1話 いい日旅立ち
『ということで、ネブタ洞窟のボスが仲間になるバグでした〜。今日はこの辺で寝ようかな。明日もご視聴よろしくお願いしま〜す』
「はぁ〜〜〜〜〜」
ため息しか出ない。人生絶望的だ。
パワハラ上司にいびられ続けメンタル崩壊した俺は、逃げるように退職した。
もう退職して2年、34歳のおっさんが実家でニートである。別に引きこもっているわけでもなく、親のおつかいもする健全なニートであるが、いかんせん将来が不安だ。このままいくと確実に孤独死まっしぐら。守るべき家庭や彼女がいるわけでもないし、友達も彼らに子供が生まれてからは疎遠になった。
収入がないので貯金も減っていく一方だ。やはり人間お金が無いと不安になる。少しでも稼がないといけないが、パワハラ上司がトラウマになっており、働きたくないという気持ちにいつも負けてしまう。
なので俺は……Youtuberになろうと決めた。
***
『なんと! 今日の実況では、昨日発見した新しいバグを紹介したいと思います!』
もともとゲームが好きだった俺は、仕事をしていた時でも帰宅後にずっとゲームをしていた。特にゲームのバグや裏技を探すのが好きだ。今でこそ見つかったらすぐパッチで修正されてしまうが、昔のレトロゲーは未だにバグの宝庫である。まだ誰も発見していない新しいバグを探して、同じ趣味の人が集まる掲示板に投稿するのが唯一の楽しみだった。
減っていく一方の通帳を見て『働かないと』という感情は湧いてくるが、いかんせん脳みそが働くことを拒否している。自宅を出ずに、楽に稼ぐ方法を探した結果がYoutuberだった。
『有名Youtuberになって好きなことをして、働かなくて良いくらい金を稼いでやる!』と思って一念発起した結果、現実は非情だと思い知らされた。人はゲームのバグ動画なんて見ないのである。
俺のやり方が悪いのかもしれないが、今日の実況も視聴者は2人だ。ちなみに今までの最高は7人。最高再生回数は1482件である。もちろん食っていけない。
「はぁ〜〜〜〜」
視聴者が0人になったので、途中だが配信を切った。
もう人生どうしたら良いのかわからない。働きたくない。
「とりあえず飯買いに行くか……」
絶望的な気分になっても腹は減る。今日は両親が旅行に行ってるので自分で飯を調達しなければいけない。
外に出て、歩きながら道行く人を見渡すと、みなさん家族で幸せそうにしてらっしゃる。
(はぁ〜ゲームの世界に行きてぇ……)
どうしようもない現実相手に唯一できることは、現実逃避である。
(ここがゲームだったらな)
(ゲームの世界で魔法使いてぇ)
(ゲームの世界で若返ってイケメンになって人生やり直してぇ)
(ゲームの世界だったら最強になれるのに)
(この世界がゲームだったら……)
現実逃避しながらぼんやり歩いてた俺は、目の前に猛スピードで迫ってくる居眠り運転のトラックに直前まで気づかなかった。
気づいた瞬間、アドレナリンをドバドバ出しながら脳が久しぶりにフル活動したが、「2年間ニート生活をしていた34歳の瞬発力では避けきれない」と判断した脳が出した結論、それは……
「あ、詰んだ」
そうして俺は、34年の短い生涯を終えた。
そして次の瞬間目を開けると……目の前にゾンビがいた。