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Page 26 注目のアイドル

 



「そろそろ出番です。準備お願いします」


「「「「「はい!」」」」」



 出番を促してきたイベントスタッフに、馬鹿みたいに声を揃えて、いい子の返事をする。


 だってうちは、メンバーの「仲のいい」のが売り、そういうことになってるから。そんなわけないのに。本当は、足の引っ張り合いだってするし、プライベートでの付き合いなんかない。


 でも、そういうのを抜きにして、今日はみんな気合いが入っている。


 なぜって、人気テーマパーク「ファンタジックニャンニーワールド」でのライブ営業だから。私たちにとって、とてもやりがいのある仕事のひとつ。だって、注目されるし、マスコミの取材も来る。それに、観客も多くて若いお客さんばかり。ちゃんとライブを観てくれるし聴いてくれる。


 ああ、私たち、アイドルスターなんだって、ちゃんと実感できる仕事だから。



 *



 いまひとつパッとしないネットアイドルだった「戦乙女 華可憐(フラワーキューティ)」が注目されるようになったのは、ここ最近のことだ。


 刀の桜・槍の椿・盾の桔梗・弓の撫子・斧の山吹。普通よりは可愛い、でもアイドルとして1人で売り出すのは無理。そういったレベルの子を集めて作ったグループだ。


 売れたら儲け物。所属事務所もそのくらいの力の入れ加減で、広告費は最低限。衣装も、コスプレ風の衣装を一揃いだけ。個性を出すためにと「戦乙女」とゲームに寄せた銘を打ってのキャラ付け。それだけだと、よくいるネットアイドルの1グループに過ぎなかった。


 ところが、斧担当の山吹が急にやめてしまい、欠員が1人出た。そこで行われたオーディションで、審査員の圧倒的な支持を得て合格したのが私こと、諏訪ゆりあ。


 事務所と契約する際、アイドルグループの1メンバーとしてではなく、久々の大型新人として、ソロアイドルまたは女優としてのデビューを打診された。でもそこを、いずれはソロでやるにしても、最初はグループ活動がやりたいと押し切った。


 周りには勿体ない。口を揃えてそう言われた。でも、人気アイドルのセンターになる。それが以前からの私の願いだったし、今もそうだ。その選択については、自分でも不思議なくらい少しも迷わなかった。



「でも、ゆりあは、黄色ってイメージじゃないね。それに、そもそも黄色ってセンター色じゃないし」


 私も黄色は嫌だった。


 フラワーキューティーの現在のセンターは「桜」。イメージカラーはピンク・ホワイト。グループ内にイメージカラーがピンク系な子はもう1人いて、「撫子」の色がパステル・ピンクだ。



「私のイメージって何色ですか?」


「うーんそうだね。華やかで力強い感じ……赤なんか似合いそうだね」



 赤……悪くない。


 パステル調の配色の中で、原色の赤は一際目立つに違いない。でも。



「でも、赤って椿さんの色ですよね。私がなる山吹は、どう考えても黄色系になるんじゃないですか?」


「うん、そうだね。でもそこは問題ないよ。アイドルグループの配置換えは珍しいことじゃないから」


「配置換えですか?」


「そう。ゆりあちゃんの参加は、このグループにとって大きな起爆剤になる。新生『フラワーキューティー』のセンターは、君の演じる『椿』で決定だ」


 それからは、事務所の社長の言う通りになった。


 今まで「椿」をやっていた伊東菜奈が「山吹」に変わり、盾の「桔梗」と共に両サイドに配置。これまでセンターだった「桜」と、同じピンク系の「撫子」がセンターの両脇を占めるシンメトリーに。そして、新しいセンターは、もちろん新生「椿」であるこの私。



「いいね! 凄くバランスが良くなったよ。これはイケる、このグループは必ず打ち上がる」



 社長の目論見通り、再編したアイドルグループ「フラワーキューティー」は、急に注目を浴びるようになり、ネットアイドルの枠を越える仕事が次々と舞い込むようになってきた。



「ニャンニーワールドのライブ営業なんて、去年の私たちからは予想もできないよね」



 そう明るく言い放つのは、シンメトリーに昇格した「撫子」。パステル・ピンクがよく似合う、童顔で甘い容姿と雰囲気に、熱心な固定ファンがついている。彼女はこの現状にかなり満足しているように見えた。



「大勢の観客の前でライブができるようになって、やりがいが大きくなったね」



 その性格通りに真面目な意見を言うのは「桔梗」。彼女はグループ内での立ち位置が唯一変わらない。容姿もそしてキャラ的にも大人しめ。アイドルグループとして注目されていくのが嬉しい、日頃からそう言って頑張っている。



「ここで満足していないで、もっと上を目指して頑張ろう!」



 そう喝を入れるのは、「椿」から配置換えされた新生「山吹」。シンメトリーから両端ポジションに実質降格となり、待遇に不満を持っているかと思ったが、案外そうでもなかった子だ。


 彼女はグループ内で一番背が高く、その大人びた外見から以前は椿に抜擢されていたが、本人的には「菜奈」という本名から想起する黄色をモチベーション・カラーにしていて、実際、黄色がよく似合っている。


 重かったロングヘアから思い切ったショートカットに変えて、そのスタイルの良さがより際立つようになった。この配置換えとイメチェンにより注目が集まり、彼女の個人ファン層は以前より増えているそうだ。



「そうよ、こんなところでなんか立ち止まれない。グループ全体がもっと高い所に行かなくちゃ。じゃないと大きなチャンスなんて来ないんだから」



 かなり思い詰めた感じに語るのは、元センター、現シンメトリーの「桜」だ。ポジションチェンジ当初は、相当ストレスがかかったようで、一時的に体重管理が危なかったが、その後、振付師からダイエットを厳命され、なんとか体型を戻すことに成功した。



「私たち、絶対もっと上に行けるわ! じゃあ、行きましょう!」



 そして私、新生「椿」。加入以降、不動のセンターと呼ばれ、実質このグループを牽引している。思い描いた通りの華やかな世界。一歩一歩進むごとに成功に近づいて行くのが分かる。なんて楽しくてやりがいがあるんだろう。


 ステージに立つ私たちへの歓声。憧れの視線。


 歌って踊って、作り上げるライブステージって、なんでこうもワクワクするのかしら。私はこの世界で、諏訪ゆりあとして、絶対に頂点に立ってみせるんだから。



 *



「お疲れ様。ライブ凄く良かったよ。これからしばらく、年末番組への出演で忙しくなるけど、この調子で行こう! 今、君たちは急な上り坂を上り始めたところだ。立ち止まればそこでOUT。でもここで踏ん張れば、次のレベルに突き抜けることができる。そう信じてる」


 新しく担当になったベテランマネージャーの労いに、心が騒めく。


 年末のスケジュールは、休む暇もなく埋まっている。テレビの歌番組やゴールデンタイムの人気バラエティ。注目のアイドルを起用するロケ番組。


 ここが正念場だって、全員分かってる。


 ぎゅうぎゅうに詰め込まれた仕事をやり終えれば、夢の方から近づいてくるってことを。そう。私たちの目の前には、トップアイドルへの道が、今まさに開こうとしている。



第4章 学校行事編はここまで。次回から、年末年始編になります。

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