15話 家庭教師マリア
「こっちこっち!」
魔法の練習のため、マリアと見晴らしの良い平地に来ていた。
マルセルいわく、ここなら草木がほとんど生えて無いうえに水場もあるから魔法の練習にはうってつけらしい。確かに小さいが池もある。
「じゃあ始めようか、マリア」
「先生!」
「え?」
「今日はマリアが先生だから、マリア先生でしょ!」
「は、はい。マリア先生」
……。マリアが今日に限って伊達メガネを着けている理由がわかった。
「よろしい! お兄ちゃんはまず自分が放った魔法の制御からかなぁ〜」
「う〜ん、そうだね」
以前マリアの前で魔法を使ったときのことを思い出す。
自分が出した炎の消し方がわからなくて困ったな。
「制御するのは簡単だよ! 魔力が無くなるまで魔法を撃つと、体から力が抜けてく感覚がするから、その感覚を再現すればいいんだよ!」
「ほう。すごいなマリア、先生みたいだ」
「えへん!」
「この前炎出してたから、ファイアは撃てるんだよね? じゃあ撃ってみて〜」
「ん」
火事になってはいけないので、池のそばに行き、念の為手のひらを池に向ける。
『……ファイア!』
おお、出た出た。
炎が出たのはいいが……マリアがポカーンとしている。
「……お兄ちゃん、今詠唱してないよね?」
そういえば以前マリアが俺の魔法を見たのは、俺が魔法の炎を見ながら一人でテンション上がっている時だったな。ファイアを発動させるところは見せていなかった。
マリアもカインも詠唱をしていたけど、この世界では詠唱するのが常識なのか?
「いや、ん〜? 無くても行けたぞ?」
「うそだぁ〜!」
『ファイア!!』
マリアが魔法を唱えるが、何も出ない。
『ファイア! ファイア!』
「ほら! 何も出ないじゃん! もう1回やってみて!」
「え、この炎はどうすれば?」
「投げたい方向に手を向けて、いけぇ〜! って念じれば動くよ!」
「ん」
「一度発動させた魔法をリセットさせるよりは全然簡単だから!」
言われたとおり、池の方に意識を向けてみる。
シュッ
池に吸い込まれ、炎が消えていく。
「おお、本当だ」
「そんなことよりもう1回!」
「はいはい」
『ファイア!』
うん、やはり無詠唱で発動できるな。
「お兄ちゃん何で詠唱してないのに魔法が使えるの?」
「そんな事言われてもなぁ、記憶が無いからわからないよ」
「もしかしてお兄ちゃんって、伝説の大賢者様だったりする?」
「はっはっはっ」
笑ってごまかす。むしろこっちがなんでか聞きたいんだが。
「私のご師匠様だったらわかるかもしれないけどなぁ」
「ご師匠様?」
「うん、マリア先生の先生だよ! でもご師匠様は王都にいるからなぁ」
「まあ2人で考えてても多分わかんないから、とりあえず今日は制御の方法教えてもらっていい?」
「う〜ん」
マリアが考え込む。無詠唱というのはよっぽど珍しいんだろうか。
「そうだね。私じゃわかんないや……じゃあ練習再開! 魔力が枯渇するまでファイアを撃ってみて!」
「わかった」
『ファイア! ファイア! ファイア! ファイア! ファイア! ファイア! ファイア!』
ファイアを撃ち続ける。
『ファイア! ファイア! ファイア! ファイア! ファイア!』
「ちょ、ちょっと待って! ……お兄ちゃん、何レベルなの?」
「え?」
「私より撃てるファイアの回数多いじゃん!」
そうか、マリアは8レベルって言っていたな。今の俺は13レベルあるから当然っちゃ当然だ。
「ん〜、何レベルなんだろ」
あくまで記憶喪失で誤魔化す作戦でいくことにした。
ただでさえ無詠唱であんな反応された後だし、ステータスがその場で見えるのは言わないほうが良い気がするからな。
「ウォーターは撃てる?」
『ウォーター』
手のひらから水が飛び出してくる。
「ウィンドは!」
『ウィンド』
目には見えないが、池に波が発生しているので発動しているのだろう。
「……ライトニングは?」
『ライトニング!』
……。何も起こらない。当然だ。ライトニングはレベル15で覚える魔法だからな。
「はぁ〜、お兄ちゃん。すごいね。っていうかウィンドまで使えて自分の魔法をキャンセルできないってどういうこと?」
「んなこと言われてもなぁ」
「……もうわけわかんないね。とりあえずウィンドを撃てなくなるまで撃ち続けてみて!」
「わかった」
『ウィンド! ウィンド!』
「ん、何かちょっと力が抜けたな」
少し脱力感が襲った。これれが魔力の枯渇か……?
「お、よ〜し! じゃあファイアを撃ってみて! 出し尽くして!」
『ファイア!』
「うぉ……」
先程とは比にならないレベルの脱力感が襲い、立っていられなく無くなる。意識を保つのが精一杯だ。
「それが魔力の枯渇だよ。魔法を使ってる時にその感覚を再現すれば発動を中止できるから!」
「な、なるほど」
「今の感覚を覚えておいてね!」
「おう」
「じゃ、これ飲んで」
「これは?」
「マナポーションだよ! 飲むと魔力が回復するの」
差し出された緑色の液体を飲み干す。
マズいなこれ……だが、魔力が徐々に回復していくのが感覚でわかる。
「魔力回復した?」
「うん、みたいだね」
「じゃあファイア出して、飛ばさずにその場で消してみて」
『ファイア』
手のひらに炎が宿る。
さきほどの感覚を思い出し、炎を消そうとしてみると……すこし炎が小さくなった。
「そうそうその感覚! 繰り返してけば覚えるからね。じゃ、もう1回枯渇させようか!」
あの脱力感を何度も繰り返すのか……さっき意識飛びそうだったんだが。
俺の不安をどう勘違いしたのかは分からないが、マリアは無邪気な笑顔で微笑んでくる。
「マナポーションはまだまだいっぱいあるから安心してね! こういうのは気合だから! 感覚覚えるまで頑張ろ!」
***
「お、おつかれさん」
「ども……」
疲れ切っていたが、なんとかギルドに戻ってこれた。
体力は問題ないんだが、魔力の枯渇は精神面も疲弊するらしい。度重なる魔力枯渇で心が疲れ切っていた。
はっきり言ってボロボロである。厄介なことに精神面の疲労はマナポーションでは回復しないらしい。1回目の枯渇ではそこまで感じなかったが、3度目くらいから精神疲労が顕著になってきた。
結局12回も魔力を枯渇させ、やっと制御方法を覚えることが出来た。
「制御はできるようになったか?」
「おかげさまで……」
「そうか。よかったな。制御できたなら後は自分で練習すればいいぞ」
「ありがとうございます……」
「おにーちゃん、無詠唱で魔法をうってたよ!」
「……は?」
マルセルがポカーンとしている。
珍しいな、マルセルのこんな顔が見れるなんて。
「お、お前、本当か?」
「え、はい。一応そうですね……」
「俺は魔法には詳しくないが、無詠唱なんて聞いたことがないぞ」
S級冒険者でも聞いたことがないということは、よほど特殊ということか?
真剣な顔をして考え込むマルセル。
「一応俺の元パーティの魔法使いに使い鴉を出しておこう。あいつなら何か知ってるかもしれん。」
「マリアちゃんのご師匠さんですか?」
「そうだ」
確かにそんなすごい魔法使いなら何かわかるかもしれないな。
「あ、あと」
マルセルは何かを思い出したかのようにニコっと笑いながら手のひらを出してきた。今日一番の笑顔だ。
「何ですか?」
「マナポーション代。タダなわけ無いだろ。」
「 」
「12本も使ったのか? マナポーションは高いからな。1本4000ゴールドで、合計48000ゴールドだ。ツケにしておいてやる。利子はつけないから安心しろ」
「は、はい……」
まぁタダで貰うつもりなんて毛頭無いが、ただ……先に値段を言ってほしかったよ……。
まぁ何にせよ、これで魔法を安全に使えるようになった。
あとはリビングデッドを殲滅して経験値を全部いただくだけだな。さっさと終わらせるか。
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