8話 悟り人
あの後ノルマであるもう1件の依頼を終え、疲れ果てた俺は夕食もそこそこにベッドに倒れ込んだ。
ボーッと天井を見つめながら、今後の事を考える。
まあまずは生活を安定させる事からだな。金が無くて餓死なんてことになったらしゃれにならん。
当面の冒険者生活だが、魔法使いという職がセットされていたので、戦闘職としてはひとまず安心だ。しょっぱな生産職だと1人で冒険者なんて出来ないからな。
目指せるのであれば上級職の複数マスターを目指したい。今魔法使いなら、当面の目標は魔法使いの2次職である魔導師だな。
しかし、今日朝食を作っている時にダンテに言われた言葉がひっかかる。
――魔導師なんて言葉よく知っているね。おとぎ話で知ったのかい?
この国の最後の魔導師は魔導師ノア様、カインのご先祖様だね――
あれはどういう意味だったのだろう。500年後の世界には魔導師が存在しないのか? 魔導師は2次職であり、上級職ですらない。転職はイシュタール山の大聖堂で行うはずだが、あそこは今どうなっているんだろう。
やはりこの世界の現状を知る必要があるな。
今後の職業についてぼんやりと考えていると、ふとある職業の事を思い出した。
(……悟り人はあるのかな)
『悟り人』
この職業は、おそらくゲーム開発者の誰かが冗談で入れたのであろう、無茶苦茶な職業だ。あまりに巧妙に隠されていたため、発売後12年経ってからやっと発見された。
他の職業のほぼ全ての魔法やスキルを習得できる上、悟り人固有の超強力魔法やスキルもあるという規格外の職業であり、バグ探し仲間の間では「ぼくのかんがえたさいきょうのしょくぎょう」と揶揄されている。
悟り人しか使えない魔法やスキルはとても強力だから、この世界で生きていくならぜひ覚えたい。
例えば転移魔法。魔力の消費だけで転移魔法の発動が可能になる。
このゲームでは、一瞬で転移する方法は基本的には無い。転移ルーンという例外もあるが、転移ルーンは『イベント時に妖精王から渡され、ボス攻略後に火山ダンジョンが噴火で崩れるから転移ルーンを使用して脱出する』というイベント固有のアイテムだった。妖精族の秘術という設定であり、1度使うと割れて使用できなくなるためそのイベント以外では登場しなかった。
ちなみに唯一の例外、精霊召喚魔法だけは悟り人で覚えられなかった。設定し忘れたんだろうか……。
(……とりあえず魔法使いのまま、レベルアップだな)
上級職がこの時代に存在するのかわからないから、今の時点で考えても時間の無駄だと思考を切り替える。
今差し迫った問題は、現段階のレベルがわからないということだ。
もしかしたらレベル1かもしれないな。ウォーターやサンダーなど、魔法使いのレベルが上がると覚えられる魔法を試していけば、発動した魔法からレベルを逆算できるかもしれない。
マルセルが王都のギルドの魔水晶だったらステータスもわかるって言ってたな……。
しかしゲームだったらステータスはボタン押せばその場で確認できるのに不便だな。
(……っていうか出来ないのか?)
心のなかで念じてみる。
(……ステータス)
****************
名前 :ツバサ
種族 :ヒューマン
職業 :魔法使い
レベル:1
体力 :16
魔力 :22
攻撃力:1
守備力:2
俊敏性:2
魔練度:6
****************
「うおっ」
目の前にステータス表らしきものが現れた。すごいな。
「……やっぱりレベル1か」
まあ予想通りだな。ステータスも普通の魔法使いの平凡なステータスだ。
しかしマルセルが王都のギルドの魔水晶を使えばステータスが見れると言っていたということは、逆に考えるとこの世界の人は俺みたいなステータス表示のさせ方はできないということか。
う〜ん、これは人には言わないほうが良さそうだな……。
とにかくレベル上げだ。
最低でもレベル10はないと何かあった時に即死しそうで怖い。
今ところパーティを組むつもりもないし、魔法使いが一人で行動するなら防御力を上げないと……
ガバッ
思わず飛び起きてしまう勢いで、あることを思い出した。そうか、ファンデ村、ファンデ村にいるのか。もしこの世界でもあのバグを使えるなら、守備力の心配をする必要が無くなるな……。
***
その日の深夜、俺はある計画を実行することにした。
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