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絶海の孤島と魔導少女 -短編集-  作者: 羽柴和泉
〔魔導師事務捜査隊〕の日常
14/21

Episode09 Side‐Al&M『旧知の仲』

・2013年10月2日~2014年6月7日までの間に投稿した短編を纏めて再投稿したものです。


・古き戦乱の時代で剣王の志を知った瑞紀と、何かのために戦い続ける魔導部隊〔魔導師事務捜査隊〕エース陣との関わりの話です。

短編なのに長編みたいでかなり長く、専門用語連発、シリアス展開続出、戦闘シーンばっかりですが、楽しんで頂けたら幸いです。。



総文字数は、4,888字です。


だいぶ長いので、作業の合間にでもどうぞ。

「それで、今追っている悪夢師って、どんな悪夢師なんですか?」


私は、〔魔導師事務捜査隊〕隊舎の廊下を歩きながら、横に並ぶ『紅蓮の射手』に質問を投げかけた。

彼女は私を一瞥(いちべつ)した後、大して悩む様子を見せることなく返事をくれる。


「……端的に言えば、〔魔導師事務捜査隊〕をしつこく追い回している悪夢師だな」

「えっ? そんな悪夢師がいるんですか!?」


驚いて、思わず訊き返してしまう。

そんな話は初耳だ。

研修生風情(ふぜい)に教える情報ではないと言えばそれまでだが、私はイラヴェントとある程度仲が良い。

よほど重要な、それこそよっぽどの機密情報で無い限り、イラヴェントを通じて私に流れてきそうなものだが。


「それが、奇怪極める奇妙なものでな。気配はするのに、姿は見せんのだ。

 それに、悪夢師か魔導師かですら特定出来ない。私も長いこと生きてきたが……こんなことは初めてと言ってよいな」

「へぇ……」


千年生きても尚、経験したことないって有り得るんだな……。


「それって、未歌さんたちは気付いているんですかね?」


「いや、流石のあ奴らとて、あの気配に気が付くことはあるまい。

 いくら歴戦のエースとはいえ、微弱かつ不定期に現れるものに気付くのは至難の業だろう」


要は、小さな虫を見つけられるか否かという問題と一緒だ。

虫嫌いの人は、とにかく虫が嫌いだから、あらゆる場所で神経を尖らせる。

誤って自分の服や荷物に付着した時は最悪だからね。


でも、大して気にしない人は、本当に気にしない。

自分のすぐ傍で大きな毛虫が這っていようとおかまいなしだ。

荷物に潜り込んでいたとしても、素手でひょいっと捕まえて、どこかに放り捨てる。


――我ながら、良い例えが出せたと思う。えっへん。


「ん、ということは、今隊長室に向かっているのは、そのことを伝えるためですか?」


「――聡いな。その通りだ」


『紅蓮の射手』は戦装束を着替えようともせず、躊躇(ためら)いも無く隊長室の扉を力強くノックする。

暇だったのだろう、大して間を置かずに間延びした入室許可がおりた。

彼女は堂々と、私はおずおずと室内に入り、アンティーク調の机でなにやら書き物をしていた未歌さんに向く。

私はともかく、かの『紅蓮の射手』の来訪とあらば仕事している段ではないのだろう。

未歌さんは姿勢を正して彼女に向き直った。


「何か、事件ですか?」


いつもはほわほわというか、ふわふわした感じの雰囲気を纏っている未歌さんだが、いつぞやの出動命令を出した時のように硬い表情をしていた。


それで私は実感する。

『紅蓮の射手』とは、そういう存在だと。

本気を出せば、皇舞卿(おうぶきょう)四属性姉妹の一角とすら互角に斬り結べるだろう。


そんな彼女に、魔導部隊の頂点に立っているとすら言える未歌さんが畏まるのは当然のこと。

先もイラヴェントが親友同然に、それこそ親しげに話しかけていたが、あの人は違う、と一線を引いているのだろう。

孤独になるのも、頷ける。


「いや、当たらずと言えど遠からず、だな。強いて言うなら……事件になりそうな事柄、か」


「それは、どのような規模で?」


「規模? 最悪の場合は、この島全体を巻き込むことになるかもしれん」


偉い人たちによる、私が詳細を聞けば卒倒しそうな大きな話。

これは関わらない……というより、口を挟まない方が良さそうだ。

ローズアグストだったら、こんな私の心境を見透かして、わざと話題を振ったりするんだけど……。

『紅蓮の射手』だし、そこまで無神経ではないだろう。…………多分。


「――気配隠蔽、ですね。私の得意分野なのですが……魔力以外を隠蔽する、というのは聞いたことがないです」


「やはり――か。隠蔽のスぺシャリストですら知らぬ、となると……。これはかなり、マズいな」


「ええ……そうですね。とりあえず、あなたは各所で悪夢師狩りを続けていてください。私たちが、その詳細について調べます」


おや、これは意外だ。

てっきり、『紅蓮の射手』が〔魔導師事務捜査隊〕の警備とかに務めるのかとか思っていたけど。


(『彼女も色々忙しいしね~……。それに、私たち、腐ってもエースだし』)


悟られぬ疑問を抱いていたつもりなのに、未歌さんにはバレてしまっていたようだ。

そうだ、たった六人とはいえ、この部隊には指折りのエースがいる。


不屈のエース・オブ・エース『揆彗(ぎすい)の護り手』、

一網打尽の毒靄(どくもや)曝麓(ばくろく)』、

当意即妙(とういそくみょう)の賢者『神雷の導き手』、

烈空鋼牙(れっくうこうが)の双剣士『紫双(しそう)()び手』、

爆裂爆砕の破壊者『破滅の(もたらし)し手』、

百戦錬磨の投槍使い『潮來(ちょうらい)の遂し手』。


それぞれ戦場に立った年月や、戦に勝ち続けた回数は違えど、今ここに集結している。

一般的な魔導部隊では、今のヴェスリーさんレベルの魔導師が一人二人いるかいないかぐらいのものだ。

それに比べれば、〔魔導師事務捜査隊〕は無敵に等しい。


「しかし……〔魔導師事務捜査隊〕に何の理由が――?」


「サヴィスク島南部の最大勢力だから……だろう。

 皇舞卿四属性姉妹も消滅した今、魔導政治に盾突く悪党どもが一番に狙う場所と言えば、ここしかあるまい」


未歌さんもいつか言っていたけど、サヴィスク島の未来を左右する勢力と言うのは、主に四つある。


一つは、ここ〔魔導師事務捜査隊〕。

先ほど『紅蓮の射手』が言った通り、サヴィスク島南部の最大勢力とも言われ、魔導師の頂点に君臨する部隊、そして魔導部隊の中では最長の歴史を誇っているからだ。


二つ目は、既に消滅した皇舞卿四属性姉妹。

だが、それに全面的協力の姿勢を見せていた史上最強の悪夢師〝神劉幻(しんりゅうげん)〟が行方知れずの今、何らかの形で復活してしまうこともあるかもしれない。

強敵であるが故に、油断は禁物である。


そして三つ目は、最古の悪夢師集団〔呪縛の鎖(アグラス・ビーガ)〕。

〔魔導師事務捜査隊〕との交戦の歴史も多々あり、縦横無尽に猛威を振るう彼女らに、唯一喰らいついていけるのはこの部隊だけだ。

怨敵たる皇舞卿四属性姉妹の消滅という局面に、今は活動を落ち着かせているらしいが……。

警戒しておくに越しておくことはない。


最後に四つ目――北の〔大水晶保護管理隊〕。

南の〔魔導師事務捜査隊〕と対を為す部隊である。

数年前まで犬猿の仲だったらしいが、事態は氷解し、大規模な魔導騒乱事件ともなれば協力こそすれ邪魔はしてこないだろう、とのこと。

どちらが正義でどちらが悪かなんかなんて、未熟な私には決められないけれど、北の部隊は間違いなく無害だと思う。


「理由も何者かも分からず仕舞い、ですか。とりあえず、警戒態勢を強めておきましょう」


「ああ。悪夢師の場合なら、私も協力する。連絡をくれさえすればいい、一瞬で駆けつける」


「――情報提供、ありがとうございます。引き続き、宜しくお願いしますね」


どうやら、私が完全に蚊帳の外となっていた偉い人たちによる会議(?)は終わったようだ。

すると、後方から控えめなノックが二つ三つ。

それまで機会を伺っていたらしい人影が室内に入り込む。


「あれ、アールグラス?」


未歌さんも思わず首を傾げる。

何やら重大な用事とかなのかな。


「総大将、ちょっと、お話があ――」


「ほう……久方ぶりだな。無知な小坊主めが」


そうアールグラスさんが未歌さんに話を切り出しかけたその途端、『紅蓮の射手』が目を細めてそう言い放った。

その言葉を受け取ったアールグラスさんは、私にも分かるくらいビクッと大きく肩を震わせて、ぎこちない笑みを浮かべて彼女に向き直る。


小坊主――というのは、百年を優に生きる彼女からしてみればアールグラスさんなど幼子同然かもしれないから納得が行くが……。

無知、というのは何だろうな。

いつぞやの、彼との模擬戦をした時にちらっと聞いた、彼の過去にまつわる話なのかね。


「い、いい加減、その呼び名は止して下さい……」


「何故だ? 私はただ、昔のお前に対する印象を、そのまま言葉にしただけだが?」


「あー。アールグラス、昔は凄かったもんねえ~」


弱った顔で懇願(こんがん)するアールグラスさん、

毅然(きぜん)とした態度を保ちつつも口元がニヤついている『紅蓮の射手』、

のほほんと感想を述べる未歌さん。

この三人と、訓練司令官のヴェスリーさんは彼の過去について知っているんだろうな。

事実、アールグラスさんがこれ以上無いくらいにあたふたと慌てている。


きっと、恥ずかしい事を曝露(ばくろ)されるというより、研修生たる私に聞かされるのが嫌なのだろう。

普通なら、ここで空気を読んで退場するのが常というもの。


だが、私はこの一週間で、エースたちの性格をある程度は把握している。

そして彼ら彼女らの性格上、私がここから立ち去ることに対して快く思わないだろう。

アールグラスさんも自分のことを悪く言われても軽く受け流すような人だし、ちょっとは加担させてもらうかな。


「あ、あれは……。今から、十年くらい前の話じゃないですかっ。どうして、そんなに……そんなに、引っ張るんですかっ?」


「――印象が、苛烈すぎたから、か? 何せ、この私に啖呵(たんか)切った輩など、片手の指で数えるほどだからな」


胸を張り、背筋を伸ばし、ふふんと鼻で哂う『紅蓮の射手』。

奥の未歌さんも、流石にこれには苦笑い。


「確か――“お前は僕には勝てない”――だったか? 安直な売り言葉だな」


「わー!! なんてこと言うんです!? 威厳とか無くなったら、どうするんですか!!」


「にゃはは……」


大丈夫だよ、あなたにどんな黒歴史があっても、私は何も言わないから……。

っていうか、今までアールグラスさんって、なんかこう……頼りがいのある兄貴分と言うか、年上って感じのイメージだったんだけど……。

年上の女性にはよく弄られているんだな。

それだけ弄りがいのある過去をお持ちなんだろうか。


「さて……今はどうなのだ? あの時の宣誓に違わぬ働きが出来るのか?」


「……む、昔よりは……」


あー……、なるほど。

私にも大体事情が呑み込めてきた。

いくら百戦錬磨の投槍使いと周囲から畏怖・畏敬の念を注がれていても、さすがに天下無双の『紅蓮の射手』には勝てないだろう。

何せ、剣王陣営最強の五本槍が揃ってローズアグストと戦っても、じりじりと負かされていたのだから。


なのに、自分は最強だと当時のアールグラスさんは愚かにも思い込んでいて、『紅蓮の射手』に喧嘩を売った、と……。

こりゃからかわれるわな。うん。


「で、アールグラス。用ってなぁに?」


したり顔の『紅蓮の射手』がアールグラスさんをからかっている様子を苦笑いで見つめていた未歌さんが、ふと思い出したように切り出した。

そうでも無いと、いつまでもこの茶番が続いてしまうと危惧したのだろう。

未歌さんも『紅蓮の射手』も、こんなところで漫才を繰り広げられるほど暇じゃないし。


「あ、その件なんですが……。()()()がエントランスホールにてお待ちです、との言伝を。

 具体的に名前を仰った方が宜しいのでは、と申しましたが、その程度ぐらい分からぬのなら会う必要はないとか、そんなことを……」


「――チッ」


あり? 今未歌さん……舌打ちした? 

っていうか、あからさまに嫌な顔してるゥー! 

嫌悪感ありまくりのその顔やめろ!


「…………」


なんか、『紅蓮の射手』まで、苦虫を噛み潰したような顔をしているんですが……。

私とアールグラスさんは、ただただお互いの顔を見合わせていた。

(※当時のあとがきより抜粋)


未歌さんと『紅蓮の射手』がアールグラスをイジる回――、のはず、だったのですが……。

いつの間にか、伏線散りばめ回となってしまいました……。

まぁ、アールグラスにとっては、幸運というか、なんというか……。



で、突然ですが、私が過去の設定資料集を見たときに疑問に思ったことをここでQ&A方式にして説明したいと思います。


Q⒈ リミッター解除の設定って、健在?

A⒈ 一応健在です……。使う機会は無いと思いますが。

   それに、設定資料集を読み直すまで存在に気が付いて無かった……(;´・ω・)


Q⒉ 結局、ミカネバの霊ってどうなったの?

A⒉ 予定では、イヴェルがユニゾン出来る程度にはなっている……のですが。

   旧LAWを詳細にご存知ないと、「えっコイツ誰?」ってなってしまうので、廃止しました。

   ユニゾンどころか、霊も出てきません。

   ツインジャスティスはグレーゾーンですが。


Q⒊ イラヴェントがトウキョウに住んでいた時、髪を黒に染めていた時期があったけど……。

A⒊ サヴィスク島に戻る際、キチンと染め直してます。書いてないけど。

   でも、日本人が金髪にして、そして黒に染め直すのに時間がかかるのと同じで、毛先は黒のままですが。


Q⒋ 新星や復興のエースの死因はそのまま?

A⒋ 新星→魔王アルクトゥルス&ナンバーズ襲撃の際にて(創架、聖夢含む)

   復興→轟王紗&ナンバーズ襲撃の際にて(紀縁、来城のみ)

   そのままですね、はい



次回は、瑞紀ちゃんと『紅蓮の射手』が背中を合わせて戦う回! ……の、予定です。

何気に瑞紀とローズアグストが背中を合わせて戦ったのって、本編ではこれが初めてですよね。第三期の方でも共闘の予定ないし。

第一期の最終決戦は……瑞紀がローズアグストの企みに加担しただけ、っていう感じ?

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