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ピン球部!  作者: 近藤 しずか
1/2

プロローグ

何もしていなくても自然に汗が流れる程の

熱気。


ピリピリとした緊張感が漂う試合会場。


シンと静まる観客席。



その視線は、会場の中央にある、1台の

卓球台に注がれていた。





県大会、団体準決勝。


インターハイへは上位2チームのみ出場できる。

つまり、ここで勝てばインターハイ出場権を

獲得できる。



俺は観客席の手すりに前のめりになるまで

その台を見ていた。



鷹月高校 対 大滝高校



鷹月高校のユニフォームは澄んだ海底のように

綺麗な群青に、一筋の光が差したかのような淡

い橙のラインが左から右へとかかっている。


一方の大滝高校のユニフォームは、薄い緑に燃

え上がるような赤がグラデーションしていて、

一目見たら忘れないようなデザインをしている。



俺に向かって背を向けている選手の

背中のゼッケンには、立派な書道の字で

「鳥羽」と書いてある。俺の姉ちゃんだ。




セットカウント2-2。


最終セット18-19のデュース。


大滝高校のリード。



サービスは鷹月高校から。





相手の選手は既に構え、早く勝負を

つけると言わんばかりに姉ちゃんを睨んで

いる。


姉ちゃんは軽くその場で飛び、手をぷらぷ

らと振り、緊張をほぐす。


そして、ややバック寄りに構える。



トスを上げた。

ピン球が高く空を舞う。


サーブはフォア前だ。


相手のレシーブ。思い切って払ってきた。



それを姉ちゃんは台から下がって、

ボールを切るように、運ぶように

して返す。



なんて表現すればいいのか分からないけど、

相手とは違い、姉ちゃんは優雅だった。

相手よりも台から離れてて、時間がゆっくり

としていて、どんなに相手が打ってきても、

必ず返していた。




その様子を固唾を飲んで見守る俺。



そんな中、姉ちゃんのブロックした球が浮いた。


相手は見逃さず、スマッシュを打つ。

場所は姉ちゃんの体の真ん中のやや右寄り。


姉ちゃんは体勢が崩れながらも拾う。


しかし、高い。完全なチャンスボールだ。



相手が先程よりも強くスマッシュを打った。

バックに高いバウンドで早く入った。




決まった。




誰もがそう思った。



でも、姉ちゃんは違った。




走ってボールを追いかけたんだ。





そして、届いた。




観客がどよめく。




ボールを返す姉ちゃん。




ボールは高い軌道だか、相手のコートへと

返っていく。





そして姉ちゃんはまた走って、ある程度の

ポジションに戻る。




相手がまた打つ。

今度はフォアにだ。



それでも返す姉ちゃん。



段々と大きくなる観客のどよめき。



姉ちゃん、スゲェ…ッ!!!

俺は憧れの眼差しで姉ちゃんを見ていた。





今度は低い軌道で返す姉ちゃん。


相手は打てなかったのか、つっついた。






そのボールだった。













コンッ






「エッジイン!!」





相手の選手が台の右端を指さして審判に

講義した。


審判も分かっていたようで、うなずき

ジャッジをする。







湧き上がる歓声。



手で顔を覆い尽くし、嬉し泣きをする相手。

仲間同士、勝利を喜んで抱き合う大滝高校。



仲間と抱き合って泣く、鷹月高校。

黙って下を向く鷹月高校の監督。


そして、

その場で呆然と立ち続ける姉ちゃん。





あ…っ




俺はその時、俺の中で何かが弾けた。




「…母さん」



すぐ隣にいた母親に俺は声をかけた。



「…なぁに?」


涙ぐんだ母親の声。




そんな母親の声とは打って変わって、

俺ははっきりとした声で言った。







「…俺、卓球部に入るよ」








それが、俺が卓球部に入るきっかけだった。




































































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