Episode00 現在に至るまでの簡単な顛末《後編》
・2013年10月2日~2014年6月7日までの間に投稿した短編を纏めて再投稿したものです。
・そしてこのEpisode00は、「作者のぼやき」という企画で連載していたものをむりやりまとめたので、話が変わるごとに、場所が移ったり状況が目まぐるしく変わってたりします。ご容赦ください。
・古き戦乱の時代で剣王の志を知った瑞紀と、何かのために戦い続ける魔導部隊〔魔導師事務捜査隊〕エース陣との関わりの話です。
短編なのに長編みたいでかなり長く、専門用語連発、シリアス展開続出、戦闘シーンばっかりですが、楽しんで頂けたら幸いです。。
総文字数は、15,300字です。
だいぶ長いので、作業の合間にでもどうぞ。
所変わって、〔魔導師事務捜査隊〕エントランス。
未歌さんが「ここはエントランスだよ」と言ってくれるが、見れば分かるものなのでスルー。
さて、ここから〔魔導師事務捜査隊〕隊舎案内に移りたいけど、まずは外観というか、外の説明もちょこちょこっとしたいと思うので、大まかに書き記していく。
〔魔導師事務捜査隊〕の入り口は、西洋風の大きな観音扉ただ一つだけで、それに隊舎全体が山に埋もれているし、入り口付近に花壇があるしで一見分かり難い。
例えるなら……そうだな、雄大な山の中に忽然と人工的な風景があるみたいな感じだね。
で、観音開きの大きな扉を開ければ、西洋風のお屋敷みたいに瀟洒で豪華な隊舎がそこに現れる。
隊舎の後ろには、人工的に植林された森林があって、その後ろにある訓練場を上手く隠蔽しているのだ。この屋外訓練場、一方だけじゃなく、四方から隠されているんだって。凄いよね。
ああ、それと書き忘れたけど、隊舎の右には駐車場があるんだ。
魔導師だからいくらでも空飛べるじゃん、って思うけど、流石に一般人が見ている中で、堂々と空なんか飛んでたら色々誤解されるよね。
それで、誤解されないように、一般人と同様に車で通勤しているんだそうだ。
因みに隊舎は四階建てで、その隊舎を今から蒐さんと未歌さんに案内してもらうのだ。
「瑞紀ちゃん、あそこの……。ソファーとテーブルが並べられているところが、受付。
外部から来た人……と言ってもわざわざ魔導部隊なんかに用がある一般人なんてそうそういないから、大抵入隊志望者かな、そういう人が隊の人と話すとこなんだ」
「で、左側のスペースが食堂さっ! ここと、二階にある休憩室が、私ら隊員にとっての憩いの場だねっ!」
そして、無駄に元気な蒐さんが説明してくれる。
ふむふむ、食堂か。この辺は普通の事務所とかと変わりないんだな。
でも、隊舎の規模や隊員の数に比べて、食堂小さくないか?
お昼休みっていうシステムがあって、大半の人はファストフード店で食事をするのかな。
「一階は、瑞紀ちゃんはもちろん私たちにとっては縁が無い場所なんだよね。
せいぜい、地上ルートで外に出る目的でしか利用しないんだ」
「え? あそこの掲示板とかは見ないんですか?」
「にゃはは、見ない見ない。あんな面倒なモノ。
第一、あそこに貼られているもの全部、総大将たる私が目を通しているからね」
なるほど、だから書類が机に山積みになっていたのか……。
全部が全部あそこの掲示物って訳じゃないんだろうけど。
「じゃあ、二階に行くよ。ついてきて」
そう言われて着いて行くと、なんとそこには階段があった。
……いや、階段があること自体は特に珍しい事じゃない。
私の家にだってあるし、上下移動に欠かせないものだからね。
でも、問題なのは、どうしてそんな原始的なものが魔導部隊の隊舎に置かれているのか、だ。
魔導師なのだから、ショッピングモールみたく一階から四階まで吹き抜けにしておけばスィーって飛べるだろう。
私みたいな新人はエレベーターという名の救済処置で手を打ってもらえればいいし。
わざわざそんな面倒くさいことをしなくても……。
「あ、そのことなんだけどね、」
と、私の疑問に気が付いたのか、階段を上りながら蒐さんが説明してくれる。
「どっかの魔導部隊……、まっ、此処よりは規模が小さい、ちっこい部隊があってね。
で、その隊舎の移動手段が魔導師の飛行だったんだけどっ、頭をゴツンコしちゃったらしくってさっ!
そーゆー事故が多発しちまうから、結局その隊舎全部建て替えられちったらしいよっ!?」
それは……。
なんというか、また……。
なかなかにシュールな光景じゃないか? それ。
何だよ頭をゴッツンコって。
余程忙しかったのか?
犬も歩けば棒に当たるってことか畜生。
「さて、二階に到着~」
怒涛のツッコミを浴びせようとした私を、のんびりした声が遮った。
くそ、蒐さんのセリフの「結局その隊舎~」辺りから突っ込めば良かったか。
「あの……未歌さん……?」
「ん? なあに?」
「私の眼前には魔導部隊にあるまじき光景が広がっているのですが……」
どこを案内しようかな~と楽しげに小躍りしている未歌さんに声をかける。
一階の階段を上ったら二階、それは分かる。
でもこれは無いんじゃないか?
一瞬、自分の見ている光景が何かの間違いだと思い、二度見したぐらいだ。
「あ~……。あそこ、休憩室」
「さっき食堂ん時も言ってたけど、ここ、仕事のストレスから解放されるとこ、食堂とここしかないんだよねっ! 大浴場もあるけどさっ!」
違います。私が言いたいのはそんなことじゃないんです。
なんで二人はこの異様な光景に平然としていられるんだ?
もしかして、私の感覚がおかしいのか?
っていうか総大将! テーブルを囲って談笑している女子隊員に絡むな!
「いや、そうじゃなくて……。なんで休憩室とトイ……手洗い場が隣接しているんです?」
「え? トイレが無いと用が足せないだろっ?」
「いやいや、だから! 一人用の個室トイレならまだしも、なんで学校に普通にあるみたいな集団用のトイレがあるんですかっ!?」
「ミズキチくん。ここは学校じゃないよ?」
「学校にあるみたいなトイレ、っていう比喩です! あと、ミズキチってなんすか!?」
冷静になった今、女子二人がトイレを連呼している光景こそ異様だよな……としみじみ思う。
「あっはは! 照れなくっても良いじゃマイカ! 私が直々に伝授した超キュートなあだ名だよんっ!」
「照れてないです! 私が聞いているのは、なんでトイレが休息室にあるんですかってことですよ!!」
「休息室にトイレが無いのはおかしいじゃないか~。冗談は止してよミズキチっ!」
「そうじゃなくて!! ああっ、もう面倒くさい!!」
「二人とも、何やってるの? 次行くよ?」
今思えば非常にどうでも良い討論に冷や水をぶっかけたのは、先ほどまで女子隊員三人と戯れていた呑気な総大将、未歌さんだった。
あなたがもっと早くから止めていてくれていれば、こんな無駄な議論に熱を入れなくても良かったんですけどね、と思いつつも、黙ってついていく。
「二階は、私が所属している魔導師教育部と、危険物取扱部、蒐の所属している〔禁忌の遺産〕管理部の部署が並んでいるね。
ま、独立こそすれ隔離する壁も部屋も無いんだけどね」
ようやく、魔導部隊っぽい説明が聞けて安堵する。
未歌さんが所属しているという魔導師教育部というのは、文字通り新人魔導師を教育するという部だろう。私も明日からお世話になるであろう部だと容易に想像がつく。
だけど、他の二つが分かり難い。
危険物と、エー……エーゲストなんたらとは別物なんだろうか。その辺説明求ム。
「危険物っていうのは、〔禁忌の遺産〕以外の危険なもの。
で、肝心の〔禁忌の遺産〕っていうのは、悪夢師が作った、魔導の手が加わった、常人には対処しきれないものだね。平たく言えば」
なるほど、そういう違いか。
漢字では禁忌の遺産って書くのか。
エーゲストなんたらって言われるより、普通に禁忌の遺産って言ってくれた方が、意味が通りやすくていいんだろうけど。
ま、そういうところにツッコむとキリがないから、そういうことにしておこう。
「じゃ、三階に行くね」
「あ、はい……」
ていうか、トイレ討論以来蒐さん口開かないな。
もしかして、最後に面倒くさいって言ったことを気にしているのかな、と心配になって後ろを振り返ると。
今まで何事も無かったかのように、遠くの〔禁忌の遺産〕管理部とやらのデスクにしれっと座って仕事をしていた。
……ああ、あの人、全然気にしていないな……。
ていうか、蒐さん単に仕事に戻りたかっただけかよ。
それならそうと言ってくれればいいのに。
「ちなみに未歌さん。二階には休憩室と三つの部署以外に何か施設ありました?」
「んー、〔禁忌の遺産〕管理部のスペースに小会議室が隣接されているぐらいかな。
とは言ってもその部専用のスペースだから、他の一般隊員は使用不可なんだ。
利用できるのは、〔禁忌の遺産〕管理部に所属している人か、イラヴェや私みたいなエースくらいだよ」
「へー、そうなんですか。ていうか、小会議室ってことは、大会議室もあるんですか?」
「にゃはは、瑞紀ちゃん鋭いね。そうだよ、あそこに大きな部屋があるでしょ? あそこが大会議室。こっちはどの部署の人でも利用可能なんだ」
階段を上り、三階に上がってきたが、すぐ会議室があるとは。
まぁ、それもそうだよね。
来客も一応居るみたいだし、分かりやすいところにある方が良いもんな、普通に考えて。
「三階はどういう部署があるんです?」
「そうだねぇ……。魔導運用開発部と、魔導政治補助部の二つ……だったかな。
危険物取扱とか、魔導師教育とかはどの魔導部隊にもあるんだけど、この二つと、〔禁忌の遺産〕関連の部はここしかないんだ。
でも、私でさえ縁遠い場所だから、瑞紀ちゃんにとってはどうでも良い場所だろうね」
魔導運用開発部と、魔導政治補助部……か。
魔導政治補助部っていうのは語呂でなんとなく分かるけど、魔導運用っていう単語自体知らない私には、何を開発するのかイマイチ理解し難い。
魔導を運用ってことは、魔法を使って何かハイテクなものを作るんだろうか。
例えば、どこ○もドアとか。
なんか、それ実現しそうで怖いなぁ……。
「魔導運用っていう一つの単語があるんだよ。ま、この辺は慣れたら分かると思う」
「は、はぁ……」
それ、何故休憩室に学校にあるようなトイレがあるかより知りたい情報だなぁ……。
肝心なことに限って教えてくれないんだな、この人。
「で、ここには器具室と第二倉庫があるんだ。ついでに覚えておくといいよ」
第二ってことは、第一もあるんだろう、きっと。
「他には何が?」
「あ、そうそう、ここ大浴場があるんだよ」
「大浴場!?」
「まぁ、実質大浴場と言う名のシャワールームだけどね~。
ホテルによくあるお風呂が壁で仕切られていて、個室っぽくなってるだけ。あ、勿論トイレは隣接されてないよ」
それこそ、例えに学校のトイレを持っていくべきだったな。
学校のトイレでいうスリッパを履くとこに脱衣所があって、トイレがあるはずのスペースにシャワーと浴槽がある個室があるって感じ。
でもそれ、遠くに行けば行くほど、裸でいる時間長くないか……?
あ、バスローブ着れば良い話か、それ。
「さて、これから四階を紹介したいんだけど……」
「? 何ですか?」
「ページが尽きたので、この辺で☆」
「…………」
◆◆◆
「さてさて、じゃあ四階に行くよ」
「あ、ハイ。お願いします」
四階は、階段を上っているその時点で、他の階と雰囲気が違うということにすぐ気が付けた
未歌さんに会うために先ほど四階に来た時は緊張のあまりよく覚えていなかったが、今こうして見ると閑散としているというか。
ちょっと過疎っているというか、簡潔に言うと人の出入りが少ない、というより全く無い。
まだ訓練が始まったばかりの時間帯のせいか、三階より広い大浴場に人影はなく、倉庫付近を掃除している清掃員しか人がいないのだ。
「四階は、階段のすぐ横の大浴場と、目の前のコピー室、そしてあっちの辺にある第一倉庫と……。あとは、奥の方にある隊長室しか無いね」
「……普段からこんなに人気が少ないんですか?」
「まぁね。訓練終了後の時間帯は下の大浴場が混雑しているから、一部の人は混雑を嫌ってこっちの方に来たりするけど。
混んでいない時は全然来てくれないし、コピー室や倉庫に積極的に来る人もいないし、総大将たる私を訪ねる人も数少ないし……。確かに、まぁ、過疎っていると言えば過疎ってるねえ」
ここでは、下の階の喧騒がはっきりと聞こえるほど静かで、まるで母国史の授業中みたいだ。
階段近くでさえ人の出入りが少ないのに、未歌さんのいる隊長室は更に奥の方。
これじゃ確かに気が滅入ってしまうだろう。
恐らく、総大将が仕事に集中出来るようにという配慮だろうけど、未歌さんにとってこの配慮は良い迷惑以外の何物でも無いんだろうな。
「ま、こうやって隊舎内を案内したはいいけど、瑞紀ちゃんにとっては殆ど用が無い場所だろうね」
「え? 何でですか?」
「なんで、って……。瑞紀ちゃんは研修生であって、隊員じゃないからね。研修生は、ビシビシ鍛えるのが一番だよ」
こりゃまた、大変なことになりそうだ。
「もし、私が正式に入隊したら、どんな感じになるんですか?」
「基本的なことは変わらないかな。
実技系研修生の場合は朝昼晩の訓練をぶっ続けでやるんだけど、入隊したら五つの部のどれかに所属してもらう。
そして、事務系研修生と同様に仕事をこなしてもらうんだ。とは言え、実技系と事務系じゃあ所属する部が違ってくるけどね」
前回聞いた、〔魔導師事務捜査隊〕にある五つの部署――魔導師教育部、〔禁忌の遺産〕管理部、危険物取扱部、魔導運用開発部、魔導政治補助部。
魔導師を育てる為には自身が一流のエースではなくちゃいけないし、
凡人には解決の糸口すら掴めないものを扱わなきゃいけないし、
死と隣り合わせの危険な仕事をしなくちゃいけない、
即ち前から三つ目までは実技系研修生が所属する際に有利な部署だろう。
そして、魔導運用技術を開発するということは魔導についての知識を深めていなくちゃいけないし、
政治に参加する為には魔導と公民両方の勉強をしなくちゃいけない後の二つは、事務系研修生とやらが所属するにあたって有利な部署になるんだろうな。
あ、だから配置が二階と三階で分かれているのか。
「お、瑞紀ちゃん、段々分かってきたね。それとも、元々頭が良いのかな?」
いやー、外国語のテストで赤点間近を取るような奴は頭が良いって言わないと思いますよ。
そういう時は察しが良いとか、鋭いとか言ってくれると助かるのですが。
「それじゃ、昼からは訓練に入る訳ですか?」
「そういう訳だね。丁度、お昼前だし、案内はここまでにしよっか」
ふと未歌さんが腕時計を見やると、確かに十一時を指していた。
なんだかんだで時間かかったな、そういや。
……結局、大した言葉を交わさないままのアールグラスさんや、最初隊長室で別れたっきりのイヴェルさんは、どうなったんだろう?
一緒に昼ご飯食べたら仲良くなれるだろうか?
「あ、お昼ご飯はね、エースと一緒に隊長室で食べることになってるよ」
「エース……って、ヴェスリーさんと、えーと、イラヴェントと、蒐さんと、……アールグラスさんと、イヴェルさんの五人ですか?」
覚えなくてはならないことが多すぎて、つっかえつっかえになってしまう。
それでも未歌さんは気にせずに、優しげな微笑を浮かべてくれた。
「うん、そう。そろそろ来る頃かな?」
……どうやら、未歌さんの『人の言動や行動をあまり深く気にしないレベル』は度が過ぎているようだ。
良く言えば寛容だとか心が広いだとか人徳があるだとかと表現できるが、悪く言えば単にその人の気持ちを汲み取ろうとさえしない、他人に一切干渉しない性質の人だとも表現できる。
現に、私の心中の葛藤には気に掛けもせず、ただ呑気な口調を紡ぎながら腕時計で時刻を確認している。
これが現代魔導師の頂点に君臨する不屈のエース・オブ・エース?
笑わせないでよ、雷を導けるだけの弱小王と見下された雷帝でさえこんな態度は取らなかったよ。
確かに力はあるのかもしれない。
数多の強敵をその圧倒的な魔法で打ち倒し、何の抵抗も出来ない雑魚は空色の魔力の餌食になったのだろう。
未歌さんからすれば雑魚の部類に入るであろう私にも、その実力は見てとれる。
だからこそ分かる。
この人は乱世で人々を殺戮してきた皇舞卿四属性姉妹や、悪人は容赦なく嬲り、斬り裂き、燃やし尽くした剣王ローズアグストと同じような人間だ。
私が経験した乱世を、〝暴力で物事が解決される残虐非道な世界〟みたいに言っていた癖に、やっていることは乱世の王や歴戦の猛者たちと同じだ。
力を見せつけ、無力な民を支配するのと、力で圧倒し、自分より弱い人を服従させるのとでは、使う言葉が違うだけで意味合いは等しい。
数学の世界なら、イコールで結ばれてもおかしくはない。
でも、私は我慢する。
殴りかかりたい衝動を、斬りかかりたい殺意を。
今の私は、理不尽な世界にただただ罵倒するだけじゃないんだ。
未歌さんが私のことを『利用しやすい雑魚』と思っているのなら、私はあなたを利用させてもらう。
「へえ、でも緊張しちゃいますね、歴戦の猛者と人間から出世したばかりの雑魚魔導師が一緒に食事だなんて。普通なら、プレッシャーとか緊張とかで押しつぶされちゃいますよ」
こんなのでも魔導師の頂点に君臨出来るのかという哀れみの溜息や、ローズアグストたちが創り上げた魔導の文化が今ここで潰えてしまうのかという悲しみや寂しさを呑み込み、愛想笑いを浮かべて会話をもちかける。
どうせエースたちが来るまで暇だし、かと言って隊舎内は魔法の使用が禁止されているので鍛錬には励めない。
未歌さんに一言断ってもう一度隊舎内を探検するのも手だが、私が探検している間に食事を始められたらそれはそれで困る。
いつもなら常備しているはずの、携帯電話を家に忘れてしまったので、暇潰しの音楽鑑賞も出来ないし(携帯していないケータイとはいかに。いや、ダジャレじゃないよ?)。
「そうだねぇ……。って、それじゃあ自分は平気ですってアピールしているようなもんだよ?」
「実際大丈夫なんじゃないでしょうか? 伊達に乱世の王と宴を共にしていませんよ?」
先ほどから私は未歌さんのことを、『魔導師の頂点に君臨する』と畏敬をこめて表現しているが、実際に魔導師の頂点が未歌さんかと言われれば、答えは否である。
戦技において普通の魔導師の中では最強という扱いなだけであって、例えば皇舞卿四属性姉妹や違法技術で製造された複合体、人造魔導師などの人間兵器どもといった、曰くつきの魔導師や魔導師より遥かに長い歳月を、戦闘に費やした凄腕悪夢師より強いかと言うと、実はそうでもない。
そんな人と、小規模とはいえ国を作り民を魅了した、乱世の王たちとは雲泥の差ほどもあるのだ。
多くの民を従えた王たちと宴を共にした私にとって、イヴェルさんやヴェスリーたちはともかく、未歌さんなんて今や力の強い中学生、ぐらいの認識でしかない。
「ふ~ん、そういうものなんだね~。……あっ、来た来た! 遅いよ皆~!」
会話し始めてから一分も経っていないんだけどね。
というツッコミは胸の奥にしまい込み、先ほど別れたばかりの蒐さんや、訓練場で別れたきり何の会話もしていないアールグラスさんやヴェスリーさんに視線を移す。
未歌さんと一緒に私の隊舎案内をしてくれた蒐さんは〔魔導師事務捜査隊〕の制服を着ているが、訓練場で別れたイラヴェント、イヴェルさん、アールグラスさん、ヴェスリーさんの四人は動きやすそうな訓練着に身を包んでいる。
「香高三等空佐、大浴場の使用許可をお願いします」
「うん、いいよ。自由に使って」
「はっ」
なるほど、大浴場を最初に使う場合は、こうやって未歌さんに許可を取るんだな。
許可を得た四人は、煤や汗まみれの訓練着を翻し、三階に降りて行った。
「じゃ、私たちは食堂に行って食べるものを貰ってこよっか」
「あ、そうっすね~」
未歌さんがそう言い、蒐さんが笑いながらそう返す。
流石に、総大将と部隊を支えるエースを働かせといて、研修生の私が何もしない訳にはいかないので、私もついていく。
そんな私の様子に気に掛けもしない辺り、未歌さんってホント鈍感だよな。
「――ん?」
と、私が未歌さんの言葉を脳内で反芻していると、妙な違和感を覚えた。
あれ? 未歌さん、今なんて言った?
「どうしたの、瑞紀ちゃん?」
「なんだー? トイレかー?」
「い、いえ……。未歌さん、食堂ってお金を払って食事するところですよね?」
少なくとも、私の常識にはそう刻まれている。
「にゃはは、まだ先のことかと思って瑞紀ちゃんには教えてなかったね、ごめんごめん。
うちの食堂は、〔魔導師事務捜査隊〕に所属する魔導師や、隊に協力的な姿勢を見せる魔導師、更にはこの隊と何らかの接点を持っている人には、無料で食事を提供しているんだよ。
で、何で無料配布かと言うと、料理が趣味だったり得意だったりする魔導師がボランティア的な感じでやっているから。
魔導師の給料って人並み以上だし、もしお金が足りなくなっても隊が補助金を出せばいい話だからね」
〔魔導師事務捜査隊〕の裏の仕組みや背後関係なんてものは知らないけど、要は『一見さんお断り』な店と基本的な仕組みは変わらないかな?
無料って言うのはちょっと大きいけど。
「スペースは狭いし、素人が作っているという抵抗感からか利用する人は限られてるけど、私は気に入ってるんだよん。ミズキチも、一度口にしたら分かるっさ!」
期待に胸を膨らませている、という言葉をそっくりそのまま表現しているだろう、キラキラした目を私に向けながら、蒐さんが力説してくる。
そして、蒐さんが大いに気に入っている変な呼称もそのままだ。
いやま、今まで親しげにあだ名で呼んでくれる人なんかいなかったから、嫌では無いんだけどさ。
――その後、私が食堂の食事に感激し、ついつい食べ過ぎて体重計に乗るのが怖くなってしまった、という話があったが、これは特に書くことでもないだろう。恥ずかしいし。
◆◆◆
地獄を見た。
決して侮っていた訳では無い。
寧ろ、その逆で、こんなに強いエースたちが居るのだから、訓練の内容も甘くはないのだろうなと大よその目星を立てていたぐらいだ。
Hardとはいえ、これはいくら何でもキツ過ぎる!
「ほら、ボサッとしてねエで動けィ! 制限時間はまだあんだぜェ!?」
簡素な杖を振り上げ、蝋燭色の魔力弾を構築しながら、既にフィールド上にある魔力弾を誘導させているヴェスリーさんが声を張り上げそう言う。
だが、私はもう息が切れ切れで、殆ど肩で息をしているような状態だった。
元陸上部だし、週一でランニングもしているので体力には自信があったのだが……。
相棒であるブロードソードも、今は鉛を持たされているようで、邪魔以外の何物でも無かった。
幾多の刃を受け止め続けてくれた相棒を、今ここで蹴り上げたいぐらいだ。
「ふぇ、ちょ、ま……。……ま、待ってくだひゃい……」
乱れる呼吸の中、意味の為す言葉を繰り出せたことも、本来ならば褒めて欲しいぐらいだ。
いや、本来ならば褒められるものだろう。
先ほどから広い訓練場を行ったり来たりさせられ、少しでも足を緩めれば誘導弾の嵐が襲い掛かり、全力疾走しながら弾のない方向を、感覚で判断し移動し続けなければならない状況下にいるのだ。
常人ならもうとっくにぶっ倒れているに違いない。
……久しぶりにローズアグストの雑用係をやらされたことを思い出したのは内緒だ。
っていうか、ヴェスリーさん、あんた昼食ん時に自分はエースに相応しくない雑魚だっつってたじゃん! この大ウソつき! 鬼!
「イラヴェントの推薦っつーからどんなんかと思やァ……。ありゃア、全ッ然ダメだな。
まず基本的な体力と運動能力に欠けてんだからよォ、魔導戦の訓練なんぞ夢のまた夢じゃねエの?」
と、がくがくと笑いの止まらない膝に力を込めて動こうとすると、ヴェスリーさんの落胆した声が聞こえた。
クソ、若者の夢を挫いて何が楽しいんだ! 悪魔め!
「ふむ……動きそのものは悪くないんじゃがのう……」
と、こちらは私をフォローしてくれているっぽいイヴェルさんの声。
ていうかキミたち、新人に丸聞こえだよ、その会話。
せめてひそひそ話っぽい感じにするか、本人に聞こえないような声量で会話してくんない?
「ま、ブッ倒れてもらっちゃ困るし、そろそろ切り上げっか。おい研修生、おめーの反省点教えてやっから早よ来い!」
「は、はいぃ……」
返す返事も、訓練前はあんなに元気だったのに、今ではこんなに情けない。
よろよろと立ち上がり、ブロードソードを杖代わりにして、老婆よろしくよたよたと歩いてイヴェルさんとヴェスリーさん、それとアールグラスさんの元へと辿り着く。
「お疲れ様。どう? 初めての訓練は?
……と言っても、これは魔導訓練のうちには入らない基礎練なんだけど……」
汗塗れになった私を心配してくれたのか、タオルを手渡してくれるアールグラスさん。
白い歯を見せてにこっと笑い、街中を歩いていれば女子が十人中十人は振り向くであろう整った顔立ちをこちらに向けてくれる。
私は特にアールグラスさんに恋慕の情を抱いている訳では無いが、そんな私も思わずドキッとしてしまった。
……油断していると、いつか落とされるかもしれない。気をつけねば。
とりあえず礼を言って、思案顔のイヴェルさんと何か言いたげなヴェスリーさんの方を向く。
「動きそのものは悪かねエ。寧ろ、魔導師としちゃア良い部類に入るくれェだ。
魔力分断や魔力弾の威力分解みてェな、斬撃型として超重要なスキルも鍛えりゃ中々のモンになるだろうな。
だがな、それらを支える根本的な部分がなっちゃいねエ。俺ァ足の速さを求めてんじゃねエ、体力を求めてんだ。そんくれェ分かんだろォ?」
常人としては中々良い部類に入ると思うんだけど。
「常人としちゃア、なァ。魔導師としちゃひよこレベルだろ、せいぜい」
唯一の反撃手段も速攻で切り捨てられてしまった。
そりゃ私は常人の中でそこそこ強い人間を目指すのではなく、一流の魔導師を目指しているのだから、比べる対象をただの人間にするっていうのもおかしな話だけどさ。
「つーことでよォ、今日一日は基礎を徹底的に叩っ込む。基本が出来てねエんじゃ、応用も利かねエしな。んじゃア、早速始――」
「待たれよ」
呆れ顔のヴェスリーさんがそう切り出すと、イヴェルさんが短く遮った。
陽光の輝きを得て、黒真珠のように煌めいている美しい黒髪を手で払い、つかつかと歩み寄って私の前に立つ。
「かのようなこと、瑞紀一人にやらせれば良かろう。わざわざ儂らが教授するものでは無かろうて。それに」
ここで言葉を区切り、イヴェルさんは前屈みになって腕を組み、私を品定めするかのようにじろじろと見る。
脚、腰、腹、胸と来て、顔をよく凝視した。
何の真似だろうかと一瞬引いたが、雷帝ミィンウツウェンドが同じような感じで私を試したことがあったことを思い出し、怯えを引っ込めて睨み付ける。
すると、イヴェルさんはあからさまに驚いた顔になる。
身体を元に戻し、懐かしそうに銀眼を細めた。
「ふむ。何より素質はあるようじゃからの、予定通り魔導戦を教えようかの。体力は、お主一人でなんとかしてつけるが良かろう」
「おい、イヴェル! おめエはそうやって――」
「流石の儂らとて他人の体力をつける方法なぞ知らぬし、教えることも出来ぬ。
〔魔導師事務捜査隊〕は魔導師の頂点に君臨する部隊で、最も死に近い部隊と言われておるしの。
そんな部隊が、研修生一人の体力面まで面倒見るようじゃ、どこまで堕ちるのかと魔導政府が危惧するに違い無かろうて」
痛いところを突かれたのか、ぐ、と唸り声を上げてヴェスリーさんが口をつぐむ。
イヴェルさんが言っていることは正論に近い為、碌な切り返しも出来ないのだろう。
イヴェルさんは私そっちのけで楽しげにくつくつと喉で笑いながら、更なる追い討ちをかける。
「ふふ、お主は過保護じゃのう。それとも何じゃ、久しぶりに骨のある者が来て、教導のしがいがあると浮かれておるのか? それじゃ、優しゅうせんといかんのう」
「アホかてめエは! こんなのが骨のある素材な訳ねエだろオが! てめェこそ堕ちたんじゃねーのかァ!?」
「仮にも剣王の指導を直に受けた者じゃぞ? 骨どころか筋があって当然じゃ。
長い事新人の訓練を見てきた司令官と言えども、ここまでは分からんのかのう?」
「うっせェ! だからじゃねェか! 剣王の指導を受けた癖に、常人にしちゃアマシなレベルの体力って、どォゆウ事でェ!!」
何か失礼なことを言われている気がするが、今はそれに憤慨していられない。
どちらかと言うと、楽しいのだ。
激昂し言葉を荒げるヴェスリーさんが、
冷静にそれ以上の言葉をぶつけて切り返すイヴェルさんの様子が、
心無い罵声に声を張り上げるフリンフと、それを見て更にからかう私の姿に重なっていて……。
歴戦のエースと言えどもこんな茶番を繰り広げたりするのだ、と安堵していたりもする。
隣では、もう見慣れている光景なのか、諦観を決め込んでいるアールグラスさんが苦笑交じりにそれを見つめていた。
私としては、休憩出来るのならそれはそれで良いので、何も言わずにただ眺め続ける。
と、そんな私の態度に気が付いたのか、イヴェルさんがヴェスリーさんとの茶番を切り、こちらに目を向けてきた。
「っと、つまらんところを見せてしもうたの。ま、ちとばかし休憩時間が増えたと思うてくれ。で、じゃ。お主は何がしたいのじゃ?」
へ?
思わず目が点になる。
何がしたい……って、強くなりたい。
強くなりたいと思うから今ここの訓練場でHardレベルの訓練を受けているんじゃないか。
未歌さんたちみたいな凄腕のエースになんかならなくていい。
人々から畏敬と尊敬の念を注がれなくたっていい。
ただ、少しだけでも、足手まといのままでも良い、ローズアグストに認められたいのだ。
ローズアグストだけじゃない、稽古をつけてくれた五本槍の皆やこんな私に優しくしてくれたフィリスやフィリナにも。
願わくば、ローズアグストと背中を合わせて戦ってみたいという想いもあるけど……。
それは流石に夢を見過ぎか。
そもそも容易く会える訳じゃないし、実際どう足掻いても会えないだろうけど。
「……〔魔導師事務捜査隊〕にはのう、儂らエースに憧れて、儂らみたいなエースになりとうて入隊してきた新星がよけいおった。
じゃが、その子らの中には、いつしか『あの人みたいになりたい』ではのうて、『あの人になりたい』というような馬鹿げた幻想を抱く輩もおったんじゃ。
その人と同じ道を通り、既に敷かれたレールを歩いて、決して道を踏み外すことなくその人に辿り着いた子もおった。
じゃが、辿り着いた先は破滅じゃ。
今までその人に辿り着くことを夢見て生きておったからの、生きる目的を失ったも同然で、自分の存在意義というものを全て無くして……そうして、破滅の道を辿った魔導師もおったんじゃ。
そして、出来ることなら儂は、お主にかのような道を辿ってほしゅうない。
じゃから、ここでちゃんと目標を宣言してもらわんと、儂はいつまで経ってもお主の教導に移れんのう」
そう言って、悪戯っぽい目で私を見てくる。
あれ、雷帝ってこんなキャラだったっけ……?
私がどう表現しようか迷い、躊躇しているのを目ざとく発見したところまではそっくりだったけど。
あ、この人はミィンウツウェンドじゃなくてイヴェルさんか。
吸い込まれそうな銀眼を見つめていると、あの人を思い出しちゃうんだよなぁ……。
一対一で話したことなんてないし、会ったことも数回ぐらいしか無いのに。
「え……えと……」
でも、唐突に〝強くなりたい理由〟を訊かれても困る。
今までは魔法の存在すら知らない、相手に自分は魔導師なんだと言われても、失笑で返してしまうほど非科学的な力を信じていなかったのだ。
それに、その力の存在に気が付き、その力を振るうようになったのは、ほんの一年前。
なにより、魔法を知るきっかけになったのもローズアグストだし、
魔法を使うきっかけになったのもローズアグストだし、
戦う技術や技巧を教授してくれたのもローズアグストである。
魔法と言われて、パッと思いつくのも剣王の紅蓮の炎なのだから、私の中で彼女の存在が多くを占めていると言っても過言では無い。
そんなの、ちょっと考えれば分かる。
それだけ剣王という存在が――ローズアグストという一個人の存在が――大きいのだと言うことを。
剣士になりたいと切に願ったのも、ひとえにローズアグストの力になり、彼女に認めてもらいたかったからだ。
だが、これは常識だ。あの世界の彼女には、二度と会えるまい。
だから――
「剣王の技術を、信念を、後世に伝える為です」
――私は、何の後悔も逡巡も無く、躊躇いも無くそう答えた。
彼女は禁忌を犯し不老不死を叶えた罪人なのだから、もしかしたら現代に彼女は存在しているのかもしれない。
だけど、あの乱世で、大海を見たいと大志を抱いた彼女はもういないだろう。
幾度も挫折と絶望を味わい、それでも尚期待し、切望し、必死に生き続けた彼女はもういないだろう。
そして、誰よりも眩しい光の火の粉を背負い、戦陣を駆け抜けた彼女を知る人は、私以外に存在しないとも思う。
だから、それらを伝えていきたい。
剣王の紅蓮を誇りと掲げ、その真義を貫いて生きていきたい。
「いや、それは――」
アールグラスさんが何かを言いかけたが、口をつぐむ。
私が、彼が何を言いたいかを察し、睨めつけたからである。
きっと〝それはイヴェルの話にあった破滅の話とそっくりじゃないか〟と言いたかったんだろう。
「私は、剣王に辿り着きたいんじゃないんです。
ましてや、横に並び立つことを望んでいる訳でもありません。私は、剣王を追い越したいんです」
それを訊いた三人は、一斉に目を丸どころか点にし、口をあんぐりと開けていた。
額縁に飾り、『驚愕』とタイトルをつけて美術展に出展したいぐらいだ。
きっと、彼らにとっては天地がひっくり返るほどの衝撃だったに違いない。
何せ、去年今年でようやく魔法の存在を知ったド素人が、最強と謳われ無敵と慄かれる英雄・ローズアグストを越えると堂々たる宣誓をしたのだ。
身の程知らずもいいところ、己惚れも甚だしいところだ。
だが、彼らは驚きこそすれ、くすりとも笑いはしなかった。
それこそ、大海を臨みたいと叶わぬ夢を語ったローズアグストに対し、応援すると誓ったいつかの私みたいに。
「そらァ、大層なこった。体力もねエ、ひ弱な嬢ちゃんが抱くにしちゃア、遠すぎる夢だがなァ」
顔に刻まれた皺の数ほど戦闘を繰り返し、戦場の辛さ厳しさを、誰よりも身に染みて感じているであろうヴェスリーさんは、口では皮肉を飛ばしながらも顔は嬉しそうに綻ばせていた。
まるで父親が娘の夢を応援するように、満足げな笑みを浮かべている。
「それは……なんとも、立派な夢だね……。僕は、そんなの……無かったからなぁ……」
その隣で、感慨深そうにしみじみと言葉を漏らしているのは、百戦錬磨の呼び声高き投槍使い、アールグラスさん。
きっと、私みたいに呑気に訓練なんか受けていられるような生易しい環境で育っていないのだろう、言葉の端々に背負うものの重さが感じられる。
「……ふむ、なるほどのぅ……」
最後に、ほうっと感嘆の溜息をついているのは、雷帝の力を受け継ぐ気高き魔導師にして、齢二十に満たない若さで大魔導師の仲間入りをしたというイヴェルさん。
私の宣誓が納得のいくものだったどころか、予想の斜め上をいったようで、優秀な弟子を褒め称えるような笑顔を浮かべていた。
三人とも、数多の修羅の巷を駆け、生きるか死ぬかの緊迫感溢れる戦闘さえ経験し、そしてその激戦で身につけた技能と魔法で称えられている魔導師のエースだ。
そんなエースが、私の子供の絵空事の如き夢を笑わなかった。
そればかりか、認めてくれさえした。
私は純粋にそれが嬉しかったし、この人たちに魔法を教わるのだと思うと誇りに思えさえする。
今、私は幸せの絶頂にいた。
それこそ、先ほど味わった地獄と同じくらいの幸福の。
「じゃあ、今から早速指導じゃ! 骨のある素人など滅多におらんからの、厳しく行くぞい!!」
「おい、てめエ! 俺の仕事取ってんじゃねェぞ!!」
「僭越ながら、僕も君の指導に参加させてもらうとするよ。……ホラそこの二人、何をやってるのさ!」
「ヴェスリーさん、イヴェルさん、アールグラスさん! 宜しくお願いしますっ!」
屋外訓練場に、新人の元気な声が響き渡った。
(※当時のあとがきより抜粋)
えー、これにて短編「魔導師事務捜査隊の日常」第一篇終了と相成ります。
次回からは、「魔導指導~アールグラスの場合~」とか「実戦訓練~ヴェスリーの場合~」という感じで、分岐していきます。うん、これでようやく短編っぽくなったね!
……コラそこ、これもう字数が少ないだけの長編じゃね?とかツッコまない。