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2話 アンデッドにはやっぱり薬草

 人間は自分が理解できない意味不明な状況に遭遇すると、体が硬直してしまう。

 今の俺がまさにその状況だ。意味がわからない。



 (……ゾンビ?)



 目の前にいるのは、まさにゲームに出てくるようなゾンビだ。月明かりの中ゆっくりフラフラと動いてるゾンビは、ここまで届く腐臭も相まって異常な禍々しさをしていた。

 コスプレにしてはクオリティが高すぎる。幸いにも背中を向けているので、俺には気づいていないようだ。


 そもそも状況がおかしい。俺はさっきトラックに轢かれたはずだ。奇跡的に助かっていたとしても轢かれたのは国道沿いであり、断じて今いるような夜の森の中ではない。


 わけがわからないが、とりあえず今の状況がヤバいのはわかる。絶対こいつ友好的じゃない。

 常識的に考えたらゾンビなんてみんな敵だ。俺のやっていたゲームの中にゾンビの味方なんて……あ、いたわ。倒したら仲間になりたそうにこちらを見てくるゾンビとか、仲間にゾンビの肉を喰わせるゲームとかあったわ。


 そんなことを思いながらゾンビから目を離さずにいたが、ゾンビがこちらに気づく様子はない。

 気持ちもだいぶ落ち着いてきた。今どこにいるのかはまったくもって不明だが、とりあえずこのゾンビに気づかれる前に遠くに逃げなければ。

 音を立てないようにそ〜〜っと後ずさりしながらゾンビから遠ざかる。


 (よ〜し気づくなよ、気づくなよ、気づくなよ……)


 目を離さないようにゆっくりと、ゆっくりと後退していき、10mほどの距離を取る。


 もう大丈夫だろうと思い振り向いて逃げようとすると……目の前にゾンビがいた。

 うん、流石に声が出た。




「うわあああああああああああああああ!!!!」




 直感的にわかる。逃げないと死ぬ。

 反射的に別の方向に全力で逃げた……のだが


 (……っっ!!!)



 今度は目の前に集団のゾンビが現れた。ゾンビだらけじゃねえか!!


「くそおおおぉぉお!!!」


 どこに逃げれば良いのかわからない。そもそも何だこの状況は。

 夢? 夢なのか?


 (夢なら多分ゾンビに噛まれた瞬間に起きるんだけどな……)


 とぼんやり考えながらも走って逃げるが、逃げた先にはまたゾンビがいた。


「はぁ……はぁ…………何だこれ……何なんだよ」


 もう息が上がって走れず、その場にへたり込んでしまう。

 どこを見渡しても、俺の叫び声に引き寄せられるように群がってくるゾンビの大群。


 動きは遅いが確実に近づいてくるゾンビたち。逃げたいのはやまやまだが、もうフラフラで動けない。


 (ゲームの世界に行きたいとか思ってたからゲームの夢でも見てるのかな……)

 (ゲームだったらこんなゾンビモンスターすぐ倒せるのにな……)


 (……もしこれがゲームの世界なら)


 (……!!!)



 これが夢でも現実でも、ゾンビがいる世界なら魔法が使えるはずだ!! アンデットは聖魔法に弱いはず!!!

 一か八か、ゲームの魔法を唱えてみる。



「ヒール!!!!」












 ……何も起きない。


「ヒーーール!!!!!!」

「ヒール!! キュア!!! リフレッシュ!!! リバイブ!!!!!」


 思いつく限りの聖属性の魔法を唱えてみるが、何も起きない。

 泣きそうになりながら思いつく限りの魔法を叫び続ける。


「ハイヒール!! ホーリー!!! ホーリーアロー!!! リザレクション!!!!」


 1体のゾンビがもう目の前まで来ている。魔法を使うのは諦め、這いつくばって逃げようとするが、恐怖で体がうまく動かない。

 そしてついにゾンビが俺の足を掴み……俺のふくらはぎを……食べ始めた。


「あ゛あ゛ぁぁぁああ!!!! あああ!!!!!!」


 激痛が走る。必死にもう1本の足でゾンビを蹴りつけ、引き剥がす。

 現実だ、これは現実だ。夢だったら今の一撃で起きているはずだ。

 さっきまでは動けなかったが『ゾンビに生きたまま食われて死ぬ』というという恐怖が襲い、激痛に耐えながらも恐怖が俺をまた動かし始めた。


 ただこちらは足をやられた、魔法も使えない無力な人間、背後に迫るのは大量のゾンビだ。

 結果は見えているが、『生きたい』という本能的な思いだけで俺は必死に這いつくばって逃げる。出血のせいか目も霞んできた。


 朦朧とする意識の中、小さな湖に出た。湖畔に生えた、月明かりに照らされてぼんやりと光る草が目に入る。


 (……ゲームの裏技だったら)


 頭の中で、とあるゲームの裏技が脳裏によぎる。藁にもすがる思いでその草を引き抜き、背後に迫るゾンビに投げつけた。


 すると……


「ヴオァアアアアア!!!!」


 目の前のゾンビが苦しみだした。

 効いた!! 薬草のようなものがアンデットに効いた!


 奇跡的に活路を見いだせるかと思ったが、ただ見渡しても辺りにもう光る草は無い。目に入るのは大量のゾンビたち。


 そしてゾンビたちは目と鼻の先まで迫ってきた。囲まれてしまい、もう逃げることも出来ない。


「くそっ……もっとあの草があれば助かるのに……生きたままゾンビに食われるとか……トラックで死んだほうがよっぽど楽な死に方だったじゃないか……」


 あの草が大量にあれば助かるだろうが、もう終わりのようだ。


 俺の目の前まで来たゾンビがニタァと笑った気がした。そして目の前にあるごちそうを我慢しきれないかのように、ゾンビが口をあける。


 為す術もない俺は、諦めて目をつぶった。せめて殺してから食べてくれと願いながら。

 その時。



 ――ザクッ


 目の前のゾンビが胴体から真っ二つに崩れ去った。


「大丈夫か!!」


 目の前に現れたのは、大剣を持った男。

 そして目の前のゾンビたちをなぎ倒していく。


「セレスティーナ! 聖魔法を!」


 男が叫ぶと、遅れて来た女性が何やら唱え始めた。

 女性がまばゆい光りに包まれる。


『ホーリーアロー!!!』


 女性が放たれる無数の光の矢が、ゾンビたちを貫いていく。光の矢に射られたゾンビはまたたく間に灰になっていった。


 しかし森からはさらなる数のゾンビがわいてくる。


「数が多すぎる! 撤退するぞ!!!」


 男が叫ぶ。


「君! はやく来い!!!」


 男が俺に向かって叫ぶが、出血のせいか立つことも出来ない。

 男は俺が怪我をしているのに気づき、ヒョイッと俺を担ぎあげた。



「もう大丈夫だ」



 男が俺に優しく笑いかける。


 ゾンビの事やらさっきの女性の魔法っぽいものの事やら色々聞きたいことはあったが、助かったという安心感のせいか俺はすぐに意識を失った。



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