y7.入口
「痛っっっ!!」
右手を刺すような鋭い痛みに飛び起きる。
ていうか刺されてる。いや、噛まれたのか。
右手の方を見ると指の第一関節程の大きなアリがいた。
でかいけどアレを見た後じゃ可愛いもんだ。
アリを追い払い、空を見上げると太陽はもう真上まで登っていた。
「私……生きてる……。」
思わず呟き、太陽に向かって手を伸ばす。
生き延びたのだ。あの地獄を。
勝手に溢れそうになる涙を拭い、周囲を確認する。
そうだ、まだ生き延びたと言うには早かった。
喜ぶのはモンスターどものテリトリーから出てからだ。
全身が筋肉痛や青アザ、切り傷で悲鳴をあげるが無視して歩く。
歩き始めてしばらくもしない間に気付いた。
この辺りにあるのは見慣れた植物ばっかりだ。これはもう海岸が近いはず!
そうだ!間違いない!
アリもまだ可愛いサイズだったし微かに潮の匂いもする!
思わず体の痛みを忘れ、匂いのする方へ駆ける。駆ける。駆ける。
すると遂に海岸へ出た。
やった!やったぞ!! どうだ!!
無事に帰ってきた!!私だってやれば出来るんだ!!
ほんとに長かった……何回も死ぬかと思った。
私海好きじゃ無かったのに、今は海にいるのがこんなに嬉しい。
感慨にふけりながら目を凝らして浜辺を見渡し、マイホームの床を探す。
よく見ると左手の方にそれっぽいのがあるんだけど、
なんか様子が……。
とりあえず行ってみるか。
そちらに歩いていき、着いてみて驚いた。
なんとマイホーム(床)は海に浮いていた。
でもなんで?あんなに押しても動かなかったのに!
閃いた!
潮が満ちたか雨で川が増水したんだ!両方かも知んないけど。
いや、ここは雨のおかげと思おう。
じゃないとあんな目にあった甲斐がない。
ジャングルでもメンタルケアは必要である。
ていうかツタで木とくくっておいてほんとに良かった……。
流されてたらまた泣いてたぞ私。
まあ無事だったんだ、良かった。それは置いといて
とりあえず、だ。
このボロボロの服をなんとかしよう。
所々まだ濡れてるわ、泥だらけだわで着てるのも気持ち悪い。
川へと向かって水浴び、ついでに服も洗って木の枝に掛けて乾かす。
服が乾くまでの間に周囲の木の実を貪りながら川の上流へと向かう。
そりゃあもう全裸で。
なんかいよいよ原始人だな……。
まさか全裸で木の実食べながらジャングル歩く日が来るとは思わなかった。
現世の人に見られたら発狂モノだ。
なんて言ってる間に目的地。
この辺ならギリギリ安全地帯だろう。多分……。
何故こんな恐怖の土地にまた来たかと言うと
私は迷子になる前に見つけた接着剤代わりの茎を集めに来たのだ。
前に集めたのは逃げる時にバラまいちゃったからね。
警戒しながら茎を摘み、近くに生えてるツタで縛って束にする。
これで全裸でも沢山持ち帰れるのだ。
私頭良くね?
そして水浴びした川へ戻ってきて服を回収。
あれ、なんか縮んでないこれ……。
ま、まあいい、気を取り直して斧を取りに行き、木を切り始める。
痛い痛い痛い痛い!!
ちょっと斧を振っただけで、もう全身がとてつもなく痛い!!
これは今日は無理だ。削ろう。
ナイフで木を細かく削って木屑を作っていく。
さらに草を編み込んでバケツを作り、木屑を茎から出る接着剤と一緒にバケツに入れて、木の枝で混ぜ込む。
後はそれを砂浜に薄く敷き詰めるように四角く広げて……と
そのまましばらくして接着剤が固まったら……
そう!女子でも持てる!壁板の完成だ!!
ちょっと強度的にはあれだけど雨は通さないはず!
後は丸太床に壁を差し込む切り込みを入れて、切り込みにも接着剤を流し込む。
そしてその切り込みに壁をはめこめば
なんということでしょう!
匠の技により、何も無かったところに木と砂で出来た壁が立ったではありませんか!!
でもこれ急いで四方固めないと。
ちょっと風が吹いたら倒れそうだ……。
全部出来てから立てれば良かった………。
それから急いで壁を作り続けた。できた壁をたってる壁に立てて小さな穴を開けツタを通して固定を繰り返す。
茎は沢山とってたけど木屑がキツかったから、面積的な問題で、結構天井が低くなるけどこの際仕方ない。
天井までは手が回らなかったがなんとか四方を囲って安定するように出来た。吹き抜けと思えばこれはこれでなかなか。
でももう辺りは真っ暗だ。まあ昼から行動したと思えばこんなもんだろう。
そろそろ寝るか……。
初のマイホームでの睡眠だ………。
私は意気揚々とマイホームに入ろうとする。ってあれ…?
これどっから入ればいいの?
扉を作ってないせいで壁を立ててしまった。
最っっ悪だ!!入ること計算してなかった!!
せっかく!せっかく家っぽくなってきたのに!!
野宿が確定して私は力尽きた。