16話 サシ飲み
夕食を終えるとマルセルが「飲むからちょっと付き合えよ」と言ってきた。まあ部屋に戻ってもやることは無いし、少し付き合うことにした。もちろんこんな田舎に酒場なんてないから、場所はマルセル家の食卓だ。
マリアとナターリアはさっさと寝る準備をして、もう寝室に行ってしまった。田舎の夜は早いようだ。
静かな夜だ。ワインを注ぐ音だけが響き、ロウソクの灯りがマルセルの頭を明るく照らす。
「お前も飲むか?」
「い、いえ俺まだ多分15歳くらいなんで」
「かぁ〜甘えたこと言うなよ。俺がお前の歳には毎日酒場で飲み比べしてたぞ」
「はは……」
「……」
「……」
一瞬の沈黙が訪れる。
「ツバサ、お前ブランドン墓所でリビングデッドに襲われてたんだって?」
「はい」
「記憶喪失って言ったってなぁ……記憶を無くす前にあんな所で何をやってたんだろうな」
「こっちが聞きたいですよ……」
記憶喪失だとごまかすのが大変だ。
「ダンテはファンデ村の近くの村の子じゃないかと言っていたがな……それは違うと思うぞ。俺はこの村の出身だ。冒険者をしていた時は外の世界に出ていたが、この村に戻ってからもう10年経った。ファンデ村はもちろん、近隣の村にもギルド出張所長としてよく訪れているから、近隣の村の人間は全員顔見知りだ。そしてそんな俺はお前のことを知らない。つまりお前はこの辺りの人間ではない」
「なるほど」
「冒険者になったのは案外良い選択かもな。冒険者は仕事柄あちこちに移動する。冒険者として各地を旅してれば、いつかお前の家族に会えるかもしれん。両親や家族も会いたがってるだろう」
親父と母さんか……。一人息子を事故で失って、今頃どんな気持ちなんだろうか。
人生最後の2年はニートな息子だったけれど、少しは悲しんでくれているのかな。
「……心配するな。いつか会えるさ」
センチメンタルな気持ちが顔に出ていたのかもしれない。マルセルを心配させてしまったな。
このおっさんもナリはあれだし商売上手だが、良い人だよな。
マルセルはワインをグイッと飲み干すと、いつにない真剣な顔をしてこちらを見つめてきた。
「この村にたどり着いたのも何かの縁だ、冒険者の基礎は教えてやる。一番初めに一番重要なことを教える。心して聞けよ」
「はい」
「……死ぬな」
「……え?」
「俺もベテラン冒険者として駆け出しの若造を沢山見てきた。若い奴らは早く名声を得ようと無理をするんだ。自分は特別だという気持ちが強いんだろう。自分だけは死なないって根拠のない自信から無理をして、そのまま戻らない奴を沢山見てきた」
「……」
「もちろんギルドでは駆け出し冒険者に無理な依頼を投げることなんて無い。だがな、ただの薬草採集の依頼でも、それまで目撃情報の無かった強力な魔物にいきなり出くわすなんてこともあるんだ。そういう時は無理せずに逃げろ。自分ならできるなんて過信はするな」
「……」
「いいか。絶対に、死ぬなよ」
***
ベッドに横たわり、さきほどマルセルに言われたことを考える。やはり経験者からの言葉というのは重く心に突き刺さる。
そして単純な疑問がわいてくる。俺がこの世界で死んだらどうなるんだろう。
ゲームの中だと魔物にやられて全滅したら、墓場から再スタートだった。リザレクションなんていう復活の魔法もあったしな。
この世界に来た初めての日、リビングデッドに襲われた生々しい恐怖と痛みは本物だった。ここはゲームの世界かもしれないが、今の俺にとっては現実だ。死んだらどうなるかはわからないが、多分ゲームのように墓場から再スタートできるなんてことはないだろう。
これからリビングデッドの殲滅をしていくが、気を引き締めていかないとな。
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