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汝、彼の迷宮を攻略せよ  作者: 明石 遼太郎
第1章 ランスロットの迷宮
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第7話 少年、新たな道を進め

 ここは、どこだ?確か俺は……俺?俺は()ーー


「痛ッーーああ゛っ!!」


 あ、頭がっ、痛いッ。痛い痛い痛い痛い痛いッ!!なんだッ、この痛みはッ……


「ハルト君ッ、大丈夫!?しっかりしてっ、ハルト君!!」


 ユキさんの声が聞こる。ユキ……?そうだ、思い出した。俺は、ゴブリンキングと戦って、勝って、それから……そうだ。俺、意識を失ったんだ。頭痛のおかげでようやく思い出した。


「ぐっ……ユキ、さん……」

「よかった……本当に良かった……戦いが終わるなり倒れちゃうから、このまま目覚めないんじゃないかって思って……」

「あぁ。ごめん、心配かけて……俺どれぐらい寝てた?」

「20秒ぐらい、かな」


 そうか。結構長い間眠ってた気がするけど、数秒ぐらいだったか……それにしても、ユキさん近いな。寝転がってる俺のすぐ横で膝を折って座ってるから、スカートの中見えそうなんだけど……俺が起きれば済む話か。


「よいしょ、っと。傷は……さすがにまだ塞がらないか」

「当たり前よ。しばらくは絶対安静なんだからね?」

「しばらくは、って言われてもな……またゴブリンが出たら戦わないといけないし」

「その時は私が戦います」

「いや、さすがに負んぶに抱っこは申し訳ないんだけど……」


 俺がそう言うと、ユキさんに睨まれた。有無も言わせないつもりだな……とりあえず、《活魔薬》飲んどこ。


「ゴクゴクゴクッ……苦ぇぇ……それで、俺が寝てる間に何かあった?」

「何も起きてない。ホントに数秒だったし」

「そっか……」


 俺は、大きなベットの方を見た。その上には、目を背けたくなるようなヒドい状態の死体があった。4人分。その全員が女の子で、何も身に纏っていない状態だった。俺の視線で、ユキさんも思い出したんだろう。悲しむように目をタラして、何かを噛みしめるように口を閉じた。多分、ユキさんの気持ちはユキさんにしかわからないだろう。その悲しさがどれほどのものなのかも、俺にはわかる知識も記憶もないのだから。


「安らかに眠れるように、埋葬してあげましょう」

「はい……」



 俺も動き出す気力も体力も戻って来たので、彼女たちを埋葬してあげることにした。最初は埋葬するつもりだったけど、よくよく考えたら地面が硬くて掘れないし、嫌な想いをした場所に埋めるのはどうなんだということになり、1人ひとりを丁寧に火葬してあげることにした。残った骨や遺品を、周りの木箱から出てきた金属製の箱に入れて、所有者登録をしたのちに、ユキさんの『道具』の中へと仕舞った。その間、ユキさんはずっと泣いていた。4人分の箱を前にして、ずっと何かを願うように。邪魔しちゃいけないと思った俺は、とりあえず木箱の中を漁った。


 中身の内容は、どうやら区分けされてるようだ。最初に開けた木箱には《リーゴ》が箱いっぱいに入っていた。その隣を開けても箱いっぱいの《リーゴ》が。さらに隣を開けても、そのさらに隣を開けても《リーゴ》。最終的に、木箱10個分の《リーゴ》が見つかった。……あとでユキさんと分けよう。次に出てきたのは干し肉だった。この洞窟に来て初めての肉だ。ちょっとテンションがあがった。けど、11箱もいらない。普通に飽きる。次に魚。これも9箱分。でも、当たり前だけど腐ってた。これはいらないな。


 さて、次は何の区画だろう?木箱全部同じだから想像もできん。お?なんだこれ?マント?いや、ローブっていうのか?他は、指輪とか帽子とか靴とか首飾りとか……結構バラバラだな。詳細を見てみるか。



 =========================

 ヴォレスローブ 499/499 無属性 所有者:なし

 *狂獣ヴォレイオスの強靭な皮で作られたローブ。斬撃に対する抵抗力が強く、刺撃でも途轍もない防御力を発揮する。魔力を使った攻撃にはすこぶる弱い*

 特殊能力:《物理耐性上昇》

 =========================



 と、特殊能力っ!?そんなのがあったのか!じゃあ、もしかしてこの中にあるもの全部そうなのか?



 =========================

 紅真珠の指輪 207/207 火属性 所有者:なし

 *紅い真珠がはめられた指輪。火属性の攻撃を吸収し、ダメージを肩代わりしてくれる。一度に吸収できる量は決まっており、それ以上は肩代わりすることはできない*

 特殊能力:《火炎吸収》

 =========================



 =========================

 使者の魔女帽子 145/145 無属性 所有者:なし

 *特殊な布で作られた魔女帽子。魔女帽子からコウモリの使い魔を呼び出すことができる。最大2匹まで。視界共有のみ可能*

 特殊能力:《使獣召喚》

 =========================



 =========================

 ソーレイブーツ 509/509 風属性 所有者:なし

 *狩鳥ソレラの羽と皮で作ったブーツ。空中を足場に跳ぶことができる。最大1回まで*

 特殊能力:《空踏跳躍》

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 =========================

 魔玉の首飾り 100/100 無属性 所有者:なし

 *魔力が結晶化した宝石がはめこまれた首飾り。常に小さな魔力障壁が展開され続け、魔力を使った攻撃の威力を削ぐことができる。物理攻撃にはなんの効果も発揮しない*

 特殊能力:《魔力障壁》

 =========================



 おぉ、やっぱりそうだ!特殊能力付きっ。こんな道具があったのか。これは装備できれば頼もしいぞ。あとは……ないのか。んー、せめて服ぐらいは欲しかったなぁ。もう《制服》の耐久力が0だし、前衛で戦うならもっと防御力のあるものが着たい。


「ハルト君」

「あ、ユキさん。……もう大丈夫なのか?」

「うん。地上に出たら、またちゃんと埋めてあげないとだけどね」

「それがいいよ。どうせ眠るなら、こんな洞窟の中より陽の光が当たる場所の方がいいしな」


 俺の言葉に、うんっと頷いてくれた。とりあえず、《リーゴ》や干し肉なんかを分けていこう。簡単に半分ずつで分けた。後から水筒が入った木箱が6箱出てきたからそれも半分にわかる。あとは特殊効果がついた道具だけど。んー、そうだな。


「《紅真珠の指輪》と《ソーレイブーツ》は俺にくれないか?他の3つはユキさんにあげるよ」

「え?でも、近接戦闘するハルト君なら物理耐性を上昇させる《ヴォレスローブ》は必須なんじゃ」

「まぁ、そうなんだけど。ローブだと動きが制限されるから、近接で戦うのに邪魔なんだよ。だから、不意打ちとかを考えてユキさんが身につけてくれ」


 そう言う事で、俺は《紅真珠の指輪》と《ソーレイブーツ》を、ユキさんは《ヴォレスローブ》と《使者の魔女帽子》、《魔玉の首飾り》を装備することになった。《スニーカー》も耐久力が0になっていたので、《ソーレイブーツ》に履き替えた。


 ちなみに、《スニーカー》は《使えないスニーカー》に名前が変わっていて、詳細文も『使い古されて使えない靴。ゴミ』とあった。とりあえず、使えなくなった物をゴミって言うのやめようか。


 あとは、武器も全部頂こう。アイツも死に際に全部くれるって言ってたし。アイツと戦った時に使った剣は折れちゃったし、武技の有力性もわかったからできるだけ剣は貰っていこう。と言っても、ほとんどが新品の《ゴブリンシリーズ》だな。できれば、もう少し耐久力のある武器をーー


「ん?これは……」


 《ゴブリンの剣》じゃない。鞘に収められて立てかけていた剣を手に取り、俺は詳細を見てみる。



 =========================

 騎士の剣 4637/4637 68% 所有者:なし

 *ありふれた片手直剣。騎士になった者に与えられることからその名がついた*

 =========================



 ありふれた剣の耐久力高ッ!!《ゴブリンの剣》の数十倍はあるぞっ!!どうなってんの!?しかも、表示されてるパーセンテージも50を切ってる。そう言えば、結局このパーセンテージについてわかってなかったな。ユキさんなら何か知ってるかな?あとで聞いてみよう。


 とりあえず、鞘から剣を抜いてみる。ありふれた片手直剣って書いてあったけど、刀身が綺麗だ。本当に《ゴブリンの剣》とは比べ物にならない。きっと、使われた素材から違うんだろう。ちょっと軽いような気もするけど……うん。振り心地もいいし、この《騎士の剣》をメインに使ってみるか。《剣技》にも磨きがかかりそうだ。



 =========================

 所有者登録をしますか?

 はい / いいえ

 =========================



『はい』のボタンを押して、次のものには『いいえ』を押した。とりあえず、装備してみるか。……どうやって?今まで鞘とかなかったから手で持ってるだけだったけど、鞘とかある場合どうなるんだ?何か、紐みたいなのがあればいいんだけど……


「お、これ使えそうだな」


 適当な紐があったので、それを鞘に巻いてベルトに繋げてみる。……戦ってる時、鞘が邪魔になりそうだな。んー、担いでみるか。


「あ、これなら行けそうだ」


 担いだ《騎士の剣》に繋げていた紐を前に持ってきて結んでみたら、結構身体に固定されていい感じだ。そこから背中の柄に手を伸ばして剣を抜いてみる。


「「おぉー」」


 なんか感動して声が出てしまった。ユキさんも俺と同じ声を漏らしてた。試しに、《アンラッシュ》を使ってみた。緑の閃が空中に描かれる。よしっ、いい感じだ。付いた血を払うみたいに剣を振って鞘に納める。


「あ、あれ?入らない……」


 鞘が見えなくて剣が納まらない……あ、あれ?ここら辺だよな?なかなか穴が見つからない。そ、沿って入れよう……ふぅ、なんとか入った……剣を納める練習しとこ。これじゃあ、最後が締まらなくなる。


 あとの《ゴブリンシリーズ》はすべての剣を俺が、すべての棒をユキさんが持つこととなり、他は半分ずつぐらいに分けて『道具』に入れた。


「そういえば、『道具』に入る上限とかあるのか?」

「それは1度試したことがあるけど、わからなかったわ。上限がないのか、あるいは入る個数が多いのか、この2択になったくらい」


 まぁ、上限がないのを証明するのも難しいよな。無限って言っても、大概は無限に近い形であって本当に無限なわけじゃないことだってあるし。幾らでも入れられても、本当にいくつでも入るわけじゃないしな。そこは難しいところだ。


「それじゃ、出発しますか」

「待って」


 準備も整い、この先に進もうとした俺を腕を掴んで止めてくるユキさん。振り返ってみると、なぜかとても良い笑顔のユキさんがいた。笑顔のはずなのに、放たれる圧がすごい。ちょっと、というかすごく恐い。


「ハルト君、今の君の状態わかってる?」

「え……えぇっと、傷だらけ?」

「満身創痍っていうのよ!まだ傷口だって塞がってないんだからっ、今は安静にしてなきゃダメでしょ!!」

「わ、わかったよ……」


 有無も言わさない圧だな……休めって言われても、いつゴブリンが来るかわからないから気の方は休まらないんだよなぁ。それに、アイツのベッドは絶対に使いたくないし。まぁ、多分地面でも寝れると思うけど……


「はい」

「……はい?」


 なんか、ユキさんが正座した状態で膝を叩いてるんだけど。え?そういうこと?いやいや、待て待て。そんなわけない。そりゃ男としては嬉しいけどっ。さすがにこれは俺の勘違いだろ。


「『はい?』って何よ。こんな硬い地面じゃ身体痛めるじゃない。だから、はい」

「いや。その『はい』もよくわからないんだけど……」

「ひ、膝枕よ……ほらっ、早く来なさいよ!」


 頰をちょっと赤らめて可愛い。じゃなかった。え、本当に膝枕?マジで?いいの?いいのか?本人の了承……ていうか、本人が言ってるのか。え、じゃあ……


「し、失礼します……」


 横になって、頭をそっとユキさんの膝の上に乗っけた。あ、これ良い。なんか、人の温もりを感じるというか、幸せな気持ちになる……


「ありがとうね、ハルト君」

「え?何が?」

「助けてくれて。あと、励ましてくれて。私に、また戦う理由をくれて」

「あ、あぁ……そのこと……」


 そう言えば、そんなこと言ったな……やっば、思い返してみれば、俺めっちゃ恥ずかしいこと言ってないっ!?あー、なに人様に語ってんだよ、俺ぇ……


「私もね。ハルト君となら、この先何があっても楽しいって思えるよ。だから、私も君を守る。目の前に脅威があったら、それを吹き飛ばして前に進もう」


 ーーなんだよ、嬉し過ぎて一瞬だけ心臓止まりそうになったぞ……まったく。


「そうだな。俺がユキさんを、ユキさんが俺を守る。2人で脅威を薙ぎ払って前に進む。もう最強じゃね?」

「ふふふっ、そうかも」


 ゴブリンキングを2人で倒したんだ。あんな奴がゴロゴロいるわけじゃないし、俺たち2人なら何にだって立ち向かえる。ん?なんか枕……じゃなかった、ユキさんの膝がクネクネと動き始めたんだけど。


「あ、あのね、ハルト君。その、返事なんだけどさ……」

「え?」


 返事?何のこと?


「も、もうちょっと待っててくれないかなっ。私の心もまだ決まってないから……ダメかな?」

「え?あぁ、まぁ、いいよ?」

「う、うん。ありがとう」


 俺は一体何の返事を先延ばしさせたのだろう?わからない。話が噛み合っているのか噛み合っていないのかすら、わからない。


「あ、そうそう。ハルト君、私のこと『ユキさん』って呼ぶでしょ?」

「え?何か変だった?イントネーション違った?」

「いや、そんな細かいところ気にしないから。なんで、さん付けなの?」

「初対面の人を呼び捨てにするのは失礼でしょ?」

「結構まともな正論だね……」


 まともな正論とは失礼な。一般常識でしょうが。


「それなら、私たちはもうパートナーなわけだし、さん付けはおかしいよね?」

「あー、確かに。それじゃ…………ユキちゃん?」

「なんで、ちゃん!?そこは呼び捨てにする流れでしょ!?」


 え、そうなの?ちゃんはちゃんで親しみを感じると思うだけど……


「じゃ、じゃあ……ユキ。これでいいか?」

「うん。よろしい」

「それじゃあ、俺のことも君付け禁止な」

「えっ?そ、そうよね。うん、わかってる。は、ハルト」


 めっちゃ目を閉じて顔を真っ赤にしてるけど、そんなに発音とか難しくないだろ?まぁ、いいけどさ。そのあとは、俺の身体が回復するまで話をした。内容は、ユキの友達について。無神経のように思うかもしれないけど、俺はどうしても知っておきたかったんだ。俺が救えなかった人たちのことを。そして、ユキの大切な人たちを。その間、ユキは泣かなかった。俯かず、しっかりと前を向いていた。やっぱり、ユキは強い奴だ。力の強弱じゃなくて、人として強い。俺はそう思った。


「それじゃあ、そろそろ行こう」

「うん。もう大丈夫そうだね」

「ああ。正直、あんなボロボロの身体がここまで治られると、ちょっと恐いんだけどな……」


 擦り傷なんかはともかく、斬られたところまでちょっとした傷痕みたいにまで戻られると、ちょっと人間やめたみたいで恐い……まだ紅い血だしまだ人間な、はずだ。多分。


 俺たちが来た方とは正反対の場所を探ってみると、奥に進むための道があった。ここまでほぼ一本道だったし、出方があるとすればこの奥だろう。そんな感じで進んでいく。一応警戒のためにユキが《エアサーチ》してくれてる。できるだけ足音を立てずに進んでいったけど、ゴブリンとは遭遇しなかった。


 それから10分ぐらい歩いて、ついに光が見えた。揺れる光じゃなくて、外からの日光が。


「ついにっ」

「外だっ」


 俺たちは興奮したように声を上げて走り出し、



 念願の外へと踏み出した。

明日の18時にハルトとユキの現在のウィンドウを投稿します。予定通り、8日の18時から週一投稿を開始します。

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