第二章9 〈二人組〉
「なーなーユウタ〜、サトゥルのお店やってないよ?」
「ん〜……本当にやってないなぁ」
アイテムの換金を頼みたかったのに、お店が営業していないのは困るな。
それにバルおじが言っていた、問題を抱えていそうってのも、あながち的外れでもないのかもしれないな。
一応ノックだけしてみるか。
コンコンコン……。
……コンコンコン。
「サトゥルさーん! ユウタですけど〜……」
しばらく待ってみたが返事がない。
「留守か……心配だけど、仕方ないから帰るかタロ」
「だな」
そう言って俺たちが立ち去ろうとした時、ふいに誰かに呼び止められた。
「おい兄ちゃん。ここの店主の知り合いか?」
俺に声をかけて来たのは、紳士を装っているが目つきの悪い男と、いかにもガラの悪いゴロツキといった感じのテンプレ通りの二人組みだ。
「……」
サトゥルさんは本当にトラブルに巻き込まれているのかもしれない。
ここはただの客を装って情報を聞き出した方が賢明かな。
「おめー兄貴が聞いてるだろ? 答えろや!」
「オイ、やめねーか。お兄さんが怖がってんだろ」
「す、すいやせん」
「で? お兄さんは店主の知り合いかい?」
「いえ、路銀が寂しくなってきたので、アイテムの換金で偶然寄っただけですけど」
「そうかい……悪い事言わねーから、ここの店で換金するのはやめときな」
「え? 何故ですか?」
「ここの店主は人の客を横から掠め取る悪人だからだよ!」
「お前は黙ってろ! だが、まあそういう事だ。ルールを破って、あるお方の客を掠め取った悪人なのさ。で、不義理を働いた奴に制裁をって事で、俺たちみたいなのが雇われてるのさ」
あのサトゥルさんが不義理? ルール違反?
にわかには信じられないな。
これは裏をとる必要があるな。
「お兄さん、俺たちみたいなのに絡まれてるのに嫌に冷静だな」
「大物気取ってんじゃねえぞコラァ!!」
「ヒィィ……勘弁して下さい。本当は怖くて怖くて仕方ないんです。もう行きますから許してください」
「いや、怖がらせて悪かったな。店主の行方を知らないんならいいんだ」
「で……では……」
急に下手な演技をしてしまったけど、怪しまれなくって良かった。
次からはもう少し上手に芝居しないとな。
〈スキル【演技】を有効にします〉
オイ〜、遅いよ……いや、上手く演じなきゃと思ったからスキルが出たのか?
イマイチよく分からん。
スキル【操作盤】で確認すると、確かに【演技】がオンになっている。
ふむ……やはりよく分からん。
まあ、スキルの事は置いといて、何とか情報を集めなければ。
「オイラがさっきの奴ら噛んでやれば、色々吐くと思うぞ?」
いやいや……万が一アイツらの言い分の方が正しかった場合に、それでは困っちゃうからね……俺もサトゥルさんも。
「ならどうすんだ?」
「何とかサトゥルさんに会わないと……」
離れた所から見ていたら、二人組も諦めたのかどこかに去って行った。
もう一度お店をノックしてみるか……。
二人組がいないことを確認してから、サトゥルさんの店に近づく。
そしてノックをしようとしたら、ゆっくりと静かにドアが開いた。
「サトゥルさん!」
俺が声を掛けると、サトゥルさんは人差し指を口に当て静かにするよう促してきた。
そして店の中に手招きされ、俺とタロが入るとすぐさまドアを閉め鍵を掛け奥の部屋へと案内される。
「ここなら大丈夫です」
「ふぅ……サトゥルさん大丈夫ですか? さっきの奴らは……何があったか話してもらえませんか?」
サトゥルさんはとても申し訳なさそうに切り出した。
「ユウタさんに前回交換に出していただいた、道具箱と金杯があったでしょう? それを私が横取りしたとアルモンティアの換金所の店主に言われまして……」
アンモンティアのアイテム換金所……ファンタジー版越後屋セルジオか!
「確かに初めはアルモンティアで換金に出しましたけど、店主の横柄な態度が嫌で取引せずに帰って、サトゥルさんにお願いしたのに」
「セルジオさんにそう文句を言われてから、店の周りをガラの悪い二人組がうろつくようになりまして……店に入ろうとするお客にある事ない事言って追い返してしまうようになったんです」
「そんな……酷すぎる」
「その内身の危険を感じるようになりまして……それで店を閉めて隠れていたんです」
そんな……俺があの悪徳店主にサトゥルさんの店で換金してもらうって言ってしまったばっかりに、サトゥルさんに迷惑をかけてしまった。
この責任は俺が取らなくちゃ。
「すみません。俺が下手な事言ってしまったせいで、サトゥルさんに迷惑かけてしまって……全て俺の責任です。俺が何とかしますので、それまで安全な場所で隠れていて下さい」
「そんな……お客様であるユウタさんに迷惑を掛ける訳には……」
「いえ、迷惑なら俺が掛けてしまったんで責任とらせてください。それにこの店が万が一無くなってしまったら、俺も困りますから」
取り敢えず、サトゥルさんに万が一があっちゃダメだから、エンドレスサマーに避難してもらおう。
「タロ、俺が2人組を引きつけるからサトゥルさんと村の外で待っててくれ」
「まかせとけ!」
「うわぁ! 犬が喋った!」
サトゥルさん……驚くのも無理ないけど、そんな大声出したら見つかりますよ。
俺はサトゥルさんにタロがフェンリルである事や話せる事、そしてエンドレスサマーに避難してもらう事を説明した。
「フェ…フェ…フェンリル……」
「大丈夫! サトゥルは噛まないぞ」
「か……か……噛む……」
「こらタロ! サトゥルさんをあまりからかうな」
「メンゴ!」
「じゃあ、俺は先に出て奴らを引きつけるんで、タロと2人で村の外で待っていてください」
「わ、わかりました」
俺は二人より一足先に裏口から外に出た。
少し店から離れてから表に回ると、やはりあの二人組が店を見張っていた。
「あの〜」
「なんだ、さっきのお兄さんか。どうした?」
「さっき向こうで換金所の店主が隠れるように歩いてました」
「なんだと〜? 嘘じゃねえだろうなコラァ!」
「オマエは黙ってろ! 堅気のお兄さんに凄んでんじゃねえ! 情報ありがとうよ。その辺りまで案内頼めるか?」
「勿論です。こっちですよ」
そう言って俺は2人組をサトゥルさんの店から離すのに成功した。
スキル【演技】が少しは役に立ったのかな?
歩きながらサトゥルさんの店の方を軽く窺うと、タロが無事にサトゥルさんを連れ出してるのが見えた。
「この辺で人目を気にしながら歩いてるのが見えたんです」
十分店から距離をとれたから、適当な場所を二人組に教えた。
「ありがとな、お兄さん」
「いえ……では俺はこれで」
俺はその足で村の外で待つタロとサトゥルさんと合流してエンドレスさまーに向かう。
もちろんタロがオリジナルサイズのフェンリルに戻ったときに、サトゥルさんが驚きの余り足腰が立たなくなったのは言うまでもない。
エンドレスサマーに着いて、マスコとリリル、ジロに事情を話してサトゥルさんを匿ってもらう。
ここにいる限りは万が一にも二人組やセルジオに見つかる事はないだろう。
「マスコ、リリル、サトゥルさんを頼んだぞ」
「俺様には頼まね〜のかよ!」
「ジロは戦力の要だろ!? お前が全員を守るんだぞ」
「お、おう……素直に頼まれると恥ずいな」
『では行くぞユウタ。我らの仲間に手を出した事を後悔させてやろう』
へえ……タロ的にもサトゥルさんは仲間サイドの人間なんだな。
「ユウタさん、本当に無理しないで下さいね。これでユウタさんが怪我でもしたら私は……」
「大丈夫ですよ。全て片付けて帰ってくるんで、リリル達と待っていてください。決してサトゥルさんに危害を加える奴らじゃないんで」
「そうよ。私達と海で遊んで待ってましょ」
「それじゃあ行ってくる。行くぞタロ! 反撃開始だ!」
全然リゾート経営やリゾートでノンビリ出来てなくて申し訳ありません