y2.異世界リゾート
眩い光に包まれ思わず目を閉じる。しばらくもしない間に光が収まり目を開いた。するとそこには見渡す限りの水平線が広がっていた。吹き抜ける潮風が私の自慢の黒髪とセーラー服のスカートを揺らす。
透き通る様なエメラルドグリーンの波がさざめき、足元には白く細かい砂が溢れる、そして眩しい太陽の日差しがこれでもかというぐらい私の肌を焼いてきていた。
これは……海だ……。
リゾートだ。異世界ってリゾートだったんだ。
あまりの絶景に放心して、見とれてしまった。
こんなのテレビや写真でしか見た事ない。
そうだ、後ろは。呆気にとられていたが我に返って首を回す。
振り返ると自分の背丈ぐらいまで伸びた草、やたら枝の多い樹、見たことも無い大きな花達が息苦しそうに密集している。
他にあるものはと言うと木、また木、またまた木!
見渡す限りもう緑! 緑! 緑!!もうめちゃくちゃ緑!!!
そう、ジャングルだった……
いやいやありえない。
あのモスグリーンめ、何が「鬼じゃない」だ。
こんな所で現代人が生きていける訳ないだろ。
初めて経験するあまりの大自然に立ち尽くすことしか出来ない。
嘘でしょ……こんなところでこれから……。
自分の状況を確認して思わず膝をつく。ダメだ、なんとかして脱出しないと。考えろ。考えるんだ。
あ!そうだ、スマホ!! 使えるかも!!
閃いた私は狂ったように懐を漁る。無い!無い無い無い無い!!
……………無くなってる。
ていうかカバンも何も無い!!
「 ガッデム!!怨むぞあのキテレツ生物!!
こんなのどうしろっていうんだよ!!
セーラー服とジャングルとか新ジャンル過ぎだろ!
ジャングルだけにってか!やかましいわ!!」
誰もいない異世界で一人全力で空に向かって叫んだ。勿論反応する声はない。
……ふー、ふー、落ち着け私。大声出して少しスッキリした。
とにかく受け入れるしかない……ここは私が少し憧れていた異世界とは全然違うらしい。このまま何もせずに体力を失うだけじゃすぐに餓死だ。
そんな死に方はしたくない、体が動くうちに色々やっとかないと!
とりあえず必要なのが衣食住だ。特に食は早急に確保しなければ。
そうだ!なんか道具の作り方が分かるとか言ってたな!
うーん、でも使い方が分からない……
念じればいいのか?
私は近くにあった木を凝視しながら心の中で『発動!』とか言ってみる。
………使えた。なんて安易な。
家や家具、その他もろもろの、今私が必要だと思ってる物の中でこの木で作れそうな物と、作り方が頭の中に流れ込んでくる。
な、なるほど、思ったよりは使えそうな力だ。
でも木を加工するのに木を切る道具がいるよなー。
そう考えると今度は、今手に入れられる素材で作れる木を切れそうな物のイメージが頭に湧いてくる。
なんだこれ!めちゃくちゃ使えるじゃん!!
これなら私でも生きていける気がしてきた!!
私は近くに落ちていた大きめの石を拾って、もっと大きな石に向かって叩きつけた。
割れて鋭くなった石を落ちている手頃な枝に、ツタを使ってくくり付ける。
超即席の石斧の完成だ!……いやこれぐらいは別に力貰わなくても出来そうだったけど。
その石斧を海岸沿いの木に向かって振る、振る、振り続ける。
全っっ然切れない!!!!
やっとの思いで一本切り倒したけど二本目に手を出す気にまっったくなれない!!
しかも暑い中で斧振りまくってたせいで喉もカラカラだ。
水、水を確保しなくては……
一応海の水を指に付けて舐めてみたけど当然しょっぱい。
異世界ならワンチャンとか思ったけどダメだ。
飲める水を確保するにはーっと。私は能力を使いながら辺りを見渡し直ぐに答えを見つける。この草か!!
今度は草むしりが始まった。
なんだこれ……私の小説の知識によると異世界転移ってこんなんじゃない……。
どう考えてもJKにやらせる事じゃないだろ……
頭の中で不満を漏らしながらも草は狩り終えた。
次は頭に流れてくるイメージ通りにむしった草を編み込みコップのようなものを作る。
それとは別にまた草を編み込み大き目の皿のような形にして、中心を囲むように等間隔で円を描くように木の枝を使って穴を開ける。
これでオッケー。
後はひたすら砂浜に穴を掘り続け、湿った土が出てきたら穴の中にコップを置いて穴を隠すように皿をかぶせるだけ
これで湿った砂の中の水分が蒸発して皿に雫ができ、
雫がコップの中に溜まっていくのだ!!
どれだけ時間が経っただろう。照りつける日差しが更に私の水分を奪っていく。そして日が傾き始めた頃私は気付いた。
………待ってこれめちゃくちゃ時間かかる。
こんなのいつまで経っても水にありつけない!もっと簡単な方法を……!!
すぐに水を飲める方法はないかと少しジャングルの中に入ってみる。
それはすぐに見つかった。私の特殊能力によると、身長程の高さであるこの小さな木は繊維が細かく濾過に使えるらしい。
私は石斧で小さな木を切って茶色くなった皮を剥ぎ、生木の部分を削り取って何重にも重ねる。
それをさっき作ったコップの上に置いて手で海水をすくってたらしてみた。
するとほんの少しづつ水が木の繊維をすり抜けコップへとたまっていった。
やった!!最初のやり方より何百倍も早い!
だがこのコップ一杯の水が出来る頃にはもう太陽が落ちかけていた。
仕方ない……。時間を無駄にしすぎた。
ぐぅ~と腹が鳴く。
お腹空いたなー。一応浜辺の近くには実がついてる木や草もあるんだけど……。
食べれるのかなこれ……。
ええい!どうせ食べなきゃ死ぬんだ!
意を決して実を摘み、一気に口へと運ぶ。
…………あ、こりゃなかなか。意外といける。
腹はあんまり膨らまないし、喉の渇きもちっちゃいコップ一杯じゃ 全然物足りないけど、満天の星が映える、街灯一つないここの夜は暗い。
この暗闇でジャングルを探索するのは無謀だ。
私の人生にまさか野宿する日が来るとは……。
そのまま砂浜に横になり、星を見上げる。
最悪だな……異世界に憧れはあったけどこれなら日本で暮らす方が何倍もいい……
せめて他に人がいて町とかがあればいいんだけど……。
まああっちはあっちで周りに合わせて、人の目気にして、
やってみたい事もろくに出来ない毎日だったんだけどね。でもそれでもこっちよりは全然マシだったなー……。
せめて日本でももっと自己主張して色々やってみるんだった。
もう戻れない日本での生活に思いを馳せながら私は眠りについた。