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金は異世界のまわりもの!  作者: 竹海しょう 
6/10

現代人、異世界侍と出会う 4

 白角カバは普通のカバに白い角が生えている事から白角と呼ばれている、と俺は思っている。カンナからは何の説明もされなかったからだ。カンナはなぜか長いロープを一本用意するだけで、どうやって白角カバを討伐するのかを一言も喋らない。

 疑問は残るが今はこれをやるしか無い。俺は何も言わずにカンナに着いていく。

 だが、この時に一度でも作戦について聞いていればあんな危ない真似をする事にはならなかったかもしれない。生きるためにクエストを受けたのに、死ぬ所だったのだから……。



「おい、どういうことだこれは」

「しっ、静かにしろ。白角カバは警戒心が強いんだ」


 白角カバの生息している池に近づいた俺達は、すぐ側の草むらの中へ身を隠して様子をうかがっていた。白角カバは俺の予想図と近い体をしていた。普通のカバの姿に白くて尖った角が……鼻頭に生えている。

 あれ、頭じゃないのか?

 カバというよりもサイじゃないのかあの角は。


「カンナ、あの角……尖ってるぞ?」

「白角サイは危険を察知するとあの角で突進して貫こうとしてくるから気を抜くな。角で相手を貫いた後、強靭な顎で相手に噛み付いて池の中に引きずりこんでくる」

「そういうことは早く言えよ!」

「馬鹿者! 静かにしろと言っただろう」


 くそっ……カバって温和な動物だと思っていたのに、聞いた限りじゃワニよりも怖いじゃねぇか。

 白角カバには今のところ気付かれてはいないが、奴らは池の中に体を沈めていて、このままじゃ手出しはできない。下手に近づけばカンナの言うとおりの姿になるだろう。

 どうやって、あいつらを仕留めればいいんだ……。


「あいつらを倒せるのか? 見るからに皮も脂肪も厚そうだが」

「風桜流剣術に斬れない物はない。だがあいつらを池から引きずり出せなければ話にならん」

「じゃあどうするんだよ」

「これを使う」


 カンナは街で用意したロープを懐から取り出すと俺に渡してくる。見た感じは細くてとても丈夫そうには見えない。

 これをどうするんだ?


「まずはこれを腰に巻く。私が巻いてやろう」

「わかった」

「そしてロープの先に奴らの餌となる草束を結ぶ」

「なるほど?」

「そしてこれを――投げる!」

「なにっ!?」


 カンナは草束を池の前へ思い切り投げ込み、白角カバの目の前に落ちる。白角カバは落ちた草束に気付いてのっそりと歩み寄る。まさか、陸釣りをしようというのか。

 というか、このままじゃ俺が殺される!


「これじゃ俺が死ぬだろ!」

「メルツシポネが使い物にならないなら貴様自身に働いてもらうしかなかろうに!」

「うるさいよ! 使い物になる以前の問題だよ!」


 急いで腰に巻いたロープを外そうとするが固結びで結ばれていて中々解けない。そうこうしている内にも白角カバは草束に近づいて食らいつこうとしている。

 やばいやばい! 引きずり込まれる!


「勘違いするな馬鹿者。奴に池に引き摺られて死ねと言っているわけではない! あいつらを引き付けて池から上げればくれればいいんだ!」

「つまりそれは食われる寸前まで行けって事だろ!? 誰がやるかそんなん!」

「ああそうだ、それじゃあ貴様があいつらを斬るのか? 出来るのか素人の貴様に!」

「別のクエスト受ければいいだけでしょうが! 俺は帰る!」

「あ、今立つな!」


 今すぐにここから立ち去らなければ。俺は草むらから立ち上がってロープを巻き取ろうとする。だがロープに手を掛けた瞬間、奴と目があった。

 目と目が合う俺と一頭の白角カバ。白角カバは動きを止めてじっと俺を見つめ、対する俺も睨まれて体が固まってしまう。

 落ち着け、落ち着いて考えろ。このまま背を向けて逃げたら追いかけられるかもしれない、ここは奴らが興味を失うまでじっと止まっているべきだ。

 そうだろう……カンナ?


「見つかっては仕方がない! 来いお前たち! 我が風桜流剣術で斬り刻んでやろう!」


 ――アホかこいつは。

 カンナは刀を抜いて勢い良く立ち上がると、白角カバに切っ先を向けて叫ぶ。白角カバはカンナの口上に興奮したのか、雄叫びを上げて体を震わせる。口上で怯ませるどころか、ただ怒りを買っただけだ。


「バカ正直すぎるだろお前は! あいつらに見逃して貰えるのを待てばよかっただろ!」

「武士として敵前逃亡は出来ない」

「そこで武士の志だしちゃう!? 死ぬかもしれないんだぞ!」

「だから死なない為にあいつらを私が倒せばいいのだろう?」

「そうだけど――っぶねぇ!」


 完全にヤル気満々のカンナと言い合いをしていると、その隙を突くように白角カバが突進してくる。カンナは俺を突き飛ばして間一髪の所で避けると、刀を斬り上げてカバに攻撃する。だが剣撃は僅かに皮膚を削っただけで、白角カバの勢いは止まる様子はない。地面を蹴りながら再び突進の構えを見せつけてくる。

 

「キョウスケ、森だ! 森に走れ!」

「わ、わかった。今向かう!」


 俺はカンナに促されて、我武者羅に森の中へ走った。すぐ後ろには白角カバが猛烈な勢いで追い掛けてくる足音が聞こえてきて、耳をふさぎたくなる。背後から迫る恐怖に振り向くことすら出来ず、涙目になって兎に角逃げる。めっちゃ怖い、チビリそうなぐらい怖い。

 そんな俺にに対して並走するカンナは経験の違いだろうか、しっかりと背後を確認しながら駆けてる。


「どうすんだこれから!」

「私が奴の角を叩く! だがこのままじゃ距離が近すぎるから、一旦距離を取るため奴を引き付けてくれ」

「くっ……わかったよ! やりゃあいいんだろ!?」


 もうここまで来たらやるしか無い。どうせ逃げられないならカンナの剣術に託すしか無い。

 俺は腰に括り付けられた草束を手に取り、カウボーイのように頭上で振り回す。引き摺られてだいぶ草の量は減ったが、振り回して奴の前に立てば多少は注意を引けるだろう。

 ビビりながら背後を確認し、突進をサイドステップで避ける。巨大な質量が真横を駆け抜けていくのを確認すると、一本の木とカンナを背にして草束を振り回し始める。

 突進を避けられた白角カバは勢いを緩めるとゆっくり方向転換をし、再び俺へ狙いを定めている。地面を何度も蹴り、力を溜めているのだろう。先程までの突進よりも更に勢いが増したら、それこそあの角で文字通り貫かれてしまうだろう。

 ボロ雑巾のように転がる自分の姿が安易に想像ができ、背中に嫌な汗が流れる。

 

「私の合図に合わせて横に跳べ!」

「ああくっそ! 二度目の死はごめんだぞ!」


 白角カバが駆け出す! 

 俺は竦む足を奮い立たせて兎に角ロープを回し続けて興奮を煽る。後ろのカンナの合図に耳を澄ませて待ち続ける。その間にもどんどん奴との間は縮まり、目と鼻の先になる。

 だめだ、もう避けないとやられる!


「今だ、跳べ!」


 合図が耳に届いた瞬間に、俺は恐怖を受けているからか本能的に跳ぶことが出来た。跳んだ瞬間、世界がとてもゆっくりに見えた。俺自身がついさっきまで居た場所を駆け抜ける白角カバを見て、その次にカンナを見た。

 だがカンナは刀を下段に構えているだけで避けようともしない。

「危ない!」と叫んでみたがカンナは迫る白角カバを一点に見据え続ける。そして刀身を背後に回して脇構えを取った。


「風桜流剣術奥義、不断桜!」


 俺には何が起きたのかよくわからなかった。

カンナが白角カバに向かって跳び出したと思うと、刀をそのまま水平に斬り払って白角カバの角に当てた……様に見えた。斬られた白角カバの角は真っ二つに折られて、先端が地面に転がり落ちる。斬られた白角カバは次第に突進の勢いを緩めて止まったと思うと倒れ込んでしまった。

 

「や、やったのか?」

「無論。我が風桜流剣術に斬れない物はない」

「風桜流剣術ってすげー……」


 確かに斬られた白角カバはピクリとも動かない。だが切り傷もなければ血も出ていない。角が折れただけだ。本当に倒せたのか?


「亡骸は報告の後協会が回処理してくれるだろう。さ、次に向かうぞ」

「ん……次?」

「次の獲物の事に決まっているだろう。一匹で終わるわけがなかろう」

「いやいや、無理だって! 今の作戦だってまぐれで出来ただけだし!」

「そのまぐれを確実にすれば問題ないだろう。行くぞ」

「嫌だあああ!」


 逃げようとしたら首根っこを掴まれて引き摺られてしまう。振りほどこうとするけれど、あり得ない位に力が強くて剥がすことが出来ない。なんて怪力だこの女。

 結局俺はカンナと言い争いながら残りの白角カバの囮をするハメになった。

 その後なんとかクエストは成功させることが出来たが、その報酬金を巡ってさらなる言い合いに発展したことは読者諸君には分かるだろうし、分からない人には申し訳ないが説明したくはない。


 絶対に囮になった俺の方が六と四で多く貰うべきだっつうの。

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