私の可愛い同居人
今回から本編突入です!
「学校長祝辞。学校長お願いします。」
司会の先生が言うと校長先生がステージへ上がってきます。
「みなさん、ご卒業おめでとうございます。これからみなさんが…」
就職試験から半年、今日はついに卒業式。私たちの高校生活にもピリオドが打たれようとしています。
そして、私たちにも卒業証書が渡され、いろいろな人に祝辞の言葉をもらい、卒業式も終了しました。
クラスに戻り、最後のHRで先生の話やみんなが一言ずつ言ってHRもおしまい。楽しかった私たちの高校生活も終わりとなりました。
「香ちゃん〜!!」
「桜ちゃんっ!!」
桜ちゃんが大粒の涙を浮かべながら私に抱きついてきます。
「高校生活も今日でおしまいだね!!」
「本当にそうだね〜。私、寂しいよ〜。」
私も目に涙を浮かべます。
「そうだね〜。だって私たちの輝かしい高校生活が終わっちゃうんだよ!!」
「もう終わっちゃうんだね〜。桜ちゃん、私たちずっと友達だよ!!」
「うん!!そうだねっ!!」
そう言って私たちは抱き合いました。
「まぁ、なんて、就職先一緒だけどね…。」
私は苦笑いします。
「そうだね!!でも、”高校生”としての私たちはおしまいだからね〜。」
「確かに言われてみればそうだけど、私たちまた仕事先一緒なんだし、一緒頑張ろう!!」
「うん!!」
桜ちゃんは涙を流しながらもにっこり笑いました。
「そういえば、香ちゃん。」
「どうしたの?桜ちゃん?」
「就職したらどこら辺に住むの?」
「あれ?言ってなかったけ?お父さんの知り合いのお家に下宿させてもらうことになってね。」
話は内定が決まってから数週間後…
「香、就職したらどこに住むとか決めてる?」
お兄ちゃんが聞いてきます。
「就職したらどこに住むって?要するに一人暮らしするかってこと?」
「まぁそうだな。どこら辺に住むとか考えてないのか?」
「うーん。特には…。そのうち、安中周辺とかで探してみようかな?」
私は首を傾げます。
「なんか、不安ならお兄ちゃんが相談に乗るぞ〜。」
お兄ちゃんは優しく笑います。でも私はそのお兄ちゃんの表情に対して
「お兄ちゃんは頼りにはなるけど、この件は頼りにならないかな〜。」
「なんでだよ?」
「だって、お兄ちゃん、一人暮らししたことないじゃん。」
「あっ…。」
お兄ちゃんはそれを聞いてげっそり顔をします。
「何、住むところの話か?」
「あ、お父さん!!」
そこにお父さんが話に入ってきます。
「一人暮らしなんて、どうすればいいの?」
私はお父さんに聞いてみます。
「あぁ、香、その件だが、そんなに心配しなくていいぞ。」
お父さんはにっこり笑って言います。
「なんで?」
私は首を傾げます。
「お父さんの知り合いが横川に住んでて、お前がうすい鉄道に就職するって事を言ったら『うちで下宿しないか?』って言われてな。だから住むところはそんなに心配しなくていいぞ。しかも家賃は1万円でいいみたいだし。」
「家賃は取られるのね…。」
「当たり前だろ。」
横でお兄ちゃんがツッコミを入れます。
「香、それでいいな?」
「うん!!」
私はうなずきます。
「まぁ香が一人暮らしとか心配だし、ちょうどいいな。」
お兄ちゃんが言います。
「そうだね〜。私、ちょっと駅前の本屋行ってくるね〜。」
私は背伸びをしながらその場を去ります。
そんな私の背中を横目にお父さんが
「なぁ、勝?」
お兄ちゃんを呼びます。
「どうした、父さん?」
「お前も一人暮らしするか?」
お父さんは不気味な笑顔で言います。
「…。俺も香と一緒に家から追い出す気かよ…。」
お兄ちゃんはその言葉に困惑しました。
「まぁそんな訳でね。」
私は桜ちゃんにどこに住むか説明しました。
「なるほどね〜。それでどこら辺なの?」
「確か、横川駅の近くとか言われたような…。白山さんってお家なんだけどさ…。」
私がそう言うと桜ちゃんは「あっ」という顔をしました。
「私の家の近所じゃん!!しかも、香ちゃんが下宿させてもらうお家知ってるよ〜!!」
桜ちゃんは横川に住んでいて、あの「峠の釜飯」で有名な駅弁屋の「おくのや」の娘さんです!!
「知ってるの!?」
「うん!!うすい鉄道のロクサンの運転士を管轄してる横川運転区の区長さんのお家で私たちと1年年下の娘さんもいるんだよ〜。」
「じゃあ私と歳が近い女の子がいるの!?」
「そうだよ〜。楓ちゃん言う女の子なんだけどね〜。あとは行ってからのお楽しみってことって。」
そう言って桜ちゃんはにっこり笑います。
「は〜い。楽しみだな〜。」
私もにっこり笑いました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
3月の終わりの週。
うすい鉄道うすい線の横川駅の横川機関区の奥にある碓氷峠資料館にて、私、白山楓はいつも通り資料館の掃除をしたり、館内の案内をしたりするバイトをしています。
そして今日は私にとっては少し、特別な日です。今日は私の家に新しく下宿する人が来るのです。父が言うには私とは1年年上の女の人らしくて、来年からうすい鉄道で働くとか。
どんな人なんだろう?やっぱりいくら1年年上でも来年から社会人だから大人ぽい人なのでしょうか?私の胸は楽しみな気持ちでいっぱいです。
私はそんな楽しみな気持ちを取りみださらないように抑えながらバイトに徹します。
するとそこに…
「楓ちゃ〜ん!!」
「あっ、桜さん!!」
私に手に向けて手を振っているのは私の幼なじみの桜さん。私は桜さんに向けて小さく頭を下げます。そして、桜さんの横には…
「あれが楓ちゃん?」
ショートヘアの茶髪にアホ毛が生えた女の人の姿が。たぶん、あの人がうちに下宿する人でしょう。でもこの容姿、どこか、私のイメージと違う…。
「白山楓です。よろしくおね…」
私があいさつをしようとした瞬間…
「楓ちゃん、可愛い〜!!」
「ちょっと、何するんですか!?」
その人は私のことを後ろから抱き抱えました。
「私は横川香。よろしくねぇ〜。あ〜楓ちゃんの髪の毛すごくモフモフしてる〜。」
そう言って香さんは私の頭をモフモフします。
「も〜う、何するんですか!!」
私は香さんを振り払います。この人、私のイメージしていた人と違う…。こんな人が来年から社会人なんでしょうか…?本当に私がイメージしていた同居人とは違います!!
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3月の終わりの最後の週の初め、私は横浜の実家を出て、はるばる群馬県の横川まで向かって行きます。
「まもなく、終点、高崎、高崎、お出口は左側です。新幹線、上越線、両毛線、吾妻線、上信電鉄線とうすい鉄道線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用いただきましてありがとうございました。」
高崎線のE231系の自動放送と共に列車は高崎駅に入線します。
「ご乗車ありがとうございました〜。終点高崎でーす。」
ドアが開き、私は乗り換えのために階段を上り、うすい鉄道のホームに向かいます。
うすい鉄道のホームがあるのは高崎駅の1番線。1番線の階段の近くにうすい鉄道の連絡改札と横川方面や直通するしなの鉄道線のきっぷを売っているきっぷ売り場があります。
私は連絡改札を抜け、1番線のホームに降ります。すると目の前には…
「この列車は横川行き、ワンマンカーです。」
という放送が車外スピーカーから流れていました。この車両は元西部鉄道の101系。そして塗装はEF63をイメージした全体が青色で前面部分の一部がクリーム色になってる車両でした。この101系は他にも湘南色や信州色をイメージした塗装など5種類の塗装がある車両です。
私が列車に乗り込み、少しすると列車は発車しました。
列車は北高崎、群馬八幡、安中、磯部、松井田、西松井田と過ぎ、30分ほどで横川へ到着しました。
横川駅のホームへ降りると、乗ってきた電車の横を…
ブォー!!ピー!!
「やっぱり、ロクサンはいいな〜。」
入換中のEF63の重連が通過してきます。
「私は来年からあれを運転するのか〜!!うーん楽しみ!!」
私はそう呟いて改札へ向かいます。
改札へ向かうと…
「香ちゃん〜!!」
「あ、桜ちゃんだ〜!!」
桜ちゃんが改札の前で手を振って待っていてくれました。私は改札を出て桜ちゃんのところへ向かいます。
「香ちゃん、横川へようこそ!!」
桜ちゃんはにっこり笑います。
「うんっ!!」
私もにっこり笑いました。
そして私たちは横川機関区を潜る地下道を通って、駅の裏側へ出ます。
「桜ちゃん、これからどこへ行くの?」
私は桜ちゃんに聞きます。
「碓氷峠資料館よ。」
「碓氷峠資料館って、碓氷峠の資料や模型やシミュレーターやロクサンの体験運転ができるの博物館みたいなところ?」
碓氷峠資料館は1999年に出来た碓氷峠の資料や模型やシミュレーターがある博物館です。そしてここの醍醐味と言えば、横川機関区の入換線を使った本物のEF63の体験運転。私も過去に数回だけ来たことがあります。でも年齢的にEF63は運転したことはありません…。
「そう。そこに楓ちゃんがバイトしてるの。」
「へぇ〜そうなんだ〜。それで、桜ちゃん、楓ちゃんってどんな子なの?」
「大人しくて、身長が小さくて可愛い子だよ。それでロクサンの事がすごく詳しいんだよね〜。」
「なるほどねぇ〜。何だか楽しみになってきた〜!!」
私は目をキラキラさせながら言います。
機関区沿いに少し歩くと、3階建ての白い建物が。これが碓氷峠資料館です。そしてその横には機関区へ続く線路と…
「クハ189-506だ!!」
建物の横には189系のクハが保存されていました。
「本当に香ちゃん、大興奮だね。」
私のそんな姿を見て桜ちゃんは笑います。
「桜ちゃんはよくここには来てるの?」
「うん。暇さえあれば来てるよ。」
「いいな〜。私もこんな近くに出来たから本当に暇さえあれば来れそうだね!!」
「そうだね〜。じゃあ、中に入ろうか。」
「うん!!」
入館料を払い、資料館の中へ。1階にはお土産屋やロクサンや189系のシミュレーターがあって、2階には鉄道模型のジオラマがあって、3階には碓氷峠の歴史など、貴重な碓氷峠の資料がたくさんあります。
私たちは展示を見ながらも楓ちゃんのことを探します。そして3階で資料を見てると…
「楓ちゃ〜ん!!」
「あっ、桜さん!!」
桜ちゃんが水色の髪のツインテールの女の子に声をかけました。
「あれが楓ちゃん?」
私は楓ちゃんを見つめます。本当に桜ちゃんの言う通り、身長小さくて可愛い…///
「白山楓です。よろしくおね…」
私は楓ちゃんのあいさつを無視して楓ちゃんに突っ込みます。
「楓ちゃん、可愛い〜!!」
「ちょっと、何するんですか!?」
そして私は楓ちゃんのことを後ろから抱き抱えます。
「私は横川香。よろしくねぇ〜。あ〜楓ちゃんの髪の毛すごくモフモフしてる〜。」
うわぁ〜楓ちゃんすごくモフモフしてるぅ〜。
「も〜う、何するんですか!!」
「あっ、逃げないでよ〜。もっとモフモフさせてぇ〜。」
楓ちゃんは私を振り払うようにして逃げます。
「桜さん、本当にこの人なんですか?」
「もちろんそうに決まってるじゃない。」
桜ちゃんがうなずきます。
「なんで?私、これでもちゃんと内定貰えたよ〜。」
「逆にすごいです…。」
楓ちゃんはジト目で私を見ます。
「えへへっ。」
私はそれに対して照れます。
「いや、褒めてない無いので!!」
楓ちゃんは大きく首を振ります。
「それで楓ちゃん、今日のバイトはいつまで?」
桜ちゃんが聞きます。
「今日はもうこの掃除用具を片付ければバイトは終了です。」
「じゃあ、私たちとお昼行かない?楓ちゃんと香ちゃんも私がご馳走するからさ!!」
「桜ちゃん、本当に!?」
「もちろんよ。香ちゃんがこの横川に来てくれたんだし、あれは食べて欲しいと思ってね!!」
あれってなんだろう…?私は首を傾げます。
「桜さん、いつものやつですか?」
楓ちゃんが聞きます。
「もちろんよ!!香ちゃんの横川歓迎を込めてね!!」
そう言って桜ちゃんはウインクをします。
「桜ちゃん、一体、何を食べるの?」
「来れば、すぐにわかるよ。」
ということで、楓ちゃんがバイトを終えるのを待って資料館を出て、道沿いに少し歩き、横川駅の地下道を歩き、駅前に出ます。そして向かった先は…
「もしかしてここは…?」
私はお店の看板を見て口をポカンと開きます。
「私の実家でもある自慢のお店のおくのや!!」
桜ちゃんは看板を「じゃじゃーん!!」という感じに指を指します。
「これが、あの『峠の釜飯』で有名なおくのや!!」
そう、私たちが来ているのはあの「峠の釜飯」で有名なおくのや。
「そうよ。あれが噂に聞くおくのやよ!!」
そう言って桜ちゃんは自慢げに笑います。
「峠の釜飯は食べたことはあるけど、本店に来るのは初めてだな〜。」
私はお店を見回します。
「ふふっ。これからよく来ることになるよ。じゃあ、お店に入りましょうか。」
桜ちゃんが言うと私はお店に入ります。
「いらっしゃいませ〜!!」
「あ、お姉ちゃんおかえり〜!!」
お店に入ると2人の小学生ぐらいの女の子が私たちを迎えてくれました。
「ただいま〜。」
「あれ、そこに横にいるのは楓ちゃんと香ちゃん?」
「あ、ほんとだ〜。」
女の子2人が私と楓ちゃんを見ます。そんな2人の姿を見て、私は、すかさず…
「雪ちゃん、愛ちゃん久しぶり〜!!」
「久しぶり〜。はぅ〜。」
「香ちゃん、くすぐったいよ〜。」
私は2人に抱きつきます。
「本当に、雪ちゃんも愛ちゃんも香ちゃんに懐いてるね〜。」
桜ちゃんがそんな私たちの姿をニコニコしながら見ます。
2人は桜ちゃんの双子の小学生の妹の雪ちゃんと愛ちゃん。
「桜さん、香さんとこの2人ってどんな関係なんですか?」
楓ちゃんも私たちを見ながら桜ちゃんに聞きます。
「2人はうちの高校の文化祭に忙しい中、家族と一緒に毎年来てくれるの〜。それで雪ちゃんと愛ちゃんも来てくれてるからそれで香ちゃんと知り合ってあんなに仲いいのよ〜。」
「なるほど…。」
「楓ちゃんもこっちにおいでよ〜!!」
私はまた楓ちゃんをモフモフしたいあまりにこっちへ呼びせますが…
「結構です。」
「え〜!!」
即答されてしまいました。
「ふふっ。まだ楓ちゃんは香ちゃんに慣れるまで時間がかかりそうだね。2人とも、『峠の釜飯』でいいよね?」
「うん!!」
「お願いします。」
桜ちゃんは私たちに注文を聞いて、奥の厨房へ向かいました。
「香ちゃん、来年からお姉ちゃんと一緒にうすい鉄道で働くんだっけ?」
雪ちゃんが聞きます。
「そうだよ〜。来年から私も鉄道員だよ〜。」
「どこの課で合格貰えたの?」
続いて愛ちゃんが聞きます。
「確か、シェルパ課だったけな〜。ロクサンが運転出来るところの…」
「シェルパ課なんですか!?」
向かいの席に座ってた楓ちゃんが身を乗り出すようにして私に言います。
「うん。そうだよ〜。なんで?どうかしたの楓ちゃん?」
「香さんがシェルパ課ですか…。あそこはけっこうな職人の集まりですよ…。」
うすい鉄道には普通列車を運転する運転課の他に、私が内定をもらった碓氷峠越えのシェルパを担当するシェルパ課があります。
楓ちゃんは不安そうな顔で私を見ます。
「そんなのわかってるよ。でも、私はそんな職人技みたいな機関士さん達に憧れてこの会社来たんだもん!!」
私はにっこり笑います。するとそこに
「それを言ったら楓ちゃんも同じでしょ。」
「桜さん…。」
桜ちゃんが人数分の峠の釜飯を持って私たちのところへ来ました。
「楓ちゃんも来年、うすい鉄道受けるの?」
「もちろんですよ!!」
楓ちゃんはうなずきます。
「楓ちゃん、けっこう体験運転で経験積んでるからロクサンの運転上手いのよ。」
桜ちゃんが言います。
「そうなんだ〜。楓ちゃん、すごいよ〜。」
私は楓ちゃんの頭をなでます。
「ぜんぜんすごくないですよ。父や祖父の方がもっと上手いですよ。」
楓ちゃんは俯きます。でもどこか照れてる…。
「楓ちゃんのお父さんとおじいちゃんもロクサンの機関士なの?」
「そうです。うちは代々、碓氷峠を越える列車を運転しているんです。」
「それはすごいね〜。本当に伝統的なお家なんだね。」
「それを言ったらうちだって代々、碓氷峠を越える列車の乗客へ駅弁を売っている家庭よ。」
「そうだよ!!」
「うちも伝統的だよ!!」
その横で桜ちゃんと雪ちゃんと愛ちゃんも自慢げな顔をします。
「みんな、すごいね…。私なんかお父さんとお兄ちゃんはJR東日本の運転士なだけだよ…。」
「それだけでもすごいと私は思うよ。香ちゃんもそれだけで十分だと思うよ。」
桜ちゃんはにっこり笑いました。
「確かにそうだね!!よ〜し!!私も頑張るぞ〜!!」
私は両手を高く上げて言いました。
おくのやで昼食を済ませた私と楓ちゃんは桜ちゃんたちと別れ、楓ちゃんの家へ向かいました。
「私の家はここの道を少し歩いた先です。ちなみにうちは父と母方の祖父の3人家族です。」
楓ちゃんは話しながら家へ案内します。
「それで、どんなお家なの?」
「どんな家と言われましても…。目立ちすぎの一軒家ですよ。ほら、あそこの。」
楓ちゃんは目の前の家を指しました。
「あれが、楓ちゃんのお家?へぇ〜。」
私はそう言って家を見ます。
「素敵なお家だよ!!」
「そ、そうですか…?私からけっこう目立ちすぎだと思いますが…。」
「いいと思うよ!!丸山変電所をイメージしたようなお家でいいよ!!」
楓ちゃんの家は丸山変電所をイメージしたような赤レンガぽい家。なんか、代々、碓氷峠を支えている一家の雰囲気としてはぴったり。いいなぁ〜。
「そうですか…。これはただの父と母の趣味でデザインされた家なだけですが…。まぁ、とにかく入りましょうか。」
そう言って楓ちゃんは家の鍵を開けて、家の中へ入ります。
「とりあえず、香さんの部屋に案内しますね。」
廊下を抜けて、階段を登り、階段を登った先の部屋に私は案内されました。
「ここですね。ベットと棚と机はあるので自由に使ってください。」
部屋はベットとクローゼットと少し大きめの棚と椅子と机とじゅうたんの上に小さなちゃぶ台が一つ。配置はシンプルだけど、いい感じ。
「うん。ありがとう〜。このお部屋いいね〜。」
私はその場に荷物を置いて、窓からの景色を眺めます。窓から見えるのは畑や緑。とても私の地元からは見られない景色ばかり。新鮮ですごく気持ちいいな〜。
「そう言ってもらえるなら光栄です。」
「ねぇ、それで、楓ちゃんのお部屋はどんなの?」
私は楓ちゃんに駆け寄って聞きます。
「別に対した事ないですよ。」
「いいじゃん、これから一緒に住むんだし、楓ちゃんのお部屋も見せてよ〜!!」
私は目をキラキラさせて言います。
「はぁ…。本当に仕方ないですね…。」
楓ちゃんはため息をつきつつも隣の部屋へ案内します。
「うわ〜楓ちゃんのお部屋、可愛い〜!!」
私は楓ちゃんの部屋のあちこちを見回します。可愛い柄の布団に、棚の上には可愛いクリーム色の熊のお人形さんと今まで撮ったと思われる写真。そして、部屋の至るところにいろいろな可愛いアクセサリーが。
「あんまり、見ないでくださいよ…。」
楓ちゃんはそう言いますが、私はその言葉に耳を傾けず、部屋を見回します。
「楓ちゃんのお部屋、可愛くてとてもいいよ。それにこの熊のお人形さんも可愛いし。それに…」
私はその熊のお人形さんの横にあるものに目が止まりました。
「うわ〜このロクサンすごい〜。」
HOゲージほどのサイズのEF63の模型がガラスケースに入って飾られてました。細かいところまで作り込まれてて、とてもリアルに出来ていました。
「これは、知り合いから私へ誕生日プレゼントとしてくれたものなんです。」
「へぇ〜そうなんだ〜。本当にリアルに出来ててすごいな〜。」
私はそのEF63をじっと見つめました。そしてふと目を逸らすと…
「あ、ここにもロクサンの写真が。」
私はEF63と楓ちゃんの家族が写った写真を見ます。
「これは私が小さい頃に祖父と両親で横川機関区でロクサンと一緒に撮ったものです。」
「本当に代々、碓氷峠に関わってるんだね。」
「はい。私も父や祖父のような機関士になりたいと思います。」
「私もロクサンを運転するためにここに来たんだし、楓ちゃん一緒に頑張ろっ!!」
私はにっこり笑って楓ちゃんを見ます。
「それはもちろんですけど、香さん、ロクサンの運転は想像しているよりうんと難しいですよ。香さんできます?」
「今は出来ないかもしれないけど、頑張ってみるよ!!だって、私、やれば出来る子だもんっ!!」
「やれやれ。そんな一筋縄では行きませんよ…。でもせっかくここまで来てもらった分にはやってもらいますけどね。」
「うん!!私、頑張るよ!!それに私は楓ちゃんのお姉ちゃんとして頑張らないと!!」
私は楓ちゃんを見ます。でも…
「ロクサンの機関士として頑張ってもらうとは言いましたけど、お姉ちゃんとしては結構です。」
楓ちゃんに速攻でお断りされてしまいました。
「なんで〜!?いいじゃん〜。」
私はうるうるした目で楓ちゃんを見つめます。
「別に私は元から一人っ子ですし、今さらそんなこと言われても大丈夫です。」
楓ちゃんはそっぽを向きます。
「え〜いいじゃん〜!!私のことお姉ちゃんって呼んでよ〜!!」
私は楓ちゃんに抱きつながら言います。
「だから嫌です。」
「なんで〜!!」
私は楓ちゃんをギューッと抱きしめて言いました。
いろいろ話しているうちに気づけば日も少しづつ沈んで行く頃…
「さて、そろそろ夕食の準備をしますか。」
楓ちゃんはその場から立ち上がります。
「夕飯の準備?私もお手伝いするよ〜。」
「別に普段、私、1人でやってますから大丈夫ですよ。ですから、香さんはそこで座って待っててください。」
「は、はーい…。」
私は言われるがままに近くあった椅子にショボーンとしながら座りました。そこで少し待っていると…
「ただいま〜。」
「ただいま帰ったぞ〜。」
と、玄関で声がし、リビングにおじさんとおじいさんが入ってきました。
「お父さん、おじいちゃん、おかえりなさい。あ、香さん、この人が父と祖父です。」
「あぁ、この子が…」
「横川香です。これからよろしくお願いします。」
悠太さんが私を見ると私は立ち上がって一礼します。
「ふ〜ん。元気ありそうな子でいいじゃないか。」
正樹さんが私を見て言います。
「ようこそ我が家へ。香ちゃん、のびのび使ってもらって構わないよ。」
悠太さんは私を歓迎するかのようににっこり笑います。
「はい。よろしくお願いします。」
私はまた一礼しました。
「お父さん、おじいちゃん、もうすぐご飯出来ますよ。」
楓ちゃんがお皿にご飯をよそいながら言います。
「おっ、今日はカレーか。」
悠太さんがカウンターから鍋を覗き込んで言います。
「お父さん、このお皿運んでくれませんか?香さんもこのスープよそってくれませんか?」
「やっと、私も仕事きた〜。」
私は背伸びをしながらキッチンに向かい、ご飯の準備をしました。
そしてご飯の準備が済み
「いただきまーす!!」
今日の夕食はカレーとスープとサラダ。楓ちゃんが頑張って作ってくれたのでとても美味しいです。こんなに美味しいご飯が毎日食べられるのはいいなぁ〜。
「香ちゃんは来年からシェルパ課に配属されるんだったけ?」
悠太さんが私に聞きます。
「はい!!」
「ほう。シェルパ課はあの66.7‰を毎日のように往復するところだから、けっこう大変だぞ〜。」
正樹さんが言います。
「もちろんそれをわかってここに来てるので大丈夫ですっ!!」
私はうなずきます。
「まぁ、香ちゃん頑張ってくれ。」
「2人ともロクサンの機関士さんなんですよね?」
「あぁ。」
「もちろんだ。」
「ちなみに父がロクサンの機関士を束ねるシェルパ課の課長です。まぁ昔からの名残りでみなさんからは区長と呼ばれてますが…。」
「そうなんだ〜。ふつつか者ですがよろしくお願いします!!」
私はぺこりと頭を下げます。
「まぁ頑張れ。指導はキツイから覚悟しろよ〜。」
正樹さんは笑いながら言います。
「は、はい…。」
とにかく、私も頑張らなくちゃ!!
夕食を済ませ、片付けをしてから、楓ちゃんは先にお風呂に、私は部屋に一度戻り、着替えを取りに行きました。その一方リビングでは…
「香、なかなか、元気がいい娘じゃないか。」
正樹さんがビールを飲みながら言います。
「そうですね。それに楓にもいい効果が出そうですし。」
悠太さんもビールを一口飲みうなずきます。
「効果?」
「あの子はあの内気な楓に何かしらの効果を与えてくれると思いますよ。」
「確かにあの感じだとそうだな。本当にあの横川の娘かというぐらい違うな。」
「まぁ、あいつはクールな奴ですからね。」
「性格はさておき、彼女はどんな運転を見せてくれるのだろうか。」
「まぁ、そこは親子で似てるかもしれませんね。」
そんな2人が話してるところに…
「あ、楓ちゃんはまだお風呂か。」
私はそう言いながらリビングに入ってきます。
「おっ、香ちゃん、ちょうどいいところに来たな。」
悠太さんは私を見ます。
「ちょうどいいところ?」
私は首を傾げます。
「香ちゃん、楓はどうだ?」
「楓ちゃん…?すごくいい子で、可愛くて、それにモフモフしててぇ…。」
私はそう言いながらただでさえ和らいでいる表情が一層、和らぎます。
「えっ、モフモフ…?」
悠太さんは口をポカンと開きます。私はそんなことを無視して話を続けます。
「でも、楓ちゃん、どこか、私に素直になってくれなくて…。」
私は肩を落とします。それを聞いた2人は…
「ははは。まぁ楓はそんな子だから仕方ないよ。」
「そうだな。楓は人見知りな子だから人と打ち解けるまで、時間がかかるんだよ。どっかの誰かに似てな。」
正樹さんは悠太さんを見ます。
「でも、香ちゃん、心配はしなくていいよ。香ちゃんのその想いは楓に伝わってると思うよ。」
「うん。そうだな。楓はお主が来ることをとても楽しみにしてたんだよ。」
「えっ…。」
私は少し立ち上がります。やっぱり、楓ちゃん…。
「君の部屋の準備とか、家財道具の設置以外の掃除とかは全部、楓がやってくれてな。だから心配…」
「楓ちゃん〜!!」
私はその話を聞いてその場を飛び出して楓ちゃんのところへ向かいました。そんな姿を見た2人は
「うちもけっこうにぎやかになりそうだな。」
正樹さんは苦笑いします。
「そうですね〜。毎日楽しくなりそうですね。」
「でも、あの小娘には苦労しそうだな…。」
「でも、あの雰囲気、碓氷を思い出すな…。」
「まぁ確かにその元気いっぱいなところは似てるな。」
「ですね〜。」
そう言って悠太さんはビールをもう一口飲みます。そして…
「正樹さん?」
「どうした悠太?」
「香ちゃんが楓はモフモフしてるって言ってたけど、本当なんでしょうかねぇ…。」
「…。おい。お前、何?確かめたいのか?」
「いや、気になるというか…。」
「やめとけ。それやったらお前、確実に嫌われるぞ…。」
正樹さんは顔を引き攣らせながら言いました。
「まぁ確かにそうですね…。」
~~~~~~~~~~~~~~~~
その一方、私、楓はゆっくりお風呂に入っていました。
「はぁ…。本当に香さんは疲れますよ…。」
私はため息をつきそう呟きました。
でも香さんは確かに、変な人だけど、悪い人ではなさそうです。いろいろ不安な面はありますが…。少しは香さんの事を見直さなければ…。
そんな時でした。
バーン!!
「楓ちゃん〜!!」
「うわっ香さん!?」
勢いよく風呂場のドア開き、香さんが飛び込んできました。
「一緒にお風呂いい?」
「も〜う。いきなりなんですか?本当に仕方ないですね…。まぁ、もう服脱いじゃってるなら別にいいですけど…。」
私は渋々、香さんを受け入れました。
「はーい。」
返事をしながら香さんは横で身体を洗います。
「…。」
しかし、風呂場ではお互い沈黙。聞こえるのはシャワーの音だけでした。
お互い黙っているうちに香さんは身体を洗い終えて、湯船に入ってきます。
「ふぅ…。まだ初めて入る別のお風呂だから違和感あるな〜。」
「どうせ、毎日のように入るからそのうち慣れますよ。」
「そっかぁ〜。」
香さんがそう言ってまた、お互い沈黙。私もいつまでも人見知りしてないで何か話さないと…。
その時…
「楓ちゃん、やっぱりまだ、私に慣れないかな?」
「えっ…。」
私はその言葉に黙ってしまいます。
「まぁまだ出会って1日も経ってないから仕方ないか…。」
「そりゃ、そうですよ。」
私は小さくうなずきます。
「楓ちゃん、お父さんとおじいちゃんから聞いたよ。」
「何をですか?」
「私が来ることをとても楽しみにしてたんでしょ?」
「えっ、いや…それは…。そんな訳…」
まったく〜2人とも余計な事を…。
「楓ちゃん、顔赤くなってるよ〜。」
香さんはニヤニヤしながら私を見ます。
「そ、そんなわけ、な、無いですよ!!た、ただ逆上せてるだけで…。」
バシャッ!!
私は顔を真っ赤にしながらお風呂を飛び出しました。そんな私を見た香さんは
「私、何か、変なこと言ったかな?でも、可愛くていいな〜。」
香さんは自分が何を言ったのか、よくわかっていないようです。もう、本当に…。
私は着替えて部屋で考え事をしていました。
「まったく〜。お父さんもおじいちゃんも余計な事言って〜!!」バタバタバタ
私は顔を真っ赤にしながらベットでバタつきます。
でも、香さんが来ることには楽しみにはしてたのは本当です。香さんに対してのイメージは少し違ったけど。
「でも、私の口からはそんな事言えないですよ…。」
そう言って私はため息をつきます。するとそこに…
ガチャ
「楓ちゃん〜!!」
また私が1人でいるところに香さんが乱入してきました。
「香さん、今度はなんですか?」
「一緒に寝よっ!!」
香さんはにっこり笑って私を見ます。
「なんですか?」
「別にいいじゃん〜!!だから一緒に寝よう!!」
完全に私をモフモフつもりですね…。
「私は別に大丈夫です。」
「そんな事言わずに、いいじゃ〜ん!!ね?」
香さんはキラキラした目で私を見ます。
「はぁ、香さんは本当に仕方ないですね…。今日だけですよ。」
「わぁーいやった〜。」
そう言って香さんはベットに飛び込みます。
「本当に、まだ出会って1日しか経ってないのにどうして香さんはこんなにフレンドリーになれるんですか?」
「え?私は気の合う人はすぐに友達になる!!それが私だからね。楓ちゃんも肩の力抜いて、私のところに来てもいたんだよ。」
香さんは両手を広げて私を待ち構えます。
「別に大丈夫です。」
「そんなに遠慮しなくていいんだよ!!」
「うわっ!!」
香さんは私に後ろから抱きついて、そのまま、私は香さんの膝の上に座らさせられます。
「やっぱり楓ちゃん抱っこすると落ち着くな〜。」
「私はそんなに子供じゃないです!!だから離してください!!」
「え〜。いいじゃん〜。」モフモフ
香さんは自分のほっぺたで私の髪をモフモフします。
「だーかーらー私でモフモフしないでください!!」
「だって気持ちいいんだもん〜!!」
「はぁ…。本当に香さんはまだ出会ってからそんなに経ってないのによくそんな事出来ますよね…。」
「だから言ったでしょ!!私は出会ってすぐに人と仲良くできる体質だってっ!!」
「本当に、すごいです。いろんな意味で…。」
「えへへっ。楓ちゃんありがとっ!!」
「別に香さんの事は褒めてないです!!」
私と香さんの言い合いは夜遅くまで続きました。でも、これから香さんと過ごす日々がちょっぴり楽しみです。
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楓ちゃんといろいろな話を夜遅くまでして、気づいたら寝ていた私と楓ちゃん。そんな私が目を開けたのは日が昇る頃でした。目を開くと目の前には可愛い寝顔をした楓ちゃん。
スゥスゥ…
「寝息も可愛いなぁ〜。」
私は楓ちゃんの頭を優しくなでます。
「うぅ…お母さんくすぐったいよ〜。」
と、楓ちゃんは寝言を言いました。
楓ちゃん、お母さんの夢を見ているみたいだね。そういえば、楓ちゃんのお母さんってどんな人だったんだろう…。
私はそう思いつつ、楓ちゃんの顔を見つめながら、あることを私はしました。
「…。」
「楓ちゃん、お姉ちゃんがいるから大丈夫だよ。」
私は、楓ちゃんのおでこにキスをしました。その瞬間…
「ちょっと、香さん何してるんですかぁ!!」
勢いよく楓ちゃんが目を開いて起き上がって叫びました。
「私は何もしてないよ〜。」
私は知らんぷりして言います。
「香さん〜!!」
楓ちゃんは顔を真っ赤にして私を睨みます。
「も〜う。楓ちゃん落ち着きなよ〜!!」
「香さんが変なことをするからです!!」
楓ちゃん、怒った顔も可愛い///
そんな朝からドタバタしてたから…
「朝からどうした〜?」
「まったく、騒がしいぞ〜。」
悠太さんと正樹さんが楓ちゃんの部屋にやって来ます。
「お父さん、おじいちゃん、聞いてくださいよ!!香さんが…か、香さんが…」
楓ちゃんは顔を真っ赤にしながら言います。
「私がどうしたの〜?」
私は楓ちゃんの後ろに飛びつきます。
「も〜う。香さん〜!!」
楓ちゃんはまた私を睨みつけました。
「楓ちゃん、別に怒らなくても…」
「そりゃ、そんな事されちゃ怒りますよ!!」
そんな私たちの言い合いを見た悠太さんと正樹さんは
「まったく、とんでもない小娘を受け入れてしまったな。悠太、どうしてくれるんだよ?」
正樹さんは苦笑いしながら言います。
「さぁてどうしましょうか。俺も横川の娘がこんな子だなんて知りませんでしたもん。」
「さぁて、これから楓にとっては波乱万丈な日常が始まりそうだな。」
「確かにそうですね。でも、楓も楽しそうにしてるからいいんじゃないですか?」
「まぁそうか。」
2人はそう話しながら部屋を去ります。
そして楓ちゃんは…
「香さん、これから私と寝るのは禁止です!!」
「なんで〜!?」
「なんでじゃないです!!」
私はそんな怒ってる楓ちゃんの顔を見て
「ぷっ」
思わず吹き出してしまいました。
「香さん、何笑ってんですか〜!!」
「別に。なんか、楓ちゃんのそんな表情見てたら可愛くて、面白くなってきちゃった!!」
「なんで、私の顔が面白いんですか!!本当に失礼ですよ!!」
「いいじゃん、楓ちゃんどんなことしても可愛いし。」
「本当に香さんは〜!!」
楓ちゃんは顔を真っ赤にしながら私を睨みつけます。本当に楓ちゃんは可愛い!!
私はいつまでもこんなに楽しい日々であることを心から願いました。
これが私の新しい日常のスタートでした。本当に今後が楽しみ仕方ありません!!
初めて書いた百合で自分でも書いてて正直興奮しました笑 今後もこんな展開を増やしていきたいと思います