタバタ出来ないじゃん」
「それもやむなし」
「テメエ……」
腑に落ちないが仕方ない。
俺は奴らから見えないような位置に移動する。
そして威力を相当落とした風魔法をタロにぶつける。
タロの頭巾の結んで余った布が良い感じにバタバタなびいている。
タロも乗り気だしお膳立てしてやるか。
野宿で焚き火を囲む二人組が、こちらに気付ける様ワザと音を立てる。
二人組がこちらに気付いたタイミングでタロにGOサインを出した。
「天知る、地知る、タロぞ知る……お前の悪事を知っている……怪傑タロ頭巾参上!!」
満月を背景にシルエットで登場したタロが一生懸命格好をつける。
きっと正義の味方にでもなったつもりなんだろう。
だがタロよ……タロって言っちゃダメだよ〜、何のために変装してんだよお前は!
「何だお前はコラァ! 降りてこいやぁ!」
「問答無用で攻撃してやれば良いんだよトミー。野盗だろうが何だろうが、チョッカイ出す相手を間違えたな」
「すいやせんジーの兄貴!」
「やれ!」
「へい! 土魔法イシツブテ!」
「それを俺が加速させる……風魔法ブラスト!」
どうでもいいけど、アイツらジーとトミーって名前だったのか。
しかもまさかの2人ともども魔法職とは……子分のトミーなんて、どっからどう見てもナイフかハンドアクスが武器っぽいじゃん、頭空っぽそうじゃん、夢詰め込んでそうじゃん。
だけど、この程度の相手ならタロ一人に任しても問題ないだろ。
「この程度の魔法、タロ頭巾にかかれば避けるまでもないぞ!」
おお! 自信タップリだ!
狙いにくそうではあるけど、あのまるんとした小さい体でも耐久力はそれなりにあるのかな?
「イテ! イテテテテ!」
「痛いんかい」
「もう怒ったぞ!」
本当にタロは馬鹿だな〜。
避けるまでもないとか格好つけて、自爆して勝手に怒ってりゃ世話ないわ。
「本当の土魔法ってのをお見舞いしてやるぞ! 土魔法イシツブテ!!」
トミーと同じ土魔法イシツブテだけど、石一つ一つの大きさが全然違う。
トミーのイシツブテは小石程度。
それに比べてタロのイシツブテは一つがバレーボール位大きい。
これ当たったら即死じゃね!?
「タロ! 待っ……」
タロを止めようとした瞬間にイシツブテは放たれてしまった。
ドドドドドド……。
ジーとトミーが居た場所が土煙で何も見えなくなっている。
「やり過ぎるなって言っただろ!」
「安心しろ……峰打ちだ」
「石飛ばす魔法の何をどうしたら峰打ちになるんだよ!?」
「見ればわかるぞ! 行くぞ!」
土煙が薄くなるのを待って、タロが先に岩場から飛び降りる。
日本にいた頃の俺だったら、確実に飛び降りられない高さの岩場から、何の躊躇もなく飛び降り、軽やかに着地する。
神様ありがとう〜! たまにしか実感しないけど、運動能力上がってるのマジサンキューです!
星空に神様がサムズアップしてる姿が浮かんだ気がしたが、気のせいだろう。
タロに続いてジーとトミーの2人の所に着くと、タロのイシツブテは見事に2人の足元の土をドーナツ状に抉り取って、2人が逃げられないようにしていた。
「これ2人が動いてたらヤバかったんじゃ……」
「オイラがそんなミスするわけないぞ」
「それに2人の向こう側はどうやって削ったんだよ? 角度的に無理じゃね?」
「企業秘密だぞ」
「く……」
なんて生意気なタロだ。
しかし今はそんな事よりも2人の雇い主を吐かせる方が先決だ。
トミーの方は腰を抜かして尻餅をついているが、ジーは流石に兄貴分なだけあって片膝をつくに留めている。
さて、どうにかしてコイツらの雇い主を吐かせないといけないな。
っても、どうせファンタジー版越後屋なんだろうけどね。