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第一章9  〈それで? どこに付けるんだ?〉

 

「俺様のワラ買い忘れるなんて信じられない奴らだぜ」



 アルモンティアでワラを買い忘れたので、ジロにネチネチ怒られている。


「後で村行って買ってくるからさ。いい加減許してくれよ」


 今日はモヤのバルガスさんに頼んだ看板を受け取りに行く日だ。

 ワラを必ず買うと伝えて、何とか許してもらう。



 マスコにはマルチナさんの店で買った西洋人形を渡してある。

 土人形の身体から、西洋人形の身体に乗り換えてマスコ・スペシャルとバージョンアップされ、かなりのご機嫌な様子だ。


『この身体ならば、エンドレスサマーがオープンしても上手くやっていけそうです』


 ……俺からしたら西洋人形が動いて喋るのは、かなりホラーなんだけど、そっと胸にしまっておいた。



「そうそう言い忘れてたけど、マスコがこのダンジョンのマスターコアである事は、俺とリリルとタロ、ジロの間だけの秘密だからな。うっかり口外しないでくれよ」

「それもそうね。マスターコアが目の前にあったら悪さする奴がいてもおかしくないからね」

「オイラは大丈夫だぞ! マスコとは友達だからな!」

「俺様もわざわざリスクを冒さねーよ。それよりもワラ忘れんなよ!」


『皆さん本当にありがとうございます。マスターコアの私を、本当の仲間のように扱ってくださり、本物の命を手に入れたように錯覚してしまいます』


 よく考えてみれば、マスコって何なんだろうな。

 ダンジョンのマスターコアに搭載されてるAIみたいな存在なんだろうけど、エンドレスサマーの経営に積極的に関わってくれているし。

 本来はダンジョンマスターをサポートするだけの存在だろうに。

 いや……ダンジョンマスターである俺の方向性がおかしいから必死にサポートしてくれてるのか?

 よく分からんくなってきたな……まあ、何はともあれマスコは俺たちの大事な仲間である事は間違いない。

 だからこそ早く、よりリアルな身体をプレゼントしてあげたいと思う。



 そうそう、マスコからの報告で知ったんだけど、このエンドレスサマーに冒険者と思われる人達がちょくちょく来ているらしいんだ。

 現在は入り口すぐのところで行き止まりにしてあるから、すぐ諦めて帰って行っているらしいけど、生まれたてのダンジョンを攻略しようと集まって来ているみたいだ。


 残念だけど、その生まれたのダンジョンは攻略済みの上に、常夏のリゾート・エンドレスサマーに改造されちゃってるんだけどね。

 ダンジョンとしての機能はほぼ無いから財宝を狙ったりは出来ないけど、日々の疲れを癒してもらう事は出来るはずだ。

 その為ますま看板を受け取りに行こう!


「じゃあ、マスコ、ジロ留守番よろしく」

「ワラ忘れるんじゃねーぞ!」

「しつこいわね〜」

「しつこいネズミは嫌われるぞ!」

「お前ら撃たれて〜のか? ああん!?」



 ジロに魔力弾を撃たれる前に出発しよう。

 タロに命じて元の身体に戻ってもらい背中にリリルとともに乗り込む。


『振り落とされるでないぞ』


 普段のミニサイズのタロとのギャップに笑いが込み上げる。

 今となってはミニサイズのまるんとしたモフモフのタロのが付き合いが長いから、フルサイズのタロの性格にどうしても違和感を感じちゃうんだけど。



 フェンリルとしての本来の姿になったタロは本当に速い。

 風を切り裂くように銀髪をなびかせ走るフェンリルは、さすが神話に謳われる存在なだけあると思うほど美しいはずだ。

 モヤの村くらいの距離なら本当にすぐに着いてしまう。


 到着したらタロをまたミニサイズに戻してから村に入る。

 いつ見てもグレイプニールで小さくなるタロは、何故デフォルメされて性格まで変わってしまうのか不思議でならない。


「ん? なんだ? オイラの顔になんかついてる?」


 笑えるからいいけど。




 先ず最初にサトゥルの店に行き、約束のアイテムと680万チッポを交換する。


「いつも素晴らしい取り引きをありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」


 サトゥルは、アルモンティアのセルジオとは違いとても腰が低く好感が持てる男だ。

 自分の商売が、客がアイテムを持ち込んでくれて初めて成り立つ商売だと理解しているんだろうな。

 ほっといても客が来る町ように人が多い場所では、セルジオの殿様商売でも成り立つのだろうが。


 サトゥルに別れを告げ、バルガスの元へ急ぐ。

 日本にいた時のネット通販なんかもそうだったけど、注文した物が手元に届く日ってのは、何でこんなに気持ちが逸るのだろう。




「おう! 兄ちゃん! 出来てるぜ!」


 バルガスさんの作業場を訪ねると、バカでかい看板が横たわっていた。

 その脇にはビーチチェアーとビーチベッドが数セット並べてある。


 横たわるその看板には『ダンジョンリゾート・エンドレスサマー』とデカデカと書かれ、ヤシの木や波まで南国風味タップリに書かれていて、ビーチチェアーやベッドは真っ白に塗られ、コチラも雰囲気バッチリだ。


「スッゲェーーーー! 想像以上です!!」

「常夏のリゾートにピッタリね」

「デッケーー!」

「連れのピクシーと狼も気に入ってくれてるみたいだな」

「ええ。凄く気に入ったみたいです」


 バルガスさんは俺と違って、リリルやタロと会話できないから雰囲気で察してくれているみたいだ。

 それにしても、バルガスさんに発注して大正解だったよ。

 こんなに良い看板に仕上がるとは思っていなかった。


「さすがの俺も、こんなにデカい看板作ったの初めてだったから楽しめたぜ」

「あとはこれを取り付ければ完成です」

「それだよそれ! お前この看板どこにどうやって付けるつもりなんだ?」



 ……やば。

 取り付ける事一つも考えてなかった。

 持ち帰るのは【四次元的なアレ(アイテムポケット)】でいいとして、これ俺に取り付けられるか?


「か〜、どうせそんな事だろうと思ったよ。取り付けの事は考えてなかったんだろ?」

「……はい」

「仕方ね〜から、サービスでおれが付けてやるよ。どこ行きゃいいんだ!?」

「え!? マジすか!?」

「こんなデカイ看板付ける場所ってのを見てみたいしな!」


 ニカッと白い歯を見せて笑うバルガスさん……アンタ男前だよ!


「じゃあ、サッと残りの用事を済ませてくるので準備して待っててくれますか? 一緒に行きましょう!」


 そう言ってバルガスさんに残金の50万チッポを払ってから看板とビーチチェアーとベッドを【四次元的なアレ(アイテムポケット)】に仕舞い、急いで木彫り細工職人のパントの店に向かう。



「お待ちしておりました。50個完成してますよ。物見本一つ付けておきますね」

「ありがとうございます」

「……ワラとかって、ないですよね?」


 物は試しとパントにワラがないか聞いてみた。


「ワラですか? ロバの小屋に敷くワラでしたらありますけど……」

「少し譲っていただけませんか? もちろんお金は払いますので」

「構いませんよ。私も貰ったワラなんでお金は結構ですよ」


 そう言って裏にワラを取りに行ってくれた。

 ジロよ……約束は守ったぞ。

 パントには支払いが済んでいるから、商品が入った木箱とワラを【四次元的なアレ(アイテムポケット)】に仕舞う。


「また何かありましたらお気軽にご相談ください」

「はい! そうさせてもらいます! ワラも助かりました!」


 笑顔で手を振るパントに別れを告げて、バルガスさんの元へ急いで戻ると、バルガスさんの準備は出来ているようで、道具箱を足下に置き材木に腰掛けタバコをふかしていた。



 村の外まで一緒に歩いて行き、驚かないように念を押してから、タロに元の大きさに戻ってもらう。

 さすがのバルガスさんも、目を見開き口を大きく開けたまま固まっている。


「実はフェンリルなんです」

「フェ……フェンリルだと〜!?」

「驚きますよね」

「驚くに決まってんだろ!? フェンリルをテイムするなんてお前何者なんだよ!?」


『バカ者……我はテイムなどされてはおらん……コヤツが面白そうな事をしておるので付き合ってやっておるだけだ』


「しゃ……しゃべっ……」


『我ほどになれば人間の言葉を操るなど造作も無い。人間の言葉を話すモンスターは他にもそこそこおるぞ? まあ、敢えて使わない奴がほとんどであろうがな』


「へ〜、そうなんだ」

「はあぁぁ……とんでもね〜奴からの仕事受けちまった……こりゃ看板付ける場所もとんでもね〜場所なんだろうな……」


『さあ……乗れ。我に乗れる事を光栄に思うが良い。振り落とされぬ様しっかりと掴まっておけよ』


 バルガスとリリルとタロの背に乗り銀色に輝く毛を掴む。

 タロが走りだし徐々にスピードを上げる。

 タロに乗るのが初めてなバルガスさんは必死になって掴まっている。

 フェンリルの背に乗っているという有り得ない事実も、必死になってしまう原因の一つなんだろうな。

 想像した事もないだろうからね。




「し……死ぬかと思ったわ」


 エンドレスサマーの外に着いたバルガスさんの一言目だ。


「オイラに乗れた幸運を末代まで語っていいんだぞ」

「……オメエ、本当にさっきのフェンリルか!? どんいう仕組みしてんだよ」


 言葉は通じていないが、見た目がまるんと小さくなったタロにバルガスさんが洩らした。

 ご尤もだよバルガスさん……俺だって未だに笑えるんだからね。


「それで? どこに付けるんだ?」

「あそこなんですけど……」


 そう言って俺はエンドレスサマーの入り口の上を指差した。


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