21話 天使と悪魔
戦場に突然現れた、半天使半悪魔の美女。
アンデッドまみれの戦場に似つかわしくない姿に、マルセルとナターリアも面食らっている。
『ウフフ……随分時間がかかるから見に来たら、美味しそうなのがいるじゃない』
「……何者だ」
『フフフ、私? 魔王ビフロンス様の忠実な下僕、カッサンドラよ』
「ま、魔王ですって?」
ピシッ
天使の微笑をたたえていたカッサンドラが、突然悪魔の顔を見せる。
『……ニンゲンごときがぁあ〜〜!! 魔王 さ ま だろ! 様をつけなさい!!!
地獄の業火に灼かれよ! ヘルファイア!!』
激怒したカッサンドラが、いきなりマルセルとナターリアに上位魔法を打ち込んできた。
魔力を凝縮したような火柱がその場で上がる。
「くっ……!」
マルセルとナターリアは素早く反応し、ギリギリだが回避に成功した。
「こいつは俺とナターリアで始末する! マリア! ツバサを安全な所に!」
マルセルがマリアに指示を出し、俺を集会所に退避させようとする。
が、魔力中毒になってしまった俺はその場で倒れ込んでしまった。
「ツバサお兄ちゃん!!」
***
「あなた! あいつを集会所から少しでも引き離すわよ!」
「おう!」
マルセルとナターリアが、少しでも集会所から引き離せるよう誘導しつつ攻撃を仕掛けていく。
「オラっ!」
マルセルがハンマーで攻撃するが、翼を持つカッサンドラは素早い動きでかわしていくため、ダメージを与えることができない。
『クスクス、動きが遅いわねえ……そんな攻撃で私を仕留めようなんて笑っちゃうわ。今度はこっちの番ね』
マルセルの攻撃を避け続けていたカッサンドラだったが、カッサンドラの腕が禍々しい悪魔のそれに変化し、今度はマルセルに打撃を打ち込んでいく。
『ホラホラ! 少しは楽しませてよ!』
「ぐっ!」
一撃はなんとか受け止めたが、カッサンドラの姿からは想像もできないような重い攻撃に、体勢が崩れてしまうマルセル。
「ぬぅ!」
『はぁ〜、つまんない。もう終わりなの?』
カッサンドラは買ってもらったオモチャが期待はずれだった子供ような表情を見せ、つまらないオモチャを粉砕するために腕を振り下ろした。
が、その時。
ズサッ
ナターリアが撃ち込んだ矢が、カッサンドラの頬をかすめる。
「あなた! 援護するわ!」
「おう、助かったぜ!」
『へぇ〜』
頬をかすめた矢の傷から流れる血を舌で舐め取りながら、うっとりとした表情を見せるカッサンドラ。
『アナタは楽しめそうねぇ〜』
「よそ見してんじゃねえよ!」
既に体勢を立て直したマルセルが、再び打撃を打ち込んでいく。
さらに、打撃を回避するために移動した先をナターリアが正確に予測し、タイミングよく矢を打ち込んでいく。
長年組んだS級パーティであり、夫婦だからできる息のあったコンビネーションに、さすがのカッサンドラも空中へと退避した。
「てめえ! 降りてこい!」
『ん〜、二人だとちょっと厄介ね……』
『トリプルアロー!』
ナターリアが3本の矢を同時に放つが、空中のカッサンドラは涼しげな顔をして避けていく。
『無駄よぉ〜そんな矢が空中の私に当たるわけないじゃない』
「ふんっ!」
さらにマルセルが短剣を投擲する。
『はぁ〜、当たらないって言ってるでしょ』
短剣を空中でかわすカッサンドラ。
が、その時。
先程放った3本の矢が空中で角度を変え、カッサンドラの翼を射抜いた。
マルセルの投擲は、ナターリアの矢が戻ってくる場所へカッサンドラを誘導するためのものだったのだ。
『……は!?』
驚愕の表情を見せ、翼を射られた半天使は地上へと堕ちていく。
すかさずマルセルがカッサンドラに突進する。
『や、やめてえええ!!』
地面に伏したカッサンドラにトドメを刺すべくハンマーを振り上げた、その瞬間。
――クスッ
まるでイタズラに成功した子供のような笑顔で、カッサンドラが笑った。
「ッ!?」
長年の直感からマルセルが身を引こうとするが、もう遅かった。
『 ――闇は血を求めん……ダークランス!』
悪魔の微笑と共に、漆黒の槍がマルセルを貫く。
「ッ!? グハッ」
『あ〜あ、少しは楽しめるかと思ったのにガッカリだわ』
「き、貴様……」
『あんなので私を倒せると思ったのぉ? 笑っちゃうわね』
「ぐっ……」
『高貴なる命の泉、汚れなき光よ、我が傷を癒やしたまえ ハイヒール!』
先程射ぬいた翼の傷が、みるみる回復していく。
「な、なに……」
『何よその顔。悪魔がヒールしちゃ悪いわけ? あいにく私は半分天使だからねぇ』
「ぐ……」
カッサンドラが暇そうにあくびをし、頬を掻く。
『さて、そろそろ遊びも飽きたねえ。どうしようかしら』
***
「お……ちゃ……!! …………ゃん!!」
力が入らない。
誰かが俺を呼ぶ声がする。
ドドド…………
地面が……揺れている気がする。
俺は脳震盪でも起こしているんだろうか……。
ドドドドドドドド……
ドドドドドドドドドドドドドドドドド
「うぉおおおおお!!! 突撃! 突撃しろ!!」
「お兄ちゃん!!」
「ぐっ……」
揺れる地面と騒々しい馬の足音で、現実に意識が引き戻された。
朦朧とした意識の中で俺の目に入ったのは、騎乗し村になだれ込む冒険者と騎士たちの姿だった。




