第11話 少年、鍛治を学べ
《天空塔》から戻ってきた俺とユキとミチル。途中で見つけた鳥を投擲で堕としたり、襲ってきたイノシシを《短剣技》のレベル2の実験台にしたりして昨日焚き火をした場所まで戻ってきた。
「アリさんたちはまだ帰ってきてないみたいだな」
「……ナナミは頑固。……必要な数が揃わないと絶対に帰ってこない」
あー、何となく想像がつくよ。ナナミさん、確かに頑固そうだ。
「……みんなが帰ってくる前に武器の手入れをする」
「武器の手入れ?」
「……?……うん」
俺が聞くと、ミチルはキョトンとした顔をして『道具』から何やら板を取り出した。地面に敷く用の布も取り出してその上に板を置く。板を水筒に入っている水で濡らしてから、短剣を抜いた。そして、短剣の刃を板に何度も擦り付ける。この動作って、もしかして……
「刃を研いでいるの?」
「……うん。……さっきの戦闘で刃が毀れたから」
俺が言う前にユキが言った。あー、じゃあ、板は砥石だったのか。へぇ、こんな感じなんだ。
「……さっきの戦闘は激しかった。……本当ならメンテしたいけど、わたしの《鍛治》じゃこれが限界。……してみる?」
「いいのか?」
「……うん。……ハルトの剣も相当ガタが来てそうだから」
ということで、ミチルに研ぎ方を教えてもらった。まず、砥石を水に濡らして、っと。刀身は長いから数回にわけないといけないらしく、まずは剣先から。角度も重要で結構細かい指示が出た。何分かやってるとドロみたいなのが出てきた。水で流そうとしたら叩かれて止められた。なぜに?研ドロ?なにそれ?その上に水を滴らしで研ぐと刃付けが良くなるの?へぇ、すごいんだなぁ。あと角度は絶対固定とか。刃が傷んで脆くなるらしい。そんなこんなで次のところを研ぐ。根元までいったら、今度は裏面を同じ工程で研いで完成。あとは濡れていないタオルで刀身を綺麗に拭けば出来上がりだ。じ、時間がすげぇかかった……1時間はやったわ。あれ?ユキとミチルは?
「……ん。……上手。……わたしより上手い」
「ありがとう。ミチルの教え方が上手だからだよ」
少し離れたところでユキがタオルを縫っていた。いや、よく見るとイノシシの皮だ。あ、裁縫を教えてもらっていたのか。へぇ、そんなことまでできるのか。
「……ハルト、終わった?」
「ああ、何とか。それにしても研ぐのってすごいんだな。《騎士の剣》が初めよりも輝いてるよ」
「……ん。……ルミが帰ってきたら本格的な鍛治を教えてもらうといい」
「ルミちゃん?ルミちゃんって鍛治ができるの?」
「……できる。……わたしたちの鍛治士の弟子がルミ」
ルミちゃん、見た目に寄らず鍛治をしていたのか。すごいな。帰ってきたら教えてもらおう。て、そういえば、まだ帰ってきてないのか。材料が見つからないのかな?と、そんなことを思っていたら帰ってきた。
「珍しい鉱石を発見してな。取るのに時間がかかってしまった」
「す、すいません」
「いいんですわよ。わたくしも珍しい植物を見つけると、つい観察したくなりますもの」
「……ナナミは自重するべき。……1時間も花を眺めてた時は気絶させてやろうかと思った」
そ、そんなことがあったのか……てか、ミチルは地味に過激だな。まぁ、何となくわかってたけど。そして、相変わらずカナちゃんに恐がられてるな……ルミちゃんの後ろでずっと俺を見てるよ……んー、どうしたものか。
「刃研ぎをしていたのか?」
「ああ。実は《天空塔》のモンスターと戦ったんだけど、どうもモンスターが強くなってるみたいなんだ」
「モンスターが強く?」
扉に触れるとレベル2のモンスターが出てきたこと。モンスターがハロウィンモンスターじゃなく、黒騎士モンスターになっていたことを説明する。
「ふぇー、そんなことがあったんだー」
「ナイトゴーレムか。武技をものともしない硬さは厄介だな」
「今度は5人で挑もう。そうすれば、無謀な戦いじゃないだろうし」
「……ん。……今度こそ短剣の錆にしてくれる」
アイツを倒してもレベルアップしなかったからな。《剣技》はレベル4になっても、まだ身体的な不安は残ってるからな。結局はアイツに挑まないといけないのなら、せめて人数を増やして戦った方が連戦ができるだろう。
「……でも、挑戦は午後から。……ルミに武器のメンテをしてほしい」
「はい、わかりました。ハルトさんとユキさんもメンテしますか?」
「私は使ってないから大丈夫だよ」
「俺はお願いしてもいいかな?」
「はいっ。任せてください!」
ルミちゃんは満面の笑顔で了承してくれた。少し離れたところで術式を綴って台を作り始める。あれはなに属性なんだろう?土や岩に関する属性なのはわかるけど、正式な属性とかあるのかな?あ、『道具』から鎚を取り出した。それで柄をいろんな角度から見たり触ったりした後、台に乗せて柄部分を打つ。鍛治って火を使って鉄を打つイメージだったんだけど違うのか?
「どうかしましたか?ハルトさん」
「え?あー、鍛治って火で鉄を熱して打つと思ってたから」
「あぁ。鉄を鍛えるのは強くしたり形を整える時ですから、今回はしません。今は柄とか鍔が曲がっているところを直すだけですから」
「へぇ、鍛治にもいろいろとあるんだな」
「よかったら、鍛治してみますかっ?」
「いいの?」
「はいっ。さっき面白そうな鉱石を見つけたのでそれを使ってーーあでも、素材がないです。どうしましょう?」
「素材、か」
そういえば、あれって武器の素材になるんだったっけ?ウィンドウを開いて大量にあるあれを1つ出してみる。
「これ、使える?」
「これは、《ゴブリンの牙》。はいっ、立派な素材です!あ、でもこれだけじゃ短剣も作れないのです……」
「そうだな、何個ぐらいあれば足りる?」
「ご、50個ぐらいです……」
「50個、か。ーーはい。これで作れそう?」
え、あれ?ルミちゃんが固まってる。目が剥きすぎて目玉飛び出そうになってるっ。どうした!?
「ご、50個……本当に50個……」
「る、ルミちゃん……大丈夫か?」
「こ、こんな数っ、どうやって集めたんですか!?」
「え、あ、あー、ちょっとゴブリンの溜まり場みたいなところを襲ったから。1000匹ぐらいいたし、まだ900個以上は残ってるよ?」
「ハアァ」
ルミちゃんが白目剥いた!?直立状態で石化していらっしゃる!マジでどうした!?
「ルミちゃんっ、大丈夫!?しっかりして!!」
「ハッ。ご、ごほんっ……大丈夫です。早速短剣を作りましょうっ」
「お、おお」
空元気みたい見えたんだけど……なんか触れちゃいけない気がしたから触れないでおこう。ルミちゃんが術式を綴って窯を作ると、また術式を綴り始める。今度は火属性で、釜の中に火を着けた。て、熱ッ。ここからでもすごい熱なんだけど!!
「まず、この牙を火に当たらないように軽く熱して弱めに叩きます」
トングみたいなので牙を窯に入れてすぐに取って、台に乗せて伸ばすように鎚で打つ。それを5回ぐらい繰り返して、『道具』から取り出した大きな壺の水の中に入れた。パキッて音が連続で聴こえてくる。抜いてみると結構小さくなっていた。今度は俺がやってみる。て、やっぱ熱ッ!ルミちゃんよく平気だな!!うぉ……軽く打ってるのにすごい火花っ。てえれ?全然伸びない……ルミちゃんにコツを教えてもらった。どうにかルミちゃんと同じぐらいの形になった。それを40回ぐらい繰り返すと良くなってきた。
それから50個砕いて破片をフライパンの端が板みたいになっているやつの上に6枚ぐらい重ねていく。注意事項で隙間のないように欠片を入れて埋めるとか。そこから釜に入れて溶かしたところで抜いて打つ。うわっ、鍛治っぽい!でもめっちゃ熱そうっ!!さっきと同じぐらいの板になるまで打った。今度は俺が打った。やっぱめっちゃ熱い……さっきよりも火花ヤバい!これ本当に大丈夫!?と、とりあえずルミちゃんと同じようにできた……これを8回ぐらい繰り返す。それでできた板をまた重ねて1枚の板にする。それができたら形を整えてっと。
「で、できた……」
やっと、できたっ……!まだ刃研ぎとかあるっぽいけど、とりあえずひと段落。あれ、これどうやって持つんだろう?
「さて、次は柄を作りましょうっ」
「え゛……」
これは、今日は《天空塔》には挑めないな……
ドロで刃の型をとって、鍔と柄の形を模索する。短剣だから鍔はそれほど大きい物にせず最低限に、柄は拳ちょっとぐらいの長さで作ることにした。は、いいけど……なかなか好みの形にならない。強く打つと平べったくなってしまうし、弱すぎると尖ってしまう。結局、ルミちゃんに手伝ってもらって完成した。そういえば、この場合名前ってどうなるんだろう?詳細を見てみた。
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小鬼斬丸 2299/2299 86% 所有者:なし
*製作者:Harutoによって打たれた短剣。《ゴブリンの牙》を使って作られており、切れ味と耐久力ともに平均的。平凡な短剣である*
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平凡で悪かったな。それでも耐久力は《ゴブリンの短剣》の数十倍はあるし十分だ。早速所有者登録しよう。『はい』っと。
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登録を完了しました
《小鬼斬丸》を『道具』へ入れますか?
はい / いいえ
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ここは『いいえ』にしておこう。せっかくだから装備したいし。あ、そういえば鞘がない。装備できないじゃん。そう言ったら、ユキがイノシシの皮で鞘を作ってくれた。固定してくれる太めの紐まで付けてくれたから、後ろ腰のベルトに備えた。剣の鞘が邪魔になるかなと思ったけど、ギリギリ腰まで来てなかったみたいで大丈夫そうだ。こっちも、短剣を納める練習をしとかないとな。
と、短剣1本作るのに夜になってしまった。あんな黒い奴を夜に相手するのはとてつもなく面倒だ。やっぱ、挑みに行くなら明日だな。そういう話になったので、今日のところは休むことになった。
ということで、今俺は焚き火から離れたところで木を背に座っていた。理由は、女性陣が水浴びをしているからである。池はないけど、水は魔術で生成できるし風を使えばすぐに乾かせる。本当、魔術様々だな。
「早く魔術が使えるようになりたい」
今日の驚愕の事実は、カナちゃんも魔術が使えることだ。レベルも俺の1つ下の5らしいけど……
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熟練度
《剣術》 41/100
《短剣術》 29/96
《体術》 11/98
《槍術》 10/90
《斧術》 9/88
《棒術》 1/92
《棍術》 10/89
《投擲術》 16/42
《弓術》 1/9
《盾術》 7/84
《魔力》 2/6
《運動》 49/99
《隠形》 8/55
《観察》 35/82
《推理》 9/47
《狩猟》 5/36
《鍛治》 9/48
《木彫》 5/65
《料理》 1/44
《睡眠》 24/67
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なぜだ。なぜ、《魔力》が上がらん……昨日とまったく変わっていない。《剣術》はすごい速度で上がってるのに……
「はぁ……」
「ため息なんて吐いてどうしたの?」
「あ、ユキ」
後ろからユキがやってきた。水浴びの方は終わったのか?
「もう終わったのか?」
「うん。他の子たちはまだ乾かしてる途中だけど」
「そうなのか。それじゃ、もう少ししたら戻るか」
「その前に、ここで水浴びでもする?」
「あー、そうだな。服の上から水かけて乾かしてくれるだけでいいから、頼めるか?」
「それでいいの?」
「ああ。さすがに女の子の前で半裸になるのは恥ずかしいし……」
そういうことで、ユキが俺の上に水を生成してずぶ濡れにしてから風で乾かしてくれた。雑な水浴びだけど、結構サッパリする。まぁ、こんな状況でシャワーなんて贅沢できないしな。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「そう言えば、ナナミさんから薬作りについて教えてもらってたんだな」
「うん。結構失敗しちゃったけど、《活気薬》は作れるようになったよ」
「《活気薬》?」
作り方を聞いたところ、薬草を潰して水で溶かしたものらしい。確か、《活魔薬》は魔花草?っていうのを加えたものだったな。となると体力が回復するのか。それでも結構ありがたい。あとは、ナナミさんが作っていたもので《粘火薬》や《凍冷薬》というのを作っていたらしい。なんか聞くだけで怪しい薬だな……それから鍛治のことを聞かれた。ちょっと掻い摘んで説明した。
「熱そうだったもんねぇ」
「めっちゃ熱かった。ルミちゃんはすごいよ」
「でも、ハルトも短剣作れたからすごいよ」
「本職に比べれば、まだまだだよ」
短剣だったからよかったけど、もし剣を作ろうものなら……刀身が長くなるからもっと時間かかるんだろうなぁ。
「ハルトは、アリさんたちの目的を達成したら別れるつもりなの?」
「……どうだろうな。モンスターを倒して集落を取り戻したら定住することも考えたんだけど……想像できないんだ」
「想像できない?」
「俺が、戦わないことを」
なぜかわからないけど……戦いとは無縁の生活を送っていたはずなのに、平和に暮らす自分が想像できない。何かに突き動かされるみたいに、戦いを求めている自分がいる。俺は……俺は、おかしくなってしまったのか……?
「ーーハルトは、きっと不安なんだよ」
「不安?」
「自分のことを思い出せないから。それが不安で、無意識に考えないようにしてるんだと思う。ハルト、言ってたじゃない。自分たちが何を目的に生きていたかも忘れたって。きっと戦うことを使命にして、その不安を取り除こうとしてたんじゃないかな」
生きるための目的ーーそう、なのかもな。今の俺は、戦うことしかない。趣味も特技もない今の俺には、戦うことでしか自分を証明できない。なんか、すごくしっくり来るよ……
「私もね、すごく不安だったの。でも、サヤちゃんたちが大丈夫だよって言ってくれて。私はここにいていいんだって思えた」
……やっぱり、ユキは強いな。大切な友達を失ったのに、俺と一緒に戦ってくれる。今だって、自分が1番辛い経験をしてるのに、俺のことを励まそうとしてくれるている。俺は、なんて情けないんだ……
「ハルト、今自分のこと情けないって思ったでしょ?」
「え……なんで……?」
「顔を見ればわかります。はぁ、君は変なところで弱くなるのね」
な、なんかため息を吐かれた……立ち上がって、俺の顔を覗き込んでくる。
「いい?ハルトは情けなくなんてない。それは誰もが抱えてるもので、1人じゃ乗り越えられないものなの。わかる?」
「い、いや……ちょっと……」
「はぁ……。私たちの過去はわからないけど、今ここで呼吸して想いを持っているのは私たちなの。その私たちが私たちを否定しちゃ、私たちは死んでしまう」
私たちが私たちを否定……えっーと……つまり?
「私はね、ハルト。今の自分を大切にしたいの。今、君の目の前にいる私が、私。過去はないけど、この数日で思い出を積み重ねて、たくさん経験した私。そんな私を……ハルトは嫌い?」
「ーーッ。嫌いなわけがない。ユキがこの数日で育ませてきたものは、綺麗でとても強い。俺も、君みたいな人に成れたらいいと思う」
ようやく、わかった。確かに、これは1人じゃどうしようもない。なりたい自分なんて、1人じゃ見つけ出すこともできないからな……わからない過去については今はいい。ここにいるのは俺なんだ。なら、俺はここから成長すればいい。なりたい自分を育てればいい。
「ありがとう、ユキ。俺は、過去に囚われ過ぎたのかもしれない。そのことに、今ようやく気づいたよ」
「うん。よかった」
「でも、今は目の前のこと、だよな。理想の自分は、また落ち着いた時に考えるよ」
「ハルトの好きなタイミングでいいよ。ゆっくり感じて考えてくれれば、私も嬉しい」
ーーッ。……そういうのをサラッと言うのやめて欲しい。嬉し過ぎてドキッとしちゃうんだよ……まったく、可愛い奴め。
「さっ、もう終わった頃だし戻ろう」
「うんっ」
歩き出した足取りが、いつもより軽く感じるのは気のせいだろうか。いや、気のせいじゃないだろう。きっと無意識に感じていてものが無くなって、俺自身が感じていた重りが消えたんだ。これも、ユキのおかげだ。本当に、良いパートナーに出会えたと思うよ。とりあえず、明日からレベル上げ頑張るか。




