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4話 え、28レベルあれば国で2番目の魔法使いになれるの?

 朝目を覚ますと、他の4人はもう既に起きているようで、ダンテが朝食の準備を始めていた。


 俺が起きたことに気づいたダンテがニコッと笑いかけてきた。


「お、ツバサ! おはよう! よく眠れたかい? 大したものは出せないが、うさぎを狩ってきたからこれを食べよう。食べる前にそこの水場で顔を洗っておいで」

「ありがとうございます」


 お言葉に甘えて、指さされた水場へ向かう。


 水場には先客がいた。

 昨日は一言も発さなかった男、カインだ。


「おはようございます」

「……おはよう」

「……」

「…………」


 うん、会話が弾まない。無口な人なんかな? この無言の間、どうしよう……と思っていたら、カインが口を開いた。


「……日が出ているうちはリビングデッドの動きは活発じゃないが、全く出てこないわけじゃないから警戒はしておけよ」

「……あ、はい。ありがとうございます」


 うん、無口だけど悪い人ではなさそうだ。普通に考えて、夜遅くにあんな場所でリビングデッドに襲われていた男なんて警戒されて当然だ。それなのに彼の口調からは、俺の事を心配してくれているのが伝わってくる。

 しかしこの人たちは悪い人ではなさそうだ。この世界の人たちがみんなこれくらい優しいなら何とか生きていけそうな気がする。


 カインはダンテの元に戻っていったので、顔を洗うことにしよう。

 水場と呼ばれた場所では、石で枠組みが作ってあり湧き水が逃げない工夫がしてあった。よく見ると付近には焚き火の後がたくさんあったし、ここは共用の休憩ポイントになってるのかな?


 そんな事を思いながら、顔を洗おうとした……が



「うおっ」



 思わず声が出てしまった。


「…………は?」


 水に映っているのは34歳のおっさんではなかった。14か15くらいだろうか、確かに子供と呼んで良いほどの、あどけなさが残る顔が目の前に映っていた。

 顔をペシペシ叩いてみる。うん、たしかに俺の顔のようだ。


 というかかなりのイケメンである。何このイケメン。黒髪に碧眼。整った鼻。

 そして2年ニート暮らしをしていた運動不足の中年とは異なり、顔がシュッとしている。

 あまりにも見慣れなさすぎて、思わずマジマジと見つめてしまう。


「自分の顔を見るのが好きなのかい?」


 ビクッ


 自分の姿に見惚れていると、後ろから声をかけられた。

 エルフのエステルだ。


「い、いえ」


 自分の顔が変わってましたなんて口が裂けても言えないので、ごまかすことにした。


「あんな数のリビングデッドに襲われて、よく生きてたなって思って顔を見てました」

「ふん……なるほどね。あんたも運が良かったよ。運良く他のパーティに助けられてたとしても、冒険者に聖魔法を使える奴なんてほとんどいないからね。リビングデッドはヴァンパイアと違って毒はないから噛まれたって生きてるうちにリビングデッドになるなんてことはないけど、セレスティーナがヒールをかけなきゃ出血多量で今頃死体になってたさ。あんなリビングデッドが多いところで死体になったら、それこそリビングデッド化するだろうね」

「な、なるほど」

「……あ〜んた、何かを隠してるよね?」

「そ、そんなことはないですよ」


 一晩考えたが、別の世界からやってきたということはマイスターズの4人には黙っていることにした。すごい能力があるわけでもないのに別の世界からやってきたなんて言っても、頭がおかしいと思われるのがオチだ。リスクでしか無い。


「ふ〜ん、ま、いいけどさ。あたしたちに迷惑をかけるのだけはやめてよね。恩を仇で返すような真似したら……わかってるね」

「も、もちろんです!」


 もちろん迷惑をかけるつもりなんてない。

 そしてエステルの警戒も当たり前だ。KoAの世界には人間の王様に化けて人間を支配した魔物もいたくらいだし、もし俺が実は魔物だったなんてことがあったらパーティが一瞬で危機に陥ってしまう。

 あの時彼ら以外に人目があったわけでもないし、俺を助けても彼らに何のメリットもなかった。それでも彼らは俺を保護してくれたわけで、感謝こそすれ、害をなす気なんてあるわけがない。


「と、とりあえずダンテさんの手伝いをしてきます!」


 余計なことを突っ込まれる前に逃げるように水場を離れた。

 急ぎ足でダンテの所に戻ろうとすると……


 ガサッ


 ……森の中で草が揺れる音がする。


 ――日が出ているうちはリビングデッドの動きは活発じゃないが、全く出てこないわけじゃないから警戒はしておけよ――


 カインが先程言っていた言葉が頭の中でこだまする。昨日の恐怖がトラウマのように襲い、音がする方向をから目が離せない。一目散にダンテの方に逃げたほうが良いんだろうが、足が動かない……。


 ガサッガサッ


 ガサッガサッガサッ


 音がどんどん近づいてくる。

 そして……音の正体が一気に飛び出してきた。



「……ふぅ…………っ!! えっ……ツ、ツバサくん!!??」


 出てきたのはセレスティーナだった。


「ツ、ツバサくん、こんな所でなにやってるんですか!?」


 俺に気づくと顔を真赤にして問いかけてきた。


「い、いや。森の方から音がして、リビングデッドかなと思ったら動けなくて……」

「あ、ああ……そうだったんですか……」


 真っ赤な顔から一転、セレスティーナが優しい顔になり、


 ムギュッ


 (!!?)


 優しく俺を抱きしめた。


「もう大丈夫ですよ。私達がついていますから、安心してもいいんですよ」

「ひゃい」


 む、胸が当たる。

 母さん以外の女性に触れたのは久しぶりだから、硬直してしまう。

 セレスティーナは10秒ほど俺を抱きしめた後、開放してくれた。


「も、もう怖くないですか? 私はちょっと手を洗ってから戻りますね!」


 水場に向かうセレスティーナをボーッと見ていると、


 (手を洗う……あ、もしかしてトイレ?)


 顔が真っ赤になった、理由も頷ける。


 (あれ、っていうか抱きしめてくれたけど…………あれって手を洗う前って事だよな……?)




 ***




 寝ていた場所に戻ると、ダンテとカインが朝食の支度をしているところだった。


「お、ツバサ! 戻ったか! ちょうどよかった、あとは焼くだけだよ。カイン、お願いしていいかな?」


 カインはコクリと頷くと、静かに詠唱を始めた。


『業火を司る炎の精霊よ、汝と契約せしカインが力を求める われに力を与えん ファイア!』



 (……詠唱なんて必要なんだ)


 初めてまじまじと魔法を見た率直な感想はそれだった。ゲームじゃコマンド選択で「ファイア」で終わりだったからな。

 昨日の戦闘では見えなかったが、カインが魔法使い系の職業なのは何となくわかっていた。彼の杖に見覚えがあったからだ。『ルーン・スタッフ』、ゲームの序盤だと割と活躍してくれる杖だ。

 ただ……A級ってダンテが言ってたよな? 冒険者ギルドというシステムに聞き覚えは無いんだが、自信満々にA級って言うということは、多分高めのランクのはずだけど……ルーン・スタッフ? 序盤じゃ使えるけど、中盤に差し掛かる前には使わなくなる装備なんだけどな……どうなってるんだろう。


 鍋に当たる炎を見つめながらそんなことをボーッと考える。


「炎の魔法を見るのは初めてかい? こう見えてもカインはすごいやつでね、この国じゃ五指に入る魔法使いなんだよ」


 ボーッと炎を見ている俺を心配してか、ダンテが話しかけてきた。


「一時は宮廷魔術師にも推薦されたくらいでね、レベルも28もあるんだ。レベルだけで言ったら、魔法使いの中じゃこの国では筆頭魔術師エドワード様に次ぐ2番目だよ!」


 ……ん? んん? 28レベル?

 随分と低いけど、2次職か上級職に転職してレベルが下がったところなのかな? このゲームでは1次職、2次職、上級職とあって、王道的な魔法使いの職種であれば魔法使い、魔導師、大魔導師と上がっていくはずだが……。


「カインさんは魔導師なんですか?」

「魔導師なんて言葉よく知っているね。おとぎ話で知ったのかい? カインは魔法使いだよ。この国最後の魔導師は魔導師ノア様、カインのご先祖様だね」


 おかしい。レベル28の魔法使いじゃ序盤後半の敵ですら苦労するはずだ。それがA級冒険者……? どういうことなんだろう。


「ご先祖様?」

「うん。カインは代々魔法使いの家系でね。魔導師ノア様のそのまたご先祖様は勇者アベル様と一緒に旅をした褒美で大貴族になったんだ。それ以来カインの家は由緒正しい大貴族様ってわけ」

「……ダンテ」

「ん、お、おうすまんな。悪い、ツバサ。カインは家のことを話題に出されるのが嫌いでな。」

「ま、魔王ベリアルはどうなったんですか?」

「ん〜? ハッハッハ! ツバサは本当におとぎの国から来たのかもしれないな! 安心して、魔王ベリアルは500年前に勇者様に倒されたから、おとぎの国の魔王はもういないよ!」


 ……500年前? ということはここはゲームクリアから500年後の世界……ということか……。しかし28レベルあれば国で2番目の魔法使いになれるのか? しかも上級職じゃなく、1次職。

 俺が高レベルまで上げた上でレベル1まで下がる転職を何回したと思ってるんだ! 上級職周回してるからな!

 なんだかこの世界で生きていける気がしてきたぞ!





お読みいただきありがとうございます。


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