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絶海の孤島と魔導少女 -短編集-  作者: 羽柴和泉
今宵きりのダンス・マカブル
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今宵きりのダンス・マカブル Episode01

Attention


・3年位前にコープスパーティーを読んで、こういう圧倒的苦境というか、

 絶望的状況なのも良いなと思って、今まで設定を温めていたもの。


・原作並みのグロシーンは無いので、ご安心下さい。


・リハビリを兼ねて書いてるので、安直な言い回し、使い回しの表現、

 明らかに少ない語彙、等々目立ちますが、暖かくスルーして下さると幸甚です。


・行間中の「◆」は、視点切り替えの合図です。

 序盤はそうではありませんが、終盤特にころころ変わるかもです。ご容赦ください。


・作者の作者による作者のための短編なので、あまり本編とは関係ないです。

 おふざけ全開のホラーです。


総文字数は、6695字です。


長いので、作業の合間にでもどうぞ。

全身に奔る激痛で意識が覚醒した。

瞼を開き、双眸で周囲をくまなく見渡すが、明かりがどこにもないせいで薄暗く、視覚による情報は特に得られぬ徒労に終わった。


ただ全く収穫が無い訳ではない。


まず、右手が何者かの手によって塞がれていること。

だが拘束はされておらず、右腕以外の四肢が自由に動かせること。

また、周囲に魔力反応は感じられないということ。


これらの情報から推察するに、私は何処ぞへ誘拐された訳でも監禁されている訳でもない。

右手を固く握っているこの人物は、私と親しい間柄にある人だ。

暫く滞在する程度であるならば、この場所はかなり安全である。


以上3点を素早く確認した私――羽柴瑞紀(はしばみずき)は、とりあえず私の右手を塞いでいる人物を起こすため、軽く背中を揺すってみる。

私と同じく気を失っているのか、何度揺すっても起きる気配がない。


周囲が暗闇に閉ざされ、そして照明が手元にないため人相で判断することは不可能である。

ということは、私がそうしたように、自然に意識が覚醒するまで待つしかない。

道のりはだいぶ遠そうだ、と一人諦観の溜息を漏らす。



〔魔導師事務捜査隊〕に入隊以後、このような突拍子もないハプニングに巻き込まれることが多く、

最初こそ軽いパニック状態に陥り慌てふためいていたのだが、最近はめっきり驚かなくなってきていた。


我が戦友曰く、心臓に剛毛が生えているようね、とのこと。

褒められているのか貶されているのか、それを追求すること自体馬鹿らしかったので深くは突っ込まなかったが。


ふんふん、記憶の糸を手繰ってみてもするすると難なく思い出せることから、記憶障害に見舞われているということでもなさそうだ。


薄暗い部屋に、私と、私と親しい間柄の人物と、その二人だけがいる。

現状確認としてはこの程度で充分だろうか。



「さて、エリアサーチを――、ん?」


全体像を探るため、広域探査弾(エリアサーチ)をばらまこうとして、初めて異変に気が付いた。


魔法が、使えないのである。


常のような魔力集束が出来ないのだ。

魔力がない訳ではない、そして恐らく魔力素も空気中を漂っているはず! 

なのに、なぜ!? 


危機的状況ではないことに油断して、一番の異変に気が付けなかった。

仮にも魔導師の端くれであるのに、あまりにも間抜け過ぎる。


魔力を構築しようとするや否や、眩く光り始めた左手。

では、ない、左手の手首につけられた簡素なブレスレット。

装飾が何も施されていない、ただリング状のそれは亜麻色の光を眩く発していたが、魔力の集束を中断すると、光は次第に淡く小さくなっていく。


仕組みを理解するため、もう一度魔法を行使しようとしてみる。

もう既に魔法は使えないという大前提の下で行動していた為か、魔法が使えないことに対して動揺はしなかった。

ただ、先ほどと同じように魔力を注力すればするだけ亜麻色の光は強く眩くなり、集束を中止すると消える、という現象を冷静に観察するのみ。


これは、魔法を操る種族〝魔導師〟に対しての枷のようなものだと結論を出した私は、もう一度大きな溜息を吐いた。


とりあえず、右手を塞いでいる人物が起きたら、真っ先に魔法が使えないことを伝えなければならない。

どうか冷静な人でありますように、ひたすら強くそう願っていた。





「いってえ!!」


どしん、と尻餅をついた。

激痛が奔り顔を(しか)める。


かなりの高さから落下したようで、未だじんじんと鈍い痛みがあった。



「きゃあっ!?」


次いで、高い女の声が降ってきたかと思いきや、同じくどしん、という音と共に人間の身体が落下してきた。

咄嗟に受け身を取ったのか、派手な音のわりに怪我はないようだ。



「おい、その声、ミヤラか? 大丈夫か?」


「そっちこそ、その声はレオね? 

 ええ、大丈夫よ。お尻が少し痛いくらいね」


「おう、そうか」


お互いに軽く現状報告をする。


どうやら降ってきた人間は我が戦友、『輝硝(きしょう)の撒き手』ミヤラ・グロートモングだと判明。

千変万化の宝具『ラッグシャール』を自在に使いこなし、固有魔導法〝射閃陣〟クエリロアの保有に代表される、

空間把握能力を駆使した立体的な戦闘を可能とする、セバイル新人班の期待の星である。


彼女はその空間把握能力で、この空間がどこであるのか察知しようとしていたが、やがて諦めたような溜息が一つ聞こえてきた。



「ムリそうか?」


「ええ、そうね。クエリロアどころか、魔法すら使えない」


「マジか? うわ、ほんとだ」


左手首にある橙色のブレスレットが、魔力の通り道を塞いでいるらしい。


原理は分からないが、とにかくこの場では魔法が使えない。

そして恐らく、少し移動した程度では当面、魔法どころか魔力を集束することも出来ないだろう。



「しっかし、ほんと暗いわね。明かりとかは無い訳?」


「このブレスレット……は、ダメか、常に魔力を消費するから効率悪いったらねえ」



一寸先も見えない暗闇に辟易しているのか、吐き捨てる様にミヤラは言う。

だがその割にずんずん歩いていくので、付いていくのが精一杯だ。


これは直感だが、この場所ではあまり単独行動しない方が良い。

そして、無闇に歩き回ることも、得策ではないだろう。



「おい、ミヤラ、待てよ、あんまり歩き回らねえ方が良いんじゃねえの」


「何よ、何も情報が無いんだから、自分の足で歩き回って情報を掴むしかないじゃない」


「だからそれがマズイんだって、ほら、雪山とかで遭難したら、

 無闇に探索したりせずにその場でじっとしていろって言うだろ」


「これが罠である可能性は? 狭い檻の中でずっと救助を待っているのは現実的じゃないわ。

 小さなことでも一つだけでも手掛かりを見つけなきゃ」


「だーかーら! それが! ダメなんだって!」


雪山遭難の理論でこの場でじっと待機している方が良いと主張する俺と、

さっさと行動して脱出する手掛かりを発見する方が良いと主張するミヤラとで、意見が対立する。


互いが互いに譲る気など一切無いのだから、議論するだけ無駄である。

そのことを理解している俺たちは、どちらからともなく口を噤んだ。


ミヤラ一人で探索しても良さそうなものだが、彼女も単独行動は避けるべきだと認識しているからか、

単に暗闇の中を一人で歩くのが怖いという乙女心からか、舌打ちをしてその場に座り込む。


魔導師として魔力が使えない、かといって人間として探索も出来ない。


かつて無力だった自分が思い起こされて不快なのだろう。

何度か、拳が空を裂く風切り音が聞こえてきた。


この時点で、彼女のイライラは最高潮に達していた。






「――なるほど、そんなことが……」


幾分か過ぎ去った頃だろうか、むくりと右手を塞いでいた人物が起き上がった。


声で裂空豪牙(れっくうごうが)の称号を頂く〝ドラゴンクロー〟の使い手、

竜召喚士であり一流の双剣士でもある『紫双(しそう)()び手』イラヴェント・T・ソンティアル、だとすぐに判明した私は、とりあえず柔和で冷静な人で良かったと胸を撫で下ろし、一切を説明した次第だ。


最初こそ、魔法が使えないという凶報に愕然とし、激しく動揺していたが、今は平静を取り戻している。


生まれた時から魔力と共に在り、物心付いた時には魔法を繰っていたのだから、その動揺は計り知れない。

ついこの間まで普通の高校生だった私とは、何もかもが違うのだろう。

彼女にとって魔法が使えないということは、父母と死別するのと同様の喪失感を味わう、容易には受け入れがたい事実なのだ。



「さて、魔法が使えないっていうのは……うん、凄く嫌だけれど……分かった。じゃあ、これからどうする?」


本当に嫌そうな声音で、イラヴェントがそう言った。

私は苦笑して、この場での待機を提案する。

無闇やたらに歩き回っても、骨折り損のくたびれ儲けというやつだ。


……どうでもいいけど、覚えたばかりの言葉って、何てことない時にでも使いたくなるよね。



「そういえば、魔導端末(デバイス)も奪われているんだね……」


「そうだね、やっぱり魔導端末(デバイス)があったら、色々と敵にとって不利益なのかな」


いつもは首から下げていたペンダントが無く、いつになく落ち着きがない。

それはイラヴェントも同じようで、先ほどから妙にそわそわと身体を揺らしていた。


魔法も使えなければ、サポート役の魔導端末(デバイス)も存在しない。

無力な人間に成り下がった私たちは、二人同時に深く重い溜息を吐いた。



「これからどうする? ずっとこのままって訳も行かないし……」


「ここにいるのが私達だけってなら自分達だけでなんとかしなくちゃならないけど、たぶんそうじゃないと思うんだよね。

 早急に合流しないと、そのために連絡手段を探さなきゃだね」


「でも連絡といっても、通信機も恐らく奪われているだろうし、筆談でもこの暗さじゃあ……」


そう嘆きながら打開策を講じていると、不意に、かつ、かつ、と人がこちらに近付いてくる足音が聞こえてきた。


その音は不規則に響き渡る。

踏鞴(たたら)を踏んでいるような、千鳥足のような……。


進行方向を定めて移動しているとは到底思えない、不安定な足音だった。



「……イラヴェント、聞こえる?」


「うん、聞こえる。これは……」


小声で確認し合い、揃って耳を澄ます。


その足音は次第に大きくなり、こちらへ近づいてきているようだった。


もしや、私達以外の〔魔導師事務捜査隊〕の面子が仲間を探す為に歩き回っているのか? 

そうでなくても、同じ境遇に陥っている探索者が手掛かりを求めて辺りを捜索しているのか?


ぐるぐると思考の海に沈んでいると、不意にその足音はどこか近くで止まった。

かと思いきや、がらりと横開きの扉を開く音が聞こえる。

私たちの近くではないが、遠く直線上にある部屋の扉であろうことはその音から容易に推察出来た。


「イ、イラヴェント、ここってさ、大量に部屋があるところじゃないかな? ホテルとか……。

 それで、音の主は一個一個扉を開けて、誰かいないか確かめているとか」


「ちょっと待って、ホテルなら探索の時間が長すぎるよ。

 それに、さっき会話してて思っていたんだけど、声の響き方からしてこの部屋はかなり広い。

 でも遮蔽物は大量にあるんだよね……」


敵か味方か分からない以上、人の気配がしたからと言えど安心は出来ない。

逃走経路を確保するために、私とイラヴェントは小声で場所の特定を図ったが、結論が出るより早く扉を閉める音が聞こえてきた。


再び、かつ、かつ、と不規則な足音が廊下(違うかもしれないが、便宜上そう呼ぶことにする)を歩く音が響く。

扉をガラリと開く音が、今度は先程よりだいぶ近く聞こえてきた。


音からしてたいぶ近い。

きっと……このすぐ隣なのだろう。

何か大きなものを動かしたり、何か小さなものに躓いたり、探索の音がはっきりと聞こえる。



次は……私たちの番だ。


そう自覚した瞬間、有り得ない程の寒気に襲われた。

全身がガタガタと震えるほどの恐怖に戦慄し、思わず腕を搔き抱く。


私の異常に気が付いたのだろう、イラヴェントは何も言わずぎゅっと抱きしめてくれた。

イラヴェントの纏う仄かな香水よりも、彼女も同じように小さく震えている現状に、

一人だけ怖がってはいられない、しっかりしなくては、という勇気が湧いてきた。


互いの吐息の音すら感じられる程縮こまって、ただこの身に訪れた不運が、どうか過ぎ去るようにと一縷の望みをかける。


だが、現実はあまりにも無情であった。



「……ッ!」


かつ、かつ、という足音は、廊下一体に冷たく響き、やがて止まった。


私たちがいる部屋の、扉の前で。


これまでと同様に、謎の人物は遠慮容赦なくがらりと横開きの扉を開く。

言葉では到底表現しようもない恐怖に、咄嗟に目を固く瞑った。


隣でイラヴェントが息を呑む音が聞こえ、彼女は際限のない恐怖に立ち向かっているのだと理解した私は、恐る恐る瞼を開き、絶望的な双眸で周囲を見渡す。

否、見渡すまでもなく、すぐに大きな違和感を強く抱いた。


まず、暖かく淡いオレンジ色の照明が目に入る。

次に、その照明を持っている人物を視界に捉え、そして驚きのあまりぎゃっ!という潰された蛙のような悲鳴をあげてしまった。


目の前に私たちが居るのにも関わらず、先ほどと変わらぬ手順で部屋を探索していた異端者は、私のあげた悲鳴でこちらに気が付いたようだ。

先ほどのぼんやりとした様相はどこへやら、殺意を剥き出しにした双眸で睨みつけてくる。


あっ、と気が付いた時にはもう遅い。


異端者は手の内で魔力を集束させ、簡素な魔力弾を構築していた。

異端者は私達と同じく魔導師か、などと冷静に分析する暇もない。

指先に魔法陣が展開され、一発の魔力弾は鉄砲玉のような鋭い弾速で発射された。


「危ない!!」


私の方に向かってきた魔力弾(恐らく、悲鳴をあげたのは私だからだろう)をイラヴェントが魔法陣バリアで防ぐべく、素早く身を乗り出し、掌をグッと開いて魔力素を集束させる。

だが、竜胆色のブレスレッドが強い光を発するだけで、魔導師を護る盾はついぞ発動されることは無かった。



パアン!!


異端者の放った魔力弾は、イラヴェントが開いた掌、そのど真ん中を一気に貫いた。



「ひっ……」


魔力弾の直径分、綺麗に穴の開いた彼女の掌。

そこから滴り落ちる鮮血に、私は生きた心地がしなかった。



「イ、イラヴェ、イラヴェント、たたた、大変だよ、てあ、てあって、手当しな、くちゃ!!」


笑えるくらい、呂律が回らなかった。


魔力路をその身に宿す魔導師は、たとえその一部が切断されても他の箇所から魔力が供給されて怪我は自然と修復される。

その当然の原理すら分からなくなるくらい、私は切迫した心境に立たされていた。



「瑞紀、立って!!」


ここでもたもたしているうちにも、異端者はもう一つ魔力弾を構築している。

ニタニタと不気味に笑いながら、生気のない、それでいて明確な殺気の籠もった目を、イラヴェントに向けて。


すっかり腰が抜けてしまった私を、イラヴェントは無事な方の手で無理やり引っ張り上げた。


足がもたついて上手く立ち上がれない。


だがこの場にいても為す術など何もないので、必死に、縋り付くように走る。


走る、


走る、


走る。



足先がもう一方の足の脛を蹴って、足が絡まって、もつれて、でも、走る、走る。


暗闇の中を、韋駄天の如く、突き抜けていく。


一直線に、がむしゃらに、ひたすらに。


次第に体力が持たなくなり、息を切らすようになっても、肩で浅い息を繰り返しながら、全力で走る。



やがて、淡く小さな光、やけに見覚えのある、懐かしい色が扉の奥に見え、勢いに任せて扉を開けた。


取っ手の部分をかかとに引っ掛け、思い切り、力に任せて蹴り開ける。



「はあっ、はあっ、は、あ、はあ、はあっ……」


「げほっ! げほっ!」


息も絶え絶えだが、とうに使い果たした体力を、それでも限界まで振り絞って、顔をあげた。



暗闇の中で強く眩くブレスレットを忌々しげに睨みつけていた人物は、

突然の来訪者に驚愕したようだが、敵意は無いと悟ると不思議そうに顔を覗き込んでくる。


「なあ~んだね、チミたち。いったい何があったのさー?」

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