Episode04 Side‐M『過去の栄光』
・2013年10月2日~2014年6月7日までの間に投稿した短編を纏めて再投稿したものです。
・古き戦乱の時代で剣王の志を知った瑞紀と、何かのために戦い続ける魔導部隊〔魔導師事務捜査隊〕エース陣との関わりの話です。
短編なのに長編みたいでかなり長く、専門用語連発、シリアス展開続出、戦闘シーンばっかりですが、楽しんで頂けたら幸いです。。
総文字数は、9,232字です。
だいぶ長いので、作業の合間にでもどうぞ。
いつぞやの隊舎案内では全くというほど触れていなかったが、実は〔魔導師事務捜査隊〕隊舎の地下には資料室がある。
資料室と言えば聞こえはいいが、迷路みたいに複雑な造りをしている上、馬鹿みたいに広く、まるで図書館の書庫のよう。
隊舎案内の際に誰一人として私に紹介しなかったことから、研修生には資料を閲覧するどころか、立ち入りすることすら好まれていないのだろうが、見つけてしまったものは仕方が無い。
研修初日はヴェスリーさんのハードな訓練にすっかりバテてしまい、即行ベッドインしたから気が付かなかったのだが、二日目の夜、寝付けなくて隊舎内をうろうろしていたら偶然ここに辿り着いたのだ。
厳重な警戒をされていなかったことから、つい入ってしまったのだが……。
(第百三十二代〔魔導師事務捜査隊〕総大将の業務日誌か……。ちょっと読んでみるか)
――このように、その日から資料を読み漁るようになった。
優秀な斬撃型魔導師の資料とかあれば紐解こうと思っているし、悪用する気はさらさらないのでそれくらいは許されるだろう。
ふと、気になって手に取った日誌の最初のページを開いて、私は驚愕した。
【作成者 第132代〔魔導師事務捜査隊〕総大将――香高宇麗】
目が点になったと言っても過言ではない。
それくらいに驚いたのだ。
香高? それは、未歌さんの名字では?
【6/5
今日、母さんに総大将として業務日誌をつけなさい、と言われた。
面倒くさいからルクに押し付けようとしたら、母さんに怒られてしまった。
くそう、サボろうと思っていたのに】
その内容に目を滑らせると、またもや点になってしまった。
……これは、どちらかというと業務日誌というより個人の日記なのでは? それに、母さんって――?
【7/1
今日も寒い。あまりにも寒いので、訓練をサボろうとしたら、輝詞にこっぴどく叱られた。
輝詞は本当に生真面目だ。代わりに総大将をやってほしい。
そうだ、輝詞の紅蓮の炎であったかくはならないだろうか。
見るからに暖かそうだから、ずっと傍にいて欲しいな。
……と言ったら無言で睨み付けられた。】
一月ぐらい飛んだんですがそれについてコメントは……。
っていうか、本当にこれ業務日誌じゃなくて個人の日記じゃねえか!
なんだよコレ! 未歌さんといい、この宇麗とやらといい、総大将ってこんなんばっかか!?
と一人心の中でツッコミを入れ続け、手で小さくチョップをしていると、とある文章に目が行った。
【そうだ、輝詞の紅蓮の炎であったかくはならないだろうか】
――紅蓮の炎?
それって、剣王ローズアグストの所有色?
えっ? どういうこと?
……いや、落ち着け。この業務日誌の内容から察するに、この総大将は途方もない馬鹿なんだ。
だから、赤っぽい輝詞とやらの所有色をかの有名な紅蓮と間違えているんだ。
そうだ、そうに違いない。
「よっ、と」
念のため、別の総大将が書いた業務日誌を見てみる。
【10/27
本日AM5:12、市街地で起きた魔導騒乱事件の解決の為エース5名が出動。
この事件で死傷者は出ていないが、行方不明者多数。
同日PM9:45、行方不明者36名を無事保護。まだ行方不明者がいると思われる為、捜査継続中。
2日後、10/29、AM2:39、新たに行方不明者14名を保護。
先の36名が無傷だったことに対し、この14名は重軽傷者が8割を占める。
魔導騒乱事件にもう一つの犯罪組織や何らかの禁忌の遺産が関わっているとみて、隊員30名を派遣、捜査継続中。他にも――】
うん、この人は凄く真面目だ。
他にも、の続きもずらずらと書いていたが、そろそろ睡魔が襲ってきたのでここら辺で打ち切る。
今は研修三日目の夜、未歌さんとイラヴェントのド迫力模擬戦を観戦し、アールグラスさんと手合わせをし、イヴェルさんのノリに振り回された日の夜だ。
身体は疲労感と倦怠感を訴えているし、研修終了までにはあと一週間と四日もある。
そんなに急ぐこともないし、寮に戻って寝よう、と私は二つの業務日誌(※ただし片方は日記)を元あった場所に戻し、地下資料室を後にする。
一階に上がり、駐車場を経由して、並立する隊員寮に向かう途中、見慣れた人影を目撃した私は、思い切って声をかけてみた。
「あの……未歌さん?」
「っにゃ!? あ、あぁ……瑞紀ちゃんか。こんばんは」
総大将にあるまじき間抜けな大声を響かせたあと、平静を繕って挨拶をしてくる未歌さん。
見れば、彼女の手には車のキーらしきものが見える。
どこかに出張でもしてきたのだろうか。
一日を丸々訓練に費やすことの出来る暇な研修生とは違い、総大将っていうのはやっぱり忙しいものなんだろうなぁ。
まあ、偉い人っていうのは大概そうだろうけど……。
「お疲れ様です。……どこかに出張で行かれたんですか?」
「え? ……あ、あぁ…………うん、まあね……」
おや、珍しい。
いつもは具体的に明朗な声で、明快に事態を説明してくれるのに、何故か歯切れが悪い。
常時笑顔でいる未歌さんなのに、表情に翳が落ちちゃっているし……。
もしかして私、今度こそ地雷踏んだ?
「……それはそうと、瑞紀ちゃん。君、こっそり資料室に行ってるでしょ?」
咎めるような口調。
それは分かる。
分かるが、何故そんなに弱々しい笑みを浮かべているのだろう。
「え、あ、はい。えと……すみません?」
「行くなとは言わないけど、許可くらいは取ってから行ってほしいな。
私に言いにくいなら、イヴェルにでもヴェスリーにでもいいからさ」
「はい。申し訳ございませんでした……」
もしかして、疲れているのだろうか?
私の前では仕事をしないダメダメな総大将を演じているだけで、実は超生真面目な性格で、過労で倒れかけるほど働き過ぎているとか?
「あの……未歌さん、大丈夫ですか?
働き過ぎで倒れたら〔魔導師事務捜査隊〕が総崩れになりますよ?」
魔導師の頂点に君臨する不屈のエース・オブ・エースに出過ぎた真似かとは思ったが、一応そう言ってみる。
すると、意外な反応が返ってきた。
「にゃはは、ダイジョブダイジョブ。私が働き過ぎで倒れるなんて、地球が大爆発を起こして粉々になろうとも起こりえない現象だからww」
前言撤回。
この人、超元気だ。
地球が大爆発を起こしても、ってなんだそりゃ。
そんな大変な緊急事態の時でさえ働かないのかこの人。
最初、出張云々を訪ねた時と一転していつもの未歌さんに戻ったので、これなら安心して訊ける。
――資料室の業務日誌に載っていた、『香高宇麗』という人物について。
「ッコホン……あの、未歌さん、ちょっと宜しいでしょうか?」
「んにゃ? 重要なコト? んじゃ、隊長室行こっか。あそこなら話せるし」
「あ、お願いします」
夜も更けているというだけあって、隊舎内に人影は全くと言う程無かった。
残業か何かなのか、昼間と変わらず仕事をしている人や、デスクに突っ伏して仮眠をとっている人が居る限りである。
何か非常事態や緊急事態があれば、魔導端末に直接召集がかかるので、基本的に隊舎の内に居る必要が無いからだ。
研修生や魔導師教育部で魔導訓練を受けている人は寮で寝泊まりするが、それ以外の人は自宅で夜を過ごす。
まあ、私が説明しているのは一般論で、未歌さんみたいな最上級クラスの人の話は分からないけどね。
「で、何の話?」
人気のない隊舎内を観察しつつ歩いていたら、いつの間にか隊長室に到着していた。
ていうか、なんで“総大将”なのに隊長室なんだよ。
よくよく考えてみると不思議だよな、これ。
〔魔導師事務捜査隊〕って“隊”ってついているから普通一番偉い人は“隊長”ってなるはずなのにね。
「あ、あの……資料室にあった業務日誌に書いてあったことについてなんですが……」
いつぞやも見た、机に肘をつき、指を組んでその上に顎を乗せるという傾聴姿勢を取った未歌さん。
私がおずおずと話を切り出すと、業務日誌に――の辺りでピクッと肩を震わせた。
だが表面上は変わらず、にっこりと笑って続きを促している。
「『香高宇麗』という人物について、ちょっとお話を――」
「香高宇麗は、私の娘だよ」
伺いたいんですが、と続けようとすると、彼女らしい強引さで私の言葉を打ち切らせた。
そんなに訊かれたくないことなのかな。
「齢十三歳にして、私をも超える莫大な魔力量と恵まれた才能で、数々の大規模魔導騒乱・殺人事件を解決してきた〔魔導師事務捜査隊〕を束ねたエース。
そして、第132代〔魔導師事務捜査隊〕総大将。――それがどうかした?」
そして、彼女らしくない超早口でまくし立てる。
内容が聞き取れないほどでは無かったお陰で、どうして未歌さんが『香高宇麗』の話題を渋っていたのか、ひいては他人が地下資料室への出入りすることを嫌っていたのかが理解出来た。
説明の途中に登場した、「解決してきた」とか「束ねた」という動詞の過去形を聞けばよく分かる。
恐らく、香高宇麗という人物は、今現在エースはおろか魔導師として活動出来ないほどの怪我や病気か、最悪の場合はもうこの世にはいないということだ。
当時は天才エースの消失、とか言った衝撃ニュースが駆け巡ったに違いない。
世間はどちらかと言うと、未歌さんが言うような才能に恵まれ大きく活躍したエースが墜ちた、または他界したということに対して大きな衝撃を受けていて、彼女に『娘を見殺しにした母親』と強く当たることは無かったのだろうが、それでも母親として辛かったのだろう。
「いえ、非常に珍しい漢字の名字だったので、未歌さんとの関係性は?と因果関係を知りたかっただけです……。すみません、こんなこと訊いて……」
「……私も、ごめん。……実はさ、さっき、車のキー持ってたじゃない? あれ、宇麗のお墓参り行ってきた帰りだったんだ……」
再び、未歌さんの表情に翳が落ちる。
お墓参り……ってことは、もう生きてはいないんだ……。
「……私さ、いつもこうなんだよね……。大切なのに、大切に思っているのに……いっつも、空回りしちゃってさ……。リナの件も、宇麗の件でもさ……。ホント……私って、ホントバカだ……」
敬軸リナ。こちらは噂話とか伝聞とかで常々お名前は拝見・拝聴している。
なんでも、超高速機動に長けたスピード型の射撃型魔導師で、未歌さんと並んで『不屈の疾風』と畏れられていたとか。
こちらも、数年前に他界してしまったのだろう、未歌さんが顔を手で覆っていることから察せられた。
「昔っから、私と関わった人は何らかの不幸に見舞われちゃうんだ……。……だから私は、バカのフリして、間抜け面して……人と仲良くなりたがらなかった……。
瑞紀ちゃんは、他人に何の配慮もしない私に呆れて……どっか行っちゃったよね。でも……皆は違うんだよ、なんでか知らないけど、私について来ちゃうんだよ……」
なるほど……そういうことか。
隊舎案内の際に、魔導師なら誰でも知っている超大物と昼食を伴にする時、緊張しているだろうと憶測をつけて、声をかけたりとかそういった類の配慮を、全くしてくれなかった未歌さん。
その時私は、他人に干渉しなさすぎるだろと憤慨して、それ以降彼女と積極的に関わろうとしなかった。
でも、過去にそういうことがあったからこそなんだよな、ああいう対応をしたのは。
それでも人が付いてきてしまう、付いてきてしまったらその人は不幸な目に遭ってしまう、と未歌さんは内心冷や冷やしていたことだろう。
そして、過去に起こった悲劇に心を痛ませ、より一層、バカの演技をして、間抜けなフリしてきたんだ。
誰も傷つけないよう、誰も悲しませないよう。
自分だけが犠牲になろうと、それだけを目標にして頑張って来たんだ。
でも、それじゃ――。
「それじゃ、一層付いて行きたくなるじゃないですか」
「――え?」
私は今まで、未歌さんを慕い、敬い付いて行く人を、単なる物好きかよほどのお人好しなのかと思っていた。
だってあんなに無遠慮な人なんだもの、人との関わりを避けて、偽物の笑顔を浮かべている人なんだもの。
私には到底理解出来なかった。
でも、今分かった。
イラヴェントやイヴェルさん、アールグラスさん、蒐さん、そしてヴェスリーさんが未歌さんのことを悪く言いつつも付いて行く理由。
あの人たちは、私より賢かったんだ。
表面的な態度だけ額面通りに受け取って、毛嫌いなんてガキみたいな真似をしていた私より、恐らくは何百倍も。
未歌さんの内心をある程度把握していて、行動や言動の意図や本当の理由を自分なりに解釈していたからこそ。
自分こそが犠牲にならんと奮闘する未歌さんに惹かれたというか、その背中に付いて行かざるを得なかったのだろう。
「――いや、なんでもないです。無粋なこと訊いて、申し訳ございませんでした。続いてのお話、宜しいでしょうか?」
「え? あ、うん」
残念ながら、随分と凹んでいたらしい未歌さんを慰めるほどの言語力や度胸などは、微塵も持ち合わせていない。
短く謝罪を述べ、笑顔で話題を素早く切り替える。
彼女は当初こそぽかんとしていたが、自らの痴態を流してくれるのならそれでいいと思ったのか、すぐに頭を切り替えてくれた。
「『紅蓮の射手』のことについてなんですが、過去に〔魔導師事務捜査隊〕に在隊していたことってあったんですか?」
「……どうしてそう思うの?」
「あ、いえ、同じく業務日誌に“紅蓮”という文字が書いてあったので……」
「うん、過去に何回かあるね。最近だと、十年前と六年前に最長で一年ちょい居たかな」
「そうなんですか……。結構、頻繁に会えているんですね」
「うん。……でも、いくら狭いサヴィスク島と言っても、やっぱり偶然で会える確率は少ないかな。
何か大きな魔導事件でも起きれば遭遇する可能性も高くなるけど、最近はそんな大きな事件とか起きずに平和な日々が続いているからね~」
未歌さん、それは俗に言うフラグというヤツでは?
「サヴィスク島どころか、地球規模で危険視されているグループが鎮静化しているからだよ。
〔呪縛の鎖〕は怨敵である皇舞卿四属性姉妹が消滅して活動を少し落ち着かせているし、
戦局挽回の切り札〝神劉幻〟は未だ行方不明でどこをほっつき歩いているのか分からないし、
違法研究による人造魔導師製造も、だんだん減少傾向にあるし……。
昔と比べて、大分平和になったかな~とは思うよ。
月一で出動があるかないかぐらいのレベルだし。腕利きのエースがここまで暇になるって相当だよ」
確かに。
未歌さんほどのエースならば、事件が起きるたびに駆りだされて引っ張りだこになるはずだ。
エースどころか魔導師自体減少傾向にある現代、力のあるエースというのはどこへ行っても重宝されるからである。
それなのに研修生と呑気に会話出来ているほど暇しているというのは、平和ってレベルじゃないくらい世界は安泰しているのだろう。
「今も、『紅蓮の射手』だって、大あくびしながら悪夢師を探しているんじゃないの?」
「あはは……」
それは……相当だな。
……ん? 悪夢師?
「あれ? なんで悪夢師を探す必要があるんですか?」
「へっ!?」
私以上に間抜けかつ愛嬌のある驚き方をした未歌さん。
何故人間は食事をとるのですか、と尋ねられた人みたいに、素っ頓狂な声をあげる。
あれ? もしかしてこれって常識?
「……『紅蓮の射手』は悪夢師殺しの超エキスパートだからね。
そうでなくても、彼女自身悪夢師に何らかの恨みを持っているのも手伝って、今も各地で悪夢師を狩り続けているんだよ。
……でも、考えてみれば不思議だよね。ほら、『紅蓮の射手』って一度死ぬと記憶がリセットされるっていうじゃない?
ローズアグスト時代の記憶が僅か残るだけで、言わば身体は大人、頭脳は子供! ……ってなる訳でしょ?
……一度生まれ変わっても尚、悪夢師を憎み続けるって、実は不可能なことだったりしない?」
「そうですね……考えてみれば……。要は生まれたばかりの赤ん坊状態ですからねえ……。
でも、ローズアグスト時代の記憶は残っているんですよねえ」
ん? 待てよ……?
『紅蓮の射手』がまだローズアグストだった時代――つまり、ガリディールを治め、古き戦乱の時代を駆け抜けた頃の記憶を引き継いでいるのだとすれば、ひょっとして私のことを覚えている確率は無くはないよな?
万が一覚えていなくても、剣王ローズアグストに憧れている――とか言えば、少なくとも好印象を抱いてくれるわけで。
私が高校を卒業するまでに〔魔導師事務捜査隊〕で魔導訓練を受けて多少強くなれば、卒業した途端にこの部隊に入隊するってことも可能だろうし、そもそも魔導師人口減少が懸念されているこの時代、〔魔導師事務捜査隊〕の研修経験がある者の入隊を、頭ごなしに拒んだりはしないだろう。
実力派ともなれば事件が起こる度に駆り出されるって話だから、運が良ければ『紅蓮の射手』に会えたりはしないだろうか?
で、会える頃には未歌さんはともかくヴェスリーさんや蒐さんとかと肩を並べられているだろうから、悪夢師狩りの旅に同行してさ。
いいんじゃね!? このプラン。
単なる皮算用だけど……。でも可能性はゼロじゃないよ! たぶん!
「……あ、瑞紀ちゃん、今『紅蓮の射手』の旅に同行したいなとか思っちゃってるでしょ?」
「はい!?」
何 故 ば れ た し。
「なんでかは分からないけど、瑞紀ちゃんが剣王に好感情を抱いているのは丸わかりだしね。
ひょっとしたらそんなことまで考えちゃっているんじゃないかなー、と推測を立ててみたんだけど……。
どうやら正解だったみたいだね。……悪いことは言わないよ、やめておいた方が良いよ」
むっ。つくづく無遠慮且つ、人の心情を汲み取ろうとはしない人だな。
確かに今の私じゃローズアグストとは釣り合わない(戦力的な意味で)と思うけど、でもいつかは強くなって彼女の役に立てる日が来るかもしれないじゃないか!
新人の妄想とか皮算用とか机上の空論って、切って捨ててしまえばそれまでだけど、夢くらい見させてくれてもいいんじゃないだろうか。
「普通の人間の君と、不老不死の彼女とは、生きる時間の単位が違う。
どんなに仲良くなって心を通じ合わせるほどになっても、瑞紀ちゃん、君はいつか死んじゃうんだよ? 無二の親友を失った時の気持ちは、私にはよく分かるから……。
せいぜい、知り合い程度に留めておいた方が良いと思う」
すっかり失念していた。
そうだ、ローズアグスト――じゃなかった、『紅蓮の射手』は数百年を平気で生きる魔導師だ。
きっとこの先、数千年だろうが数万年だろうが、それこそ未歌さんの例えにあったように地球が大爆発を起こそうが、彼女は生き続ける。
過去に犯した罪を背負いながら、ずっと独りで。
それに比べて、私の命は数十年で尽きてしまうだろう。
きっと未歌さんも、いくら不屈のエース・オブ・エースと言えど私より先に命の炎が消えてしまう。
普通の人間が『死にたい』と思うのと、不老不死の彼女が『死にたい』って思うのとは重さが違う。それこそ、全身全霊で死、ひいては楽になることを望んでいるのだ。
そんな人間に友など出来やしない。
出来たとしても、いずれいなくなってしまう。
……切ねぇ。
「あー、なんか暗い雰囲気になっちゃったね。
……ほ、ほらっ! まず瑞紀ちゃんは、人のことより自分のことを考えるべきだよっ! まだ研修は終わりじゃないし? し、資料室への出入りは別に構わないからさっ、ねっ?」
我侭を言い散らして泣き喚いて、地団駄を踏んでいる幼子を諌める母親のように、おろおろとうろたえながら早口でまくし立てる未歌さん。
……どうやらこの人も私と同じで、暗い雰囲気はあまり得意じゃないっぽい。
「あ、いえ、こちらこそすみません、暗い話題を持ちかけてしまって……。……あっ、そうだ!」
ふと閃いた。
今日私は自分の力を試す為にアールグラスさんと模擬戦をしたわけだが、それでも全力でやった訳では無い。
それに、言っちゃ悪いけど、ぶっちゃけアールグラスさんは未歌さんより弱い。
だから――
「いつでも構いません。未歌さんの都合がつく時に、全力全開の模擬戦をしませんか?」
「へ? 模擬戦?」
「〝隠蔽の殻〟使用アリ、大規模集束砲使用アリ、それこそ実戦形式の模擬戦! お願いできませんか!?」
はっきりと明言しよう。
今私がやろうと持ち掛けているのは、ほぼ自殺行為に等しい。
今日のイヴェルさんとの遣り取りで痛感したのだ、私はあの雷帝式ツインジャスティス一発で消し飛ぶほど貧弱で、魔導師としてはまだまだの部類に入る。
歴戦を潜り抜け、勝利を得てきた猛者でさえ、未歌さんとの模擬戦では嘘のようにボロ負けするのだ。
とても私のような素人が挑んで勝利出来るような相手ではないし、そもそも生き残れるかさえ怪しい。
でも、いずれローズアグストと会えた時、一緒に戦場を共にすることが出来るのは、未歌さんと互角に戦えるレベルではないといけないのだ。
若干強引だが、強くなる為には多少の無茶も必要だろう。
……無茶のし過ぎはよくないけど。
「それはいいけど……大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
本人が心底不安そうな表情で心配してくるのだから、相当だ。
ローズアグストだったら、勇気と無謀は全く別ぞ、とか忠告してくるんだろうなぁ。
で、あんまりにも失礼な物言いをしてくるから、頭をはたいたりして。
「……前から思っていたんだけどさ、ひょっとして……。
…………ひょっとして、瑞紀ちゃんって超がつくほどのドM?」
「…………」
とりあえず、真剣な顔で心配してくる未歌さんの頭を、無言で軽くはたいておいた。
(※当時のあとがきより抜粋)
先日、3DS及びその専用ソフト『ルーンファクトリー4』を購入し、さっそくプレイしてみました。
春の17日にしてコハクとディラスを解放し、友達と一緒にドルチェを救出する為『黒曜館』を攻略し、無事解放したら、強制イベント。
風幻竜セルザウィードの、役目を果たして死んでしまいたい……というストーリー上重要なイベントなのですが……。
あれ? なんかモロ被りしているよ? 今回の短編とモロ被っちゃってるよ内容。
弁明しておきますが、未歌が「自分と関わった人が不幸になって~」というシーンは、ルーンファクトリー4を購入しプレイする前に執筆したシーンです。声を大にして申し上げます、決してパクりではありません。
まあ不老不死とか長寿とかが出てくる作品では王道的とさえ言えるパターンですから、被ってしまうのはしょうがないとは思いますが……。
なんか……変な罪悪感が沸いて来たな……。