第4話
「レレ……ファーレ・アッチェソーリっていうんだけど、根っからの物作りバカでね。新しいレシピを思いついた! って寝ている私を起こす事も何回もあったわ」
リア姉さんの話は、その言葉から始まった。
「私の魔道具作りの師匠みたいな子で、自称部下なの。タメ口だし、本人が主張してるだけだけどね」
「私? 私は娘だと思ってるわ。妹にしては背とか精神年齢が低かったし、ご飯とかの世話をしたりした時期もあったしね」
「ちなみにだけど、レレはドワーフよ。褐色の肌にさらさらした白い髪、丸くて大きい金色の瞳の女の子。寿命は人と同じか若干長いぐらいで、長命種って訳ではないわね。でも、「ずっと物を作ってたいから」って言って私に頼んで不老になってるから、その辺の心配は入らないわ」
懐かしそうに、少し寂しそうにリア姉さんは語る。
やがて話題は「過保護になった切っ掛け」に移り変わった。
「ハメられたのよ。レレの才能を妬んだバカにね」
「変な時空間に飛ばされていったわ、私の目の前で」
「その穴が暴走していたのと、犯人が全力で結界を張って、数の暴力で妨害もしていて、まだまだ未熟だった私では、止められなかった」
それまで、感情を出来る限り抑え込んだ声音で語っていたリア姉さんの表情が、くしゃりと崩れた。
「……だから、その時の無力感を、もう味わいたくないの。家族を、私の手が届かない所に追いやってしまうのは、もう絶対に嫌なのよ」
リア姉さんは震える声で、悲しそうに顔を歪めて言う。
「彼女の死亡は、確認したのか?」
「いいえ。世界渡りが出来ても、少しだけ感じた空間の感じだと、今でも転移が無理そう……というか、ぐちゃぐちゃ過ぎて狙いを定めきれないというか……。危険だし、失踪先の世界に迎えに行くのは、無理なのよ」
「……なら、その人が自力で帰還できるかどうかは」
「…………ああ、そういえば彼女の持ち物に、凄すぎる耐久性のある結界具があったわ。工房も持ち歩いてるし……」
「帰って、来られるかもしれない?」
「ええ」
「なら、一番に迎えられるように、その失踪した世界で、待ってみよう。クーねぇ、ルナさん、いいか?」
「もちろん! リア姉さんの大事な家族だもん、行くに決まってるよ」
説子の提案に、わたしは飛びついた。
「私は主様のご意向に従います。……ですが、その方に会ってみたいとも思います」
ルナリィさんの控えめな主張に、リア姉さんは目を瞠り、そして嬉しそうに微笑んだ。
「説子……クーもルナも……確かにそうね」
「じゃあ、また世界移動か?」
説子がそう問いかけると、リア姉さんは少し気まずそうにしながら、
「あー、いえ、実はここが失踪した世界なの」
と言った。
……もしかして、あの武装集団はそれでかな?
「だから、しばらく観光しながら待ってみましょう」
「もう帰ってきてる可能性を考えて、探してみるのもありかもしれないぞ」
「ああ、確かに。じゃあ明日と明後日は世界中を回って探してみましょうか」
説子の言葉にリア姉さんは納得したように頷き、予定を組み立てる。
「あれ、今日はどうするんだ?」
「言ったでしょ、観光よ。工房とか、観光がてらにレレが寄りそうな所を回ってみましょう」
「「了解!」」
7へつづく