飯田直也
飯田直也とはどのような人物か。
一言で語るなら、「凡人」だろう。
特に秀でたこともなく、悪いところもなく。
可もなく不可もなく。そんな言葉が一番に合う男と言ってもいい。
そんな彼だが、身の丈に合わぬ恋をした。
相手はもちろん美冬だ。一目惚れだった。そして、関わっていくうちに、否応なく気づかされた。
この人にとって、俺は一人のクラスメイトに過ぎないんだ、と。
この人は、東雲春輝という男にしか興味が無いんだ、と。
そして、その春輝に自分は何一つ勝てるものがない、と。
辛かったであろう。相手に気持ちがないのがわかった上に、その相手が恋している男が自分よりも圧倒的に素晴らしい人物なのだから。
無論、彼は春輝に嫉妬したし恨んだ。しかし、彼には同時にこんな気持ちがあった。
「こいつは、本当にすごいやつだ。だから、負けても納得できる。」
そんな気持ちを持った男は、数多くいる。それでも美冬に告白した人はいたが盛大に振られたりしていた。
直也も、美冬のことはもう諦めていた。そして新しい恋を探していた最中、異世界へ来ることになったのである。
飯田直也のクラスは、黒魔術師であった。
オンラインゲームや遊戯王なんかでおなじみのブラックマジシャン。
死霊や悪魔などを使役することに秀でており、全てのクラスの中でも強い方に位置する黒魔術師。
そんな彼は、フェデルクから夕食後、呼び出され、現在に至る。
直也は困惑していた。
何を言っているんだこいつはと思った。しかし、それ以上に自分が抱いた気持ちに困惑していた。
(そんなことが出来るなら、俺のモノにしたい。)
そんな気持ちを抱いた自分を自己嫌悪し、話の続きを促す。
「どう意味ですか?美冬さんはもう、東雲の彼女ですよ?」
「はい。そうですね。だから、どうかされましたか?」
フェデルクがそんなことを言い出す。
「女の気持ちなんてすぐに変わります。ましてや、私の能力があれば1発で仕留められますよ。どうです?私のモノになった暁には、あなたにもあの女を抱かせてあげましょう。」
美冬を抱ける。
その言葉の魅力に取り憑かれてしまった直也。
しかし、残り少ない理性が彼に質問をさせた。
「どうやったら、彼女をあなたのものに出来るんですか?」
「簡単ですよ……。」
そういって前髪をかきあげ、目を光らせて直也の目を見据える。
「私には、こんな魔眼がありますから。」
数分後、そこには目が虚ろな直也と、不気味に笑うフェデルクがいた。
直也はずっと、
「美冬はオレのものミフユはオレのものミフユハオレノモノ……」
と、口走っていた。




