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9話 犯人は主人公

 深夜、村中が寝静まった頃。俺は静かにベットを出て、集会所がある村の真ん中の広場に忍び足で向かった。

 深夜に忍び足でコソコソ動く今の俺は、誰がどう見ても明らかに不審者である。ただ俺にはやらないといけないことがあった。人目のある昼には出来ないことだ。


 広場にある集会所の直ぐ側にたっている、大樹の根元を掘りはじめる。


 ゲーム時の世界、つまり500年前には、真ん中の広場に集会所なんて建っていなかった。そしてこの大樹……この大樹はゲーム当時でも存在し、この大樹のそばには序盤のゲームをぐっと楽にする、あるアイテムが埋められていた。

 ちなみにゲーム内だと様々なアイテムやゴールドを求めて人の家のタンスやらツボやらを家人の目の前で漁っていたものだが、こんな現実のような世界でそんなことができるはずがない。できるのはこうして地面に埋まっていたアイテムを、人目につかないように掘り出すくらいだ。


 (うおぉおお〜〜〜!! あった!! あったぁ!!!)


 目的のものが袋に入って埋まっていた。すごいな、500年前のはずなのに残ってるんだな。


 ギィイイ……


 (……!!)


 袋の中身を確認しようとしたところで、木の扉を開ける音がかすかに聞こえる。


 (誰か起きたか!?)


 急いで袋を持ち、近くの家の影に隠れる。

 と同時に聞こえる、聞き覚えのある野太い叫び声。


「おい!!! いるのはわかってんだぞ!!!!!」


 (……ッ!!!!!)


「みんな!! 起きろ!!! 武器がある男は武器を持て!!」


 マルセルが大声で村中に呼びかける。


 (ヤバいっ!!!!!!!)


 村中がざわついている気配がするなか、足音を立てないように慎重に移動し、部屋まで戻ることに成功する。

 泥だらけの服をすぐ脱ぎ、マルセルの妻ナターリアが用意してくれた寝間着に着替える。

 着替えが終わった瞬間、


 ドンドンドンッ!


 ドアを激しく叩かれる。


「おい、ツバサ!! 今すぐ広場まで来い!!」


 マルセルの怒声が聞こえる。


「な、何かあったんですか?」

「話は村の奴らの前でする。いいからさっさとついてこい」

「…………」


 吊るし上げられるのかな俺……。

 集会所に着くと、武装した村の男たちが大樹のそばに集まっていた。雰囲気がヤバい、ピリピリしてる。

 広場につくと、マルセルの演説が始まった。


「犯人の想像はついている……。こんな事をする奴は1匹しかいねえ!!」


 ビクッ


 (あー、終わった)


 一息ついて、マルセルが叫ぶ。


「犯人はワイルドピッグだ! 収穫物を盗みに来たに違いねえ!!」


 (…………は?)


「土を掘り返してあるのが動かぬ証拠だ! ワイルドピッグはレベルは低いが魔物は魔物だ! 大人でも殺されることはよくある! いいか! 武器を持ってないやつは日が出るまでは無闇に外に出るな! 絶対に子供は家から出すなよ! 家族にもこの指示を徹底しろ!」


 村人に一通りの指示を出した後、マルセルは俺の方を向いてこう言った。


「ツバサ、すまんがお前にも手伝ってもらうことになる。ギルド規約に、ギルドメンバーは緊急時の作戦に参加する義務があってな。俺とお前、村人の男は夜通し見張りをすることになる」


 周りを見渡すと、眠そうに目をこする村人のみなさん。

 なんだろうすっごい心が痛む……。




 ***



「おにーちゃん! おはよー! もうお昼だよ〜!」


 目を覚ますと、マリアが俺の上に乗っかっていた。


 そうだった、疲れ切ってアイテムの確認をする前に寝落ちしてしまったんだ。

 結局あの後、日が出るまで見張りを続けた。存在しない敵を警戒するほど不毛なことはないが、『実は掘ったのは僕でした☆テヘ』なんて言えるはずもない。マルセルや村人には申し訳ないことをしたな……。


「お父さんが、お兄ちゃんが目を覚ましたら受付に来るようにって言ってたよ!」


 伝えたいことだけ伝えて、マリアは走り去っていった。

 まだ眠いが顔を洗って、身支度を整えてマルセルのもとに向かう。


「お、起きたか。おはようツバサ」


 全然眠そうな素振りを見せないマルセル。元冒険者だから夜通しの見張りは慣れているんだろうか。


「昨日はすまなかったな。迷惑をかけたから今日の分の宿泊費とメシ代はタダで良い。依頼は受けなくてもいいからゆっくり安め。あと昨日の見張りは緊急依頼という扱いになる。報酬ももちろん出すから安心しろ」

「いえ、そんな……受け取れません」


 心が痛む。むしろこっちがお金を払いたいくらいだ。


「何でだ?」

「村人の皆さんは無報酬で夜通し見張りをしていたわけですし、俺だけ貰うというのも気が引けるというか……」

「村人はこの村に住んでいるんだから、自分たちで自衛するのは当たり前だろ」

「いやでも……」

「駄目だ。依頼を受けて、報酬を貰う。これが冒険者の原則だ。依頼をかけたのに報酬を支払わないなんてことをしたら、冒険者ギルドのシステムが成り立たなくなるだろ」


 そういってマルセルはゴールドが入っている袋を手渡してきた。普段貰う報酬よりズッシリしている気がする。これは俺の罪悪感の重さなのだろうか。


 断り続けるのも不自然なので、受け取ることにした。


 さてさて、では部屋に戻って例のブツを確認をするとするか……。



お読みいただきありがとうございます。


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