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6話 ニートは転職していた

「しかし本当に良いのかね?」

「何が?」

「ツバサだよ」

「ああ」

「わ、私も心配です」

「あの村に残って冒険者になるなんてね……」

「……」


 ***


「んじゃとりあえずこれに記入してくれ。さっき歩きながら話したとおり、ここは出張所で本登録は出来ないから、仮登録のF級という扱いになる。だからギルドライセンスも仮のものだ。ここから近いところだと、王都かリーベッグのギルドに行けば本登録できるからな」


 ダンテたちに、一緒に王都まで行こうと誘われたが断ることにした。

 ダンテたちは王都で討伐隊の募集をかけたらすぐファンデ村まで戻るみたいだしな。知り合いもいない、戦闘も出来ない、金も身分証もないという状態で王都のような都会に行ってもホームレスまっしぐらだ。どうせなら田舎でもう少しこの世界に慣れてから大きな街に移りたい。

 手っ取り早く全てが手に入りそうなのが冒険者だったので、俺もギルドに登録することにした。

 それに、少し試してみたいこともある。


「文字は書けるか? 名前、年齢、性別、種族、職業だけ書けば他は任意だ」

「……職業」

「そうか、お前記憶喪失なんだってな。自分の職業もわからないのか?」


 いかついスキンヘッドのマルセルが、怪訝そうに聞いてくる。

 そういえば結局俺の職業は何なのだろう。確認してみないと。聖魔法は使えなかったから聖職者系ではないだろうな。

 ゲームだったらゲームスタート時に主人公の職業を選べたはずなんだが……。


「……仕方ねえな、ちょっと待ってろ」


 マルセルは奥に引っ込むと、小さな水晶のようなものを持ってきた。


「……それは?」

「魔水晶だ。身元の確認やギルドへの登録のために使う。ただ、こんなド田舎だからこれは簡易版だ。王都のギルドにあるようなどデカイ魔水晶だったら、レベルやステータスもわかるんだけどな。これに手をかざしてみろ」


 言われるがまま手をかざしてみると、かすかな光とともに文字が浮かび上がってきた。


 ****************

 名前 :ツバサ

 種族 :ヒューマン

 職業 :魔法使い

 ****************


「何だお前、魔法使いなのか」

「………」


 思い当たるフシはある。



 ***




 (ゲームの世界で魔法使いてぇ)



 (ゲームの世界で若返ってイケメンになって人生やり直してぇ)





 ***


 ……もしかして、死ぬ前に願っていた事がそのまま反映されてるんじゃないか? ゲームじゃ開始時に職業を選べるけど、死んだ時ゲームがスタートしていて、職業を選んでたってことか?

 確かに若返って、顔も整った顔になっている。そして職業は魔法使い……。



「……なんだぁ? だんまりか? 何か思い出したか?」


 マルセルの声で我に返った。


「い、いえ。俺、魔法使いなんですね」

「そうみたいだな。まあ本当のステータスを隠している奴もいるが、お前の場合はそんなこともなさそうだし」


 今の体の年齢はわからないが、多分15歳くらいだろうから15歳と記入しておいた。


「よし、これで登録は完了だ。さっきも言ったがここはあくまで出張所だから、発行できるのは仮のギルドライセンスだ。王都ローランかリーベッグのギルドに行って正規のライセンスを発行してもらえ」


 マルセルが仮のギルドライセンスを渡してきた。ペラペラの紙だが、マルセルのサインも入っている。仮だろうが、とにかくこの世界での身分証がゲットできた。一歩前進だな。


「ところでお前、泊まるところはあるのか? まだ仮だがお前も一応冒険者ギルドの一員だから、ファンデ村にいるうちはこの出張所の簡易宿泊施設を使っていいぞ。1泊500ゴールドだ。安いだろ? まあ出る時自分で掃除するのが条件だけどな」

「でも俺お金持ってないんですけど……」

「そうか……まあさすがに無料というわけにはいかないからな……。そうだ、この出張所で受けれる依頼を受けてくれるなら、報酬と相殺してやるぞ。依頼をこなしてからの後払でいい」

「でも俺が一人で受けれる依頼なんてありますかね……」

「ハッハッハ! な〜に、こんな田舎の依頼なんて薬草採集くらいしかないから安心しろ!」

「そういうことであれば……」


 こうして俺は冒険者ギルド所属の冒険者になった。



 ***



「じゃあ元気でな、ツバサ。」

「あんたも同じ冒険者になるとはね。まぁ、よかったわねぇ」

「わ、私たちもすぐ戻ってくるからね! ツバサくん!」

「…ツバサも……魔法使いだったとはな……。…王都から戻ったら相談にのるぞ……」


 マイスターズの皆は集会所で報告を終えた後、すぐその足で王都まで向かうようだった。

 まあまだ昼前だしな。ファンデ村に戻るまで2週間かかるって話だし、すぐに出たほうがいいんだろう。

 この世界に来て初めての知り合い、恩人たち。少しの間の別れだが、思わず涙が出そうになった。


「じゃあな〜〜」



 ……こちらの感傷など気にせず、マイスターズはあっさりと去って行った。まあこの世界の冒険者にとっては、出会いと別れなんてよくあることなんだろうな。


「じゃあね〜お兄ちゃん! お姉ちゃん!」


 隣ではマリアとマルセルがマイスターズに向かって手を振っている。

 マイスターズの姿が見えなくなった後、『さて昨日はあまり眠れなかったし、一眠りしながら今後のことでも考えるかな〜』と思っていたら、こちらに振り向いたマルセルがとても良い笑顔をして、こう言った。


「じゃ、さっそく働いてもらおうか」



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