Page 18 俺以外全員ファンタジーカラー
やってきました夏休み。補習も終わって気分は軽い。
いよいよ今日、「戦国絵巻華風伝」の正式配信がスタートした。
部屋のエアコンを調整して、カーテンを閉める。ゲームしていて熱中症とか、笑えないからね。薄暗くなった室内にVR機器本体の黄緑色の稼働ランプと、ヘッドギアの赤い待機ランプがポツンと光っている。
じゃあ、ゴロンとベッドに横になって、ログイン。
*
ゲーム導入のストーリーが映画の予告編のように始まった。
舞台は、戦国時代によく似た架空の世界「ネオ倭国」。プレイヤーが降り立つのは、戦乱がおさまり、一時の平安を得た……という設定の戦国マップ。
《各有名城下町や人知れぬ村落を巡り、希少なアイテムをGETしよう! 第六天魔王の治める岐阜牙城、猿面冠者の支配する聚楽第……様々な舞台で、伝説の英傑が君を待っている。》
ムービーが終わって、画面が切り替わる。
《「ネオ倭国」に降り立ちます。準備はいいですか?》
目の前で点滅している[OK]ボタンを押すと、一瞬、意識が吸い込まれるような感覚があって、ふっと気がつくと、そこはもう時代がかった見慣れぬ町の中だった。
《「ネオ倭国」へようこそ。ここは水郷の町「浮島」。ここで冒険の準備を整えましょう。》
今いるのは、広いスクエア形の大きな広場で、四方はぐるっと出格子のある伝統的な町家の建物に囲まれていて、その家々の向こうには張り巡らされた堀と太鼓橋がのぞいて見える。
配信開始直後はすごく混むだろうということで、待ち合わせ時刻をあえて配信開始の2時間後とした。そのせいか、辺りはわりと閑散としていて、のんびりとした雰囲気が漂っている。
えーっと、待ち合わせ場所は、この広場のどこかにある「冒険茶屋」だったよな。
冒険茶屋は、いわゆる冒険者ギルドに相当する施設で、間口はいかにも茶屋という風情のある外観だけど、内部は拡張スペースになっていてかなり広く、無料の休憩所があるそうだ。これは全て結城情報。ゲームに詳しい仲間がいると助かるね。
おっ!? あれかな?
「冒険茶屋」を見つけて入ると、早速「休憩所」を探す。そして、椅子やベンチ、テーブルが置かれた広いスペースに、それらしき集まりを見つけた。全員男性のためか、かなり目立っている。ちょっと離れた場所から、彼らの方を見てひそひそお喋りをしている女性プレイヤーの集団がいく組かいた。
「カッコよくない? あの人たち。本物の男性かな?」
「あれなら、お姉さまでもいいけど、多分男性じゃない? 骨格がしっかりしてるし」
「そっか。そこら辺はあまり変えられないんだっけ?」
「あっ! もう一人来た! やん。やっぱり凄いイケメン」
辺りがザワザワする。
そういった女性プレイヤーの脇をすり抜けて彼らに近づいていくと、向こうも気づいたらしく、こちらを向いて手を振っている。
「お待たせ。みんな早いね」
「いや。まだ2人来てないし。俺たち、念のため場所取りしてただけだから」
俺より先に来ていたのは3人。結城、北条、上杉だ。
「とりあえず、パーティ組もうか。その方が個人情報保護的にいろいろと都合いいし。あとフレ登録も。他の全員はもう済んでるから」
ってことで、パーティ加入と、既に来ているメンバーとのフレ登録を済ませた。そして、ユーザー設定から、個人情報的保護モードをONにする。こうしておくと、パーティ外やフレ以外のプレイヤーに登録情報が漏れない様に自動ミュートしてくれるそうだ。便利だね。
「斎藤は、ちょっと遅れるって連絡があった。今川はそろそろ来ると思うよ……って言ってたら、来た」
辺りのザワザワが一層大きくなった。
結城の視線を追ってみると、えっ!? マジ!? っていうくらいにキラキラした美少年が、優雅に微笑みながらこちらに近づいて来た。
今川くん、マジ美形……っていうか、美少年。
もしかすると年齢は弄っていないのかもしれないな。だって、これで25歳設定とか、ありえないだろう。
「みんな、久しぶり。会えて嬉しいよ。あっ! 君が話で聞いていた武田くんかな? 初めまして。今川晴人です。よろしくお願いします」
「初めまして。武田結星です。こちらこそよろしく」
「武田くん、本当に凄くカッコいいね。みんなが言ってた通りっていうか、想像以上だよ」
◆今川 晴人 プロフィール
誕生日 7月21日 蟹座
身長 170 cm
血液型 B型
座右の銘 「偕老同穴」夫婦が仲良く歳を重ね長生きすること。
評判「深窓の令息」「貴い」「飾っておきたい」
空き婚姻枠 11/12 (婚姻 1)
久々に見たよ、プロフィール表示。座右の銘が、ちょっと目を引く。結婚して学校は辞めちゃったけど、これを見ると、きっと夫婦仲はいいんだろうな。
こうして集まると、偶然なのか申し合わせているのか、かなりカラフルな集団になった。結城の髪の色は鮮やかな青、今川くんは爽やかな緑、上杉が意外なことに派手な橙で、北条が明るめの紫。
俺以外全員ファンタジーカラーだ。あれ? 俺ってちょっと普通過ぎた?
「今川の抜けたあと、クラスがどうなるかと思ったけど、武田がきてからだいぶ落ち着いたよ」
「あの時は、みんなに迷惑かけてごめんね。クラスが落ち着いたって聞いて本当に安心した」
「武田が転入初日にぶっちぎった時には、冷やっとしたけどな」
「無断欠席とか、もしかして打たれ弱い系かと思ったら、大物だった」
久しぶりの再会になる今川くんを交えてワイワイやっていると、
「悪い、待たせた」
遅れるって連絡があった斎藤くんがやってきた。
おー。
僧侶をやるって聞いていたけど、イメージカラーなのか髪と虹彩の色が白に近い金色。一見、別人みたいだ。ここまで色を変えると、人ってかなり印象が変わるんだね。
「斎藤、すごく神々しい感じだね。白いの似合ってる」
「そうか? ありがとう。そういう武田は黒髪? てっきり赤にするかと思ってたのに」
「赤? なんで?」
「あれ? そう言われてみると、なんでだろう? よく分からんけど、そういうイメージ?」
「あれじゃない? 武田って、特撮戦隊だったら絶対、レッド! とか呼ばれちゃうタイプじゃん。そこから来てるとか?」
「んー。そう、かも?」
「分かる。武田は絶対センター。今川とはタイプがかなり違うけど」
「でも、武田と今川は、女子に優しいところは一緒じゃない?」
「まあ、そうだな」
全員揃ったということで、最初のフィールドへ出てみることになった。向かうのは東門。東門の向こうにあるのは、草原と潅木の林が点在している、その名も「スライム草原」。チュートリアルで出てきたようなのが主な敵になるそうだ。
前衛が結城と俺。中衛に上杉と北条、後衛に斎藤と今川。とりあえずその配置でやってみようということになった。
しばらく草原で戦っていると、クラスの女子たちのパーティとバッタリ遭遇した。それも4回。
「偶然ね。私たちも、今日始めたの」
「本当に偶然ってすごい。ばったり会うなんて」
「男子たちもバトフラ始めたんだ。私たちもなの。偶然ね」
「わー。こんなところで会うなんてびっくり」
つまりクラス全員?
まあ、今日は初日だし、ここは初心者フィールド。このゲーム、前評判では女子に人気が出そうってことだったらしいから、そういうこともあるのかな?
草原での狩りは順調で、隠密の結城が索敵、侍で軽戦士ビルドの俺が遊撃、同じく侍でバランス戦士型の上杉がメインアタッカー、侍で防御ビルドの北条が壁役、今川が華師で、斎藤が僧侶。かなりバランスがいいせいか、サクサク敵を倒していくことができた。
「『水槍』行くよ。射線を開けて」
大量湧きしたレッドスライムに、今川の水華法が炸裂した。水圧でスライムがボコボコッと変形し、核が露出して崩れていく。
こういった攻撃華法をみると、ゲームって感じがするね。俺も風華法を使えるけど、職業が華師じゃないせいか、まだ攻撃華法は出てきていない。
いずれ出てくるといいな。竜巻旋風〜とか使えたら楽しそう。
いやでも、男ばかりのパーティってどうよってチラッと思ったけど、全然気兼ねしなくて済むし、じゃれ合うのも気楽でとてもいい。結城が言っていた意味がよく分かった。
女性ばかりのこの世界で、女性の視線を意識しないのは、日常とても難しい。ゲームの中くらい、男同士でつるむのもいいもんだ。