y1.重罪
夕暮れ時、いつも通りの学校からの帰り道、いつも通りの駅のホームで、いつも通りにスマホを開き、小説サイトの無料小説を漁りながら電車を待っている。線路の方から吹く風が私の長い黒髪と紺色の制服を揺らして少し鬱陶しい。
今日で無事にラストJKになる為の儀式を終えた私の名前は田中 岬。
平凡な苗字に、結構いそうで中々いない名前。
気に入ってもないけど嫌いじゃない。
そんな私の趣味がこの携帯小説ってやつ。
帰宅部三年目を迎えたJKのありがちな暇潰しだ。
友達?そんなものは学校にはいない。クラス替え?ひたすら1人の私には関係ないね。
ついに始まってしまった学校に気持ちを落としつつも溢れんばかりに投稿されている小説サイトの中から、今は竹輪伝って小説を読んでる。
ていうか読まされてるような気がする。
な、なんだこの内容は……。短編だからスラスラ読めてつい最後まで読んじゃったけど、作者の頭の中を疑う。
なんかいい感じに下らない作品だった。あ、これは断じてステマなんかじゃないよ?イイネ?
そんなくだらない小説を読み終わる頃に駅のホームに轟音が響く。電車がやってきた。一度画面を閉じ、電車のドアが開くと同時に乗り込んで角の席へと座る。
窓から夕日が差す中再びサイトを開き、小説を読みながら電車に揺られている内に最寄り駅に着く。電車を降りてからも、ずっとスマホとにらめっこしながら歩いていた。
みんなは歩きスマホしちゃダメだぞ。
「異世界かー」
歩きながら思わずそんな独り言が漏れる。
それ程にこのサイトは異世界へ行くー、とかそんな系統の小説ばかりだ。まあ嫌いじゃないし少し憧れる部分もある。イケメン逆ハーレムとか最高じゃない?
私はツボにハマる作品を求めて適当に選んでは閉じ、また選んでは閉じを繰り返しながら家まで歩いていた。家まであともう少し、その時それはいきなり起きた。
突然世界から音が消え、さっきまで聞こえていた車のエンジン音や人々の喧騒が耳に入らなくなる。
異変に気付いてすぐスマホから目を離し 周囲を見渡すと、空は暗くなり、誰も居ない、そして車なんかもない。
それどころか家やビルさえも無くなっていた。
なんの音もしなく、あるのは見渡す限りの暗闇。
そして……突如目の前に現れた、明らかに怪しい扉だけ。
「な、何、、」
突然な事に驚いた私はおもわず呟き、辺りを何度もキョロキョロと見回す。
でも何も変わらない。
呆気にとられて棒立ちのままどれくらい経っただろうか。
私は暗闇の中で明らかな異彩を放つ、その無駄に大きな扉に吸い込まれるように扉の正面へと向かう。
(やっぱこの露骨に怪しいドア開けるしかないか……)
恐る恐る手を伸ばし、扉を押してみると中には真っ白な空間が広がっていた。
ゴクリと息を飲み込み、腹を括って空間の中へと踏み出す。
するとすぐに扉は閉まり、そして消えてしまった。
(ちょ、ちょ なんでなんで!なんで消えたの!!
こここここ、ここどこ!!)
瞬間パニックに陥った、怖すぎる。そりゃ何回も こここここ って言ってしまう。私じゃなくてもきっと言う。
「やあ初めまして、ミサキちゃん。」
パニックの私に追い討ちをかけるように後ろから聞き慣れない声が聞こえた。
反射的に声のした方を振り返る。すると私の膝ぐらいの身長をしたなんかよく分かんない生き物がいた。
まず大きな三角の耳にクリクリの瞳、体はフワフワの毛で覆われた二足歩行の……なんだこの生き物!見たことない!!
てか、これが喋ったの!?可愛いような気もするけど色が微妙過ぎる!
モスグリーンだった。
「なんかめちゃめちゃ失礼な事考えてるね?」
何故分かった…。そう思いつつも必死に取り繕い理解が追いつかなくて混乱している頭で会話してみる。
「い、いやそんな事ない!そんな事ない!ていうかあなたは?
ここはどこなの?何が起きてるの?」
私が矢継ぎ早にまくし立てると、モスグリーンはアメリカのホームドラマでしか見ないようなあのやれやれ、といったジェスチャーをドヤ顔でしながら答え始める。ぶっ飛ばすか。
「もうー、質問は一つずつにしてくれないかな。
順番に答えていくと、僕はまぁ君達が言う神様みたいなものかな。
あとここは僕が君を呼ぶために作った仮想空間、
何が起きてるかだけど…」
こいつ何言ってんだ。
まともに話そうとした私がバカだった。これはヤバイ奴に会ってしまったぞ。
適当にはぐらかしてなんとか家に帰らないと。
「あ、家には帰れないよ?」
心を読むな。だが的確に反応してくるのと、この理解不能な状況を考えるとこいつがなんか超常的な存在ってのは否定出来ない。
「どうすれば帰れるようになるの?」
私はとりあえず下手に出て聞いてみた。
「うーん、帰らせてあげるのは無理かなー、君にはこれから異世界で生きていってもらうから。」
「はい???い、異世界?」
驚きの答えが返ってきた。思わず目を見開いて聞き返す。
「その通り、君は今日、歩きスマホしてたよね?
だからその罰として異世界に送還させてもらうんだ。」
だ、そうです。
いやいやいやいや!ちょっと待て、歩きスマホの罰重すぎだろ!!
してる奴そこら中にいるわ!そんなんで異世界連れて行ってたら地球の人口増加問題もあっさり解決してるよ!
「いや、君は特殊なケースだよ?
あのまま歩きスマホを続けてたら君は車に轢かれてたんだ。」
ほんと心読むのやめろ。
「そのまま君を引いた車は逃走、警察と鬼ごっこしながら他の車にもどんどん事故を起こさせ
石油を積んだ大型車に追突、燃料に引火して大爆発した後その火が」
「待った待った!わかった!もういい!!
それでそうなる前に異世界送還ってわけね!」
えらく流暢に大惨事を語る口を遮るように了承した。もうやけくそだ。どの道このモスグリーンが作ったとかいうこの空間から出る方法も無さそうだし。どうにでもなれ。
「そういう事。意外と物分りがいいね。
まあ僕も鬼じゃない。歩きスマホぐらいで何も分からない土地に行くんだ。
むこうで生きていきやすいように特別なチカラをあげる。」
おお!!それはまさかチートってやつか!!
正直私にはこっちに大した未練も無いし、そういうのあれば異世界とか結構楽しそう!初めてモスグリーンが良い奴に見える。これは夢の逆ハーレムも……!
「そうそう、チートあげるから頑張ってね。
あげるのは『道具の作り方が分かる』ようになるチカラだ。」
え、ちょ なにそれめっっちゃ弱そうなんだけど違うのにし
「もう時間だ!それじゃあ頑張ってね。
いってらっしゃーい!!」
わあああ!ちょっと待って!
異世界ってどんなとこだとか、チカラについてとかまだまだ聞きたい事がいっぱ
思い終わる間もなく、私は異世界とやらにとばされた。