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第二章3  〈なんだオマエは!?〉

 

「アレか……」


 アルモンティアを出て次の日の朝、俺たちはついに目的のダンジョンを視界に捉えていた。

 目に見える部分は小高い山程度でそんなに大きくはない。それに、見る限りは俺たちの他には冒険者いなさそうだ……これはツイてるぞ。


 ダンジョンから溢れたモンスターがいないとも限らないから全方位に気を配りながら進む。


 ……ゴクリ……嫌に喉が乾きやがる。

 こういう時は決まって想定もしていない様な事が起こるんだ。

 これはスナイパーとしての経験に裏打ちされた勘だ。



 とうとうダンジョンの目の前までやって来た。


「まずは無いと噂の入り口を探しましょう」


 レナに言われ出入り口らしきものを探すが見当たらない。

 こちら側にははないみたいだ。

 幸いに、見える部分はそんなに大きなダンジョンではないから外周に沿ってグルッと周ってみる。

 スタート地点を間違えないように、地面に印をつけておくのも忘れない。

 もし一周しても見つからないようなら、違うアプローチも考えなくてはならないが……。




「ね……ねえ……アレ……入り口……でも……アレ見て!」


 レナの震える指が差す方を見る。

 バンチが夢でも見てるのかと勘違いしたのだろう、自分の頬をつねっている。

 俺もバンチのその気持ちはすぐ分かった……レナの指差す方には、確かに入り口らしき洞窟があったんだ。

 だけどその洞窟の上に看板の様な物が掲げられいる。



『ダンジョンリゾート・エンドレスサマー』



 ちょっと何を言っているのか分からない。

 ここはダンジョンなんだよな!?

 ダンジョンリゾート!?

 ダンジョンなの? リゾートなの!? 

 どっかの店みたいに看板掲げちゃってるよ。

 これにはレナもバンチも目を丸くしている。


「ねえ……アレの意味分かる……?」


「ははは……ちょっと分からないです。ジョルジュは分かる?」


「俺に聞くなよ……分かるわけないだろ。これは……ちょっと作戦会議でも……するか?」

「そうね……」

「お茶、淹れるよ……」


 ダンジョンの入り口と思しき場所の上に、デカデカと看板が掲げられていると言う想定外の出来事に、俺たちは現実逃避した。


 バンチがテキパキと燃えそうな乾いた木の枝を集めて、レナが魔法で火を付ける。

 湯を沸かしお茶が入る頃には、少しは冷静になれていた。



「ふぅ……今日も今日とて茶が美味い」

「バンチの淹れるお茶最高。とても外で淹れたとは思えないわ」

「へへ……ありがとね」


 しかし()()は一体何なんだ……食堂や酒場みたいに、ダンジョンはここにありますってアピールでもしてんのか?

 それならアルモンティア側にも看板を付けるべきだろう……入り口は裏側ですってな! 

 ……イヤイヤそういう事じゃない。

 とにかくあの看板付きダンジョンに入るかどうかだ。



「俺は入ってみるべきだと思うけど……ジョルジュはどう思う?」

「……罠の可能性は?」

「罠なら、あんな堂々と看板掲げないでしょ。逆に攻略されてる可能性が高くなったけどね」

「すでにマスターがいるってことか? で、ソイツが看板を掲げたと? どこに自分のダンジョン目立たせるバカなマスターがいるんだよ!?」

「あそこにいるのかもね」

「まあまあ2人とも……まだ攻略されてるって決まったわけじゃないから」


 確かにまだ攻略されたと決まったわけじゃない……だがモッカのパーティーの話では、看板の事なんか噂にはなっていなかった。

 レナが聞いたというジョージ達も同じだろう。

 誰かが看板に気付いていたのなら、何よりも看板が話題になるはず。


「でも無いって噂の入口に、無かったはずの看板なんて付いてたら、明らかに誰かの手が加わってるわよね!? それがダンジョンを攻略したマスターかどうかは別として……」

「仮にマスターだとしたら人間の可能性が!?」

「可能性はあるな。だが人間の言葉を操る高位のモンスターだっているからな……効率良く人間をおびき寄せる為に看板を付けたとも考えられる」

「逆に警戒するよね!?」

「普通に考えればな」


 考えれば考えるほど理解が及ばない。

 ダンジョンの入口に看板があるなんて聞いたことがない。

 いや、冒険者の憧れの地ダンジョン都市デロリアンならばあるのかもしれないが……。



 重苦しい雰囲気を打開したのはバンチの一言だ。


「看板に驚いて二の足踏んじゃったけど、俺たちはハナから踏破を目指してたわけじゃないじゃん!? 入るだけ入ってみて適当にお宝取って帰る……で、よくない?」

「そ……そうね。危険だったらすぐ撤退すればいいんだし……」


 俺としてみたら、手付かずのダンジョンはギリギリまで挑戦してみたかったのだが……仕方ない。



「よし……行くぞ!」


 バンチが火に砂をかけて消火するのを待ってから、ダンジョンに向かう事にした。



「レナ……頼む」


 いつものように、レンジャースキルを持つレナを先行させる。


「やだな〜」


 ウダウダ言ってないで早く行け。


「何かあってもすぐ防御出来る様に俺が先行するよ」

「バンチありがとう〜」


 もうどっちでもいいから早く行ってくれマジで。


「バンチは勇気あるわね。それに比べて……」

「……」


 何とでも言え。

 俺はこんな得体の知れないダンジョンに一番乗りする気はない。

 そんな事が出来るのは、頭お花畑か脳味噌まで筋肉で出来ている奴だけだろう。




「じゃあ……入るよ」


 ……ゴクリ。

 バンチがついに洞窟に足を踏み入れた。

 続いてレナと俺も入る。


「ちょっとジョルジュ、押さないでよ」

「……すまん」


 押してはない……不安なだけだ。



 洞窟に入ってからと言うもの、何もない長い通路が続いていた。

 地下に通じる階段どころか、罠の一つもないしモンスターの一匹も出てこない。

 ただ通路が続いているだけだ。



「2人とも! 出口っぽい明かりが見えてきた」


 バンチの言う通り一本道の通路の先に明かりが見えた。


「何か……生暖かい風が吹いてくるね」

「それに何て言うか……風が生臭い!?」

「気を付けろ……モンスターのテリトリーが近いのかもしれん」


 バンチが改めて大盾を構え直す。

 レナが剣と魔法の両方で対応出来るような位置どりをする。

 そして俺は一歩引いて、愛弓ジークフリートに矢を番える。

 そして一歩ずつ確かに通路の出口に近づいて行った。



 そして……ついに通路から光差す出口へと辿り着いた。




「なんぞこれは?」

「な……何なのここ!?」

「お……落ち着け! 敵襲に備えろ!」


 そこはダンジョン内部だというのに、暑い程の太陽が照りつける場所だった。

 白い砂地が続き、頬を撫でる生暖かい風。

 そしてなんといってもあまりにも()()()()だ。

 なるほどこの湖の生臭さが、風の生臭さなのか。



 全員が緊張に体を強張らせ、武器を構えたまま動けないでいた。

 それも仕方がない……初挑戦のダンジョンで未体験の事態に遭遇しているのだ。

 ……そんな中でも、全員が現状把握のため五感をフルに使い情報を集めている、その時だった!




「いっせ〜の〜で……」


『「「「いらっしゃいませ! エンドレスサマーへようこそ!!」」」』



 ────!?

 な、なんだ!?


「どうもどうも! 常夏のダンジョン・リゾート、エンドレスサマーへようこそ! 初めてのお客さんだから、俺たちも緊張してますが是非楽しんで行って下さい」


「こ…来ないで!」

「気をつけろ! モンスターもいるぞ!!」

「な…なんだオマエは!?」


「なんだオマエはってか? ……そうです、私がダンジョンマスターです!!」



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