第6話 少年、ゴブリンキングを討ち破れ
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・ゴブリンを倒しました
ーーゴブリンの牙×2 を獲得
・ゴブリンを倒しました
ーーゴブリンの牙 を獲得
・ゴブリンを倒しました
・ゴブリンを倒しました
ーーゴブリンの牙×2 を獲得
***********中略************
・ゴブリンを倒しました
ーーゴブリンの牙 を獲得
・レベルが3に到達しました。
・レベルが4に到達しました。
・レベルが5に到達しました。
ーー技能《治癒力上昇》 を習得
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「終わった……のか?」
がむしゃらに戦っていたら、いつの間にかゴブリンが全滅していた。俺は血塗れの小斧と棍棒を手放して仰向けに倒れ込んだ。あー、終わったー!!魔力もすっからかんだし、すげぇしんどい……あ、
「こういう時の《活魔薬》か」
俺はウィンドウを開いて、『道具』から《活魔薬》を取り出した。改めて見ると、これって飲んで大丈夫なものなのか?毒とまったく同じ色してるぞ。まあ、詳細文にはそれらしいことは書いてなかったし、大丈夫なんだろうけど……一気に飲み込むか。
「ゴクゴクッ……うえぇ。さすが薬草……驚きの苦さだな」
でも、これで体力も魔力も速く回復するはずだ。そうだ。さっきウィンドウに出てきた新しい技能でも使ってみるか。《治癒力上昇》。……特に何も起きないな。まあ、《筋力上昇》とかも見た目じゃわからないやつだったし、時間経過でどんなもんか確認してみるか。それにしても……
「ユキさん、遅いな」
どれぐらい時間が経ったかはわからないけど、ゴブリンが全滅する程だからそれなりの時間が経過したはずだ。それでもまだ帰ってきてないとなると、迷子になっているか、もしくは、
「想定外の事態になっているか、だよな」
だとすると、俺ももたもたしていられない。身体は、《活魔薬》か《治癒力上昇》のどっちかまたは両方のおかげでだいぶ活力を取り戻した。しまったな。2つ同時に使うと、正確な経過が見れないな。次は気をつけよう。さて、小斧と短剣を拾って行きますか。
そうして、俺は進んだ。それで開けた場所に出たと思ったら、ユキさんがデカいゴブリンに襲われていたから間一髪で割り込んで大剣の軌道を晒して、そいつの鼻目掛けて膝蹴りを叩き込んでやった。そしたら、ユキさん泣いてるし、ユキさんの友達は酷い有り様になってるし、ユキさんは生きる理由がなくなったとか言うし。はあ……
「自分が何者で、どんな奴かも思い出せない。自分が今まで何を糧に生きてきたのか、何を目標に生きてきたのか。そんなことすら、俺たちは忘れてしまった」
「……ぇ?」
俺は自分の不安を……いや、おそらくここにいる者全員が抱えている不安を吐露した。思い出せないことに対する不安。必死に思い出そうとすれば強烈な頭痛が待っているのだがら、尚不安になる。
「突然こんな何もない場所に来て、危険なモンスターが蔓延る洞窟の中で生きる希望を見出す。そんなの、できるわけがない。数日この洞窟で1人だったら、俺は間違いなく自害する」
「ハルト君……?」
できない。生きることに必死なつもりになって誤魔化して、その不安を忘れようとするけど……結局はふと考えてしまう。それが辛くて、しんどくて、楽になりたくなる。
「正直、俺も死にたい。ただ危険しかない場所に、俺は居たくない。死ぬタイミングが目の前にやってきたら、簡単に受け入れてしまうんだろうな」
「……」
何も考えず、何も思わない屍になれば、楽になる。いつしかーーいや、自然とそんな考えがすぐに浮かんでしまう。冗談だったとしても、すり減っていく精神がそれを許す。俺だって、1人で生き続けてたら、そうしてたかもな。
「でも、危険だけじゃなかったから」
「え?」
そう、危険だけじゃなかった。俺だけじゃ、なかった。
「ユキさんがいた」
「ーーッ」
ユキさんが、いてくれたから。不安ですり減っていく心の中で、ユキさんがストップをかけてくれた。別に特別な言葉をくれたわけじゃない。特別なことをしてくれたわけじゃない。ただ、人といる暖かさを教えてくれた。俺の大切になってくれた。
「ユキさんが居てくれたから、この洞窟の中でも楽しいと思えた。この人だけは、死なせたくないと思った」
「ハルト君……」
これが終わって、無事にユキさんの友達を助けられたら、自分とも友達になって欲しいって言うつもりだったけど、今言うのは非道だろう。だから、せめて見ていて欲しい。あのクソ野郎を倒すところを。アイツを倒して、俺たちは未来に進むんだってところを。あれ?ユキさんの顔が赤い。ケガはないって言ってたけど、本当はどこか悪いんじゃないか?《活魔薬》を渡しておこう。
「これ、飲んどいて。《活魔薬》っていう魔術薬で、飲むと体力とか魔力の回復が速くなるから」
「え……でも……」
「戦えるようになってからでいい。いや、戦わなくたっていい。でも、見ててくれ。俺が戦ってるところを。今の俺の生き甲斐を」
「う……うん、わかった」
よし。俺は振り返ってゴブリンキングとかいう奴に歩み寄る。アイツも大きな身体を揺らして歩いてくる。アイツ、膝蹴りを入れた時、怯んだだけでダメージらしいダメージは喰らってなかった。ユキさんのレベル3の魔術でも倒せなかったらしいし、相当タフなんだろうな。武器も急いで来たせいで全くないし、残り耐久力も自信がない。俺の攻撃でどこまでダメージを与えられるか……
「俺ハ男ニハ興味ガナインダ。サッサト死ネ」
「奇遇だな。俺もお前みたいなモンスターにはまったく興味がなんだ。けど……お前がしたことは絶対に許さない。両腕持っていかれようが、お前を殺す」
「フンっ。俺ヲ殺スノニ、両腕ダケジャ足リネェナ!!」
アイツが大剣を振り上げて、俺に向かって振り下ろしてくる。《敏捷上昇》!前に出て大剣の間合いよりも内側に入る!!そのままアイツの股下を潜るように滑り込んで、通り抜けざまに小斧で足を斬った!ッ、なんて手応えだッ。大樹を殴ったみたいな硬さだぞッ!!
「フンっ!!」
「ぐぅぅっ」
股下を抜け切った俺に大剣の横振りを振るってくる。小斧と短剣で受け止めるが、2mの巨体から振るわれる力を受け切ることはできなかったッ。俺の身体が軽々と吹き飛ばされる。地面を何度もバウンドして壁側に集められていた木箱に衝突した。ユキさんから叫び声が聞こえてくるが、頭が強く揺らされてよく聞こえなかった。
「グァアっ!」
「くっ」
また大剣を振り下ろしてくるッ。素早く立ち上がって全力で横に跳んだ。さっきまで俺がいた場所に大剣が振り下ろされて、途轍もない強風が吹くッ。《筋力上昇》っ!!強風に抗うようにアイツに接近する!!
「死ネェっ!!」
「ハアッ!!」
振り向きざまに振るわれた大剣を姿勢を低くして躱した俺は、アイツの膝を足場にして跳躍!顔面まで来たところで小斧を脳天に叩きつけるっ!アイツの頭から血を噴き出されることに成功する。でも、その一撃で小斧の刃が砕けた。そんなことは知らんと空中で身を捻り、左手に持つ短剣を傷ついている眉間に突き刺した!
「グァァっ!……キ、貴様ァァァァアアアアアアアアアアっ!!!!」
短剣は頑丈な肌を突破して突き刺さった。けど、突き刺された痛みで激怒したアイツは無造作に俺を掴み上げて地面に叩きつけてきた。
「がばっ」
地面に叩きつけられた拍子にっ、内臓が傷ついたらしい……口から血が飛び出てきた。口の中を噛んで意識だけは取り止めた俺は、受け身を取ってすぐに起き上がる。《矢》っ!!俺は矢を念じて手に取ると、弓を使わずに投げた!弓を使うよりこっちの方が実用性があるから。そうすれば、矢は眉間を押さえている指の隙間を抜けーー
「グア゛アァァァァァァァァッ!!」
アイツの左目に突き刺さった。たくっ、喚きたいのはこっちだっての。せっかく治りかけだったところだったのに、また傷口が開いたし。《治癒力上昇》。これも治癒力を高めるだけだから直接的な治癒にはならないんだよ。特に内臓なんて治る速度遅いんだからめっちゃ痛いし。
「ぷっ」
とりあえず、口の中に溜まった血を吐き出した。唇についた血も袖で拭う。《ゴブリンの槍》。呼び出した槍を握る。
「ギザマ゛ァァッ、ギザマ゛ァァッ!!許サンッ!絶対ニ許サンッ!!殺スゥッ、殺ス殺ス殺スゥゥ!!!!」
アイツの殺気が面倒なぐらい濃くなっていく。さっきの考えられた武術はどこかに行ったみたいに乱暴な動きだ。大剣を力の限り振るったのだろう。躱したはずなのに、途轍もない剣圧が吹いて飛ばされたッ。身を捻って無事に着地するけどっ、アイツの乱暴な剣は止まらないッ!!
「ガガア゛ァァアアアアッ」
大剣が水平に振るわれるッ。姿勢を低くして躱して吹き飛ばされないように耐える!剣圧が収まって前に出ようとすれば、今度は上から大剣が振り下ろされるッ。転がり込んで回避する。素早く立ち上がって駆け出す。一気に槍の間合いまで詰めようかと思っていたが、大剣が薙ぎ払われる方が速かったッ。跳躍して回避っ。このまま槍をアイツの眉間にーー
「ア゛ラ゛ァァッ!!」
「なっーーがあっ」
アイツっ、俺が躱せないところを狙って殴ってきやがった!!咄嗟に槍で防ぐけど、一気に耐久力が持っていかれて俺も殴られた。ぐはっーー壁に衝突して下にあった木箱を巻き込みながら落下した……今のパンチはっ、ヤバいッ……み、身動きが、取れないッ……マズいっ、アイツが近づいてくるッ!
「死ネェェェェェッ!人間ッッッッッッッッッ!!」
身動きの取れない俺に、トドメの一撃とばかりに大剣を振り下ろす。ヤバっ死ーー
「〝雪の子は汝を守護する結晶とならん〟ッ!!」
大剣が俺に到達する直前、俺と大剣との間に雪の結晶が現れた。その結晶はアイツの一撃である大剣を受け止めた。これは……氷属性の魔術!?まさかーー
「ユキさん!!」
「〝穿つ意志よあれ〟!」
そこを向けば、ユキさんが術式を綴って攻撃していた。術式がそのまま収束して集まったみたいな球がアイツに放たれるけど、大剣の腹で受け止めた。
「〝穿つ意志よあれ〟!!」
「ちっ、鬱陶シイッ!!」
第2射が放たれるけど、アイツはあっさりと大剣で薙ぎ払った。それから標的を俺からユキさんに変えーーそうはさせないっ!!来いっ、《ゴブリンの短剣》!!
ようやく動くようになった身体を起こして駆け出す。右手に短剣を握ってアイツの足元へ。そこに俺がさっき小斧で斬った小さな傷痕がある。その線に沿うように短剣を振るう!さっきは出なかった血が盛大に噴き出した。クソッ、深く斬り込み過ぎて短剣が抜けないっ。
「死ネェ!死ネッ死ネッ死ネェェ!!」
「死なないっ!!」
アイツががむしゃらに拳を突き下ろしてくるけど、俺はどうでもいい言葉を返しながらバックステップする。《ゴブリンの棒》!!そこから未だに短剣が突き刺さっている眉間目掛けて突きを放つ!!だけど、それをアイツに勘付かれて顔を晒されたっ。眉間じゃない右頬に炸裂するッ。
「死ィィネェェェェェッ!!」
突きを放ち終えた俺に、片手での袈裟斬りが振るわれてくるっ。棒で受け流そうとしたけど、受け流せるような力じゃなかったッ。棒を真っ二つに斬られ、俺にまで大剣が伸びてくるッ。ヤバいっ!咄嗟に身を仰け反らせるけど、完全に躱せなくて吹き飛ばされたッ!!
「がばっ」
「ハルト君っ!」
背中から大量の武器が集められている場所に突っ込んだ。衝撃で腹部から血が噴き出すけど、俺は痛みを噛み締めて声を上げるっ。
「止まるなっ!!」
「ーーッ。〝輝く冷気で凍え拘束せよ〟ッ!!」
俺の声が届いたのか、ユキさんは凍結の魔術を発動してアイツの動きを止めにかかる。
「甘ェンダヨッ!!」
だけど、襲いかかった冷気はアイツが振るった剣圧で明後日の方に吹き飛ばされた。チッ、怒っている割に頭の回る奴だなッ。ぐっーーちょっと無茶し過ぎたな……傷口が完全に開き始めた。《活魔薬》を飲みたいところだけど……アイツが許してくれるわけないか。武器は……もう『道具』の中にはないか。この剣を使おう。
「〝無貫の障壁よあれ〟ッ!ハルト君っ、大丈夫!?」
アイツが振るってくる大剣を術式の障壁で止めながら、ユキさんが振り返って聞いてくる。
「大丈夫だ。まだいけるっ」
俺は障壁を回り込むように駆け出し、アイツに迫る。アイツは俺を見るなりニヤリと笑った。満身創痍だと思っているのだろう。だけど、さっきから感じるのだ。まるで、「やれ」と訴えてくるみたいに身体が自然と動く。
アイツが大剣を振り下ろしてくる。それに対し、俺は地面を強く蹴って加速した。振り下ろしている間に大剣の間合いを抜け、俺の間合いに入り込む。剣を握る右手が熱い。よく見れば、俺が握っている剣の刀身が黄色く発光していた。そうか、これがーー
レベル1垂直単発《剣技》ーー《サイライト》ッ!!
振り上げた剣を振り下ろす。自然と身体がそうさせて、アイツの腹を斬り裂いた。
「グガッ!ナ、何ダ今ノハ!?貴様ッ、何ヲシタ!?」
アイツが何か喚いているけど、俺は放った技に夢中だった。これが、武技っ。これが《剣技》っ!普通に剣を振るうよりも何倍も威力がある!!これならっ、いける!!
「ハアアッ!!」
「くそガァァァッ!!」
剣を振るう。アイツは大剣で防ぐ。そこから大剣を振るってくるので、剣で受け止めた。でも、受け止め切れないのは経験済みだ。大剣と剣が接触した瞬間に力を抜いた。余分な力に振り回されたアイツが大勢を崩して隙を見せるっ。そこに、もう一度《剣技》を叩き込む!!
レベル1単発突き《剣技》ーー《スペン》!!
至近距離から放たれた突きがアイツの胴体に深々と突き刺さるっ。すぐに剣を抜いてもう一撃ッ。ぐっーー剣を振るおうとしたタイミングでアイツの前蹴りを喰らった。地面を転がって起き上がって突っ込む!
アイツと何度も剣を交えるっ。体格差で負けていても、速度では負けない。でも、途轍もない膂力にはどうすることもできず俺の身体に切り傷が増えていく。でも、俺だって負けていない。致命傷はないけど、着実にダメージを与えられているっ!
「ハァァッ!!!!」
「ガァァァッ!!!!」
アイツの大剣と俺の剣がぶつかり合う。普通にぶつかり合えが間違いなく俺が負けるけど、《剣技》を使えば互角だ。《サイライト》の光が宙に散る中、俺とアイツは互いに弾かれ合って吹き飛ぶ。踏ん張ったおかげで10mぐらいで止まった。
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・熟練度《剣術》が20に到達しました
ーー《剣技》レベル2《スネークド》
ーー《剣技》レベル2《アンラッシュ》
ーー《剣技》レベル2《タイラ》 を習得
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え?これって、敵を倒さなくても上がるのか。というか、20になるの早いな。さっきまで10だったのに、もう20って。他の武器の方が結構使ってる気がするぞ。まあ、いい。レベル2だからな。身体が早く使えってうずうずしてる。
剣を上段に構えれば、刀身が水色に発光する。それに敏感に反応したアイツは大剣を構えていつでも対応できるようにした。そこに、俺は突進する。途轍もない勢いで。間合いを一気に殺すつもりで。
「ハァァッ!!」
レベル2単発突進《剣技》ーー《スネークド》!!
懐に入った俺は剣を振り下ろす!アイツは大剣で受け止めたが、勢いを完全には殺せずに後方へと押し退けて行った。踏ん張って止まったアイツは、そこから飛び出して大剣を大きく振るってくるッ。《筋力上昇》!真正面から迎え討つ!!
レベル2水平二連撃《剣技》ーー《アンラッシュ》ッ!!
緑に発光した剣を右から水平に振るって、振るわれてくる大剣にぶつけた!《筋力上昇》したとはいえ、真正面から勝てるほどの筋力はないっ。負けられない押し合いが続く!
「ぐぐぐッ」
「ウォォォッ」
押し合うっ、全力で!でも、振り切れないッ。アイツにも巨体ゆえのプライドがあるんだろう。力が緩まることがないッ。マズいっ、このままだと押し切られるっ!!
「〝氷結に散りばめて敵を撃て〟ッ!!」
「ーーッ。ナニっ!?」
だけど、忘れちゃいけない。俺が1人じゃないことをっ。例え、レベル1の魔術がアイツに何のダメージも与えられなかったとしてもっ、その気を一瞬でも晒してくれれば押し切れるっ!!
「ダァァァッ!!」
「シマッーー」
1撃目を振り抜いた俺は、もう一度強く踏み込んで返す刃の2撃目を放つ!その剣はアイツの大樹のような左腕を斬り裂き、血とともに宙を舞った。
「グオォォォォォォォッ!!フ、フザケルナっ!俺ハごぶりんきんぐダゾっ!!コンナ人間ゴトキニっ、負ケルワケガナイィィィィッ!!」
「なっーー」
アイツっ、まだ動けるのか!?咄嗟のことで振り下ろされる大剣を回避することができないっ。俺は剣を掲げて受け止めることにしたッ。
「ぐうぅッ」
お、重いッ!さっきの比じゃないぞっ。火事場の馬鹿力ってやつかっ!?《耐久力上昇》!!ぐあっーー魔力が無くなり始めた……何だかんだで技能使ってたからなっ。でも今はマズいって!!大剣が俺の左肩に食い込み始めてるっ。押し返さないとッ……!!
「〝光の線を結んで捕縛せよ〟ッ!!」
そこに、ユキさんの魔術が発動した。術式がバラバラのところに散ってアイツを囲むと、それぞれが起点となって線を伸ばす。その線がアイツの身体に巻きつき、縛り上げて拘束したっ。
「長く保たないっ。早く離脱して!!」
「ーーっ。わかった!」
一瞬だけユキさんの魔術を見入ってしまったけど、ユキさんの声で我に返ってユキさんのところまで退がる。
「ありがとう、ユキさん。助かった」
「ハルト君が斬り込みで、私が支援。当たり前のことをしたまでよ。それよりも大丈夫?《ヒール》しようか?」
「いや、いい。それより、残り魔力はどれぐらい?」
「レベル3をあと1回撃てればいい方。レベル1なら、あと数回使えるわ」
「そうか。なら、俺が時間を稼ぐ。その間に、ユキさんは残り魔力すべて使ってレベル3の攻撃魔術を使って欲しい」
「いいけど……ハルト君の身が保たないわ」
「大丈夫だ、まだいける。武技の使い方もわかってきたし、時間を稼ぐぐらいなら余裕だ」
「……本当に?無茶してない?」
「…………なんで?」
「だって、ずっと張り切ってるよ?ハルト君。身体だって傷だらけだし、今はよくても次は身体が動かせなくなるかもしれないよ?」
「……まぁ、その時は看病頼むよ。今は無茶しないと勝てないから、無茶をさせてくれ」
「…………はぁ、わかった。気をつけてね」
「ああ。ありがとう」
まだ会って半日も経ってないけど、結構見られてるんだな……まぁ、無茶しないと負けるのは確かだ。ユキさんの心配してくれる言葉は嬉しいけど、今は自重なんてしてられないんだ。
俺とユキさんの話し合いが終わった途端、アイツは光の線を無理矢理引き千切って拘束を解いた。ユキさんが言った通り、長くは保たなかった。まぁ、打ち合わせも終わったし、十分な時間拘束してくれたと思うけどな。
「ガアァァァァァァァッ!!!!」
もう人の言葉も喋らずに迫ってくるアイツから、ユキさんを死守しなければならない。ユキさんはもう術式を綴り始めている。邪魔されないように、俺が盾にならなくちゃならないっ。
「ハァァァァァァァァッッ!!!!」
俺は前に飛び出す。アイツの大剣と真正面から打ち合う。時に躱し、時に受け流し、時に《剣技》を使って、アイツの攻撃を無力化するっ。何度も腕が持っていかれそうになりながら、互いに傷を増やして攻防する!
「ハァァッ!」
「ガアァッ!!」
アイツが大剣を水平に振るってくるっ。身を捻って躱すが脇腹に浅い傷ができたッ。ぐっーー《アンラッシュ》っ!!1撃目で大剣を弾いて2撃目をアイツの巨体に叩き込む!身を引かれてそれほど深い傷にはならなかったッ。
今度は上から大剣を振り下ろしてくるっ。《サイライト》ッ!!黄色く発光する剣を大剣に叩き込む!さっきは重たい一撃に潰されそうになったがっ、今回は《剣技》を持って弾き上げた。がら空きになった胸元にっ、《スペン》を叩き込む!!
「グオッ……ガァァァァァァッ!!」
「ヮアアァァァァァァァァァァッ!!!!」
そこから覚えているのは、激しい剣戟と甲高い音だけ。何をどうしたとかは覚えていないし、考えたら反応できないと思ったから。
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・熟練度《剣術》が30に到達しました
ーー《剣技》レベル3《スロンネイト》
ーー《剣技》レベル3《ネルレイド》
ーー《剣技》レベル3《ロウスパイク》 を習得
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視界にぼんやりと映るのは、剣の影と激しく散る火花だけ。ただ、がむしゃらに叫んでいたことは何となく覚えてる。
「ハァァァッ!!」
「オラァァァッ!!」
互いに振りあった剣がぶつかって、互いに弾かれ合う。そこで、俺の後ろから凛とした声がした。魅かれるように振り返れば、そこにはユキさんが術式を綴り終えて呪文を唱えている姿だった。なぜか、俺はその姿を見入っていた。細い指をピンッと伸ばし、長く綺麗な黒髪を靡かせる姿に、俺は戦いのことも忘れて見惚れてしまった。
「〝光の槍に貫かれーー魔を滅せよ〟ッッ!!」
術式が紐解かれて、形作る。光り輝く1本の長槍を。その穂先が一点、アイツを定める。
「行っけええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」
そして、射出された。ユキさんの気合いの掛け声と同時に放たれた光の槍は、弾かれたところからまだ立ち直っていないアイツへと襲いかかる。一直線に進む槍は、アイツの額へと吸い込まれていきーー
「舐メルナアァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
アイツが大剣を振るって、光の槍を迎え討つ。とんでもない光が周囲を照らし、眩しくて腕で目を覆った。アイツが雄叫びをあげ続ける。まだ光は収まらず、何かが砕ける音とともに収まった。覆っていた目を開いてアイツへと視線を向ける。
そこには大剣が根っこから折れ、右腕に酷い火傷のような痕を残しているアイツが立っていた。その顔は「してやったり」とでも言うかのように口端を釣り上げている。完全に万策尽きた、とでも思っているのだろうか。
「まだだっ!!」
俺は、剣を構えて肉薄する。刀身が赤く光る。こんな《剣技》あったっけ?と思いながらも、俺は身体に言われるがまま技を放つ。
レベル3三連撃《剣技》ーー《スロンネイト》!!
薙ぎ払い、右下からの斬り上げ、そこからの垂直振り下ろし。計3つの斬撃をアイツの胴体に叩き込むっ。右腕を犠牲にしてでも防ごうとしたようだが、その右腕自体が動かなかったようで3閃ともアイツに刻みつけた!今までにない手応え。
巨体がグラリと揺れて膝をつく。アイツの嗤っていた顔が歪む。それに何の理由があるか、俺にはどうでもよかった。ただ静かに剣を上段に構えるだけ。刀身が黄色く光る。
「ヤ、ヤメロッ。オ、俺ガ悪カッタ!許シテクレッ!!ソ、ソウダッ。ココニアル宝全部オ前ニ遣ルッ!ダカラッ、命ダケハ取ラナイデクレッ!!」
「ーーーーお前が殺した女の子たちも、きっとそう言ってただろうな。でも、お前は殺した。理不尽に。……なら、お前も死ぬ覚悟ぐらいできてるだろ?」
「イ、イヤッヤメロ!!」
もう何も聞かない。跳躍して、アイツの首を斬りとばす。そうすれば、アイツは何も言わずに黙った。これから先、アイツが喋ることは一生ないだろう。
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・ゴブリンキング《ンゴ》を倒しました
ーーゴブリンキングの大牙
ーーゴブリンキングの隻眼
ーーゴブリンキングの大爪×10 を獲得
・《ゴブリンの洞穴》を攻略しました
・《リザードマンの湖沼》が解放されました
・レベルが6に到達しました
ーー技能《魔力効率上昇》 を習得
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終わった……終わった。死にそうだけど、勝った。俺はユキさんへと振り返ーー
「あやっぱ無理だわ」
自然とそう呟いて、意識を落とした。