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絶海の孤島と魔導少女 -短編集-  作者: 羽柴和泉
〔魔導師事務捜査隊〕の日常
13/21

Episode08 Side‐???『孤高の英雄』

・2013年10月2日~2014年6月7日までの間に投稿した短編を纏めて再投稿したものです。


・古き戦乱の時代で剣王の志を知った瑞紀と、何かのために戦い続ける魔導部隊〔魔導師事務捜査隊〕エース陣との関わりの話です。

短編なのに長編みたいでかなり長く、専門用語連発、シリアス展開続出、戦闘シーンばっかりですが、楽しんで頂けたら幸いです。。



総文字数は、8,299字です。


だいぶ長いので、作業の合間にでもどうぞ。

天下に名を敷く〔魔導師事務捜査隊〕での研修を始めてから、ちょうど一週間が経った。

元々夏季休暇自体二週間と二、三日あるかないかぐらいなので、折り返し地点に来てしまったとも言える。


あれからヴェスリーさんの、文字通り地獄のような訓練を受け、様々なエースたちから色々なアドバイスを貰い、初めて魔法に触れた時とは比べ物にすらならないほど強くなった。

まず、斬撃型魔導師としては並みの魔導師レベルにまで達した。

化け物染みた実力を持つエースと比べたらまだひよっこだが、魔導師としては中の上くらいだと。


それと、今まではローズアグストの業をそのまま真似しただけだったが、自分の特性を見極めた固有魔法も幾つか習得出来たのである。

更に飛行訓練も並行して受けた為、なんとか自力で数メートル浮くくらいは可能になった。

たった一週間でこれほどにまで上達するとは思わなかったな。

流石〔魔導師事務捜査隊〕。


「じゃ、瑞紀、早速やろうか」


「あ、はい! 宜しくお願いします!」


何度目かの感嘆に浸っていると、準備が整ったらしいイラヴェントが声をかけてくる。


ちなみに、私が敬語で接しているのは、今この瞬間では彼女に何かを教えてもらっているからだ。

学校の先生に常時タメ口で接する生徒などいない。

それと同じで、今はイラヴェントに魔法を教えてもらっているのだ。


「前、イヴェルにカウンターを教えてもらって、アールグラスに鍛えてもらっていたよね? これから私が教えるのは、その応用編」


「は、はいっ!」


「ん、良い返事だね。私が教えるのは他でも無い、空中でのカウンター使用。地上と違ってやりにくいけど、頑張ろうね」


イラヴェントも言っている通り、私は大分カウンターというものに慣れてきている。

最初、絶望のどん底の最中で、無我夢中で雷帝式ツインジャスティスの軌道を逸らしただけの時とは違う。

流石にあれほどまでの大魔法ともなれば骨は折れるが、何とか跳ね返すことが出来るくらいには上達したのだ。


それに、一度の戦闘で複数使用することも可能になったし、凄まじい連撃の中にカウンターを挟むことだって出来る。

だから、それらを踏まえて応用編ということだろう。


「それじゃ、行くよ!」


のろのろともたつきながら空中に浮遊しているだけの私と違い、イラヴェントは垂直跳びの要領で素早く飛び上がった。

二双の白刃を構え、私を静かに見据えている。


「まず、足元に魔法陣を展開させて。魔法陣の展開自体は、もうヴェスリーさんから教えてもらっているよね?」


「あ、はい!」


魔法陣とは、まぁ噛み砕いて言えば魔法の使用に必須とすら言える、いわゆる準備のようなもの。

普通、一般的には砲撃型と射撃型は手元とか自らの周囲とかに展開し、斬撃型と打撃型は足元に展開する。

斬撃型としては当たり前のスキルなので、随分前にヴェスリーさんからご教授頂いていた。

――頂いていた、のだが……。


「え、えっ? あれっ?」


地上では目を瞑っていても出来た魔法陣展開が、何故か出来なかった。

慌てて足元に魔力を集束したら、魔力が暴走してしまい(一点に集められた魔力が、制御者の意思に関係無く拡散してしまったのだ)、無様に尻餅をついてしまう羽目になる。


「……慌てなくても大丈夫だよ。落ち着いてやろうか」


流石のイラヴェントもこれには苦笑い。

何とかフォローを入れてくれるが、内心とても爆笑しているに違いない。

ま、笑われるようなことをしたのは私だけどさ。


「あれ、あれっ!? ちょ――」


しかし、何度やっても失敗してしまう。

確かに地上と空中では力の制御の仕方が多少違い、一度や二度失敗することもあるだろうが、ここまで成功しないものなのだろうか。


一応誤解を与えぬよう弁明しておくと、地上と空中での魔法陣展開ではかなり難易度が違う。

地上では、元々人間と言う者は無意識に地に足をつけている為、魔法陣を展開させるという一動作に集中しやすく、また成功しやすい。

だが空中では、既に『宙に浮く』という動作をしており、それを継続しながら新たな動作をしなければならない為、素人には難しいのだ。

――とはいえ、こんなには失敗しないだろうけど。


「……ぜぇ……ぜぇ……っ。……イ、イラヴェント、さん……他にやる、ことっ、ありますか……?」


尻からの着地を十回ほど繰り返したのち、困り顔で私を見ているイラヴェントに問う。


「な、無いかな……。そもそもこれって基本中の基本だし……。

 これが出来ないと空中でのカウンター展開も、空中戦も教えられないし……。ゆ、ゆっくりでいいからっ……やってみよう? ねっ?」


「は、はい……」


何回尻から着地したか分からないほど失敗を繰り返し、ようやく出来たのは、お尻がジンジンと痛むようになってからだ。

くそう、先が思いやられる――と思っていたのだが、意外にもカウンター自体はあっさりと出来た。

二双の白刃を一振りして繰り出された魔力刃を、いとも容易く跳ね返すことが出来たのである。


――何度も説明しているが、私は元々魔力量が多い訳では無い。

初めてやる作業の連続に、すっかり消耗してしまっていた。

これからは、使用する魔力量の削減という訓練に移るんだろうなぁ。


「うん、ここまで出来れば上出来かな。陸戦はもう完璧だし、これから一週間は空戦を指導するよう、ヴェスリーさんに言っておくよ。あ、模擬戦とかは、慣れるまで陸戦だけどね?」


「はい、ありがとうございます!」


その場に漂う和やかな雰囲気。

イラヴェントは十分の休息を言い渡し、ちょっと離れたところで素振りを始めた。

勿論、大してすることも無い私はそれを見学する。


音も無く繰り出される斬撃、流麗に繋がる連撃、力の入っていない自然なステップ――何かの舞踏と見紛うかのような、完璧な双剣術だ。

流石、双王の正統な子孫なだけはある。

私と勝負しても、圧倒的に打ち負かされるだけだろう。


「……?」


堅実に型を反復していたイラヴェントに、異変が生じた。

傍目からは双剣で素振りをしているように見えるが、何かに意識を集中しているように見える。

魔法の発動でもするのか、と最初思ったが、イラヴェントの魔法はビルですら軽く崩壊させるほどなのだ、事前に結界を展開しておくだろう。


――では、何故? 

私の疑問は、驚くほどあっさりと解消された。


「ッシュ!」


イラヴェントが、私のしょぼい魔法とは桁違いの本気の魔法を繰り出したのである。

先ほど私の練習用に放った生温いものではない。

下手をすれば命さえ刈り取るであろう、死神の鎌の如き鋭さを伴う魔力刃である。


その軌道上にビルが(そび)え立っている為、そのビルの末路を想像し同情していると、目を疑うような現象が起こった。


「――!?」


圧倒的な質量と威力を誇る魔力刃が、突如現れた剣に容易く跳ね返されたのである。

軌道を逸らされた魔力刃は周囲にあった電信柱を、バターでも切るかのように斬り裂き、ビルに着弾して大爆発を起こした。


濛々(もうもう)と立ち上る黒煙の中、一際強く煌めく光が一筋。

その光の色は――


「紅蓮ッ!?」


――私がよく知る、かの英雄の色だった。



戦いでも仕掛けてくるのかと戦々恐々としている私を尻目に、イラヴェントは喜色を顕わにして、まるで友人に語り掛けるかの如く気軽に話しかけている。


「『紅蓮の射手』! お久しぶり!」


――ん? お久しぶり?


「――あぁ。貴様は相変わらずだな、イラヴェント」


「私に限らず、エースの皆が相変わらずだと思うけど?」


「……違いない」


イラヴェントがこんなにも簡単に声をかけ、昔の友達のように話を繋いでいるところを見ると、敵意はないみたいだが……。

いや、正直言えば、彼女に敵意があるかないかなんてどうでも良かった。


ただ、ローズアグストに再会したかった、ただそれだけなのだが……。

僅かにしか動かない表情、くつくつと喉を鳴らしているかのような笑い方。

千年という月日はどれだけ長いか、そしてその間に人格とは変わってしまうものだということを、嫌でも痛感させられた。


この人は、かの英雄ローズアグストではない。

確かに英雄であることは違いないのだが、それでも彼女とは違う。

言うなれば――孤高の英雄、かな。


「ところで、今日はどうしたの? もしかして、何か大きな事件とか?」


「いや、違う。私が今目をつけている悪夢師を追っているんだ。心当たりはないか?」


「ん~、無いかな。前に解決した事件でも、犯人は魔導師だったし」


あ~、あの事件か。

何故か遠い昔の話のように思えるのは何故だろう。


「――で、どうだ? 骨のある新人はいたか?」


ヴェスリーが恐々としているような、と付け足し、くつくつと静かに笑う『紅蓮の射手』。

普通は骨のある新人なんて滅多におらず、大体のエースは返答に困るのだが……。

それを、よりにもよって新人の前で訊くとは。

相変わらずの無神経さである。


憤りを覚える前に、懐かしさや嬉しさを感じてしまう。

ああ、根本的なことは変わっていないんだな、と安心すらしてしまうのだ。


「あなたから見ればそうでも無いかもしれないけど……ここにいる瑞紀は、結構素質があると思うよ。それに、剣王流の斬撃型だし」


「――!?」


今まで楽しそうに含み笑いをしていた『紅蓮の射手』が、凍り付いた。

比喩ではあるが、本当に凍り付いたのではと錯覚してしまうほど、驚愕の表情を顕わにしたまま動かなくなったのだ。

束の間の静寂を経て、彼女が浮かべた表情は、歓喜でも悲哀でも、感心でも無かった。

申し訳なさそうな、謝罪の表情なのである。


「――過去の私が、迷惑をかけたようだな……。すまない」


見当違いの陳謝。

私は思わずきょとんとした。


確かに私はローズアグストに散々こき使われたり肉体労働を強いられたりしたけど、迷惑だとは微塵も思っていない。

むしろ、彼女には感謝すらしている。

出来るのなら、謝礼の品を贈りたいくらいだ。

だから、何故彼女がこうまで沈痛な面持ちをしているかが全く理解できなかった。


「ローズアグストには、感謝してもしきれないほど、よくしてもらいました。なので、迷惑だなんて思っていませんよ」


再び彼女の表情が凍り付く。

この理由は私にも憶測がついた。


ローズアグストと言えば、彼女の中では全ての原点だからだろう。

過去の禁忌(きんき)の代償として、今自分がここにいるのだから。

死んでも死にきれない自分を作った原点たる英雄王を、恨んでいるのかもしれない、憎んでいるのかもしれない。

それこそ、心の底から。


「…………」


神の聖域に踏み込んだ過去の罪人たる自分を『感謝している』と言われたことに対して、『紅蓮の射手』はとても複雑そうな顔をしていた。

どうしてそんな選択しか出来なかったのかずっと後悔しているのに、相手はそれすら許すかのように笑っている。

彼女としては、そんな私の反応が不思議でたまらないのだろうな。


「……えっと、まずは……。どういう状況か説明してくれるかな、瑞紀?」


すっかり黙り込んでしまった『紅蓮の射手』と私にフォローを入れてくれるイラヴェント。

〔魔導師事務捜査隊〕エースには誰にも言っていない私の体験記を彼女に言おうか躊躇したが……結局言うことにした。

これは、いつまでも隠しておくようなことじゃない。


――という訳で、かくかくしかじか説明中――。


「――てな感じで、私はローズアグストに恨みなんてない、ということで」


ご存知ない読者様は“War in the Dream”をご覧ください。


「…………」


「…………」


全てを知った二人は無言で潜考していた。

考えがまとまったのか、イラヴェントが先に口を開く。


「――だから、『剣王を追い越したい』か……」


ぽつり、と呟くように納得するイラヴェント。

ありゃ、私の小っ恥ずかしい宣誓を覚えていたのか。


――って、ちょっと! 

なんでそれ当の本人の前で言うのさ! 

無知な傲慢者って思われちゃうよ!


「……試させて、くれないか?」


イラヴェントの発言を撤回しようとアタフタしていると、今度は『紅蓮の射手』がぽつりと呟いた。

試す? 私を?


「無論だ。貴様以外に誰がいる?」


優しく語り掛けるような口調。

そして、私にはとても理解出来ない謎の思考回路。

先ほども思ったけど、根本的な部分は変わっていないことに安堵を覚える。


「はい、お願いします」


多少鍛えてもらった程度じゃ『紅蓮の射手』には勝てない。

いや、勝敗という生温いものですらなくなるだろう。

それほどまでに実力の差というものは大きく開いているのだ。

当然である、相手は万戦を勝利で彩ってきた悪夢師殺しのエキスパート。

下手を打てば死んでしまうかもしれない。


でも、感謝の気持ちというものは、口だけでは相手に伝わらない。

きちんと形にして贈らなければいけないのだ。

これは魔導の世界だけではなく、どこの世界でも常識のことだろう。


「瑞紀、大丈夫? 私も加勢しようか?」


両者の間に不穏な空気が漂っていることを察したのか、イラヴェントがそう心配してくる。

心配するのもごもっともだ。


正直、イラヴェントと私がコンビを組んで挑んで、それで互角になるレベルなのである。

大丈夫?の一言に、たくさんの想いが詰まっているんだろうな。


「大丈夫……じゃない、かとは思うけど……。元より玉砕覚悟だから!」


これが冗談に聞こえないのだから、この状況がかなりヤバいものだということを察してもらいたい。


「……ほぅ。――では、行くぞ」

「はいっ!」


イラヴェントが空を飛んで後退し、ついでに竜胆(りんどう)色の結界を展開してくれた。

そして私たちは、両者の剣尖が触れるか触れないかぐらいの距離を開き、開戦の機会を伺う。


その時、一陣の風が吹き抜けた。

穏やかとも険しいともつかぬ風は、『紅蓮の射手』が纏う紅蓮の衣装をはためかせ、橙色の髪を靡かせる。


風が吹き終えた刹那、常人には真似出来ぬほどの疾さで斬り込む『紅蓮の射手』。

相手の得物は天下の宝剣『黄金の剣』である、鍔迫り合いになれば勝ち目はないと思った私は、空中に回避した。

ついでに亜麻色の徹甲狙撃弾(てっこうそげきだん)を数発構築、のち発射する。


「っふ!」


それらを薄紙の如く斬り裂いて、突っ込んでくる天下無双の宝剣。

紅蓮を滾らせ、『黄金の剣』を振りかぶるような姿勢で突撃してくる。

避けきれないと判断した私は、


無心衝(むしんしょう)ッ!」


ブロードソードを水平に一薙ぎして牽制した。

発生した魔力刃が空を切り、対戦相手の許へと向かう。


私は、どうせ一秒とて持たないだろう、と半ば諦めるように地上に舞い降りた。

その諦観通り、亜麻の魔力刃は紅蓮の熱風に包まれ、押し流されていた。


「っは!」


「っだぁ!」


隕石のような重量感を伴って同じく地上に戻った『紅蓮の射手』は、逆袈裟の形をとって斬り込んできた。

対する私は、なるべく力が拡散するように、魔力を一点に集中させた状態で斬撃に応じる。


ガキィン! キィン!という無機質な金属音が刺突する音が何度か鳴り響き、まるで舞踏の如く美麗な剣戟(けんげき)を続ける両者。

私が右に回避すれば彼女は私を左に誘導するかのように剣を合わせ、

彼女が左に回避すれば私は彼女を右に誘導するかのように剣を合わせる。


向こうが押せばこちらは引き、むこうが引けばこちらが押す、刹那の駆け引きを繰り広げていたが、力量も魔力量もあちらに分があるのが現状。

いつの間にか私が着る訓練着は汗でぐっしょりと濡れ、ブロードソードを握る手が滑り始めてきた。


「はっ!」


大きく一振り、ブロードソードを袈裟懸けに振り上げ、剣戟から離脱する。

空に上がり、


篝火(かがりび)雪月花(せつげっか)ッ!」


魔力弾を数発、発射した。

一つ一つ的確に、尚且つ素早く、無駄のない動きでそれらを切断・分解していく『紅蓮の射手』。

流麗な剣技に思わず惚れ惚れしてしまう。


「――誓眼烈斬(せいがんれつざん)――」


何度も見た、ローズアグストの切り札。

違うのは、過去の彼女は剣尖から発射していたのに対し、今の彼女は展開した魔法陣から発射しようとしているところだ。

瞬きする間も無しに、瞬間的に構築された紅蓮の巨砲。

吹き付ける熱風が身体を焼き、凄まじい熱量と質量を誇る直射砲撃が私に襲い掛かる。


「――、っ!」


今思うのは、恐怖や戦慄ではない。ただの一つの迷いのみ。

だが、選択は急がねばならなかった。

一つ一つの選択に時間を割いていられるほど、戦場と言うものは甘くなどない。


「はぁっ!」


私は、腕を胸に対して垂直になるように伸ばし、手先に魔法陣を描いた。

傍目からは、底知れぬ大威力を誇る紅蓮の直射砲を防御するかのように見えることだろう。

だが違う、私は防御する気などさらさら無い。


「――!?」


空いている方の手でブロードソードを動かし、剣尖が魔法陣に対して垂直になるように調整する。

そして、紅蓮が魔法陣に直撃する、その前に、反射の魔導式を編み込んだブロードソードで一突き。

ボゥッ!という音が木霊したかと思うや否や、私の視界が真っ暗になった。


どうやら、私では制御出来ぬほどの魔力が集まったものを跳ね返したため、その衝撃でもんどりうって後ろに倒れ込んでしまったようだ。


――今、私の頭の上にひよこが飛んでいるかもしれない。

そんな状況である。


「っはぃや!!」


よろよろと起き上がっていると、遠方からそんな掛け声が聞こえてきた。

どうやら、自身に跳ね返ってきた直射砲をなんとか防ぎ切り、次なる攻撃に移ろうとしているようだ。

スポーツの試合じゃあるまいし、タイム!と宣言しても素知らぬ顔で戦闘を続行するんだろうなぁ……。恐ろしや、恐ろしや……!


「……!」


震える手でブロードソードを握り込み、なんとか虚勢を保っていたが――。

『紅蓮の射手』が取った次の行動に戦慄し、恐怖してしまった。


紅蓮の炎が、猛然と燃え上がっていたのである。

煌々と輝き、燦然と煌めくその姿は、間違いなく乱世で何度も目の当たりにしていたもの。

あの時は、格好良いだとか、凄いだとか呑気な感想を抱いていたものだが……。


「ぅ、わぁ……」


独特なデザインの戦装束をはためかせ、紅蓮によく似合う橙色の髪の毛を靡かせ、堂々と屹立する『紅蓮の射手』。

宝剣『黄金の剣』に紅蓮の炎を纏わせ、その姿は燃え尽きることのない永遠の栄光を思わせる。

紅蓮は、やはり私には映えないし、似合わない。

永遠を生きる彼女だからこそ、紅蓮という色はよく映えるのだ。


「――百海(どうかい)炎斬(えんざん)ッ!!」


研修中、何度も猿真似をしたあの業が、ついに降臨した。

魔力で模った張りぼてではない、真正の炎が顕現(けんげん)し、まだ発動段階であるのに降伏したいという弱音が零れてくる。


――そして。


「あ、死んだ。私死んだ」



爆音と共に、紅蓮が迫る。



熱波が樹木を焼き尽くし、

爆風が鮮やかな花々を根本から斬り裂き、

美しいビル群が木端微塵に爆砕された。

もしもこれがアニメとかドラマならば、画面が紅蓮で埋め尽くされ、塗りつぶされていることだろう。


なけなしの防御陣は呆気なく貫かれ、私は大きく後方に飛ばされた。

その後も無差別な破壊活動が行われていたが、表現するのも馬鹿馬鹿しくなってきたので(それほどの魔力だったことをここに明記しておく)、この辺でやめておこう。


私が後から見返して、希望を失っては大変だ。


「――ふぅ」


イラヴェントが必死の形相で私を探している中、『紅蓮の射手』は小さく息を吐いて、呼吸を落ち着かせる。

そして、百獣王の片鱗(へんりん)をうかがわせる、獰猛な獣の笑みを浮かべていた。


――孤高の英雄が孤独でなくなるまで、あともう少しかもしれない。

(※当時のあとがきより抜粋)


遂に『紅蓮の射手』が登場!(*´ω`*)

次回は、またまた昔話の回ですね。Episode02で隠し通したアールグラスの過去がここでバレますww

SideAI&Mというだけあって、アールグラスと未歌、『紅蓮の射手』主役です。瑞紀ちゃんは会話とかにあんまり参加しません。

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