5話 美少女登場
野営地からファンデ村までは徒歩で1時間ほどの距離らしい。
本当は彼らは昨日のうちに村に帰還する予定だったが、俺の手当が必要だったから野営してくれたらしい。いい人たちだ。
「そういえばダンテさんたちは何であの場所にいたんですか?」
「ブランドン墓所のことか? 俺たちはリーベッグ辺境伯領に滞在してたんだが、ファンデ村の近くでリビングデッドが大量発生したという報告があったんで、王都に帰るついでにその依頼を受けたんだ。帰り道だしね」
俺が初めにこの世界に着いたところはブランドン墓所というらしい。ゲームには無かったな。リーベッグ伯爵領というのはわからないが、リーベッグという街はあった。多分そこのことだろう。
「ファンデ村のギルド出張所の親父さんと相談して、殲滅できそうであれば殲滅してくれという話だったが、あれは数が多すぎる。ファンデ村のギルド出張所に報告した後王都に帰ってギルド本部に報告するが、多分近いうちに討伐隊を組むことになるだろうね」
「討伐隊?」
「うん。俺たちだけでもギリギリ討伐できるだろうが、少しリスクが大きいからね。多分俺たちを中心に、B級とC級パーティを何組か引き連れて戻ってくると思う」
「なるほど」
「そうえばツバサはどうする? 結局記憶は戻ってないんだろう? 俺たちと一緒に王都まで行くかい? 一緒に行けば安全だよ」
「そうですね……とりあえずファンデ村で考えてみてみます。もしかしたら俺を知っている人がいるかもしれませんし」
記憶喪失という設定で乗り切っているから、とりあえずそのまま話を合わせてみる。
「うん、まあそうだね。俺たちと一緒にいるうちに記憶が戻れば良いんだけど……お、見えてきたぞ。ファンデ村だ」
村らしきものが見えてきた。
「お〜〜〜〜い!!」
村からこっちに向かって手を降ってくる姿が見える。
「ダンテ兄ちゃ〜〜〜〜〜〜ん!!!!」
12歳くらいの少女が村からこちらに駆け寄り、その勢いのままダンテの胸元に飛び込んできた。
「おかえり、ダンテ兄ちゃん!」
「マリア〜元気だったか? 村の様子は変わりない?」
「うん! モンスターも来てないよ!」
「そうかそうか! 親父さんはギルドかい?」
「ううん、今集会所にいるよ。ダンテ兄ちゃんたちが昨日帰ってこなかったから、大人たちが心配して話し合いしてるみたい」
「そうか、悪いことしたな」
「このお兄ちゃんは?」
「昨日リビングデッドに襲われているところを保護してな。記憶が無いみたいなんだが……ファンデ村の子ではないよな?」
「ん〜?」
マリアと呼ばれた金髪の女の子が俺の顔をじっと見てくる。マリアの第一印象はズバリ美少女だ。この歳でこれだけ顔が整ってるなら、将来美人になるだろうな。
「ファンデ村にはいないお兄ちゃんだよ!」
「……そうか」
「こんにちは! 私はマリア! お兄ちゃんの名前は?」
「こんにちは。俺はツバサだよ」
「ツバサ兄ちゃんはどこから来たの?」
「う〜ん、それがわからないんだよね」
ゲームの外から来たよなんて言えるわけもないので、笑ってごまかす。
「ツバサ、ちょっとマリアのことを見ておいてもらっていいか? 俺たちは集会所に行って、ギルドの親父さんや他の大人にブランドン墓所の様子を報告しなくちゃいけなくてな」
「もちろん良いですよ。マリアちゃん、お兄ちゃんと遊ぼうか!」
「うん!」
ダンテたちは村の真ん中に位置する、集会所に向かっていった。
「マリアちゃん、じゃあファンデ村を案内してもらっていいかな?」
「いいよ! 案内してあげる!」
せっかくだからマリアに村を案内してもらうことにしよう。ゲーム中は気にしなかったが、こんな田舎の村でよそ者が一人で歩いていたら、なんと思われるかわかったもんじゃない。
「ここはヘブルおじさんのおうち!」
「ニコルおばさんのうち!」
「ここはミレアばあちゃんの雑貨屋さん!」
「トミーのおうち!」
マリアに案内してもらうが、基本誰かの家しか無いようだ。ふ〜む、ゲームだと武器屋や防具や、宿泊施設までそろっていたが、500年後の今外部の人間が利用できそうなまともな施設は雑貨屋くらいしかないみたいだ。魔王が倒されたのが関係しているのか?
いずれにせよ、もっとこの世界のことを知っておかないといつかボロがで出そうだ。今はダンテたちがいるから良いが、どこかでこの世界の常識を学ぶ必要があるな……。
***
「……ふむ、お前たちだけだと難しそうか?」
集会場ではダンテたち「マイスターズ」のメンバーと、村の顔役たち、ギルド出張所の長であり、マリアの父親でもあるマルセルがブランドン墓所付近のリビングデッドについて話し合っていた。
「ああ。本当ならすぐにでも殲滅したいところだが、ざっと確認しただけでも200匹くらいはリビングデッドがいた。多すぎて数え切れなかったが、最悪のケースだと500匹以上いるかもしれない。ただでさえアンデッドは聖魔法じゃないと倒しづらいからな。あの数だとセレスティーナの魔力が確実に持たない」
ザワッ……
500匹という数に村人たちは動揺を隠せない。
唯一冷静だったのがギルド出張所の長マルセルだった。マルセルは昔は名を馳せた元S級の冒険者であり、今は引退して生まれ故郷であるファンデ村で妻とマリアの3人で静かに暮らしていた。
「500匹……そんなにいたのか」
「ああ。だから一度王都のギルド本部まで行って討伐隊を募集するつもりだ。場合によっては王都の騎士が派兵されると思う。移動と募集にかかる時間を考えると戻るまでに2週間ほどはかかると思うが、それでも大丈夫か?」
「まあ仕方がないだろう。お前たちはこの国で数少ないAランクのパーティだ。無理をさせて万が一お前たちに何かあったら俺がケヴィンに殺されちまうよ」
マルセルは昔のパーティーリーダーであり、現在王都のギルド本部のギルドマスターをしているケヴィンが激怒した姿を思い出し、身震いした。
「あのギルドマスターならやりかねんな……」
「2週間くらいだったら大丈夫だ。はぐれてこちらに向かってきたリビングデッドがいたとしても、俺だけで対処できるだろう。村の皆も2週間は村から離れないようにな」
非力な村人たちは一様に頷く。
「ま、まぁ大丈夫じゃないですか? マルセルさんがいるし、いざとなったらあの方もいますし……」
「しかし最近はアンデッドの目撃件数が多いな。2年前までは、アンデッドモンスターなんてダンジョン以外で見たことはなかったのに」
「……あの噂は本当なのかのぉ」
今まで黙っていた村長が重い口を開いた。
「噂?」
「ああ……近頃の魔物の増加は、魔王が復活する前触れという噂じゃ……」
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