Episode07 Side‐V『実戦訓練』
・2013年10月2日~2014年6月7日までの間に投稿した短編を纏めて再投稿したものです。
・古き戦乱の時代で剣王の志を知った瑞紀と、何かのために戦い続ける魔導部隊〔魔導師事務捜査隊〕エース陣との関わりの話です。
短編なのに長編みたいでかなり長く、専門用語連発、シリアス展開続出、戦闘シーンばっかりですが、楽しんで頂けたら幸いです。。
総文字数は、7,828字です。
だいぶ長いので、作業の合間にでもどうぞ。
香高未歌三等空佐、ヴェスリー空曹、アールグラス・ヴィンゼル一等空尉、微雨壕蒐陸曹、イヴェルティシィス・ジュリィンヅメルト空戦提督、イラヴェント・テシェール・ソンティアル空曹長の出動命令・出動待機命令が正式に解除され、私の訓練スケジュールが狂うことなく訓練を行えることになった。
既出かもしれないが、〔魔導師事務捜査隊〕の訓練は早朝と午後、そして夜間に行われる。
早朝が最も訓練内容が濃く、逆に午後は訓練密度が最も低い。
そして夜間は本日の総まとめみたいな感じなのだが……。
「羽柴、おめぇは空飛びてぇのか?」
軽いウォーミングアップを終えたら、ヴェスリーさんが唐突にそんなことを問うてきた。
要は、陸戦魔導師になるか、空戦魔導師になりたいのかを選択しろということだろう。
どちらが強いとかどちらが優秀とかそういうのは無いが、空を飛べるというのはかなり有利だ。
戦闘能力に直接的な関係は無いが、飛行魔法を習得しておけば咄嗟の時に命が助かるかもしれない。
「う~ん……どうでしょう?」
「ハッキリしねエな。この答えが訓練内容を変えンだから、とっとと決めやがれィ」
私が持てる戦闘能力を最大限活用出来るのは、間違いなく空戦魔導師という道だ。
それでも尚決め兼ねているのは、他でもない、剣王ローズアグストの存在。
ローズアグストの固有魔導法『紅蓮の神馬』――回数で言えば一回や二回ほどしか見ていないのだが、今でも瞼の裏に張り付いているあの光景。
騎士として生きるか、魔導師として生きるか。
その選択は、私のこれからの魔導師人生を大きく左右することになるから慎重に決めたいのだが……。
「おい。まさかこの時間全てをこの回答に費やすつもりか?
言っとくけどな、魔導師にも咄嗟の判断っつーもんは必要なんだぜ?」
そうヴェスリーさんが急かしてくるため、集中して考えることが出来ない。
もう少し待ってくれてもいいじゃないか!
「……元エースからのアドバイスだ。物事っつーのには順序ってもんがあらァ、最初っから何もかもが出来る訳じゃねエ。
出来もしねェもんに挑戦するくれえなら、出来るもンからコツコツとやるべきなんじゃねえのかィ?」
迷っていると、ヴェスリーさんからのアドバイスが。
確かに、剣王ローズアグストのアレは、魔導師としてはまだまだ素人に分類される私がやるには困難極まりないことだ。
純粋な魔力で悍馬を構築し、それをまるであたかも本物の馬のように操作しなければならないのである。
それなら、先に飛行魔法を習得しておいた方が良いのでは?
「……出来ることなら、飛んでみたいです」
「おっし! んじゃア、飛行訓練に移るぜィ」
何故か嬉しそうにそう宣言するヴェスリーさん。
今回は朝昼の総まとめみたいなことはしないのかな?
……まぁするんだろうけどさ。どうせ。
「普通の魔導師連中は〝浮く〟ってェとこから始めて、直線的な移動、そしてそれが出来たら空中を自在に飛び回り、そこに魔法の展開ってな風に、段階的にやるんだが……。
俺ァそーゆー細っけぇのはどーも苦手でなァ。習うより慣れよが俺のモットーなんだ、我慢しろよ」
「具体的には、何をするんです?」
「あぁ。ま、簡単なこった。あそこにでっけぇビルがあんだろォ? あっこの屋上から飛びやがれィ」
私を殺す気ですかヴェスリーさん。
それ失敗したら私死ぬんじゃないっすか?
イヴェルさんの時のカウンターといい、どうして皆私の命の危機をスルーするのだろう。
いくら救助マットとかがあっても骨の二、三本ぐらい折れるでしょ。
ギプスしながら登校とか嫌ですよ私。
「さっきも言ったろィ。俺ァ、てめーに最初から何もかもが上手く出来るたァ思ってねえ。
ちゃんとこっちでサポートしてやらぁ、安心して飛びやがれィ」
簡素な作りの短杖で肩をトントンと叩きながらの補足。
そっちを先に言ってほしかったなぁ……。
とりあえず、徒歩でビルの中に入り、階段を上りに上って屋上に辿り着いた。
安全の為張り巡らされているフェンスを飛び越えると、かなりの高さに思わず足が竦んでしまう。
学校の屋上から飛び降りるのさえ怖いのに、それの二倍か三倍はあるだろう高さからの飛び降り。
むしろ足が竦むくらいで済んでいる私が凄いと思う。
「…………」
私は高所恐怖症ではないが、それでも怖いものは怖い。
意識を逸らす為、現実逃避をしてみる。
今も瞼の裏に焼き付いている、紅蓮に彩られた神馬と、それに跨る英雄の姿を思い浮かべるのだ。
無双の宝剣『黄金の剣』を掲げ、道なき道すら疾駆するほどの悍馬を竿立て、紅蓮の炎を周囲に燃え上がらせ、爆ぜさせている。
残念ながら私の所有色は亜麻色だから、神馬を構築するどころか紅蓮にすら染まらないんだけど……。
「おらぁ! 何もたついてんでぇ羽柴ァ! 早くしろ!!」
現実逃避に専念していると、下から怒声が聞こえてきた。せっかちだなぁ。
こちとら必死に恐怖心を無くそうとしているのに。
「っ!!」
I can fly!!(←ヤケクソ)
「ほい、っと」
決死の覚悟で飛び降りると、ヴェスリーさんの呑気な欠伸混じりの掛け声が聞こえてきた。
心臓とか肺とかが口から飛び出してしまうのではないかという、いかにも空から落下してますよ感溢れる、どう表現していいか若干困る状況から一転、何か柔らかいものに包まれているような安心感漂う状況となった。
私の全身が蝋燭色の光に包まれ、ふよふよと空中を浮遊している。
試しに下を見下ろしてみると、ヴェスリーさんが豆粒ほどの大きさに見えるほど。
ぞわぁ、と鳥肌が一斉に立ち、必死に無くそうと奮闘していた恐怖感が再び訪れる。
もしここでヴェスリーさんが魔法を解除すれば……。
ふと、考えたくもないことを考えてしまう。
「やっぱ、飛行訓練はまだおめーにゃ早えか」
赤子のように足をバタバタさせつつ地上に降りると、呆れというより納得の表情をしているヴェスリーが確認するように言った。
そう思っているならやらせなければいいのに。
「ま、何事も経験ってこった。むしろ、あーいうとこからで飛び降りられる時点で凄えもんだしな。そんじゃ、別の訓練に移るぞ」
「は、はぁ……」
褒められているのか馬鹿にされているのかハッキリして欲しい。
「……てめー、イヴェルになんか変なこと訊いたらしいなァ?」
そう心の中でぼやいていると、ヴェスリーさんが据わった目で問うてきた。
心なしか、額には青筋が浮いている。
ありゃん? 私なんか彼にしたっけ?
「……変なこと、ですか? すみません、覚えてないです……」
「嘘つけェ! なんか訊いたろィ! あいつ、いつにも増して気持ち悪ィ笑みで俺を見てくんだよォ!
挙句の果てに、『今度はいつ新人に追い越されるかのぅ?』と喧嘩売ってきやがんだア!! てめーが一枚噛んでんだろオ!?」
イヴェルさんに私が変なことを訊いた……?
『今度はいつ新人に追い越されるか』……?
――あ。
「心当たりがあるってェ顔だな、羽柴ァ?」
「い、いえ! そんな、それほど変なことでは!!」
「良いから教えやがれィ! 判断すんのはてめエじゃねェ、俺なんだ!!」
そうだ、確かに訊いた。
『現時点で私が相手出来そうな魔導師はいますか?』と。
それで、イヴェルさんは間を置きつつも『ヴェスリー殿じゃ』と答えてくれた。
勿論、彼と私が互角という訳では無い。
彼には〝毒の靄〟ターテングロ使用禁止という、重大なハンデを負ってもらわねばならないのだ。
言うなれば、銃の名手に銃を使うなと言っているようなもの。
それで私が勝てるわけでも無く、ただ接戦になるだろうというだけなのだから、ヴェスリーさんが強いのには変わりない。
でも、言語力が欠落している私に、誤解を与えないよう伝えるのはかなり厳しいのだが……。
「誤解せず、最後まで落ち着いて聞いて頂けますか……?」
「おう、早く言いやがれ」
「……実はですね、イヴェルさんに『現時点で私が相手出来る魔導師は誰かいますか』と訊いたんです。
それで、暫く日を跨いで、イヴェルさんが教えてくれたんですよ。〝毒の靄〟使用禁止というハンデを背負ったヴェスリー訓練司令官と戦えば、そこそこ接戦出来るだろう、と」
いつ怒声が飛んでくるかとビクビクしながら、事実を若干捻じ曲げつつ答える。
すると彼は喜怒哀楽のどれでもない、何かを考えているような、それでいて諦観しているような顔になっていた。
「じゃ、ちと戦ってみっか?」
「えっ?」
意外な申し出に、私は目を丸くした。
それは、模擬戦ということだろうか? 勝てるかなぁ。
「違えよ。実戦形式の、ガチンコバトルだ。……〝毒の靄〟は使用しねえけどな」
「えっ、で、でも……。……万が一の時の為に、エースは全力で模擬戦しちゃいけないんじゃ……」
やる気満々だったアールグラスさんとの模擬戦。
だが、最後まで力を使わせてくれず、中途半端な形で終わってしまった。
その時にアールグラスさんが言っていた。
エースは模擬戦で全力を出してはいけない、と。
ヴェスリーさんも、〔魔導師事務捜査隊〕を支える立派なエースだ。
今日事件が起こったからと言って、ここ一週間安泰だ、という甘ったるいことが起こるはずもない。
無駄に力を使っていいのだろうか。
「俺みてぇなしょぼくれ爺がいくら力を浪費しようと、あのダメガネは気にしねえよ。それともなんだ、怖気ついちまったのか?」
「……いえ、ヴェスリーさんが気にしないのであれば構いませんよ。是非、やらせてください!」
――と安請け合いをしてしまったことを、今更ながらに後悔している。
正直、アールグラスさんより強いかもしれない。
とにかく、私の最大の攻撃手段である斬撃が届かないのだ。
ヴェスリーさんは常に空中にいる為、射程の長い攻撃でも放たない限り当たることは無い。
だが残念ながら、私は遠距離に被害を齎す射撃系魔法に向いてないし、そもそも習得すらしていない。
為す術無く、ヴェスリーさんが次々に放ってくる魔力弾をかわすのみだった。
「おらぁっ!」
何度目かの直射砲がぶっ飛んできた。
勿論、先ほども述べた通り私に為す術など皆無に等しいので、軽くひとっ跳びしてかわすのみ。
「…………」
切り札は二つある。
一つは、ローズアグストの猿真似をすること。
黄裂一斬、百海炎斬などが好ましいが……私の今の魔導運用技術と魔力量では到底及ばない。
せいぜいヴェスリーさんの足止めが出来る程度だろう。
二つ目は、イヴェルさんに教えてもらい、鍛えた反撃魔法の使用。
一つ目と比べて非常に優力だが、一度使ってしまえばもうこの戦いでは使えない。
魔力消費が著しいから、ではなく、ヴェスリーさんが私の次手を読んでくるからである。
歴戦のエースに、二度同じ手は通用しない。
これは未歌さんからでもイラヴェントから教えて貰った訳でも無く、私が乱世に居た頃に実感したことだ。
「――オークエッジ」
小さな呟きとすら言える声量で繰り出された、蝋燭色の直射砲。
しかもこれは、魔力変換資質〝毒〟を使用して集束されたものだ。
回避しても、周囲に毒素が舞ってしまい、私の敗北までの時間が縮まってしまう。
これはなんとしてでも食い止めねば。
「っ、百海、炎斬ッ!!」
相棒たるブロードソードの白刃を、私の所有色たる亜麻色の光が包み込んだ。
せいぜい私の身長の半分ほどの刀身だったブロードソードが、私を丸々覆ってしまう程巨大化し、亜麻の光をはらはらと舞わせている。
そして莫大な魔力を注ぎ込み、直射砲目掛けて振り下ろした。
亜麻色の剣と蝋燭色の槍が衝突した、その瞬間。
私の背中に悪寒が走った。
よく分からないが、急いで後退する。
私が元いた場所から数メートルほど離れたのだが、その選択が良かったと心から思わせる現象が起こった。
なんと、亜麻色と蝋燭色がもつれ合うように絡み合い、なんかソフトクリームみたいだなと思っていると、凄まじい爆音を轟かせて大爆発を起こしたのである。
爆風が私を圧し、吹き飛ばし、思わず尻餅をついてしまった。
それほどにまで衝撃は強く、亜麻色と蝋燭色が絡み合った直下の地面は無残にめくりあがり、とても人工的に起こしたとは思えない亀裂が数十、否、数百と走っている。
「……っ!」
いつまでも尻餅をついたままではいられない。
上手く足に力が入らず何度も失敗しながらも、ようやく立ち上がり、ふらつく足でその場を離れた。
と、その刹那、私がいた場所が蝋燭色に染まる。
ヴェスリーさんは私が無様を晒していた間も冷静に、次の攻撃の一手を考えていたのだと思わされた瞬間だった。
たかが魔力が大爆発を起こしたぐらいで怖気ついていた私が馬鹿らしくなり、同時に情けなくもなる。
衰え、年老いても尚、歴戦のエースの風格と貫録を漂わせるヴェスリーさん。
決して楽観視していた訳では無いが、軽はずみに勝負を受けたことを再び後悔してしまう。
「何してンだ羽柴! 行くぞッ!」
ここは戦場である、思案に暮れている暇などない。
怒号が飛び、それと共に魔力弾も飛んできた。
私は何とかブロードソードに反射の魔導式を打ち込み、それらを全て弾き返す。
震えることなく落ち着いて対処出来たことに安堵の息を漏らしつつ、衝撃波も構築、発射してみる。
この辺はヴェスリーさんに教えて貰った通りだ。
頭が混沌の極みにあっても、身体が勝手に反応してくれる。
暫くして衝突音が響き、目視でもヴェスリーさんがバリアで魔力弾を防いでいるのが確認出来た。
――これはもしかして、絶好のチャンスなのでは?
私はそう確信し、魔力をブロードソードに集束する。
こんな勝機を逃すほど、私は馬鹿じゃない!
「っだ、らぁああああ!!」
その時、奇跡が起きた。
実際には奇跡じゃ無かったのかもしれないが、当時の私にとっては衝撃的とすら言っていい出来事だ。
飛行するどころか飛ぶことすらまだ習ってないのに、身体が自然に浮いたのである。
加速魔法で勢いをつけ、ヴェスリーさんがいる空中へと辿り着く。
そして彼の背後に一撃、
「百海炎斬ッ!!」
今度は綺麗に発動した『百海炎斬』が炸裂した。
紅蓮の火の粉ではなく、亜麻色の魔力素が舞い咲き、戦場を彩っている。
強化したブロードソードによる渾身の斬撃だ、ローズアグストの業にしては残念威力かもしれないが、普通の斬撃魔法としては上位に入るだろう。
「――っ、ふぅ――」
足をもつれさせながらも無事に地上へ戻り、彼の様子を確認する。
丈夫な魔力フィールドが展開されていた為外傷は無いが、かなり痛手を負っているようだ。
出来ればここで一気に畳みかけたいが――。
「はぁ……はぁ……っ!」
渾身の一撃を放っても尚、それを上回る魔法を構築出来るほど、私は才能に恵まれていない。
不幸中の幸いと言うべきか、ヴェスリーさんも多少消耗している。
それが唯一の救いであり、勝機だ。
切り札を切らないままでいるのも手だが、ぬくぬくと温存していられるほど戦況は甘くない。
むしろ厳しいくらいである。
「――っ、んっ!?」
再び私を悪寒が襲った。
急ぎその場を後にする。
すると、今まで私がいた場所に蝋燭色の光が煌めいた。
――恐らく、拘束魔法を発動させたのだろう。
安全に大威力の直射砲を叩き込むために。
「……ちっ」
私の憶測が的中したことを決定付ける、小さな舌打ちが耳に入る。
ほっと安心していると、即座に集束砲が構築され、展開され、そして発射された。
切り札を切るのは――今しかない。
「っはァ!!」
残り少ない魔力を刀身に集束し、反射の魔導式を編み込む。
そしてブロードソードを一振り、集束砲が刀身に触れた瞬間、全力で跳ね返した。
「うおっ!?」
ヴェスリーさんには、反射は教えて貰ってもカウンターは教えて貰っていない。
それを逆手にとった、ある意味反則とすら言える戦法だ。
だがこれは生温い模擬戦ではなく生死すら懸けた本気の実戦訓練である。
卑怯反則もってこい。
「……くそっ」
再びの舌打ち。
直撃したのだろうか。
「受けとれッ! スカイグラヴィドン!!」
大声量による魔法の詠唱。
元より私の魔力は先の一連の流れですっからかんだ。
それに、『曝麓』ヴェスリーの本気の一撃を対処できるほど、私はまだ強くない。
ぎゅっと目を瞑り、蝋燭色の到来を待つ。
――今まで紅蓮の神馬が焼き付いていた瞼の裏に、蝋燭色の光が加わった。
………………。
…………。
……。
「うわっ!?」
呼びかける人の声に反応し、慌てて飛び起きる。
既に日は昇り、チュンチュンと心地よい小鳥の声が聞こえてきた。
「……ふむ、ようやく起きたか」
そこにヴェスリーさんの姿は無く、代わりにイヴェルさんがいた。
「あの、ここは?」
「うむ? 休憩室じゃ。お主も見慣れておろう?」
いや、そうじゃないよ!?
普通、痛手を負った人を運び込むのは病室とか保健室とかと決まっているでしょ!?
なんでこんなとこに!?
「安心せよ、お主に傷は無い」
「いや、そうじゃなくてですね!?」
優しくしてほしくないところで優しいくせに、優しくしてほしいところで優しくしてくれないんだな。
「それにしても、何があったのじゃ? ほれ、言うてみよ」
「あ……ま、まぁ、簡潔に申しますと……。
ヴェスリー訓練司令官と実戦形式で戦闘訓練をしていまして……。私が見事に敗北した、と……」
「ふむ……なるほどのぅ。それでヴェスリー殿があのような顔をしておったのか」
「――え?」
あのような顔って、どのような顔だろう? 心配してくれていたのかな?
それとも、不甲斐ないと激昂していたとか?
いやいや、強くなったな……ってな感じで感慨深げに見つめていてくれたとか。
――そんな訳無いよね。自分で想像して虚しくなってきた。
「ふふ、あの顔、お主にも見せてやりたかったのぅ。
しかし、残念ながら本人に口止めされておっての、言いたくとも言えんのじゃ。すまんのう……。
…………ブフッ、フフフ……」
あの、イヴェルさん?
すまなさそうな台詞に不釣り合いな、楽しそうな笑い声が聞こえてくるのですがそれは……。
「ふふっ、すまっ……ブフフ! フフフフフ…………!」
遂に大爆笑してしまうイヴェルさん。
口を押えて楽しげに笑う彼女に後日、どんな顔だったのか是非教えてもらおうと心に決めた私であった。
(※当時のあとがきより抜粋)
研修四日目ですので、まだまだ瑞紀ちゃんは未熟ですね。これから強くなる予定です。
あと、本文中に「馬を竿立てる」という表現がありましたが、本来「竿立てる」という動詞は魚釣りに使われるものです。
ですが、私の尊敬する小説家さんが同じような表現していらっしゃいましたので、ちょっと頂きました。
ナポレオンの絵にあるような、乗馬した状態で馬を嘶かせる……後ろ足だけで立たせることを指します。